第二十四話 呆け者の変身
「ねーこっちの方が良くない?」
「あー、いいねぇ。似合ってるー。可愛いー」
「んで、髪型はこうして、耳飾りどーするー?」
「派手なのはダメよー。目立たないようにってセイちゃんのオーダーなんだから」
なんだ?何が起こっているんだ?
イマイチ頭が働かない。
なんでわたしは女たちに囲まれて何やらおめかししてもらってるのだ?
そう、なす術なくあの手練れの男に対峙していたあの瞬間、突然割って入った男に・・・だ、抱きしめられて・・・次の瞬間には強引に手を引かれてあの場を離れることができた。
手を・・・引かれたのはいつ以来だろう。
いや、あのとき、子供の時のあのときが最初で最後だった気がする。
盗賊に追われ、逃げる最中。兄はわたしの手を引き必至に走っていた。わたしも引かれるままに一生懸命走った。
だが、すぐ追いつかれ兄はわたしを抱きしめて、盗賊の刃を我が身に受けてわたしを庇った。
兄は血を吐き苦しそうに呻いていたけどわたしを離すまいとギュッと力強く抱きしめてくれた。
でも兄はそのまま冷たくなっていき引き剥がされた。そこからは地獄の始まりだった・・・。
ぼんやりとヘルンケルは他人事のように現状を眺める。
現実感がまったくない状況だった。
そのまま男に引っ張られて人ごみに紛れてそのままどこかの建物に飛び込んだ。
そしてこのざまである。
「どう?こんな感じで。可愛くなったでしょ?」
いろいろ手をかけていた少し派手めの女が鏡見るように促した。
ヘルンケルは鏡の中の知らない女を見る。
綺麗に化粧されて少し若々しく見える。
不機嫌そうに曲げてるへの字口が似合ってないなとヘルンケルが苦笑すると鏡の美女もまた苦笑した。
紅紫の怪しい瞳、肩くらいまで伸びてた青みがかかった暗紫色の癖の強い髪は綺麗に整えられ髪留めでアップされている。
彼女の着ていた動きやすい魔道衣も脱がされ
シックな町娘が着る服装に変えられていた。
大昔、そう本当に小さい頃、こんな服を着るのに憧れた気がする。
「おー、すごいっ!!超綺麗っ!!別人みたいになったねぇ。これならヘタレくんに会ってもわかんないねぇ」
陽気な金髪長髪の男が入ってくる。ヘルンケルは訝しげな顔をして金髪の男を凝視する。
「あ、ごめん。ほら、僕だよ、僕。」
男は金髪のウィッグを取る。
少し伸びた黒髪はこのあたりにでは見かけない色だった。端正な顔立ちと優しい表情にヘルンケルはドキッとした。ヒョロリとした体格も男性としては珍しい。
少ししか見なかったが間違いなく街で自分に抱きついてきた男だとヘルンケルは確信した。
男はウィッグを被り直すと
「よし、んじゃあいこっか」
とヘルンケルの手を取り立たせる。
「えーセイちゃん、もういっちゃうのー?」
「つめーたい、お手伝いしたのにー。今度あたしともデートしてよー」
「お店にもたまには顔だしてよ」
ヘルンケルを着飾るのに手伝った女たちは口々に文句をいう。
男はヘラヘラ笑いながら
「また今度ねぇ。今日は彼女をエスコートするんだから」
ヘラヘラした口調はそのままだったがヘルンケルに向けた視線は優しく暖かいものだった。
ヘルンケルは不意に恥ずかしくなり視線を外す。
少し強引な感じで男はヘルンケルの手を引き歩き出す。
まだ頭の状況が追いつかない。ヘルンケルは引かれるがままに男の後を追いながら歩く。
「んじゃあ、この借りはそのうち返しにくるねぇ~」
女たちに手を振りながら男は裏口と思われる場所から外へ向かう。
「絶対だよー」
「彼女も楽しんできてねー」
「約束は守んなさいよ!!」
女たちは口々に男に声をかけた。
外にでるとどこかの店の裏手のようで少し薄暗い狭い路地だった。
男は急に振り返りヘルンケルの顔を覗き込みながら
「そだ、名前。名前を聞いてなかった。ぼくはセイシロウって言うんだ。仲間はみんな「コマシ」って呼ぶけどね」
そういって少し残念そうに笑った。
その笑い顔がすこしバツが悪そうなのが可愛いなと思った。
「ヘレン・・・・」
そう小さな声で呟きヘルンケルはしまったと口を押える。
昔を思い出し過ぎたせいかもしれない。古い、忌まわしい名前を口にしてしまう。
思い出したくもない名前、棄てた名前。昔の名前だった。
「そっかー。ヘレンちゃんか。いい名前だね。かわいいよぅ」
セイシロウは本当にうれしそうに楽しそうにほほ笑んだ。




