1-3 偏って、拗らせて
「……。」
「……。」
「……。」
沈黙の続く、執務室。
顔を真っ赤に染め上げて目を伏せる執務室の主、ユフィナ。
その正面には、気まずそうに、同じように目を伏せるディールとユウネ、そしてホムラだ。
ユフィナから告げられた、3人へのお願い。
それは、“殿方との接し方を教えて” というものだ。
ディールとユウネは結婚を控えた婚約者同士。
そしてホムラは遥か太古から生きる龍神。
このような事にも明るいだろう、と思ったユフィナだったが……。
ディールもユウネも、お互い初めての恋人。
そして自然に結ばれた間柄。
長い旅路、金剛龍ガンテツの許での地獄のような修行の日々、生死を掛けた戦いの果て、修羅場を乗り越えながら二人は信頼し合い、心通わせたからこそ結ばれたようなものだ。
そういう意味で、ユウネ視点での “殿方の接し方” というのはかなり偏っている。
しかも恋愛観で言えば “チャンスがあれば積極的に!” と、これまた相当な偏りを拗らせてしまっているのだ。
原因らしい原因と言えば、温泉郷ヒルーガで出会った碧海龍スイテンからの煽り、それによって成就したディールとの関係。
さらに、連合軍本部フォーミッド中心部で出会った、当時恋敵であったディールの幼馴染ナルの勢いと、彼女の想いに触れたことだろう。
特に、ナルの純真無垢で猪突猛進なディールへの想い、そして一度は身を引こうと考えたが、ディールの真っ直ぐな想いに触れたからこそ、“例え醜い女になっても”、ナルに認めてもらおうと、ユウネはナルと会う覚悟を決めた。
もしそこでディールがナルを選ぶようなら、二人を祝福して身を引こう。
そこで恋心に終止符を打ち、口付け、抱きしめられた感触など、大切な思い出として心の奥に秘めて生きていこうとさえ、覚悟した。
だがディールは、ユウネと “いつか家族になりたい” と告げてくれた。
だからこそ、どんなに嫌われようとも、どんな罵詈雑言を浴びせられようとも、ナルに認めてもらえるまで、どんなに醜く映ろうともユウネなりに、不器用にナルと向き合った。
結果で言ってしまえば、ユウネとナルは和解し、むしろナルの心の中に芽生えた、当時十二将第4席であった、現ガルランド公爵国王リュゲルへの恋心を後押しした。
これが、ユウネの恋愛観の形成の全てだ。
ディールへの純愛故、ナルや他の恋敵へライバル心を燃やしながらもディールだけでなく、そういったライバル達とも接する。
とにかく誠心誠意向き合うことで、分かり合える。
逆に言えば、完全な敵意には無頓着であり、特に自分に好意を持ってくる男性= “私にはディールが居るのに、彼に不信感を齎したらどうしてくれるの!” とディール以外の男性を完全シャットアウトする癖がついてしまっているため、“殿方への接し方” で言えば、この場に居る女性3人の中で最も下手なのである。
“下手” で言えば、ディールも相当である。
ユウネ、そしてホムラ曰く『天然のスケコマシ』
元来、口が悪いのはナルとの関係があった所為でもあったが、グレバディス教による “【加護無し】は災いを齎す” との教義にて、生まれ育ったスタビア村を追われ、大河に身を投じてしまったディール。
運良く生き延びたが、待ち受けていたのは絶体絶命の世界。
信じていたものに見放され、理不尽な死が待つ場所へ追いやられた経験、そしてディールの【加護無し】という落ちこぼれの烙印は、心に大きなトラウマを刻み、どこか他人に対して当たりがきつく、そして元来の口の悪さがより目立つようになってしまった。
それはユウネと出会ってからもしばらく、続いた。
だが、ユウネとの関係。
そしてひょんな事から一緒に同行することとなった “銀の絆” というハンター達と、かつて生まれ故郷スタビアで、尊敬する兄、【剣聖】ゴードンの連合軍スカウトのために訪れた、当時連合軍第2軍団の副団長であったバゼットとの再会を経て、少しずつ、少しずつ、心が癒えていった。
ただ、その間。
トゲのある態度とは裏腹に、突然見せる本来の優しさや気遣い。
それも、背も高く顔付きも端正なディールだ。
他人に心開かぬディールとは逆に、このギャップでコロリと落ちてしまった女性が数人いた。
一番酷かったのは、ディールとユウネが最初に宿泊したラーカル町の “銀の安眠亭” での出来事。
他人から見れば、完全に受付ウェイトレスを口説きに行っているようなものであった。
ここでユウネ、そしてホムラのディールに対する評価が『天然スケコマシ』となり、二人が警戒するきっかけともなった。
ちなみに後日談として、あの日に宿泊した二人が後の大英雄 “ディールとユウネ” だと気付いたウェイトレスは狂喜乱舞したのち、夜通し涙で枕を濡らしたそうだ。
そんな天然スケコマシのディールの恋愛観も、相当歪んでいる。
元々、人の感情の機微に無頓着であった。
ツンデレ、どころか普段ツンツンして接していた幼馴染ナルだけでなく、【加護無し】と判明するまではディールは村の若い娘たちから絶大な人気を誇っていた。
しかし、そういった女性たちの好意を意に介さず、ただひたすら、兄ゴードンの背中を追うという自らに課した使命を全うしようと、剣の素振りに稽古にと明け暮れた。
それだけ、ディールにとってゴードンの存在は大きい。
何故なら、ディールは物心つく前に両親を失い、ゴードンと姉のアデルが親代わりであった。
特にゴードンは、まだ幼い妹アデルと、幼児であったディールを育て上げるため必死で働いたのだ。
ナルの両親、祖父母はスタビア村の村長一家。
家族ぐるみの付き合いもあり支援はあったものの、“奇跡の村” と呼ばれる前のスタビア村は、どちらかと言えば貧しい村であったため、いくら村長邸でも子供3人を加えて養う程裕福では無かった。
それでも、口減らしと妹と弟を見捨てなかった偉大な兄。
必死に働き、笑顔で帰り、お腹いっぱい食べさせてくれた。
物心つき、姉のアデルも働くようになり、ディールも家事を手伝うようになった。
そしてアデルから語られる、兄ゴードンの偉大さ。
“兄のようになりたい”
それが、ディールの全てとなった。
そして時が流れ、兄ゴードンは【剣聖】、姉アデルは【水の神子】と、それぞれ絶大な加護を得て村を離れた。
村長邸で世話になるディールは一人になったが、それでも兄や姉の背を見る。
憧れて止まない兄と、同じく絶大な加護を得た姉。
“次は自分の番だ”
“怠けたら兄や姉に顔向けできない”
雑念の入る余地もないほど、ディールはストイックに剣を振った。
つまり、ディールの心に思い描くのは常に兄と姉であり、他人では無かった。
それがある意味、幸せなことであり、逆に彼の人間性にやや問題を孕ませる原因ともなった。
そう、他人に無頓着なのだ。
その結果、人の感情の機微に疎くなってしまった。
だからこそ、ナルが明らかにディールに対する好意のベクトルを向けていても、正面切って告げなければ伝わるはずもなく、むしろナルの照れ隠しによるツンデレ、と言うよりもツンツンした態度が、余計『ナルは家族で、恋愛対象外』という意識を植え付けてしまう原因ともなってしまった。
そんな彼がユウネと心を通わせられたのは、奇跡でもあった。
ディールとは違い、感情が豊富なユウネ。
芯も強く、身の回りのことも一通り熟せるほど、成熟した少女。
人生が文字通り “転落” したディールを、これまた文字通り “明るい場所” へと導いたユウネ。
しかも彼女が得た加護は、姉アデルと同じ【神子】、しかも謎の属性 “星” を冠する【星の神子】であった。
ディールにとって、兄や姉以外に、心を開くきっかけを持っていたのが、ユウネという少女であったのだ。
さらにだめ押しと言わんばかりに、ユウネが育ったレメネーテ村の村長から、ユウネをグレバディス教国まで連れて行って欲しいという願いが、かつて兄ゴードンが、【神子】を授かった姉アデルをグレバディス教国へ連れて行くことと重なった。
偉大な兄、そして姉に続く道。
運命めいたものを感じ、それを齎してくれたユウネという少女。
ディールが彼女に惹かれるのは、時間の問題でもあったのだ。
逆に言えば、何か一つ欠けていれば、ディールは心を閉ざしたまま、息を潜めるようにグレバディス教国へ向かったのだろう。
恐らく、その道中、運良くスイテンやガンテツに出会っていたとしても、『不完全な資格者』として見限られ、殺されていたのは確実であったのだ。
ディールが生きてこられたのは、ユウネの存在が大きい。
もちろんディールはそれを理解し、深くユウネを愛することに繋がるのだ。
そう、ユウネだけ。
それ以外は、相変わらず『天然スケコマシ』に『人の感情の機微に乏しい』といった、残念イケメンに他ならないのだった。
そんな彼が、女性目線の “殿方への接し方” など語れるはずが無い。
むしろ、男友達も少ない。
その数少ない男友達と言えば、ナル同様、猪突猛進に一目惚れしたナルに猛アプローチを繰り返して彼女のハートを掴んだ、『恋は盲目』を素で突き進んだ現ガルランド公爵国王リュゲルだ。
そしてもう一人は、かつての敵同士、ソエリス帝国で浮名を流す希代のチャラ男こと、大将団 “十傑衆” で、現在4位の座にいる愛称アクスこと、アクセラート。
あと、友人と言うよりも人生の先輩とも言えるのが、現在ソリドール公爵国で総統マリィの代わりに戦後処理とソエリス帝国含む大陸東側との和睦調停を進める、“神の申し子” と新たな二つ名を授かった元 “咎人”、アゼイドだ。
猪突猛進のリュゲル、浮名を流しながら最近は一人の女性を不器用に追い続けるアクセラート、そして逆に猛アプローチをされてハートを鷲掴みされてしまったアゼイドと、ディールの少ない交友関係でも、あまり人に告げられるような恋愛観が溢れていない。
他人に無頓着で、感情の機微に疎いディール自身も、恋愛観が相当偏っている。
むしろ、人様に色々語り始めると誤解ばかりを与えかねない、地雷原のような男でもあるのだ。
残るは、ホムラ。
だが、戦力外通知も良いところだ。
“5,000年前の知識を有している”
“太古から生きる偉大な龍神”
それは、間違っていない。
だが、ホムラが現世に転生したのは、約5,000年前に起きた元凶ルーナを始めとするホムンクルス達こと、“ディアの悪魔” による【DEAR】を悪用した不老不死、そして概念化による “ディア・ゾーン” を目指す策略において、人の心を持つことが出来たエリアーデの離反と最期の力によるものだ。
【DEAR】に意識、記憶、感情が取り込まれること無く、脆弱な魔物の身へ転生してしまったホムラ。
必死に生き抜く中、“龍神” に辿り着いた。
そこに至るまで掛かった年数は、1,500年以上。
普通、ここまで生きれば仙人のような達観した自我と価値観を持つのだろうが……。
これも、【DEAR】の特性、というよりも “ディアの悪魔” たちが仕組んだルールが関係してくる。
それは、【DEAR】システム上で誰かの肉体を奪って活動できる “ディアの悪魔” たちによる “疑似的不老不死” において、自らの意識、記憶、感情が『余計な成熟による精神汚染』を防ぐことを主な目的としている。
それこそ、長い年数を生きることが強いられた悪魔たち。
いつ、自分たちの大願が成就するか定かではない。
それでも、偉大な母ルーナの目的を達成させるため、自分たちが一つの “チーム” として行動できるよう、復活する時代やタイミングが異なっても、“次の奴にバトンを渡す”、“意図を察してもらい次に繋げる” という、途方もない連携を達成するため、復活した際に精神が成熟することで、万一、母ルーナの手法に疑問を持ったり、裏切ったりすることを防ぐのが目的であったのだ。
このルールは、有ろうことか “邪神” と呼ばれながらも、“ディアの悪魔” の企てを防ごうとありとあらゆる手段を未来に繋いだ、ルシア・セイスが施した “魔物の進化の最果てによる、龍神化” にも適用されてしまった。
当然と言えば、当然。
元々、魔物は【DEAR】の影響で進化した動物である。
そして、自らの肉体を進化する度、【DEAR】を取り込み、いつかその総量によって自我が芽生える。
ところが芽生えた自我は、生きる年数では精神的に成熟しない。
成熟するタイミングは、進化でしかない。
つまり、“龍神化”で取り込んだ最後の【DEAR】が、そのパーソナルを決定付けるものとなる。
龍神は生きる中で【DEAR】を自然に取り込み、食事すら必要としない躰へとなるのだが……あくまでもそれは “エネルギー” として代謝されるため、精神の成熟には作用しない。
厳密に言えば多少成熟しつつあるのだが、人間の感覚でいう年数と、龍神の年数には隔たりがあり、仮に龍神として1,000年生きても、成熟度で言えば20代の成人が1年程経過したくらいだ。
そこで、ホムラの場合はどうか。
元々 “円城寺 穂邑” だったパーソナルがそのまま、魔物として転生した。
魔物は進化の度に【DEAR】を取り込んで徐々に自我を芽生えさせてくるが、ホムラの場合はすでに自我があったため、そのまま “自分の力” に加算されていった。
つまり、【DEAR】を取り込んでも精神的に成熟せず、ただ “エネルギー” として還元されていったため、その結果、“最強の龍神”、“理不尽の権現” と呼ばれ、龍神誰しもが辿り着けなかった境地、“星刻” を得るまでとなったのだ。
しかし、2,000年以上生きるホムラではあるが、宿す精神年齢は転生前となんら変わらない。
ホムラ曰く、『こっちに生まれ変わる前は生粋のJKだったんだから!』だ。
実年齢、2,000歳オーバー。
精神年齢、18歳。
しかも、魔物への転生に死に物狂いで生き延びたこと、前パートナーのエスタとの壮絶な別れに、ディールとの邂逅や旅路で、若干、精神が不安定になった。
封じられていた記憶が全て戻って、少し大人びた言動も増えたが……どうしてもディールとユウネと一緒にいると、幼児退行というか、甘えが出てしまう。
そしてホムラは、転生前も、今も、お付き合いなどしたことが無い。
生粋の年齢=彼氏無しだ。
龍神に至る前の “龍” である、狼龍ジークハルドとマキアの夫婦や、ホムラと同じ龍神のアグロやシロナの夫婦、それに何故か結ばれたスイテンとフウガのように、恋愛感情が無いわけではない。
そしてホムラと、紫電龍ライデンは相思相愛の関係。
だが、未だ奥手の二人は付き合う気配すらない。
二人きりにすると、石造のように固まってしまう。
そんなホムラが、人様に “殿方の接し方” など語れるはずがない!
「……。」
「……。」
「……。」
そして、この沈黙。
ディールという、他人ガン無視の感情音痴。
ユウネという、暴走偏り振り切れの脳内お花畑。
ホムラという、ガチな恋愛音痴。
「……ねぇ、私。そんなに難しい質問、したかしら?」
ついに、沈黙に耐えきれずユフィナが尋ねる。
勝気で自信あり溢れる、まさに “御令嬢!” といった彼女が、その目頭に涙まで溜め込んでいる。
余程切羽詰まっているのだろう。
「あ、あの。ユフィナ様。その前に、どうしてそのようなご質問を、私たちに?」
腫物を触れるように、恐る恐る尋ねるユウネ。
その両隣、ディールとホムラも小刻みに頭を縦に振る。
ふぅ、と息を吐き出して、ぽつりと告げる。
「……この、ままじゃ、私だけ行き遅れる、から。」
それは、切実な問題だった。
「え、でも! ユフィナ様はお美しいですし、まだお若い……。」
慌ててフォローしようとするユウネ。
だが、言い切る前にユフィナはガタン! と勢いよく立ち上がり、叫ぶ。
「もう私、26よ!」
余りの勢いに、完全に固まってしまう3人。
そんな3人などお構いなし、涙目でユフィナは訴える!
「次期国王筆頭である公爵令嬢ともあろう者が! 未だ、殿方を射止めること出来ず! 父上はともかく母上や弟や妹から、無言の世継ぎプレッシャーを浴びせさせられるのよ!」
呆然と、ユフィナの魂の叫びを聞く。
そして、最大の懸念事項がそこにあった。
「同じ年のオフェリアは元々ゼクトさんと恋人同士だったから別にどうでも良かったけど! あのエリスやマリィにすら、良い縁談があって身を固めそうなのよ!?」
その言葉で驚愕する、ディールとユウネであった。
「え、え!? 天使さ……じゃなかった、エリス様と、あのマリィ様も!?」
またもバルバトーズ公爵令嬢【闇の神子】エリスを、“天使さん” と呼びそうになったディール。
ディールにとって、幼き頃の初恋の相手でもあるからだ。
そしてそれを聞き逃さなかったユウネは、無言でディールの膝を抓る。
続ける、ユフィナ。
「そうなの……。エリスは、マリィが冗談で言った『婚活がんばる』発言を真に受けて、大陸復興や連合軍の再編とか、私と同等に忙しいはずなのに……合間を見ては縁談の相手と片っ端から会って、ついに、見染めた相手と婚約したそうなのよ!」
連合軍総統にして、ソリドール公爵国女王マリィは、“邪神戦争” の最後、【赤き悪魔】こと【慈愛の女神ロゼッタ】から告げられた『子孫も残さず一人で潰えるのか?』という皮肉に対し、婚活発言をしたのだ。
それに触発されたという、エリス。
“ラグレス・スティグマ” という【聖王】の呪いとも言うべき血の能力を、意識的に抑えるため常に両目を閉眼している、ミステリアスな女性。
それでも物腰柔らかく、美貌も相まって、良い相手が居れば結ばれるのもさほど不自然ではないと思うディールと、“って、考えている顔ね”、とディールの考えが読めて、面白くないユウネであった。
驚いたのは、マリィの方だ。
恋愛沙汰に全く興味の無さそうなジト目女。
容姿は良くても、語る言葉はボソボソと覇気がなく、とても男性受けするとは思えない。
それが、マリィ・フォン・ソリドールという女性だ。
しかもすでに “総統”、“女王” という尊大な肩書。
彼女自身と、その肩書の御眼鏡に適う相手など、いるのか?
「……誰だと思う?」
ディールとユウネの疑問を察し、眉間に手を当てて呟くユフィナ。
その質問、つまりは “二人が知る人物” であるという意味だ。
「え……誰、ですか?」
「ソエリス帝国の十傑衆3位、ラムゼル・バザルウォッチよ。」
「「ええええーーー!?」」
“ディアの悪魔” に魅せられ取り込まれてしまった、かつてのソエリス帝国十傑衆1位、【大将軍】カイゼル・バザルウォッチの長男。
“邪神戦争” の際、姉アデルの想い人であるミロクと共にソエリス帝国軍を率いて【祝福の女神パルシス】の無数の分体を駆逐した、帝国の英雄の一人だ。
彼にとってディールとユウネは、父親を “殺した” 相手だ。
しかし、悪魔に操られ、ソエリス帝国軍を扇動して世界を混乱と破滅に導こうとする父とは最初から袂を分かち、大陸西側への和睦の道を模索していたというのだ。
そして、ラムゼルはカイゼル亡き直後、ディールとユウネに『父を救っていただき、ありがとうございます』と告げたのであった。
実は、“邪神戦争” 後、大陸東側の復興のために尽力していたディールとユウネにとっては、滞在中に相当お世話になった相手でもある。
忙しい皇帝オズノートやオフェリアの代わりに、二人の滞在先の確保や護衛(不要だ、と告げたが、帝国軍の姿勢と民衆への示しにもなると言われ半ば強引に付けられた)、その他諸々について何かと心を砕いて世話をしてくれた、ある意味、恩人でもある。
そんなラムゼルが、総統マリィと婚約したというのだ。
つい先月まで大陸東側に滞在していた二人とラムゼルは、それなりの仲にはなったが、そんな驚愕な事実は一言も告げていなかった。
と、言うのも……。
「マリィが、ラムゼル殿と婚約したのはつい先日のこと。いよいよ両大陸の恒久的な平和と良き隣人として、様々な取り決めでの平和条約が調印されるのだけど、その会合で行われた饗宴の席で、なーぜーか、意気投合。そのまま縁談に繋いで、あっと言う間に婚約しちゃったのよ!」
「その場には私も居たのに!」 と憤慨するユフィナ。
そんなユフィナをポカンと眺めるディールとユウネは、意外なカップリングで思考停止となった。
ちなみにホムラはすでに会話には参加していない。
先ほど執務室を一旦退室し、外で待機していたメイドさんに「クッキー、おかわり!」と告げて大量のお菓子をいただき、今、もしゃもしゃと一人でお菓子パーティーを開いている。
「な、なるほど……。エリス様も、マリィ様も、お相手が見つかったの、ですね。」
「そうなのよ、ユウネさん!」
ションボリと頭を下げて、ユフィナは呟く。
「私にもね、縁談はあるの。でも、今まで、男性……殿方は “部下” しか居なかったから。まともな接し方してこなかったし、今、私はほら、十二将のトップじゃない。もう、どうやって殿方とお話しをして良いのすら、分からないの……。」
多忙、そして巨大な肩書が邪魔をして、恋路など無かった。
それが今、大きなプレッシャーとして圧し掛かり、急くあまり縁談の場で相手と出会ってもガチガチに固まってしまって話が進められない。
悪循環に陥ってしまっていたのだ。
「うーん。そうですね。」
“男の意見” として、ディールが口を開く。
少し不安になるユウネだが、余計なことを言ったらとりあえず膝を抓ってやろうと思うのであった。
「十二将主席と言えば、かつてシエラさんが就いていたじゃないですか。あの人はひたすらアゼイドさんに突っ込んでいったイメージですが、そういうのは、ダメ、です、か……?」
徐々に言い淀む、ディール。
何故なら、明らかにユフィナの形相が怒りと悲しみに満ち溢れてきたからだ。
他人の感情の機微に疎いディールですら察する、その圧。
隣のユウネも “何が爆弾発言だったの!?” と理解不能であった。
その理由。
自由奔放なシエラという存在に対する怒り。
そして、初めて淡い恋心を抱いたアゼイドとすでに婚姻しているという事実に対してだ。
もうとっくに振り切れていたつもりだが、シエラの話がセットでついてくると、どうしても怒りがこみ上げてくる。
「ご、ごめん。ディールさん。何でもないわ。オホホホホ。」
「な、何かすみませんでした……。」
だが。
それもまた、光明。
「シエラ、みたいにか。」
ボソッと呟くユフィナ。
嫌な予感しかしないディールとユウネであった。
「いや、ユフィナ様……? それは、あくまで、例えとして。」
「決めた! 次の縁談、シエラのように猛烈アピールで攻めてみるわ!」
立ち上がり、拳を突き上げる御令嬢。
あっちゃー! と顔を伏せるディールと、“やっちゃったね……” とジト目でディールを見るユウネであった。
「ありがとう! ディールさん、ユウネさん! 私、がんばるわ!」
「え、ええ。貴女に素晴らしい、出会いが訪れることを祈って、おります……。」
こうして、次の縁談に自信満々で立ち向かうことを決意したラーグ公爵令嬢ユフィナ。
そんな彼女に見送られ、ディールとユウネは、またもホムラの背に跨り、次の目的地へと目指す。
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「なぁ、ユウネ。ラーグ公爵国の令嬢って、変なのしか。」
「それ言っちゃダメよ、ディール。ダメ、絶対。」
レリック侯爵家のソマリといい、ユフィナといい。
ディールの言葉を制止ながら、膝を抓るユウネであった。
なお、“この日、変に拗らせてしまったユフィナ” は、全く予想もしていなかった状況で、ある男性と結ばれることとなる。
それは、また別の話。
【解説?】
今回のアフターストーリーですが、本編裏話を満載にしてみました。
本編の感想にいただいた、ある意味「疑問」や「違和感」に対する、作者の考えでもあります。
本来、本編に載せるべきだったのでしょう。
しかし、私の力量不足に、載せることで白けるかもしれないという思いから、あえて解釈を読者様に委ねた内容となります。
これらの内容を御覧いただき、どう解釈されるかは読者様の自由であります。
ただ、本編で語られなかった「背景」として見ていただけると幸いです。
何が言いたいかというと、「この子たち、みんな、拗らせたんだ!」です。
そりゃあ、当時15歳の少年少女ですからね……。
【次回予定】
掲載日は不定です。申し訳ありません。
次回は、祝婚約の御令嬢と愉快な女王様の許へ伺います。
ヒントは「主人公の初恋相手」です。お楽しみに。




