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稽古

「おっさん船医ですが処刑されました。しかし生きていて美少女美女海賊団の船医やっています。ただ、触診をセクハラというのはやめて下さい。お願いします」

更新しました。是非ともご覧下さい。よろしくお願いします。

 そう、俺はグリゼルダさんに稽古を求めた。

 彼の強さは戦ったからこそよくわかる。少なくとも、接近戦、迫撃戦において彼は俺を上回る。


「おいおい、どういう風の吹き回しだ?」

「言葉の通りです。俺を鍛えて欲しいんです」

「鍛えるっつてもなぁ。にいちゃん、既に結構強いだろ? それににいちゃんの職業は『剣士』だろ? なら、俺ぁに教えを請っても意味がないと思うぞ」

「いや、俺の職業は『剣士』じゃない」

「何? 冗談……じゃなさそうだなぁ」


 正直俺の存在についてはかなり曖昧なんだ。

 『勇者』の職業(ジョブ)も『偽りの勇者』の称号も、両方とも恐らくは消失していると思う。現に技能(スキル)は全く使えないのだから。

 ならグリゼルダさんに教えを請いても無駄なんかじゃないかというとそんな事はない。彼の動きは確実に学べれば力になる。


「『剣士』じゃないなら何だってんだ? はたまた『魔法剣士』とでも言う気かぁ?」

「……すまない。答えることは出来ない」

「にいちゃんわかってるのか? 他の職業の技術は基本的に覚える事は出来ないし、仮に出来たともしても殆どが本職と比べて劣化したものだ。ならば、素直に自らの職業の技能(スキル)を覚えた方が合理的だ。それを踏まえて俺に教えを請うっつーんだな?」

「あぁ」


 元々俺の技術なんて本職からすれば真似事が良い所だろう。でも、だからこそ俺は様々な武術を、技術を身に付けたい。


 それが俺自身がもっともっと強くなりたいから。

 多くの人を救うために。

 仲間を守るために。


 グリゼルダさんは俺の瞳をジッと見る。

 値踏みされているような、そんな感じだ。だけど俺にだって意地がある。真っ向から目を逸らさない。

 やがて彼は破顔する。


「あぁ、良いね。良い目じゃねぇか。一人前の男に真剣に頭下げられたんなら答えねぇとな。良いぜ。一丁前に稽古つけてやるよ。にいちゃんには借りも、恩も、後ろめたさもあるしな。それで少しでも贖罪になるというなら、幾らでも鍛えてやるよ」

「ありがとう、助かります」

「やめろやめろ、敬語なんて。殺しかけた相手に畏まられるのは背筋がぞわぞわしやがる。適当で良いぜ」


 左右に手を振る。


「それで? にいちゃんの本命は誰よ?金髪の子は見ればわかるくらいにアンタにお熱だし、銀髪の方もまぁ、惚れてるだろうなぁ。二股……はまぁ、あんまり褒められたモンじゃねぇが本人同士が納得してるなら俺ぁいいと思うぜ」

「な、何故そんなことを言う必要があるんだ!?」

「そりゃ、おめぇ。男ってのは女を守る為に強くなるに決まってるからじゃねぇか。当たり前だろ? それに今時男女混同で旅をしているってことは少なからずそういうのもある訳だろ? 違うのか?」

「それは」


 好きな人。

 それを聞いて一瞬だけ、メイちゃんが浮かんだけどそれはもう終わったことだ。二度と会うこともない。

 俺はかぶりを振る。


「好きな子はいたさ。だけどそれは過去の事だ」

「は〜ん? 失恋か? まぁ、若いんだからそういう事もあるよな。うん。それもまた経験さ。若いってのはぁ、良いよなぁ」

「えっ、その生暖かい目はやめてくれないか?」

「いいっていいって気にするな。後で一杯奢ってやる。若者の愚痴を聞くのも先達者の役目だからな」


 グリゼルダはうんうんと頷きながら俺の肩をポンポンと叩く。

 何で俺は慰められているんだ!?

 何かすっごい恥ずかしいんだが!? 


「ま、にいちゃんの恋愛事情は置いといてやるよ。ただもし何かテクニックが聴きたくなったら教えてやるぜ。俺ぁ、妻がいたからな」


 ぐっ、しまった。またペースを握られていた。

 グリゼルダさんはカラカラと笑った後、後ろを向く。


「それでそっちは何でここにいるんだ?」

「無論、貴方を監視する為です」


 ずっと黙っていたが、この場にはエドアルドがいた。


「俺が頼んだんだ。俺だって無傷で済むとは思っていない。もし気絶とかしたら介抱してくれるように」

「アイリス殿達では恐らく介入してしまうとの事で私が任されました」

「まぁ、確かに好いてる男がボコられるのは見たくないだろぉしなぁ。ついでだ、傷は残らないようにしてやるよ。おじさん、気が効くだろぉ?」

「ボコられるのは確定なのか……」

「当たり前だよなぁ? 昨日今日武術を始めたばかりの素人に俺ぁが負けるかよ。無手での闘いは俺ぁの領域、そこで負けたら『武術家』としても、『鬼武刀』としても名が泣くぜ」

「むぅ……」


 勝負こそ途中でつかなかったがあのまま続けても勝てたかどうか、正直自信がない。それだけグリゼルダさんの動きは卓越していた。

 接近戦では自信があっただけに何かこう……悔しいな。


 それが表情に出ていたのかグリゼルダさんが笑う。


「悔しいか? ま、その方が良いと思うぜぇ。強くなるのに必要なのは向上心だ。自らの力の無力さを知る者ほど、より強さに貪欲になる。己の強さを驕る奴は一度敗退したら、心が折れちまうからな」


 何処か実感のこもった言葉だった。

 もしかして何かあったのかと問いかけるよりも早くグリゼルダさんは稽古の準備を始める。


「とりあえず、最初は手合わせからだな。うん。あの時は途中で終わっちまったが、今回はどちらかが参ったと言うか、気絶するかで構わねぇな?」

「勿論だ」

「んじゃ、精々気ぃ踏ん張って気絶するなよッ! 行くぞッ!」


 俺は剣、グリゼルダさんは拳と、互いに己の武器を構え試合は開始された。

 瞬きすらしていないのに、グリゼルダさんが俺の目の前に居た。


 一度目はエドアルドに。

 二度目は俺自身に。


 そして今回で三度目、流石に少しは慣れる!

 突き出された手を俺は躱す。そのまま離れると、グリゼルダさんは面白そうに口元をにやけさせていた。


「最初から躱されるたぁ、やっぱにいちゃん強いな」

「その動き……見たことがあるからな。エドアルドがグリゼルダさんに初めて会った時に、瞬く間に懐に入った動きだ」

「おうよ。初手に相手の意識の外にするりと入って即決で勝負を決める俺の常套句だ。どんな生き物でも心臓を壊せば死ぬ。俺ぁはこれで数多くの敵を葬ってきたぜ。……にしてはやっくんの心臓は破壊できなかったが。どんな手品な訳? それ」

「貴方に言う必要があるとでも?」


 何だかエドアルドの言い方に棘がある。


「……おーぅ、なんかやっくん睨んでねぇか?」

「当然です。あの時の雪辱を忘れられるものですか」

「無表情なのに、心の方は割と燃え滾ってるなぁ。やれやれ、仕方ないだろ? あん時は敵同士だったんだからよォ」

「そもそもやっくんとはなんですか」

「槍使いだからやっくんだ」

「……」


 エドアルドは実の所意外と負けず嫌いなのを俺は知っている。

 本人はあぁして大人の余裕を装っているけれども内心はいずれやり返すと思っているだろう。


「まぁ、今はそんなのよりも俺ぁとにいちゃんの稽古だな。次、行くぞォッ!」


 嵐の如く猛攻が襲いかかってくる。

 俺はそれを冷静に、見極めて捌いていった。







 時間が経過する。

 それは10分ほどだったが俺にとっては数時間にも感じる戦いだった。


「……なるほどな」


 やがて何度か打ち合った後、ポツリとグリゼルダさんが呟いた。

 俺はというと息を荒げて、当てられて鈍痛を訴える身体を耐えながら、剣を握っていた。


「正直言ってにいちゃんの反射速度や神経はかなり鍛えられている。鍛えられいる……がそれが問題なんだよなぁ」

「はぁ、はぁ……それは?」

「対処法が身体に染み付いちまってんだよ。攻撃が来たらこうする。次にこっちにきたらこうする。型……じゃねぇな、にいちゃんの癖か? にいちゃんだと攻撃を喰らわないように避けるのを前提に動いているからカウンターとかそういった反撃をするのが難しくなるんだ。時には態と攻撃を受けてでもその次に繋げられるようにするのも武術の真髄(しんずい)だ。なのににいちゃん、全部回避しちまうからなぁ」


 つまりは、俺の戦い方は回避を念頭に置いていると。

 思えば確かにそうかもしれない。聖剣が扱え辛くなって来た時から俺は殆ど速攻を意識してきた。そうじゃないと体力が続かないからだ。


 聖剣をユウに託してからも、その戦法は変わらない。俺は攻撃を回避し、相手の隙を突く戦い方をしてきた。


 グリゼルダさんの評価にエドアルドのフォローが入る。


「しかし、攻撃など喰らわないに越したことがないのでは? 悪いことではないでしょう」

「そりゃ極論言っちゃえばそうだろうさ。けどなぁ、人間っつーのはどうしたって疲労しちまう生き物だしな。そんな時にただ食らうのと受け流す、或いは最低限に衝撃を和らげられる為に武術を使う使わないはかなりの差だと俺ぁ思うぜ」


 エドアルドの指摘にグリゼルダは言葉を返す。

 俺はなるほど、と頷いた。


 前に大角カジキに対して俺は"桃孤棘矢"という絶技で相手の力を利用してかち上げた。

あれもまた自ら退路を絶って行い、うまくいっただけだ。グリゼルダさんの言う、本当の意味でのカウンターとは言い辛い。


「まぁ、にいちゃんが追い込まれたら己の身すら厭わない奴なのはあの洞窟の戦いで知ってるから、次から少し回避じゃなくて態と攻撃を受けて、それを捌くっていうのを覚えねぇとな。つー訳でにいちゃん! これから躱すのは禁止だ! 分かったか? 分かったな! よし! それじゃもう一丁いくぞォッ!」

「えっ、ちょ!?」


 いきなり回避するなとか言われても!?

 グリゼルダはそんな事関係なしに、いつのまにか俺の背後に居て拳を構えていた。まずいっ、いや、ただの突きならまだッ……!


「【無双乱舞拳(むそうらんぶけん)】」


 だが襲って来たのは幾多の拳の嵐だった。


「なっ!? そっちは技能(スキル)を使うのか!?」

「そりゃあな! 安心しな、殺さない程度に威力は弱めているからな! おらいくぞぉ!」

「ぐっ! さ、"沙水雨"ぇッ!」


 両手で"刺斬剣イザイア"を握り対抗する。避けちゃ駄目なら全て捌くしかない。


 拳と剣、普通なら後者が勝つはずなのに拮抗している。

 どんな強度しているんだ!? 本気ではないがキキョウの【突き穿つ氷の槍ピアス・アイス・スピア】すら"沙水雨"は砕いたのに!


「はァッ! いいぜいいぜ! ゾクゾクしやがる! やっぱにいちゃんは強ぇな!」


 笑い方も、獣のように獰猛だ。

 グルゼルダさんは両手を前に構える。


「【王羅波動(おうらはどう)】」

「ぐっ!?」

「ほれ次ぃ!!」


 空気が振動し、衝撃のようなものが俺を襲う。遠距離用の技能(スキル)か!? だが、何かを飛ばしてきたようには見えなかった。

 剣を盾に吹き飛ばされた所に、グリゼルダさんはまたも一瞬で距離を詰めて来る。


 このまま受けに回っては不味い。

 勝てない。負けるッ……!


「当たっても恨まないでくれよ!」

「おうさ! ドンと来なぁ!」

「"柳緑花紅(りゅうりょくかこう)"」


 俺は本気で、殺す気で対抗する事にした。 

 そうじゃなければ対抗出来ない。防御を最小限に、勝利を目指す。


「へっ、当たればヤバイな。当たれば、だがな」


 グリゼルダさんが躱す。

 すぐに俺はひるがえし、精度が上がった"緋華(ひばな)"を繰り出す。

 しかしまたもグリゼルダさんは軽く身体を逸らすだけで回避した。


「おっと危ねぇな。こっちもいくぞ?」

「くっ」

「甘いな、あらよっと」

「んなぁっ!? 」


 グリゼルダさんの構えから【塵旋突(じんせんつ)き】が来ると思った俺は防御の体勢をとるがグリゼルダさんはそれを見抜いていたように脚で俺の脚を捌いて体勢を崩してきた。

 そのまま倒れそうになり、何とか態勢を立て直すと構えられた拳が目に入った。


 ぞくりと背筋に悪寒が走る。


 避け……! いや、避けては駄目だった!


 俺は身体を前に出して、思い切り右手を突き出す。グリゼルダさんが技を放つよりも早く拳同士がぶつかることで、本来の威力が発揮される前に相殺された。


 だが、とんでもない激痛が俺の拳に走る。

 まるで鉄をそのまま殴ったみたいな感触だ。どれだけ鍛えているんだグリゼルダさんは……!

 その時、何かが俺の顎に向かって放たれていたのを視界の隅に捉えた。


「ほぉ?」

「いっ……!」


 痛い。

 骨が軋む。


 だけど俺は負けない。


 勝つ。

 勝つ! 

 勝つ!!


 グリゼルダさんを睨み返す。


「意気込みは良いが、これで終わりだぜ」


 瞬間別の衝撃が走り、俺は目の前が暗くなっていった。


 そんな、攻撃は防いだはずだ。

 一体何が………。






「勝負ありですね」


 エドアルドの冷静な声が響く。

 アヤメからは分からなかったが遠くから二人の試合を見ていたエドアルドには何が起きたのかわかった。


 それを見たアヤメは防御の構えを取った。そこまでは良い。

 だが、同時に別の攻撃、死角となった顎の下に拳を放っていた。辛うじてアヤメは防いでいたがそれに気を取られ、グリゼルダのフリーになった左手で首に向けて放った【手刀白虎(しゅとうびゃっこ)】を喰らい気絶した。


「流石ですね。まさかここまで一方的だとは。私は、彼に負けたのですが」

「にいちゃんの戦い方をみりゃわかる。アンタとは相性が悪いな。にいちゃんは動きで撹乱するタイプだ。アンタみたいにどっしりと受け止めて一撃を加えるのとはちげぇしな」

「とはいえアヤメ殿に吸水石がなく、躱してはならないというのがあればまた別だったでしょうが。徐々に貴方の動きに食らいついていってましたので」

「本当だぜ、にいちゃん最後まで諦めずに食い下がってきた。俺ぁもちょっとばかり冷や汗かいたぜ」


 エドアルドは気絶したアヤメの様子を確かめる。


「……この程度でしたらアイリス殿の手を借りる必要はありませんね。手加減していたのですか?」

「んー、そうとも言えるしそうじゃないとも言えるな」

「と言いますと?」

「最初の頃はそうだったんだが、最後の手刀に関しては殺しはしねぇがマジだった。じゃねぇと、あのにいちゃんの瞳。何が何でも勝つという執念があった。それだけの気迫があった。……洞窟の時の常人なら戦意が折れる怪我しても立ち向かって来た時といい、一体どんな修羅場潜って来やがったんだ、にいちゃん」


 グリゼルダは若くしてここまで強くなったアヤメに対して感嘆すると同時に内心畏敬を感じていた。


 だが、同時に違和感も感じていた。

 何というか、使命感に駆られているような。そうしなければと、突き動かされているような。


「どの道、彼を放置する訳にはいかないでしょう。彼が眼を覚ますまで木陰に置いておきます」


 エドアルドがアヤメを抱える。

 その様子を見ていたグリゼルダはかねてから抱いていた疑問を口にした。


「アンタはよぉ、なんでにいちゃんと一緒に居るんだ?」

「どういう意味でしょう?」

「あー、なんつーかなぁ。アンタの礼儀作法や動きを見れば分かる。アンタは何処かに仕えていた(もん)だろ? 理由は知らねぇけど、今はフリーと見える。けどよ、それだけの腕があればまた別の所で仕えることも可能なはずだ。何にそれをしねぇ」


 だから、わからねぇとグリゼルダは語る。

 その言葉にエドアルドはさして気分を悪くした様子もなく、アヤメを見る。


「アンタはにいちゃんに何が恩義があるのか?」

「恩義ですか。確かにそうですね、私には彼に恩がある」

「やっぱりか。なら多分、アンタも気付いてるだろ? にいちゃん、今のままじゃ長く生きられねぇぞ」


 グリゼルダの言葉は確信に満ちていた。


「にいちゃんの戦い方には命を躊躇せず捨てて、僅かな勝利の可能性を引き込もうとするものだ。確かにそうじゃないと勝てないかもしれないが、たかが稽古でも躊躇せずに

まるで死にたがーー」

「そこまでにしてもらいましょうか」


 エドアルドが有無を言わせぬ言葉で遮る。


「私は彼の過去は知りません。しかし知ろうとも思いません。彼が例え何者であろうと私は彼に恩義があり、そして私自身の誓ったのです。ならばこそ、私は彼を見届けると。あの場で誓ったのです。わからなくとも結構。これは私の問題ですから」


 ですが、と言葉を続ける。


「余り貴方如きが彼を己の物差しで評価しないで頂きたい。彼女ら程あからさまに感情を露わにはしませんが、不愉快です」


 それを見たグリゼルダはふーんと口をにやけさせる。


「中々どうして、良い仲間に恵まれているじゃねぇか。にいちゃん」





アヤメ敗北。

流石に相手の得意な接近戦には分が悪かった模様。

因みにグリゼルダは武道家としては突出しています。ベシュトレーベンを除き、最高峰です。

……そう言えば一年近く出てないなベシュトレーベン。


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