第二十一章 暗殺者、侵入
魔王から許可をもらったその日のうちに準備をして、魔王殿を後にしたヘルンケルは翌日の昼には人間どもの首都ミリガンディアに着く。
ミリガンディアの全貌が見える少し高い丘から街を見下ろす、
この街は変わった形をしていた。
王城が城壁と繋がっていた。というか王城自体が城壁の中心だった。
ここは昔魔人との戦場の最前線だったため、王自らがこの国を守るという意思の現れ、そしてそれを実現した街だった。
「ふん。相変わらず強力な女神の結界があるか。忌々しい。これさえなければここからでも奴らの街を灰と化してやるのにっ!」
ヘインケルは憎々しげにミリガンディアを見る。
「まぁいい。今回の目的は魔王様と接触した人間だ。我々が知る限り魔王殿に侵入したものはいない。ということは魔法による接触。私の魔力察知を抜けたというのは気に入らないが必ず見つけ出してやる」
普段ヘルンケルはその魔法の知識と才能を生かして魔王殿の魔法的守備を任されている。
今回、魔王と接触した人間はその警護網を潜って魔王と接触をして休戦を取り付けている。
つまりヘルンケルは二重に出し抜かれているのだ。
なんとしても挽回し、そして手柄を立てねば他の女どもに示しがつかなかった。
ヘルンケルは微かな魔王の残留魔力を追いかけてこの街を探し当てた。
「しかし、この街にまた戻ってくる羽目になるとはな・・・」
ヘルンケルは苦虫を潰したような顔をした。
彼女にとってあまり思い出したくもない、むしろ破壊してしまいたい場所であった。
「ふん、だがここなら侵入するのは容易いのが救いか」
ヘルンケルは吐き捨てるように呟くと黒いローブで全身を覆い隠す。このローブは多少だが気配を消す作用がある。よほどの手練れでない限り彼女を識別することはできない。
彼女は丘の上の森の入り口へと移動する。
入り口あたりの茂みをゴゾゴゾとなにかを探し始める。彼女は目当てのものをすぐ見つける。
魔法陣の描かれたそれなりの大きさの石板であった。
ヘルンケルはその前にしゃがみ込むと懐から短剣を取り出し、自らの指を切り血を出すとその指で石板に触れブツブツと呪文のようなものを囁き始める。しばらくすると石板の両側の木と木の間がポッカリ切り取られたたような暗闇の空間が現れる。
ヘルンケルは呪文を終えると立ち上がりぽっかりと空いた空間を見てニヤリと笑いその中に歩みを進めた。彼女が闇に沈むと開いていた空間は静かに閉じてしまった。
ヘルンケルの目の前が暗闇からカッと明るくなる。
彼女はその明るさに目を背けて自分の目が光になれるのをゆっくり待つ。
目が慣れて瞼を開けるとそこは城壁の内側の茂みの中だった。
彼女の足元には森にあった石板と同じものがあった。、
「ふん、まだ見つかっていないようだな。ぬる過ぎだな。人間どもめ」
ヘルンケルはほくそ笑み茂みから出る。
人気のない道で辺りを見廻し
「ふん。さてどこだ?流石に女神の加護の中では魔王様の痕跡はたどり悪いか・・・」
ヘルンケルはフードを深く被り直して歩き出す。
城壁の内周の道を進み人通りの多い道を辿っていく。
徐々に中心街へと近寄っていく。
時々立ち止まり魔力の残留を辿ってみるが痕跡らしいものは見つからない。
苛立たしげに舌打ちをして人の多い方向へ歩き出す。
大通りらしき道に出たものの特に収穫もなくあてもなく歩く。
ドンッ!!
正面から歩いてきた長身の男とぶつかる。
「おっと悪りぃ」
見上げるほどの大きさだったが向こうもよそ見をしていたようだ。変わった雰囲気を漂わせていたがあまり目立ちたくなかったヘルンケルはスルリと躱し急いで離れた。
「どうしたの?」女の声が聞こえたから連れがいたのだろう。
少し苛立ちを覚え舌打ちを打つ。
「チッ!人間どもめ、鬱陶しい。この場で全員焼き殺してやろうか」
彼女にはそれをできるだけの魔力も魔法もあった。だがさすがに魔王の幹部とはいえ敵地で単体で戦闘して生き残れるとは到底思えなかった。
「いや、まだだ。暴れるのは魔王様と密約した人間を見つけてからだ」
ヘルンケルは人通りをぬけて少し開けた場所に出る。
ちょっとした広間のようだった。中心に整備された泉がある。
「ふん、ここなら探りやすいか」
ヘルンケルは静かに呼吸して集中する。
その時、ヘルンケルの後ろから男が声をかけてきた。
「動くな。そこの君。怪しい動きをするなら悪いが問答無用で切り捨てる」
尋常ならざる言葉と静かな闘志が立ち上がる。
ヘルンケルは周りにしっかり気を配らなかったことを後悔した。
後ろにいる男は・・・相当の手練れだとその気配で察した。




