第六話 業突く張りの賛歌
サマジは立ち上がりハーラムに席を促し
自らはダイの後ろに立つ。
ハーラムはお辞儀をして促された席に着き
「では、こちらとしては噂に名高い「魔神剣ハヴォール」そうですねぇ。ミリアム金貨で200枚。これでいかがでしょう?」
ハーラムはにこやかに本題を切り出す。
「おい、き、金貨200ったらどれくらいだ?
金貨なんて最初に見てからずっと見てねーぞ。」
サマジ、コマシ、リーがコソコソ話を始める。
「家賃の前払いを金貨でやったら大家さん目を向いてたもんねー。へんな奴らにつけ回されたし。」
「ま、この世界ではあまり買い物に使う通貨ではないのは確かだな。俺たちの月の飲み食いが大体金貨一枚だ。いろいろな相場を照らし合わせてざっと見積もって150万円ってとこだな。」
リーはメガネをクイッと上げながら真顔で答える。
「え、つまり・・・3000万??」
「3億だ。バカっ!!」
コマシの頭をポコリとサマジが殴る。
「というか日々贅沢しすぎじゃね?俺たち?」
サマジが急に庶民的なことを言う。
「まぁな。だがこれでしばらくは現状維持が可能だぞ?いろいろ試せることも増える」
リーのメガネがキラリと光り悪い笑みを浮かべている。
「お前ら、まだ「取らぬ狸の皮算用」だぞ。すまんね。ハーラムさん。交渉の途中に。」
ダイはヤレヤレといったジェスチャーを入れてからテーブルの上で掌を組んだ。
「さて、こちらの希望としてはあの魔神剣ハヴァール、金貨600枚は欲しいとおもってるのだよ。」
ダイはクソ意地の悪い笑みを浮かべる。
だかその目は笑っていなかった。
流石に一同鼻白んだ。
フリーズする3人、さすがのハーラム氏も呆気にとられていた。
そんな張り付いた空気の中、ミーヤが空気を読まずに割って入ってきた。
「はいはーい、アルネーサンからの差し入れだよー。ビールが5つぅ〜、あとね〜」
ミーヤに続き落ち着いた雰囲気の女性がいくつかの皿を持ってくる。
「こっちがぁマスターから高級ジャーキー盛り合わせ、これがあたしからフルーツサラダスペシャルゥ!!、こっちはシオネェから、マーレシェのパスタ大盛り。それとニルスからビッグソーセージ盛り、それからカルゥアからはぁー」
ミーヤが後から来た女の子に促す。
物静かなカルゥアと呼ばれた女の子は
「・・・マサシが教えてくれたおにぎり。」
ボソリと呟いた。
「というわけでぇいい稼ぎがあったそーだね!!後でお祝いしようねー♪もうちっとしたら店静かになるからそしたらくるからさー一杯飲ませてよん♪。んじゃまた後でー」
ミーヤはクルリと可愛く回り嵐のように喋り、颯爽と去っていった。
カルゥアはお辞儀をして皆がフリーズしてるのを見て小首を傾げて静かに戻っていった。
「・・・少し腰を折られましたね」
ハーラムは苦笑する。
「いやいや、お恥ずかしい」
ダイも苦笑する。
「さて、金貨600枚とのことですが、本気ですか?流石の私も600は軽々しくは出せませんよ?」
先程は呆気にとられていたハーラムも立て直し笑みをたたえて話し出す。
ここにきてやっと正気を取り戻したサマジ、リーが動き出す。
「待て待て待て、ダイくーん。ちょっとー♪
ハーラムさん、少しこいつをお借りしますねー」
サマジが羽交い締めにしてテーブルの後方へ連れて行く。
リー、サマジががっしりとダイを捕まえてしゃがみこみ円陣を組み小声だが強い口調で
「お前何考えてんだ?3倍はねーだろ?3倍は。いくらなんでも欲張りすぎだろー。ハーラムさん帰っちゃうよー」
サマジが焦りながらダイの腹を小突く。
「カマかけるにしても3倍はなかなか呆れるぞ。相手の購入意欲を削ぐ形にならないか?」
流石のリーも真剣に説得をしようと試みる。
「いやはや、二人ともまだ俺という人間がわかってなかったのか?本気だぞ?俺は。」
ヘラヘラ笑っているが目が笑ってない。
リーとサマジはお互い顔を見合わせた。
少し時間を空けて2人は無言ですくりと立ち上がるとダイに手を出す。
ダイは二人の手を握り引き起こされると2人の肩に手を置き、
「任せておいてもらおうか」
そう告げると席に戻っていく。
サマジとリーはもう一度目を合わすと肩をすくめるリアクションをして戻っていく。
テーブルに戻るとコマシとハーラムは楽しそうに談笑している。
「・・・でね。ここの女の子たちはかわいいだけじゃないんだ。みんな個性的でいろんなことに長けてる。アルちゃんは元凄腕の冒険者だったらしいし」
コマシは熱烈にハーラムにこの店に働く女性たちの素晴らしさについて熱弁していた。その合間合間に彼女たちからの差し入れを口に運ぶのにも余念がない。
「すまないね。ハーラムさん。商談を続けようじゃないか。」
ダイはにこやかに笑いながら席に着きなおす。
ハーラムもコマシとの談笑を区切りダイに向き合う。
「では聞かせていただきましょう。なぜ金貨600枚もの大金でないとお売りいただけないのでしょう?こちらとしては200枚。これは妥当な金額だと思っているのですが?」
ハーラムは少し困ったといった顔をしながらダイに問いただす。
「ハーラムさん。あなたのいうことはもっともだと思ってはいる。俺はあなたを全面的に信頼している。ということは信じてほしいのだ。
それでもこちらの掲示した金額は妥当だと俺は思っている。」
ダイは優しい笑みを称えながらハーラムをまっすぐと見る。
「そこまで信頼していただいてるのに金貨600枚が妥当とは納得いかないですね。もう少し理由をお聞かせいただきたい。私とて多少の金額の相談には応じるつもりでいるのですがこうも高額上げられるとどうしようもない。」
ハーラムはため息をついて話し終える。
「ハーラムさん。俺はね、考えていたのだよ。あなたが前回我々が巻き上げたヘタレくんの装備一式、そして今回買い取る魔神剣の使い道についてね」
ダイがそう言うとハーラムはすこし驚いた表情を見せる。やや演技臭さが抜けなかった。
「ほぅ。面白いことをおっしゃる。私は商人なのですから当然仕入れた商品はほしいとおっしゃる買い手にお譲りするだけのことなのですが?」
「そうかな?俺はね1つ気になってたことがあるのだよ。あなたと初めて出会った時のことだ。
我々がこの世界に喚ばれた時、あなたはあの場所に居合わせた。それがずっと気がかりだったのだよ。」
ダイの眼光が光る。
ハーラムに変化はない。笑みを浮かべたまま話を聞いていた。
「そうですか。何か不審な点でも?」
物腰の柔らかさは変わらない。ただ纏った雰囲気は変わっている。
「ふふん、あなたはなぜ我々が召喚された場所にいたのだろうか?あの場は王宮、揃っていたのは多分最小の関係者のみ。しかも国の重鎮、軍関係のものばかりと後で確認したよ。
そう、召喚自体は大掛かりにせよ秘密裏に行われたある意味実験的なものだったのではないかね?
つまりあの場に一介の商人であるあなたは似つかわしくなかった。まぁ考えるに実験の出資者といったところだろう。」
「ご名刹ですな。いかにも、私があの召喚の儀の資金援助を行っています。よってあの場に立ち会っていたのですよ。あなた方のようにユニークな人たちを喚びだすことになるとは思ってもみませんでしたがね」
少し笑いながらハーラムはいう。