1-2 ユフィナからの依頼
「さぁて。弁明があるなら聞きましょうか。」
額に青筋を立てて、腕組みをする麗しい金髪女性。
金糸のような輝く髪をサイドポニーテールでまとめ上げ、金の刺繍で “ラーグ公爵” の家紋が施された薄蒼のドレスを身に纏い、サファイアのような青い瞳で睨みつけてくる。
その視線の先。
チョコンと正座をさせられるのはディールとユウネ、そして “龍神” ホムラであった。
ディールとユウネはガクガク震えながら青ざめている。
反対に、ホムラは頬を膨らませてムスッとしている。
はぁ~~、と盛大なため息を漏らす金髪女性。
その美しい髪は、建物の中にも関わらず風に揺られなびく。
「す、すみません。ユフィナ様……。」
青ざめるディールが目の前の女性、ユフィナに告げる。
隣に座るユウネも涙目だ。
「罪状を告げましょう。」
だが、無情にもユフィナは見下したまま告げる。
「一つ。ラーグ公爵領への不法侵入。きちんと領門から訪れれば良いものを、空から急襲など前代未聞だわ。」
「……急襲してないし。」
ボソッと不機嫌なホムラが呟く。
“お前、なんちゅーことを!” とディールとユウネの目が丸々と見開かれる。
ビキッ、と青筋を深めてユフィナは続ける。
「二つ。魔物の襲撃かと誤認させて衛兵を多数出動させた、騒動未遂。これも領門から訪問されていればお咎め無し、仮に貴方たちが訪れたことで混乱が生じたとしても、事前に連絡があればこちらも準備が出来ていたのに。」
「……それは、勝手にそっちが泡食って騒いだだけじゃない。」
またも、ユフィナの言葉にホムラがボソリと噛みつく。
青筋はさらに深まり、笑みが凍る。
「三つ。これよ。」
ユフィナはなびく髪をかき分け、やや斜めに目線を向ける。
そこには、建物の壁が砕け、大きな穴がぽっかりと空いていた。
「事もあろうか、ラーグ国王が住まう公爵離宮に大穴開けたことよ! 建国主のウォークス・ラーグ様の時代からある歴史的建造物でもあるのよ!? いくら大英雄だからといって、やって良いことと悪いことがあるわよ!!」
「「すみませんでしたー!!」」
盛大に頭を下げるディールとユウネ。
誠心誠意で謝罪するが、この騒動の元凶たるホムラは頬を膨らませているだけであった。
「ホ、ホムラも謝れよ!」
「そうですよ!」
そんなホムラに非難の声をあげる二人だが、ホムラは顔を背ける。
「私、悪くないし。」
実は、ホムラにも言い分がある。
1年後に控えた、ディールとユウネの婚姻の儀。
そのビックイベントへの招待状を携え、各国の重鎮たちの許へとディール、ユウネ、そして何故か突然訪れた “龍神” ホムラの3人で、届けることとしたのだ。
久々の3人での旅。
心躍る3人が最初に訪れたのは、レリック侯爵領から目と鼻の先であるラーグ公爵領、即ち、このラーグ公爵国の国王住まう場所だ。
これは単に近いという理由だけでなく、二人が結婚式を行うレリック侯爵領がラーグ公爵国内であり、この招待状を最初に手渡すに最も適した相手だから(逆に言えば、後回しにしてしまうと色々と問題が生じるから)である。
もちろん、この事についてはレリックから念押しされるように3人へ嘆願されたのだ。
同じラーグ公爵内。
“華の都” レリック侯爵領と、ラーグ公爵領。
その距離は、目と鼻の先。
加えて、久々に3人旅が出来ることで興奮を抑えきれることが出来なかったホムラ。
もちろん、それはディールとユウネも一緒だ。
その結果、何が起きたか。
わずかの距離を、“龍神” 本体となったホムラが全速力で大空をすっ飛ばしたのだった。
その背に乗るのは世界最強たるディールとユウネ。
強靭な防壁魔法で守られる二人は、どんな速度で空を突き進もうと平然としている。
つまり、ホムラは “自重” しなかったのだ。
加えて負けず嫌いのホムラは “フウガやライデンには負けない!” と密かな野心を燃やし、50km程しか距離の離れていない両爵領地をあっと言う間に辿り着いた。
ほぼ音速で空を舞えるホムラの全力。
あっという間にラーグ公爵領へ辿り着いたことに感嘆するディールとユウネであったが……。
“逆の視点” ではどうだろうか?
燃え盛る紅い体躯の凶悪な風貌の “龍” が突如、空に現れた。
しかもその場所は、ラーグ公爵国の中枢たるラーグ公爵領だ。
“凶悪な、伝承級の魔物が襲撃してきた”
ラーグ公爵領内に響く、警報。
死地に赴くような表情を浮かべ溢れ出る衛兵たち
そして、放たれる魔法の数々。
この時点で、ディールとユウネは自分たちが仕出かしてしまったことの重大性に気付いた。
もちろん、ホムラも “やっちゃったー!” と叫び、即座に領門へと向かおうとした、が。
そうは問屋が卸さなかった。
“とある理由” で里帰りしていた、ラーグ公爵国次期国王であり、連合軍十二将 “主席” 【光の神子】ユフィナが自ら迎撃に乗り出したのだ!
適当な衛兵の攻撃ならその強靭な皮膚で問題なく防げるホムラであったが、さすがに伝説の【七神子】の一人で、十二将最強の “主席” に座するユフィナの熾烈な攻撃となると話は別だ。
背に乗るディールとユウネは防壁魔法が展開されているが、ホムラ自身は、飛翔の邪魔となるため防壁は張られていなかった。
雨のように、嵐のように襲い掛かる光の魔法。
その魔法を放つ元凶は、どうやら中心の建物にいる。
ホムラは、咄嗟にその建物へ突っ込んだ。
光魔法を放つ凶悪な奴を黙らせて、ディールとユウネという “大英雄” の立場を使えば何とでもなるだろう! という打算からの行動だ。
それが、全て裏目にでた。
相手は、世界に名立たる公爵令嬢。
そして、破壊したのは歴史的建造物。
つまり、ホムラに言い分とは “言い訳” にしか過ぎない。
ジロリ、と睨むユフィナ。
「まさか、大英雄だからといってお咎め無しになるなんて、甘い考えではないわよね?」
え? と怪訝な顔を向けるホムラ。
「違うの? だってこの二人は……。」
「それとこれは別です、ホムラ様。むしろ貴女の暴走が原因のようですからね。たーっぷり、頭を冷やして自らの行いを悔いてもらいましょうか!」
ユフィナがパチンと指を鳴らすと、正座するディール、ユウネ、ホムラを取り囲むように現れる近衛兵たち。
「何よ! 私たちを捕まえるっていうの!? やってみなさいよ!」
立ち上がり、臨戦態勢となるホムラ。
その圧は、まさに最強の “龍神”
ガチガチ、と震えて怯える近衛兵たち。
ユフィナも冷や汗が流れるが、ホムラを睨んだまま。
「ホムラ様、太古から生き膨大な知識を有する貴女なら、この状況の意味がわかるでしょう? 貴女は悠久の時を生きる龍神ですが、そこの二人は違います。世界を救った大英雄と言えど、一国を統べる王家の者に牙を剥けたとなると……相応のご覚悟あっての狼藉と判断しますよ?」
ホムラの圧が弱まる。
「やめろ、ホムラ。」
そのタイミングで、ディールが顔を顰めて告げる。
「ディール……。」
「ユフィナ様の言うとおりだ。何の連絡をせず、突然領内の上空に現れたんだ。しかも宮殿の壁まで壊した。申し開きもないだろ?」
ぐ、と言葉を詰まらすホムラに、涙目で顔を伏せていたユウネも告げる。
「そ、それに……このままじゃレリック侯爵のお顔を潰すことになります。罪は償い、罰も甘んじて受けて、私たちがどうしてこの地に訪れたか、聞いていただかないと……。」
本来、それが本題であった。
だが、今さら仕出かしてしまった事が覆るはずがない。
腕組みをするユフィナは、はぁ、と一つため息をついて告げる。
「罪状は先ほど告げたとおり。後は罰を課すかどうかはこちら次第よ。……連れて行きなさい。」
ユフィナの無情な宣言で、連行される3人であった。
――――
「私、あの女嫌い!」
ラーグ公爵領の地下深く。
罪人を捕えておく牢へと3人は押し込められた。
見張り自体は牢の近くに居ないが、要所要所に見張りが厳戒体制でこの場を警戒しているのが分かる。
むすり、としながら呟くホムラ。
そんなホムラに、ディールは小声で告げる。
「ホムラ。それにユウネ。変だと思わないか?」
「変?」
ホムラは怪訝顔。
だが、ユウネはディールが何を言いたいか理解して答える。
「魔力鎖縛で繋がれなかったね。」
“魔力鎖縛”
それは、魔法を発動するに必要となる内なる “魔力” と外なる “魔素” を練られなくするためのマジックアイテムだ。
魔法の発動は、体内に宿る魔力と、大気に存在する魔素の二つを掛け合わせて再現させる力である。
魔法、そして発動条件である魔力と魔素は、【DEAR】が世界に溢れ、その存在が概念化したことによって生じたものだ。
“魔力鎖縛” は主に内なる魔力を乱し、霧散させる。
それに繋がれてしまうと、いくら膨大な力を持つディールとユウネ、そしてホムラでさえ満足に戦えなくなってしまう。
ただ、ユウネは凶悪な【極星魔法】“剣星” を発動できるため、魔力鎖縛は無意味と言えば無意味だ。
もちろん、その特性はディールとホムラくらいしか知らない。
そのため、無意味としてでも本来凶悪な罪人を捕えるに魔力鎖縛で縛るのは常識であった。
「……逃げてください、と言っているのかな?」
ポツリとユウネが呟く。
思わず、顔を見合わせるディールとホムラ。
「よぉし! それなら、ちゃっちゃと出よう!」
「待て待てホムラ! そうとは限らないぞ!」
右手に拳を作って肩をグルグル回すホムラを慌てて制する。
ディールは大慌てでホムラを抑える。
「何でよ! サクッと出て、招待状をパパッと渡して次の場所に行けばいいじゃないの!」
「国際手配されるつもりか、お前は!」
先ほど、ユフィナに告げられた罪状に加えて、脱獄まで仕出かしたらもはや “大英雄” などという二つ名は返上間違いなしだ。
さらに、“華の都” たるレリック侯爵の宮殿での挙式もままならない。
今までお世話になった、様々な人達の期待と信頼を一気に失う。
ディールとユウネ、そしてホムラが築き上げてきたもの。
失うのは、本当に一瞬なのだ。
「離せー! エッチー!」
ディールに両脇から腕を通されて羽交い絞めされるホムラが叫ぶ。
顔を真っ赤にして「な、何言っている!?」と言いかけたところで、ディールは顔を、真っ青にする。
「あ……。」
同じく、顔を青ざめるホムラ。
するり、とディールの腕から抜け出す。
二人の目の前。
笑顔、だが目のあたりのコントラストが落ちたユウネが二人を眺めていた。
「え、っと……ユウネ、さん?」
「ち、違うの、ユウネ。さ、さっきのは、つい、と言うか。」
「ふ~~ん?」
ユウネの周囲から、悍ましい魔力が迸る。
笑顔のままだが、それが余計に恐ろしい。
「「ごめんなさいーー!!」」
盛大に土下座する、ディールとホムラだった。
そこに。
「な、何をしているのよ。貴方たちは……。」
ビクビクしながら、呆れた声で尋ねてきたのは……。
「あ! 光の神子!!」
ホムラがバッと起き上がり、指をさす。
鉄格子の向こう側に居たのは、先ほど罪状を告げた、ユフィナであった。
「少しは頭が冷えたかしら? ……ホムラ様は、まだ全然冷えていないようですね?」
その言葉で今にも噛みつきそうなホムラに「落ち着け!」と宥めるディール、そしてユウネが3人を代表してユフィナに恐る恐る話しかける。
「ユフィナ様……。あ、あの、私たちの話を聞いていただきたいのですが。」
“これからどうなってしまうのか”
ディールとの明るい未来が、ホムラの暴走で閉ざされるなんて……。
って。
「あれ?」
思わず呟く、ユウネ。
「……悪いのは、ホムラさんであって。私とディールは、何も悪くないのでは……。」
「ちょ、ちょっとユウネ!?」
あ、と声を上げるディール。
「それも、そうだなぁ。」
「ディールまで!?」
涙目となるホムラ。
だが、考えれば考えるほど……。
ジト目で睨むユフィナ。
そして、困った表情のディールとユウネ。
ホムラは、ついに観念した。
「う、うぐっ。ご、ごめんなさい……。そうよ、そうよ! 私が全部悪かったのよー! この二人は何も悪くないの! だから、許して、この二人だけでも許してあげて!! 光のみ……じゃなかった、ユフィナ、様ぁぁ!!」
泣きじゃくり、鉄格子を掴んで赦しを乞うホムラ。
ホムラの腕力なら簡単に引きちぎれるだろう鉄格子だが、そうしないのはホムラなりの礼儀だ。
再度、はぁ、と溜息を吐き出すユフィナはホムラ、そしてディールとユウネに目線を送り、屈んでホムラの手を取る。
「しっかり反省できたようですね。幸い怪我人も出ていませんし、壊された箇所も修復可能でした。空に現れた魔物は私が駆逐した、その衝撃で私が宮殿の壁を壊した、という事で今回は特別に、本っっ当に! 特別に!! お咎め無しで手を打ちます。」
何かを念押しされた感があるが、お咎め無しという言葉でホムラの顔がパァッと輝く。
「あああっ、ありがとぉぉぉ! 貴女、嫌な女だと思っていたけど実は凄く優しいのねぇ!」
「その余計な一言が無ければ、私も貴女様を心底尊敬できたはずなんですけどね、ホムラ様!」
涙を流し、輝く笑顔のホムラに、またまた青筋を立てて笑みを浮かべるユフィナの二人。
鉄格子の中、呆然とそんな二人を眺める、置いてけぼりのディールとユウネであった。
――――
「実を言うと、お二人がこちらにホムラ様の背に乗って向かったという報告がレリック侯爵からあったのよ。」
場所は、ユフィナの執務室。
そもそも公爵離宮にはユフィナの執務室は無かったが、連合軍十二将に任命された事、さらに2年前に “主席” となったことを受けて広く、新しく、執務を行うには抜群の環境が整えられた執務室が与えられた。
親ばかのラーグ公爵国王ゲイルの発案であるが、この執務室はゲイルのものよりも遥かに立派である。
そして、普段はユフィナの母、“影のラーグ公爵王” と呼ばれる王妃レイラが執務のために使用しているのであった。
「えー、じゃあ! あんなにバカスカ魔法をぶっ放さなくて良かったんじゃないの!?」
メイドに差し出された大量のクッキーを頬張っていたホムラが叫ぶ。
その様子、元の木阿弥だ。
だが。
「連絡あったのは、貴女たちを牢屋へぶち込んだ後よ!」
サァーー、と青ざめるユウネ。
「それ、侯爵に、お話しされました、か?」
こんな騒動を、ラーグ公爵国の中枢たる公爵領で引き起こしたという事実、しかもレリック侯爵はラーグ公爵国の自衛団・防衛団といった治安維持の総責任者、曰く “ラーグの守護神” だ。
本来、守護すべきラーグ公爵領を、誤解とは言え襲撃したとなると……婚姻の儀の約束は取りやめ、最悪はお尋ね者だ。
ユウネの雰囲気を察し、同じように顔を青ざめるディールも、ユフィナを眺める。
はぁ、とユフィナは溜息を吐き出して伝える。
「……言えるわけがないでしょ。報告に、貴方たち自らがレリックの宮殿で執り行う婚姻の儀の招待状を持っていかれたのでよろしくお願いします、何て聞かされたら、何があったかとか言えるわけがないでしょう?」
ディールとユウネに、安堵が過る。
その二人の雰囲気を察し、ホムラも「ごめんなさい……」と呟いて椅子に座る。
再度、はぁ、と溜息を吐き出しユフィナは手を叩く。
後ろに控えたメイドが紅茶ポットを持ってきて、淹れる。
「ユウネさんは大の紅茶好きでしたよね?」
突然、笑みを浮かべてユウネに水を向ける。
え、あ、は、と言い淀みつつも、ユウネは、
「はいっ!」
と答えた。
その様子を見て、ユフィナは紅茶が入ったティーカップを示す。
「ぜひお試しを。こちらはラーグ公爵国の最北、メーズンという地域で取れた最高級茶葉を厳選し、最高の職人が手塩にかけて作り出した、“メーズン・フォート・ラデュール” です。」
その言葉に、ユウネはわなわな震える。
「こ、これが……メーズンの……。」
感動のあまり打ち震えるユウネの様子に、今、差し出された紅茶が “とんでもない価値のあるもの” であると理解した。
ユウネの紅茶好きは、共に旅をしている頃から把握している。
加えてケーキなどの甘味も好きだが、女性らしく身体つきを気にして甘味は控えめで、紅茶をよく嗜んでいる。
膝元にある、豪華な低いテーブル。
その上に上品に並べられた、ティーカップ。
恐る恐る、差し出されたソーサーを左手で、カップを右手で取る。
ソーサーごと胸元まで持ち上げ、そっと、口に付ける。
全身で紅茶を味わうような、姿勢。
異性から見ても身惚れるほど美しいユウネという事も相まって、ディールだけでなく、ホムラもユフィナも見惚れてしまう。
その時、グワッ! と目を見開き、カタカタと震える。
「こん、な、紅茶、飲み物……この世に、あるなんて……。」
余りの美味しさに感動し、自然と涙が溢れた。
「そんなに美味しいの!?」
続いてホムラがカップを手に取り、紅茶をグッと飲む。
そして、「うん、美味しい!」と笑みをこぼす。
そんなホムラにジトッとユウネが睨む。
「このメーズンの紅茶に対して、感想がそれだけですか……。」
「え、わ、分かるよ! 凄く美味しいよ!」
“紅茶の世界は、奥が深い”
アハハ、と乾いた笑いを浮かべるディールだが、二人のやり取りで、ユウネ絶賛の紅茶を頂きたいが、今飲むと漏らした感想次第でユウネから顰蹙を買うかもしれない。
同じように紅茶を上品に飲み、ユフィナは柔らかな笑みをユウネに向ける。
「よろしければ、この紅茶葉を “御婚姻の祝品” としてお贈りさせていただくわ。」
ええっ! と顔を綻ばせるユウネ。
しかし、すぐさまその言葉の意味を理解する。
あ、と声を漏らして、すぐさま頭を下げる。
「申し訳ありません、ユフィナ様! こちらが先にお伝えせねばならぬものを!」
ユウネは右手薬指に嵌める “アーカイブリング” を輝かせ、3通の、括られた便箋を取り出した。
その紐をほどき、内一つ、『ユフィナ・フォン・ラーグ様』と書かれた便箋だけを手に取り、ディールに渡した。
頷く、ディール。
そして。
「ユ、ユフィナ様! オレ達……いや、私達は来年の春の季節にレリック侯爵の宮殿にて、婚姻の儀を執り行います。その儀に、ぜひ、ご出席いただけますようお願いします!」
頭をガッと下げて、便箋をユフィナに差し出す。
ディールとユウネの結婚式の招待状だ。
「ええ、もちろん。喜んで出席させていただきます。ディールさん、ユウネさん。」
笑顔を浮かべてディールから招待状を甲斐甲斐しく受け取り、すぐ、後ろに佇む執事に渡す。
「もし父上と母上も招待されるなら、私が受け取るけど?」
「よ、よろしいでしょうか?」
残りの2通は、国王ゲイルと王妃レイラ宛だ。
ユウネはリングに仕舞おうとしていた招待状を、慌ててユフィナに手渡した。
「確かに。父上も母上も、喜んで出席させていただくわ。」
再び、執事に手渡す。
心なしか、執事も歓喜に震えている様子だ。
「よぉし! 目的は達成ね! じゃ、次に行こうか、次へ!」
紅茶をグイッと飲み干してホムラが告げる。
全ての記憶が戻り多少、分別が付くようになった様子であったが、どうやら地がこういう性格なのだろう。
ちなみにホムラ曰く『仕方ないでしょ! こっちに生まれ変わる前は生粋のJKだったんだから!』 とのこと。
全く意味の分からないディールとユウネであった。
だが、そんなせっかちなホムラをディールが再び諫める。
「待て待て! ユフィナ様に散々ご迷惑をお掛けして、ただ招待状渡して帰るっていうのも失礼だろうが!」
「そうよホムラさん! こんな凄い紅茶までいただいて……。」
だが、ホムラの言うとおり、もう用事はない。
“何か、用件ありますか?” と言った顔付きで、恐々とユフィナへ振り向くディール達。
コクリ、と紅茶を一口飲んでユフィナは告げる。
「……折り入って、貴方たち二人に相談があるのよ。」
神妙な表情。
ただならぬ、気配。
「……オレ達に出来る事なら、何でも。」
ディール、ユウネ。
そしてホムラもその気配を察し、椅子に座りなおす。
ユフィナはパンパンと手を叩き、執務室内のメイドと執事たちを、退室させた。
即ち、救世の大英雄たち以外に聞かれると不味い、機密事項が語られるという意味だ。
ゴクリ。
その意味を理解し、ディールとユウネは一つ唾を呑み込んだ。
「ユフィナ様。何か、危険な魔物でも現れましたか?」
「そーんな奴、私達でパパッと退治してきてやるよ!」
ラーグ公爵国の次期国王。
連合軍十二将を統べる “主席” からの、依頼。
もしや、災害級の “龍” でも現れた、か?
そうなると、ディールやユウネ、ホムラは単身でも撃退可能だろうが、ユフィナとなると、同じ【神子】があと2~3人は戦力として欲しいくらいだ。
だが、神子たちは多忙の身。
ならば、ちょうど訪れたディール達が解決するのが、一番被害が少なくて早い。
しかし、意外なことに、首を横に振るユフィナ。
「……違うのですか?」
“それ以上の、依頼?”
思わず身を引き締めてしまう、ユウネ。
三者三様、ユフィナの言葉を待つ。
だが、当のユフィナ。
言い淀んでいるというか、頬を真っ赤にして、唇を噛みしめている。
「ユフィナ様?」
明らかに異様な雰囲気を察し、ディールが尋ねる。
そして、ユフィナはついに、意を決し “依頼” を伝える。
「お二人とホムラ様に、殿方との接し方をご教授願います!!」
「「「えええええーー!?」」」
突然訪れたはずのディール達に、公爵令嬢からのまさかの頼み事。
勝気で自信に満ち溢れ、行動力もある公爵令嬢。
そんな彼女の “乙女” な一面に、果たして3人はどう応えるのか。
「……大変なことになった。」
「そう、ね。」
ディールとユウネは、いきなり最大の窮地に立たされたのであった。




