第二十二話 意外な乱入者
ヘルンケルは微動だできず、背筋に冷汗が滑り落ちるのを感じた。
下手に動けば切り捨てられる、そう確信させられる気合いを背後に感じていた。
「な、なんです?いきなり。何か癇に障ることをしましたか?」
極力おとなしい女性を演出するように猫なで声で驚きで上擦った演技を加え声を発する。
「下手な演技はやめてもらおう。君の気配、うまく誤魔化してはいるが人のものじゃない。魔人か?君は?ここにどうやって入ってきた?」
男は一切の気を抜かない。もう切り捨てる覚悟はできているといった風だった。
ヘルンケルは覚悟を決めた。素早く前へ飛び退く動作に入る。
だが動こうとした瞬間に男はすでに抜刀一閃、容赦なくヘルンケルを斬りつけた。
バキィィィィィン!!
ガラスの割れるような音が鳴り響き
男の剣は弾かれる。
ヘルンケルは素早く前転して起き上がり、男と対峙する。
「くっ、魔法障壁かっ!!ずいぶん強力だな」
赤みがかった茶髪の青年、ヘンリー・タレットは弾かれ態勢を崩したが、すぐに剣を構え直し次の攻撃に移れるように態勢を整える。
ヘルンケルのローブ下で3枚の呪符が破れる。
(くそっ、用意していた緊急用の障壁符が全部もっていかれたか・・・)
状況はヘルンケルにとって最悪だった。
(ここでこいつとやり合うのはまずい。
ほかの人間どもが来て囲まれたら逃げようがなくなる)
ヘルンケルは魔法使いだ。接近戦の手段は持たない。相手が一般の人間ならば
肉弾戦をやって相手を殺すのは造作もないことだが多少の戦闘経験者が相手となれば話は別だった。
せめて魔法を使うための詠唱を唱える時間があれば戦うこともできるのだが目の前の男はそれをさせてはくれないだろう。
ヘンリーも今の魔法障壁で相手が魔法に長けた相手だと確信したのだろう。
いつでも飛び込めるようにジリジリと距離を詰めていく。
「なんの目的でこの街に入りこんだ?ただの魔人とは思えない気配だ。魔王軍の手の者か?」
「ふん、答える義務はないね。お前こそ死にたくなかったら尻尾を巻いて逃げた方がいいよ?」
完全なはったりだったし効果はないのは分かっていた。
ヘルンケルはなんとかこの状況から逃れる方法を打算する。
人ごみに紛れることができれば逃げ切れる自信はあるが魔力索敵のために人ごみから離れたのが仇となっていた。
一瞬でも相手の気を引ければなんとかなるだろうが相手は先ほどの魔法障壁のせいで完全に油断がなくなってしまっている。
じりじりと緊張感が高まる。
「あーーーー!!こんなところにいたぁーーーー。さがしたよぅーーー」
間の抜けた声をかけながら突然男が飛び出してきてヘルンケルに抱きつく。
さすがのヘルンケルもびっくりして声も出せなかったし抱きつかれても振り払うことすらできなかった。
ヘンリーも突然の乱入者に呆気に取られる。
「ちょっとだけごめんねぇ」
乱入した男はヘルンケルの耳元で彼女にだけ聞こえるように囁くと彼女の纏っていたローブをスルリと慣れた手つきで脱がし手に取る。
そして振り返ってヘンリーに向かって
「ヘタレくん、ごめんねぇ」
そう言ってにっこり笑いながら謝ると手に取ったローブをクルリと宙に舞わすように広げて放り投げる。
一瞬、ヘンリーと彼らの間にローブが舞い、視線を遮る。
呆気に取られてたヘンリーが我に返ってローブを払いのけると
そこに2人の姿はすでになかった。
ヘンリーは人ごみに視線を送るがすでに発見は難しそうだった。
少し口惜しそうな顔をしたところに
ヘンリーの後方から騒ぎを聞きつけた街の警護兵がヘンリーの元へ駆け寄ってくる。
「あt!!ヘンリーさん、なにかあったのですか?もの凄い衝撃音がしましたが??」
ヘンリーは呼吸を整え警護兵の方を向き
「魔人が街に侵入したようです。目的は不明。
相当な魔法の使い手のようでした。大至急緊急配備と魔人の捜索に人手を集めてください。魔人の姿は見てませんが女であるのはたしかです。・・・あと知ってか知らずか魔人を連れて逃げた男がいます。彼を探す方が早いでしょう。居所を知る者たちに心当たりがあります」
ヘンリーは警護兵にてきぱきと指示を出し、逃げた男の行方を追うために「深淵の海豚亭」へと足を向けるのだった。




