第二十八話 そして、祭の夜はいつも通りに・・・
街を暗闇が覆い、騒がしかった夕暮れは静かな夜の帳に支配されている。
城壁近くの道から外れた茂みで逢瀬を重ねるように仲睦まじく手を繋いで立つ男女が1組。
周りには誰もいない目立たない場所だった。
女は名残惜しそうに男を見て繋いでいた手を離し
茂みにしゃがみ込む。
そして何やら足元をゴソゴソした後、指を噛み切り足元の大きな石に指を擦り付けて何やらブツブツと呟くと城壁の柱と柱の間がポッカリと切り取られたように空間に暗闇が開く。
女は立ち上がりもう一度男の前に立つ。
「ではセイシロウ、元気でな」
ヘレンは名残惜しそうにセイシロウの顔に両手を伸ばしまじまじと見つめる。
「ヘレンも気をつけて帰るんだよぅ」
セイシロウも優しい眼差しを向ける。
二人は見つめ合いそっと口づけを交わす。
優しく、短く、たくさん唇の重なりを交わし、もう一度強く抱きしめる。
「また来なよ。次は友達を紹介するからさぁ」
セイシロウは温もりを忘れぬようにぎゅっと抱きしめながら囁く。
「・・・そうだな。それも面白そうだな・・・」
ヘレンは顔を上げずにそう呟き、ぎゅっとセイシロウを抱きしめる手に力を入れる。
しばらく抱き合った二人はヘレンが手を緩めるとゆっくりと離れた。
ヘレンはもう一度愛おしそうにセイシロウを見た後、きゅっと厳しい表情になり踵を返し振り向きもせず切り取られたような闇の空間へ消えていく。
ヘレンを飲み込んだ闇の空間が消えるまでセイシロウはその場でヘレンの後を見送っていた。
空間が消え、ただの城壁に戻った後、セイシロウはポケットからスマホを取り出して電源をつける。
そしてメッセンジャーを開いて画面を見てから
天を仰いてつぶやく。
「ごめんねぇ・・・・」
画面にはヘレンの写真が写っていた。
コマシはとぼとぼと歩き「深淵の海豚亭」の扉を押し開き中に入る。
「いらっ・・・・あ、いらっしゃーい。今日は遅いのね」
ニルスがジョッキを下げながらコマシに声をかける。
コマシはニルスに薄ら笑いを返して店内に目をやる。
店内はいつもどおり活気に満ち溢れている。
なにやら中央に人だかりができている。
ふと中心を見るとサマジがなにやら青年と呑み比べをしているようだ。
真ん中にカルゥアが立ってニコニコしている。
「どしたの?これ」
コマシが円の外側の男に尋ねると
「おぅ!!あのひょろいにーちゃんに干し肉屋のぼーずがカルゥアを取り合って喧嘩売ってな。
呑み比べ勝負が始まったんだ。にーちゃんも一口乗るかい?」
イイ感じで出来上がった冒険者のおっさんがノリノリで答える。
「いや、ぼくはいいやぁ」
コマシは薄ら笑いを浮かべて円から離れようとした時、サマジと目が合う。
サマジはだいぶん酔ってたようだがコマシを見ると
親指を立てにっこりとウィンクして笑う。
あ、あれは酔ってるなーと思いながら手で軽く挨拶をして奥のテーブルへ向かう。
いつものテーブルへ着くと
変わった面子が4人で座っていた。
「なに?すごい組み合わせだねー」
コマシはちょっと笑った。
いつもの席にダイ、リーは座っている。
コマシとサマジの席に
仏頂面のヘンリータレットとやや濡れた髪を下ろし、首にタオルを巻いたアルフィナが座っていた。
ヘラっと笑ったコマシを見てブチ切れたアルが素早く立ち上がり電光石火のチョップをくらわす。
「あいったーーーー!!」
コマシはあまりの衝撃に蹲る。
凄いチョップだった。
「誰のせいでこんな目にあってると思ってんだ!!」
アルフィナのこめかみに青筋が浮き上がっている。
「まったくだ。君はよく無事だったな。そしてなんでそんなに変りない感じで入ってこれるんだ?」
相当不機嫌なヘンリー・タレットはコマシを見下ろす。
「なんのことだよぅ。あ、昼間のことは悪かったとおもってるよぅ?」
ヘンリーにも青筋が浮き上がる。
「悪かった?悪かったで済むとおもってるのかい?君は状況わかっていたのか??」
ヘンリーが語気を荒げて立ち上がる。
「まぁまぁ、ヘンリーくん。こいつもたぶん反省してるから簡便してやって」
リーが珍しくなだめ役に入る。
「しかしね。リーくん。彼のやったことは・・・・」
「まぁまぁ・・・とりあえず向こうで呑みながら話を聞くからさ。あっちへ行こう「魔人を撃退した英雄」くん」
リーはヘンリーの肩を掴み酒場の中央へ押していく。
「ちょっ、話はまだ・・・・・」
ヘンリーはまだ言い足りないといった感じだったがリーに連れられて移動する。
「ちっ、おい、今回のは盛大な貸しだからな。あとそのバカにちゃんと説教しとけよ」
アルフィナはダイに吐き捨てるように言うと酒場の賑わいに足を向けた。
テーブルにはダイとコマシが残る。
コマシはダイの横に立ちテーブルの上に腰を乗せ
「ごめんねぇ。ダイちゃん。なんか迷惑かけたみたいで」
「ふふん、珍しくらしくないことをしたようじゃないか」
ダイは深く椅子に座り直しニヤニヤ笑いながらコマシに答える。
「まぁ・・・ね・・・。彼女・・・・大丈夫かなぁ・・・」
コマシは天井を見上げる。
「そこらへんはヤッさんにお願いしてある。うまくやってくれるだろうさ。」
ダイはカップにウィスキーを注いでコマシへ渡す。
それをコマシは無言で受け取り
「とりあえず、お疲れさまだ。我々の命を救った英雄殿に」
ダイは自分のカップをコマシに捧げる。
横目でそれを見ながらコマシはそのカップに自分のカップをぶつけてウィスキーを飲みほした。
~~ 第二章 完 ~~
これにてこの物語はいったん終わります。
長々とお付き合いありがとうございました。
もし思うところがあれば感想など頂けると今後の参考になります。
よろしくお願いします。




