第二十五話 逃亡者の晩餐
セイシロウはヘレンの手を引いて路地から大通りへ出るところであたりを見渡す。
そろそろ日暮れ時なので一仕事終えた冒険者たちも街へ帰ってきたようで大通りを歩く面々は装備の充実した戦闘向きの人たちがちらほらいる。
その中に国の支給品の装備で整えた街の警護兵の姿もちらほら見える。警護兵は行き交う人の顔を確認しているようだ。
あれから大して時間が経っていないのにすでに捜索の網は広がっているのをヘレンも感じ取れた。
探す目印は多分セイシロウの髪の色なのだろう。
男女ペアで頭部を隠す男性には声をかけている。
セイシロウは鼻歌まじりにそんな警護兵の横をヘレンの手を引きながら通り過ぎていく。
ヘレンはふと気づき
「なぁ、一つ質問していいか?」
「うん、何かなぁ?」
セイシロウはヘレンの顔を覗き込みニッコリ微笑んだ。
ヘレンは顔を見られると気恥ずかしくなり顔を背けながら
「そもそもわたしはあの男に顔を見られていない。わたしが服装を変える必要はなかったのではないか?」
そう聞くとセイシロウは一瞬ピタリと歩みを止めて硬直したがすぐ歩き出し
「あ、あぁそこねぇー、うん、ほらあの服装は目立つしさぁ〜。い、違和感ない格好の方がいいと思って〜。
なによりそっちの方が可愛いよぅ〜」
セイシロウは冷や汗を垂らしながら二へへと笑った。
まぁ確かにあの魔道衣は知る者がみたら魔人であることがばれる可能性はあった。あの格好で逃げ回ればすぐに発見されただろう。今は完全に街の人間に紛れることができている。
ふいにヘレンは鏡に映った自分の姿を思い出して赤面した。
「ん?どしたの?顔、真っ赤だよぅ?」
セイシロウは心配気味にヘレンの顔を見る。
「な、なんでもないっ!!」
(くそっ!!なんだこの状況はっ!!頭の中が変だ。気持ちがふわふわしすぎているっ!!)
ヘレンは自分の現状に戸惑っていた。
長いことこんな穏やかな気分になったことがなかったため混乱していた。
なにより手を引かれることの心地よさが頭の中を、心を痺れさせた。
「とりあえずご飯でも食べよっか。今の時間なら美味しー店が空いてるんだ」
セイシロウはヘレンの手をギュと握り少し歩調を落とした。
周りからは初デートのカップルにしか見えなかった。
2人は大通りから少し脇道に入り屋外にテントを張っただけの大衆食堂のようなお店に入り席に座った。
セイシロウが何品か注文をして店員が戻っていったのを見てヘレンは改めて正面にいるセイシロウを見た。
整った顔立ちとすらっとしたシルエット。ほとんどニコニコしてるのが好きになれないが優しい雰囲気が漂っている。
今まで会ったことないタイプだと思った。
ぼ〜っと見ていたので気づかなかったがセイシロウもずっとこちらをニコニコしながら見ていた。
ヘレンはそれに気づくと急に顔から火が出るように赤面して俯いた。
そこに料理が運ばれてくる。
いい匂いのする料理を見てヘレンは料理を1つずつ眺める。
「ここの料理は美味しいよー。ヘレンは食べれないものとかあるの?」
セイシロウは取り皿に料理を乗せながら聞いた。
「ふん。飯なんぞここ何十年も食べてない。我ら魔人はその気になれば外気よりエネルギーを得ることができるからな。食事の必要性はない」
料理を興味深く眺めながらヘレンは答えた。答えたあとしまったという顔になる。
うっかり魔人であることを喋ってしまっていた。
「そぅなんだー、まぁここの料理はなんでも美味しいから~。さぁ、たべよう!」
セイシロウは全然気にすることなく料理を食べ始める。実においしそうに食べるのをみて
ヘレンも料理に手をつける。
「どう?久しぶりの食べ物は?おいしい?」
セイシロウは楽しそうにヘレンに問う。
ヘレンはいろいろ手をつけて食べてみてから
「別に。『おいしい』というのがよくわからん」
そう言いながら手を動かし口へと運ぶ。
しばらく2人は黙々と食事をする。
ヘレンは手を休めることなく料理を食べ続ける。
ふいに視線に気づき正面を見ると
セイシロウはニコニコしながらずっとヘレンを見ていた。
「・・・・・なんだ?あまりじろじろ見るな」
ヘレンは料理を口に運びながらセイシロウをジロリと睨む。
「だって可愛いから♪それにたぶんさ、いま感じてる感覚が『おいしい』って感覚で合ってると思うよ」
そう言って優しく微笑んだ。
ヘレンはドキッとして顔が赤くなるのを自覚した。恥ずかしくなり目線を料理へと落とす。
「・・・そうか。これがおいしいということか・・・・」
ヘレンは少し微笑んだ。




