1-1 もう一度、出掛けよう
楽しみにしていただけた方、大変お待たせしました。
『落ちこぼれの烙印が世界を救うまで』の後日談含む、アナザーストーリーです。
不定期更新ですが、お楽しみいただけると幸いです。
季節は、春。
【ディアの悪魔】と呼ばれる女神の名を騙った悪魔たちが画策した世界滅亡の計画と、それを阻止せんと全世界の人類が一致団結して立ち向かった、後世に長く伝わる伝承となる “邪神戦争” の終結から1年が過ぎた。
多くの人類が犠牲となり、その爪痕もまだ完全には癒えていない。
だが人類は、過去に例の無い “結束” の上で悪魔を退けたという事実を胸に、互いに手を差し伸べ、互いに支え合い、戦争の爪痕からの復興や “西高東低” であった経済格差の解消に向けて前へと進んでいる。
二人の “大英雄” がそうであるように。
互いに支え、慈しみあった二人。
どんな困難も決して諦めず、前へ前へと突き進み、世界から【ディアの悪魔】の元凶たる “悪魔の母” を討ち滅ぼした。
人々の希望、大英雄の二人。
【剣神】ディール・スカイハート
その二つ名が示すとおりの神如く剣の達人であり、その神の剣は愛する者、守るべき者のために揮われ、決して誰かを傷つけるものでは無い。
だが、愛する者や守るべき者に仇為す者が現れた時、その神業によって容赦なく蹴散らすのだという。
“龍神の寵愛” と “女神の寵愛” を受けた剣神。
二つの寵愛が容を成し、悪は滅び、世界に福音が訪れた。
【女神】ユウネ・アースライト
【ディアの悪魔】台頭を憂いた神と女神が、それぞれの力を分け与えて誕生した奇跡の子であり、揮うその力は慈悲と慈愛に満ち溢れている。
だが、【剣神】と同じく愛する者、守るべき者に仇為す者が現れた時、慈悲と慈愛は一変して破滅と消滅の力となる。
剣神を愛し、彼への寵愛が “剣” を生み出す。
その力が容を成し、悪を祓い、世界に福音が訪れた。
“邪神戦争” から1年。
まるで御伽噺のように語られる二人の大英雄像は、今を生きる人々の、確かな希望となっている。
人々は大英雄に倣い、より良い明日を目指すのであった。
だが。
そんな大英雄は、今まさに、大問題に直面していた。
――――
「こんなに……やることがあるのですか?」
束ねられた高級紙。
最初はじっくりと内容を読もうとしたが、あまりの文量、そして壮大な内容で途中から流し読みとなり、最後の頁に辿り着いて、やっと吐き出した言葉がそれだった。
目が完全に死んでいる、ディール。
そのディールとは裏腹に、目を輝かせるユウネ。
「凄い……。凄いです、侯爵様!」
叫ぶように伝え、高級紙の束を食い入るように読みふける。
そんな正反対の反応を示した二人を面白がるように、恰幅の良い白髪の男、レリック侯爵が嬉しそうに笑う。
「ははは! 気に入ってもらえて何よりだ、二人とも。」
四大公爵国西方、ラーグ公爵国レリック公爵領。
通称、“華の都”
“グレバディス教国大聖堂の教皇の間”
“モーゼス王国城の大噴水公園”
そして、“レリック侯爵の宮殿”
世界三大美に数えられる建造物。
その一つ、“レリックの宮” にディールとユウネは訪れた。
それは何故か。
「あああー、感激です! お二人が結ばれ、こうしてレリックの宮で婚姻の儀を執り行うなんて、まるで夢を見ているようです!」
可愛らしい黄色のドレスを纏い、マロンカラーの髪を大きなサイドロールで巻き上げた、見るからに令嬢といった装い、だが未だ少女のようにしか見えないレリック侯爵の次女、ソマリが目をキラキラと輝かせる。
約3年前に出会い、1か月ほど一緒に旅をした若きBランクハンターであったディールとユウネが、今や世界を救った “大英雄” となり、父であるレリックが確約した婚姻の儀を行いに訪れてきたのだ。
夢物語の登場人物のように、右手を掲げ、左手は胸に当ててポーズを取る姿は痛々さを通り越して、潔さすら感じる。
「ユウネ殿の御召し物や装いについてはソマリを中心に、当家の選りすぐりの者を遣わすので遠慮なく進めていただきたい。」
娘のポーズを無視して伝えるレリック侯爵。
手に持つ高級紙の束から顔を出し、「ありがとうございますっ!」と満面の笑みで答えるユウネであった。
だが、それぞれ喜びを表現する女性陣とは裏腹に、どんよりとした空気を醸し出すディールであった。
「……ディール殿の御召し物や装いは、ユウネ様の御召し物に合わせる形となる。これは私専属の仕立て屋が取り仕切るので、安心してくれ。」
ディールの空気を読んだのか、レリック侯爵は苦笑いで伝えた。
山ほどある内容のうち、一つが減った。
「は、はい……。ありがとうございます、侯爵。」
ディールとユウネは “邪神戦争” の戦後処理に追われていた。
その日々がひと段落したタイミングで、レリック侯爵から『そろそろ婚姻の儀を執り行わないか?』と催促があり、ついに結婚式を挙げるために訪れたのだ。
“邪神戦争” で、元凶ルーナを退いた最大の功績者、“大英雄” のディールとユウネは、主に各国への慰問が主な仕事だった。
特に、ソエリス帝国の皇帝代理であるオフェリア・フォン・ソエリスからの嘆願により、二人は大陸東側へと足を運んだことをきっかけに、大陸東側の復興について精力的に活動をしていたのだ。
現在も、ディールのパートナーである【紅灼龍ホムラ】が中心となって、他の “龍神” たちと共に目まぐるしい復興活動を行っている。
すでに大部分インフラ整備が終わり、『次は産業だ!』と息巻くホムラによって、著しい発展を遂げつつある。
ある程度、役割を終えた二人。
すでに “黒白の神殿” で婚約を果たしており、レリックとの約束と申し出を無碍にするなど考えられなかったが、それでも恐れ多く、訪問することを躊躇していたディールとユウネ。
そんな二人に、レリック侯爵が住むラーグ公爵国の最高権力者統 “ラーグ公爵国王” の長女であり、次期国王でもある連合軍十二将 “主席” 【光の神子】ユフィナ・フォン・ラーグが
『断られたらラーグ公爵国の沽券に関わる!』
『父上が卒倒しちゃう!』
『お願いだから、行ってきて!』
と、半ば強引に送り出したのだ。
そして、恐る恐るレリックの宮へ訪れたディールとユウネに待ち構えていたのは、膨大な婚姻の儀へのマニュアルであった!
「何も、そのマニュアルを全て頭に入れてくれと言っているのではない。むしろ、二人にしか出来ぬことを中心に、二人でやってもらいたい。」
レリックはソファに腰を掛けて、甘みと酸味の聞いた紅茶を一口啜る。
それに倣い、ディールとユウネがレリックの正面のソファに、ソマリが父レリックの隣にチョコンと腰を掛けた。
「順を “逆から” 説明しよう。」
その言葉に首を傾げるディール達。
「逆……ですか?」
「ああ。聞くまでもなく、二人はこの宮殿で結婚式を挙げていただく。これは良いかな?」
口元を緩めて告げるレリックの言葉に、思わず顔を赤らめて頷くディールとユウネであった。
「それが、この宮殿での二人の “ゴール” だ。」
「結婚式が、ゴール。」
ポツリと、特に考えなく呟くディール。
目を細めて、レリックは続ける。
「まだ二人は若いから聞いたことが無いかもしれないが……こんな言葉がある。『結婚はゴールじゃなくて、スタートだ』と。」
その言葉は聞いたことは無いが、籠められた意味はわかるディールとユウネ。
ついでにレリックの隣に座るソマリも目を輝かせる。
思わず口を開く。
「お父様、良い言葉ですね! あああ~、私もいつか素敵な殿方と出会って、結婚というスタートラインに立ちたいです!」
うっとり、惚けるソマリ。
“お前にはまだ早い!” という言葉をグッと飲み込んで、一つ、咳払いをする。
「まぁ、その言葉の意味は二人やソマリが感じたとおりだ。……だが、明確なゴールのイメージが無いまま、スタートだと言い切って、果たして健全かどうか、私は疑問だな。」
先ほど紡いだ言葉に、疑問を呈する物言い。
ユウネが首を傾げる。
「明確な、ゴールのイメージですか?」
「うむ。ユウネ殿。貴女は今、ディール殿とのレリックの宮殿での挙式に胸が躍り、そのマニュアルに描いたイメージに想いを巡らせているのではないかな?」
笑みを浮かべたまま、紅茶を口にするレリック。
ユウネは満面の笑みで「はいっ!」と答えた。
「それが、“ゴール” だ。“目標” とも言い換えられるが、ありたい未来、ありたい姿を思い描き、そこから逆算して、いつまでに、何を、どこまで達成しているか、これを明確にすることなのだ。」
紅茶カップをテーブルに置いて、二人を見る。
その挙動一つ一つも漏らさぬよう、ディールもユウネも耳を傾けるのであった。
「もし、この結婚式をスタート地点だとしてしまうと、今、お二人に渡した分厚いマニュアルは何になる? スタートラインに辿り着くための過密な仕事か? 違うだろう? 結婚式という二人が辿り着くべき祝福の門出への道標なのだ。」
頷く二人。
反面、よく分からないといった顔のソマリ。
「お父様……。結局、結婚式はゴールなのですか? それともスタートなのですか?」
「それはだな、ソマリ。結婚式はゴールともスタートとも言えるし、違うとも言える。」
まるで禅問答。
益々混乱するソマリであった。
「つまり、侯爵は結婚式もオレやユウネが達成すべきゴール地点だと見据えること、それを達成してから新たな “ゴールのイメージ” を行うべき、という事ですか?」
ソマリと同じように混乱するディール。
その言葉に、ニヤッと笑うレリックであった。
「その通りだディール殿。“何を目指すか” という目標が決まってから、ようやくスタートというものが切れるのだ。その意味も分からないまま、結婚式をスタートだと言い切ってしまうと、実際の挙式までに押し寄せる多忙な日々に疲弊してしまい、その後の未来に影を落とすことになるかもしれない。」
再度テーブルの紅茶カップに手を掛けるレリック。
「『結婚はゴールじゃなく、スタートだ』という輩居たら、私ならこう尋ねるな。“何を以て結婚をスタートに見立てて、どこへ向かうのか?” と。そこでようやく、具体的な “結婚した後” が見えてくるであろう。」
クイッ、と紅茶を飲む。
思わず、顔を見合わせるディールとユウネ。
結婚式を挙げるためにレリックの宮へ来た。
到着した昨日、夜は大英雄の二人の訪問を祝う祝宴が開催され、二日目の今日は昼過ぎまでゆっくりと旅の疲れを癒していた。
そして間もなく夕方。
レリック侯爵の執務室に呼ばれて行ったところ、手渡されたのが分厚い “大英雄の挙式マニュアル” であった。
高級紙で作成され、表紙には砕いた宝石や金箔があしらわれており、このマニュアルだけでも恐ろしい価値があると考えられる。
震えあがるディールとユウネであったが、その中身を見て、唖然とした。
結婚式までにやるべき事の、多いこと!
普通の村での結婚式は、結婚をする二人にグレバディス教の司祭や神官が祝福の言葉を述べ、華やかさの中にも厳かに、そして村によって差はあるものの、饗宴が行われるのがセオリーだ。
準備は、教会の飾りつけと饗宴の飲食のみ。
あと新たな夫婦が着飾る挙式の装いだ。
それに比べて、レリックが用意した “マニュアル” の内容は、あまりにも緻密で膨大であった。
その大半が『来賓者』の項目。
まず、挙式を執り行う “司祭や神官” は誰か?
これは、二人が約束をしている人物がいる。
世界に名立たる、グレバディス教の最高権力者。
教皇アナタシスこと、【聖者】メリティース・ルイニアナだ。
本来、グレバディス教最高権力者たる教皇が婚姻の儀を執り行うのは、四大公爵国の次期公爵国王などだ。
実際、ディールとユウネの親友である、ガルランド公爵国の新国王リュゲルと新王妃ナルの婚姻の儀にも、教皇アナタシスが執り行う事となっている。
つまり、公爵国王と並ぶ待遇なのだ。
余りに素っ頓狂な状況にも思えるが、ディールとユウネは世界を救った大英雄だ。
むしろ、教皇が執り行わないで誰がやる!? という状況でもある。
ちなみにディールの姉は、グレバディス教国最高位神官 “四天王” の一人、【水の神子】アデル・スカイハートなのだが、一度ダメ元で彼女に “挙式は姉さんが取り仕切ってくれない?” と尋ねたところ、烈火の如く叱られたのだ。
『教皇猊下が執り行うと言うのに、何の冗談!?』
『そもそも私はディールの親族でしょうが!』
『私だってまだ相手が居ないのに!』
激怒する姉アデルを何とかなだめ、予定とおり教皇へ依頼することとした。
ちなみにアデルの怒りのボルテージが最大値に触れたのは、最後のセリフだ。
それなりに、彼女の想い人であるソエリス帝国軍十傑衆2位ミロク・アイスバーンと良い感じではあるが、どうやら、まだ恋人同士には発展していない様子。
近いうちに発破を掛けにいこうと思うユウネだ。
「それにしても……婚姻の儀への招待って、こんなにお呼びする必要があるのですね。」
多くの人に、しかも気心知れた者たちに祝福してもらえるかもしれない状況に、目を輝かせるユウネだが、ディールは明らかに面倒くさそうだ。
「レリック侯爵。これだけの人を呼ぶって……。」
「ああ。君たちの婚姻の儀という、伝承の1ページにも加えられるような大事にも関わらず、呼ばねば “角が立つ” 方々ばかりだ。」
飲み干した紅茶のお替りをメイドに淹れてもらい、レリックは笑いながらディールに告げた。
その面々。
婚姻の儀の招待者予定者は、以下のとおりだ。
【ガルランド公爵国】
先代国王レオン・フォン・ガルランド
先代王妃アネッサ・フォン・ガルランド
新国王リュゲル・フォン・ガルランド
新王妃候補ナル・ハンバー(ディールの親族枠)
オルス・フォン・フォルゲン侯爵
【ソリドール公爵国】
国王兼連合軍総統マリィ・フォン・ソリドール
セルグ・フォン・アーマリー侯爵
【神の申し子】アゼイド・セイス
【天衣無縫】シエラ・セイス
【バルバトーズ公爵国】
国王(女王)マーサ・フォン・バルバトーズ
次期国王エリス・フォン・バルバトーズ(十二将末席)
アスクレイト・フォン・ドラテッタ侯爵
【ラーグ公爵国】
国王ゲイル・フォン・ラーグ
王妃レイラ・フォン・ラーグ
次期国王ユフィナ・フォン・ラーグ(十二将主席)
【ソエリス帝国】
皇帝オズノート・フォン・ソエリス
皇帝代行オフェリア・フォン・ソエリス
十傑衆1位ゼクト・オラトリオ
十傑衆2位ミロク・アイスバーン
十傑衆3位ラムゼル・バザルウォッチ
【風の神子】アメリア・ラナトリア
【連合軍】
十二将第1席マイスター・フォン・ランバルト
十二将第2席シオン・マーキュリー
十二将第3席ロイ・シェラザード
【グレバディス教国】
教皇アナタシス
“四天王” 【雷の神子】レナ・シャーマイン
“四天王” 【土の神子】サリア・オレガノット
“四天王” 【火の神子】ティエナ・ミズナラ
【親族枠】
ゴードン・スカイハート(兄)
テレジ・スカイハート(兄嫁)
アイーシャ・スカイハート(姪)
アデル・スカイハート(姉)
マヤナ・アースライト(ユウネの親族代表)
レメネーテ村村長、司祭(ユウネの親代わり)
「公爵様たちに、ソエリス帝国の皆さんも……。」
嬉しい反面、この面々に背筋が凍る思いのユウネ。
つい2年ほど前、ただの村娘であった自分がディールと共に旅をする中で、絶大な力に目覚め、世界を救った大英雄と呼ばれるだけでも恐れ多いのに。
たかが自分たちの結婚式に、世界のトップ達を招待するなど……。
だが、レリックの告げた “呼ばねば角が立つ” という言葉。
どう思おうとそういう立場になったという事実なのだ。
「ちなみにこれだけの方々を集めるなんて並大抵ではない。公爵国王の婚姻の儀や告別の儀でも、ここまで集まらん。それだけ、君たちの結婚式は意味が大きいということだ。」
そう告げ、パンパン、と手を叩くレリック。
すると、メイド長が大盆を持ってレリックの隣へと立った。
その大盆の上には、大量の便箋。
「これは、この方々への招待状だ。すでに私の家の者たちにしたためさせた。あとはお送りするだけだが……。」
それが、問題であった。
「あの戦争以降、復興は進んでいるとは言え、物流はまだ不安定だ。この招待状を確実に届ける方法となると、何があると思う?」
本来なら、定期便や集団キャラバン隊に便乗する形で送るのが主流だ。
しかしレリックが告げたとおり、物流の足にも差があり、特にここ最近交流が盛んとなってきたとは言え、ソエリス帝国へ送るのは相当の期間が掛かる。
「馬車をお借りして……オレ達が届けるとか?」
定期便や物流便とは別、個人的に届ける方法だ。
馬車の旅には慣れているディールとユウネであるし、ユウネの持つアーカイブリングには相変わらず大量の食糧と金銭が詰め込まれている。
その答えを期待していなかったとは言えば嘘となる、レリック。
しかし、うーん、と手を顎に当てて考え込むのだ。
「実は、二人に頼もうとも考えたのだ。式はまだ1年後を予定しているが、その間に君たちにはやってもらわねばならない事も多い。それを自ら届けるとなると、なぁ。」
レリック家の使いに届けさせる方法もある。
だが、招待状を届ける相手は、この世界の “王” たちばかりだ。
大英雄の使いだから問題は無いだろうが、それでも不安はある。
その時。
「話は聞かせてもらった!!」
“ばーんっ!” とレリックの執務室のドアが勢いよく開かれる。
思わず警戒態勢を取る、執務室内のメイド達。
だが、“侵入者” の姿を見て、ディールが叫ぶ。
「ホ、ホムラ!?」
燃えるような、赤髪ツインテールと紅い瞳。
小ぶりながらも整った鼻筋に淡い紅の唇。
ほっそりとした身体に、逆さにしたワイングラスのような、光沢ある真っ赤なベアトップのドレスを纏う。
それは、ディールと共に旅した大切なパートナー。
ユウネにとっても親友の一人でもある、龍神。
【紅灼龍ホムラ】であった。
「ディール、ユウネ! 私に任せなさい!」
ズカズカと執務室に入り、仁王立ちで告げる。
その姿に、色々と突っ込みたい二人であったが……。
「ホムラ……東側は、良いのかよ?」
ホムラは5,000年前の超々文明社会時代の知識を持つ、世界唯一の存在だ。
彼女曰く “当時の高度過ぎる社会教育の賜物” によって、大陸東側復興のためのアウトラインを作り上げ、その筋書きにそって “龍神” が中心となって復興活動を続けている。
ここ1年でソエリス帝国と、現在グレバディス教国の庇護下であるボゼ諸島連合国とモーゼス王国のインフラは見違えるほど整備され、生産に流通にと以前とは見違えるほど発展を遂げつつあるのだ。
だが。
“最高責任者” のホムラが、何故ここにいるのか。
唖然とするディールに、ジト目で睨むユウネ。
そんな二人の怪訝なオーラなど構いも無し。
踏ん反り返り、ホムラは告げる。
「今更、私がどうこう言う必要もなし! それよりも困っているんでしょ、ディールにユウネは!」
ビッ! と指をさす。
その指し示す先は、大量の便箋だ。
「まぁ、正直困ってはいたところだ。」
頭を掻きながら告げるディール。
馬車に乗り、配り歩くのも良いが……。
この場にホムラが来たならば、別の方法がある。
それは “龍化” してもらい、空の便で配り歩くことだ。
馬車よりも遥かに早く、全ての国を回っても、恐らく10日もあれば配り終えるだろう。
頼もうか、どうしようか。
悩むディールとは裏腹に、ジト目のままのユウネ。
「……ホムラさん、もしや、逃げてきたとか?」
ビクッ! と身体が強張るホムラ。
表情を強張らせながらプルプルと震え、ユウネに、
「そ、そ、そんな訳ないじゃない……。」
と、小声で告げるのであった。
さすがにこの様子、ディールも怪訝顔だ。
「ホムラ、本当に大丈夫なのか? 他のみんなは働いているんだろ。オフェリアさん達はホムラの知識が頼りだって言っていたし、まだまだやることはあるんじゃないのか?」
何故か、目線を俯かせて顔を真っ赤に染めるホムラ。
あ、と声を上げて察するのはユウネであった。
ソファから立ち上がり、ホムラの傍へ寄る。
「な、何よ、ユウネ。」
ユウネは柔らかな笑みを浮かべ、耳打ちをする。
(ライデンさんのことでしょ?)
ボフンッ! とホムラの頭から湯気が吹き上がった!
図星だった。
ははぁ、と呟き、今度はディールへ振り向くユウネ。
「ディール! 久々にホムラさんと3人で旅に出よう!」
ユウネからの提案。
つまり、ホムラの背に跨りこの大量の便箋を届けるための空の旅に出ようと言うのだ。
しかし。
「大丈夫なのか? ユウネ……。」
ユウネは高所恐怖症、つまり空の旅が大嫌いだ。
かつて一緒に旅立った時も、度々龍神の背に跨り空を飛んだが、顔を真っ白にしてディールの身体にしがみ付いては小動物のように震えるばかりであった。
そんなユウネを心底心配するが……。
「私は大丈夫!」
ニコニコ笑うユウネ。
無理をしているようには見えない。
逆に、勢いよく現れたはずのホムラが震えている。
しかも顔が真っ赤だ。
「まぁ、せっかくホムラがここまで来てくれたんだ。……そうだな、この招待状を配る3人旅をしようか。」
こういう時は、決まってユウネに何か考えがある。
何より、【ディアの悪魔】を斃すまで殆ど一緒に旅をしていたディールとユウネ、そしてホムラの3人だ。
こうしてまた一緒に旅が出来るというのは、ディールも嬉しい。
「良いのかな? ディール殿。そしてホムラ様。」
一部始終を眺め、恐る恐る尋ねるレリック。
「ええ」、とディールは、はっきり答える。
「その招待状、間違いなく届けます。オレとユウネの、結婚式ですから。」
その言葉で、今度はユウネが顔を真っ赤にさせる。
「あああ~、私もいつかはー!」という夢見がちの侯爵令嬢は放っておき、レリックも笑みを浮かべて頷く。
「頼んだよ、2人とも。」
「はい。」
そして、ディールはユウネとホムラを笑顔で見る。
「もう一度、出掛けよう!」
ひょんな事から、自らの結婚式の招待状を配ることとなったディール、ユウネ、ホムラの3人。
かつて世界を救った3人が再び揃い、1年ぶりとなる旅路。
その旅路で出会うのは、世界各国の最高峰たち。
中には、気心しれた親友や家族たちも居る。
久々に会えることの喜び、そして、いよいよ結婚式を開くこととなったディールとユウネは、自らその報告を行えるという、嬉しいながらも恥ずかしい気持ちでこの大役に臨むのだ。
ただ、ユウネは少し目的がプラスされる。
それは。
「さぁてホムラさん♪ せっかく再会できたのです。夜はガールズトークで盛り上がりましょう! ソマリお嬢様も、ぜひ!」
「わぁ! 良いのですかユウネさん! ホムラ様、よろしくです♪」
「ひ、ひぃぃぃっ!!」
“絶対、ライデンさんと何かあった!”
ホムラの気持ちを暴こうと企むユウネであった。




