過去・1
『な、なんとぉー!! またしても一撃で決着がつきました!! 決勝相手は相手はあの『重撃』と名高い大剣使いのアドラスでしたがその象徴であり大剣を折られての敗退です! 強い、強過ぎるグリゼルダ選手!!』
太陽国ソレイユ、王都ハルマキス。
その中心部にある闘技場にて響き渡る歓声。
誰もが闘技場でたった一人の勝利者に対して惜しみのない拍手と称賛をしている。
佇む男ーー若かりし頃のグリゼルダは民衆の歓声と参加者の呻き声を聞きながら一人溜息を吐いた。
「全然滾らねぇ」
彼の相手となった者達はどれもこれもグリゼルダに傷をつける事なく、剣を折って退場した。その事が彼の中に燻った不完全燃焼を残す。
その後粛々と褒賞式が始まり、ソレイユの国王モナリヒスが直々に褒美の言葉を告げる。
「汝は《獅子王祭》に於いて数多の参加者から勝ち抜いた事に対してこの場で称賛を讃える。次いではーー」
モナリヒスの言葉を右から左に聞き流しつつ、グリゼルダはちらりと左右に整列する兵士、近衛騎士を見る。感じる気配はどれも彼をして満足させるものではない。
(太陽国ソレイユといっても所詮こんなものか……いや、一人)
どうやら近衛騎士の一人らしいが、団長らしき人物よりも圧倒的に強いと直感でグリゼルダは感じた。
黄昏を彷彿とさせる髪に、身の丈に及ぶ大剣を背にする近衛騎士は鋭い視線をグリゼルダに向けている。向こうもこちらからの視線に気付いていた。
(戦ってみてぇな……。だが、その為に犯罪者になるのはごめんだな)
彼は冷静だった。
幾ら強者との戦いを望んでいるとは言え、その為に誰これ構わずに勝負を挑む気はなかった。やがてモナリヒスの言葉が褒賞へと入る。
「汝には今此処に名誉と報奨金を授けよう」
「ありがとうございます」
「また、汝の武勇を称え是非とも我が国に仕えて欲しい。その力を民の為に奮って貰いたい。返答は?」
「あ、悪いんだけどそれはパスで」
「ほ?」
その時の太陽国ソレイユ国王モナリヒスは今までにない呆けた顔だったグリゼルダは覚えていた。
金を受け取った後、さっさとグリゼルダは太陽国ソレイユを後にした。あの場にいたら民衆に囲まれてめんどくさいからだ。何度か国に仕えないかと繰り返されたが全て断った。
「宮仕えとか俺ぁの柄じゃねぇしな。それに、あんな覇気のねぇ王様に使仕えるだなんてゴメンだ」
彼はじっとトワイライト平原で先を見据えた。
「人間の世界に俺ぁに敵う奴はいなかった。なら行ってみるしかねぇか、魔界に」
前人未踏、人外魔境として知られている"魔界"。
魔族という人を凌駕する存在が住む、正に人外魔境。そこにグリゼルダは足を踏み入れた。
グリゼルダは知っていた。
自身が強者であると。
グリゼルダは思い知った。
それは驕りであったと。
グリゼルダは一人、荒野で倒れ伏していた。
近くには巨大な黒い蛇の魔獣が倒れていた。
「くそっ、情けねぇ……ッ!」
別にこの魔獣の所為で彼がこうなった訳ではない。
元々グリゼルダは弱っていた。そしてそれも魔獣の所為ではなかった。
それは環境であった。
赤い灼熱地獄の砂漠。
黒く染まった森自体が移動する
透明な、それこそ目にも見えないのに存在する水の集合体。
そこで必要だったのは、環境への適応。
彼が望むただ強者を倒すだけでは決してなかった。
望むような休息を得られず、次第に疲弊したグリゼルダは自らを食そうとした魔獣を倒した後、精根尽き果ててしまった。
立ち上がろうとするも、疲労から立てない。
「俺ぁ……死ぬのか」
霞んだ視界で呟く。重い一撃ももらっていた。
別に死ぬのは怖くない。
ただどうせ死ぬなら戦いで死力を尽くして死にたかった。相打ちならともかく、自らの不注意と環境で死ぬとか恥でしかない。
「はぁん? 血の匂いを辿ってきてみれば、まさか人間がいるとはね。だけど死にかけときたもんだ」
その声を聞いてグリゼルダは霞む視界を向けた。
そこに居たのは人影。それを見たグリゼルダはおかしいと感じた。
(人間がこんな所にいる訳がねぇ。まさかっ!?)
魔界で人型、それに言葉を喋れる存在など一つしかない。
「魔族ッ……!」
「ん? あぁ、御名答。アタシはアンタらでいう魔族の一つさ。でもな、アタシ的には魔族って呼ばれるよりも『赫鬼人』と呼ばれた方が嬉しいがね」
己の角を指しながら、赤い肌の女性の魔族はニヤリと笑う。
棍棒を片手に担ぐ女性の魔族はジロジロとグリゼルダを見た。
「はぁん。ボロボロだね、アンタ。よくもまぁ、そんな状態で生きてるものだ」
「俺ぁを……食う気か?」
「はぁ? 人を喰う? ぷっあっはっはっ!! 人ってのは馬鹿だねぇ! そんな事する訳ないじゃないか。人ってのは賢いと聞いたけどアンタは脳みそまでその体みたいに筋肉で出来ているのかい! あっはっはっはっ!!」
腹を抱えて笑う。
何がおかしいと睨みつける。人を魔王軍が食らうのは有名な話だった。
「確かに魔族の中には人を喰う奴もいるが、其奴らは魔王直属に生み出された魔物の奴等さ。元の魔物から変異したからこそそういった性質を持つようになったんだろうね。ま、アタシにはそんな趣味嗜好はないしね」
「ならなんだ……拷問でもする気か? 生憎とそんな事しなくてももうじき俺ぁ死ぬぜ」
「んな加虐嗜好なんてないよ。ふむ……」
女の魔族は付近に倒れている魔獣を見た。
「コレはアンタがやったのか?」
「けっ。そうさ。俺を食おうと襲いかかってきたからな。だがこの様だ。笑いたきゃ笑いやがれ」
自嘲気味に笑うグリゼルダに対して、目の前の魔族は神妙な表情で魔獣とグリゼルダを見ている。
その事に疑問に思いながらもやけっぱちにグリゼルダは話す。
「どの道逃げる体力もねぇ。好きにしな。どうせここまでの命だ。どう死のうが対して変わりねぇ。恥だしな」
「へぇ……なら好きにさせて貰うよ」
その言葉に女性の魔族はにやりと笑った。
グリゼルダは生きていた。
あの後洞窟へと連れ込まれ、例の女性の魔族に治療を受けていた。
「……なんで、俺ぁを助けたんだ?」
人類と魔族は敵同士。
それは歴史が証明している。なのに、グリゼルダには目の前の魔族が自らを助け出したことに疑問に思っていた。
「あぁ? 難しいこと言ってんだよ。あたしが助けようと思ったから助けただけ。それだけだ。なら、命が助かったことを喜びなっ!」
「いってぇ!!? おまっ、叩くなよ!?」
「あー、うるさいうるさい。ほら、これで薬は塗り終わったぞ。後は気合いで治すんだな」
ヒリヒリとする背中を抑えつつグリゼルダは何とも言えぬ顔で唸る。
実際傷はある程度治療のおかげかよくなった。それだけじゃない。なんだか、この洞窟内だとえらく呼吸がしやすいのだ。
女性の魔族は目の前で料理を作っている。グリゼルダは気になっていた事を問いかけた。
「せめて理由を聞かせてくれ。じゃねぇと、居心地が悪くて仕方ねぇんだよ」
「はぁ。仕方ないねぇ。さっきの魔獣を覚えているか? アタシらの所じゃ"黒巌巨蛇竜"って呼ばれてる奴だ」
「あぁ、俺ぁが倒したあの蛇か?」
「そうだ、アンタが倒した」
「もしかして、礼のつもりか? だったらそうと」
「ーー違うわッ!!」
怒気すら込んだ声にグリゼルダはびっくりする。
「貴様よくもアタシより先に倒してくれたね!! アタシがどれだけ……ど、れ、だ、けッ!! コイツと戦えるのを楽しみにしていたと思っているんだッ!? あぁ、こらぁ! 欲求不満なアタシのカラダをどうしてくれる!!?」
「うげっ、お、お前怪我人に対しての扱いッ……!」
胸元を掴まれグワングワンと揺らされグリゼルダは顔色が悪くなる。
その時ある事に気付いた。
「まさか俺ぁを助けたのって……」
「ん? "黒巌巨蛇竜"を倒したアンタを倒す事でアタシはより強くなれんじゃねぇかなって思ったから。だから死なれたら困るんだよ」
「オイィッ!!? 聞きたくなかったよそんな事! 助かったと思ったらなんでもっかい死ぬ目に遭わなくちゃいけねぇんだ!!」
「はっ! 知ったこっちゃないね! アンタはあの場で死ぬ運命だった。それをアタシが拾ってやった。つまりもうアンタはアタシの物なのさ」
「んな理不尽な!!?」
「アーハッハッハッー! 軽率に魔界にきた自分を恨むんだな」
豪快に笑う女性の魔族。
あけずけに本心を言う存在にグリゼルダは何だかんだで毒気が抜かれてしまった。
「……俺ぁの名前はグリゼルダだ。お前の名前は何なんだよ?」
「ん? そういや名乗ってなかったな。アタシの名はエ・リィアン。よろしく頼むぜ? グリゼルダ? 先ずは飯を奢ってやるよ」
ニヤリと獰猛に笑うリィアンはお世辞にも可愛いとは言えないーーだけどどうしてかグリゼルダは彼女の笑顔に惹かれてたのだ。
「ぐっはぁ!!? なんだこの料理くっそまじぃ!!」
「はぁ!? お前出された料理に文句言うなよ! はっ! ならもうアタシが食うからな!! ……まっず!?」
ちなみに料理はゲロマズかった
過去編ですが、全3話程です。
因みに懐かしきキャラも出たりします。
黄昏の髪の近衛騎士が誰かわかったらすごいです。




