出会いはいつも突然に
本日が今年最後の日です。
皆様偽りの勇者を応援していただき有難うございます。来年もまたよろしくお願いします!
「え。……えっ!?」
「嘘ぉっ!?」
「ついに我々も犯罪者ですか。いえ、良く考えれば私は元からですか」
やけに達観しているエドアルド以外俺たちは全員が驚愕する。
だって犯罪者って。えっ!? うそだろ!?
「何を言う! 俺達は公国に正式に許可を受けた者だ! こうしてちゃんと許可の銀時計も持っている!」
「だから! それをわたくし達から奪ったと言ってるんですの!! 良くも騙してくれましたわね!」
「くっ、アンタら助けてくれ! 奴等俺たちから許可状を受け取ろうとする不届きものだ!」
「不届きものはそっちでしょう!?」
言い合う両者。
どっちだ? どっちが正しい?
許可状を持っている事から普通に考えたらこっちの男性達が正しいと思う。だが、奪われたとなると、前提条件が異なる。しかし、それを見抜く術をあったばかりの俺たちにはない。
一触即発の気配だ。判断するにも時間が足りない。
「……アヤメさん! その人達の言うことは嘘っぱちです!」
「ま、待てガキ! がぁっ、くそっ、離しやがれこの犬!」
<グルルルゥッ!!>
その時、先程ジャママを追っていったアイリスちゃんが戻って来た。
だけど、明らかに様子がおかしい。追ってくる男もジャママに足を噛まれてアイリスちゃんを捕まえる事が出来ていない。
いや。それよりも嘘って。
「さっきわたしはそこの男性の仲間が沢山の"シコウノトリ"を狭い牢に乱雑に沢山捕らえているのをみました! 更には売り払う為の商品だとも!」
「何!?」
「で、デタラメだ! そんな事ない! ……ぐ!?」
喚く男に俺たちは戦闘態勢を取る。
そのうちの一人に俺は剣を突きつけた。
「悪いけど俺は君達よりアイリスちゃんの言うことを信じる」
「ぐ、ぐぅ」
「ちっ、ならッ!」
別の男性がアイリスちゃんの方に向かって駆け出す。手にはナイフを持っていて明らかに人質としてとるつもりだった。ジャママは足に噛み付いている男に手一杯で間に合わない。
俺はすぐさま駆け出し間に入ってナイフを蹴飛ばす。
「お、おいおい騙したのを怒っているの? 悪かったよ。だがよ、アンタ達にも悪い話じゃないはずだっ。分け前も多めに渡す。だからよ、一緒に大儲けしようぜ」
「違う。確かに騙されたのには憤っている。だけどそれは自身の愚かさにだ。そしてそれ以上に、俺の仲間を人質にしようとしたことに俺は怒っている」
「う、うぐ……」
怒気を放つと男達は怯む。
騙すのは良い。騙された俺が悪いから。でも仲間を傷つけようとしたのは許さない。それほどまでに俺は怒っていた。
その隣で残った男達も逃げようと動き出す。
「くそっ、逃げるしかっ」
「何処に行くのかしら?」
「おいっ!? しまっ」
「騙しておいて逃げるとは、そうは問屋が下ろさないと思いませんか?」
逃げようとした密猟者の二人をキキョウとエドアルドがそれぞれ捕縛する。
対峙する残った一人の元へ俺は駆け出す。
「ま、まて。くそっ、こんなはずじゃっ」
「悪いが、反省は牢屋でしてくれ」
最後の一人を鳩尾を鞘で殴りつけることで俺は気絶させた。
「……えっ、あれ? なんですのこの置いてけぼり感は」
<……バゥン>
「お嬢様、どうやら私たちの出番はなかったようですね」
「いやぁ、あれだけ決めポーズを取ったのに恥ずかしいっすなぁ。ぷっ、くひゃひゃひゃひゃ」
「笑うんじゃないですわよ!」
いつのまにか事態が収集した様子を三人の男女は茫然と見つめていた。
◇
男性達……もとい密猟者を捕縛した後、俺達は先ほど現れた人達と自己紹介をする事になった。
「ごほんっ、名乗りましょう! わたくしはリンネ・ペッタン・コアストリドットと申します。この辺りを治めるバーガルド・ペッタン・コアストリドット伯爵の娘です。先程の不届き者の確保に協力して頂いたこと、感謝申し上げます」
「改めて、メイドのヒノハと申します。先程の手際お見事でした」
「どうもっ、『盗賊』のランドルフで〜す。あっ、盗賊っつっても職業の『盗賊』の方なんで間違えないでくれよっと」
蜂蜜色の髪をした歳はほぼ見た目アイリスちゃんと同じくらいのリンネさんは優雅に一礼して名乗り。
黒髪とメイド服が特徴的なヒノハさんは、律儀に頭を下げる。
護衛だろうか。鉤爪型の装備を持つランドルフさんはヒラヒラと手のひらを向けて、軽薄そうに挨拶をする。
挨拶一つからして性格が全く異なる三人組だったけど、俺はそれより気になることがあった。ランドルフさんにはそれぞれ立派な黒い獣耳と尻尾があった。
「んぉ? 何だ何だ、獣人を見るのは珍しいか?」
「いや、前に商業都市リッコを通った時に見た事がある。けどその時はランドルフさんと違って猫系の獣人の人だった」
「"さん"なんていらないぜ。へぇ〜、商業都市リッコと言えば最近魔王軍に襲われたとか何とかでてんやわんやらしいがそこにも同胞がいるだなんてな。あ、もしかしてアンタら魔王軍見れた? もし見れたらどんな奴らがいたか教えてくれよ」
「……いや、残念だけど魔王軍の者は見ていないな」
背後であからさまにキキョウが顔を背けた気配がする。アイリスちゃんはそんなキキョウをじーと横目で見ていた。
ランドルフさん、いやランドルフはつまらなそうにブーたれる。
「ちぇっ。どんな奴か知りたかったのによー。何でも都市の壁すら上回る巨人だったって話じゃないか。どんな奴か興味がある」
「ちょっと、無駄話するんじゃありません。こほんっ、先程のを見れば貴方方が彼らとどういう関係だったかわかりますが、一応聞いておきます。貴方方は彼らの仲間じゃありませんのね」
「あぁ、勿論」
「でしたら何故この大湿原に? 此処は今立入禁止区域ですわよ」
奇しくも同じ質問をされた。
俺は此処に来た経緯と彼らに会った時の事を話す。
「なるほど、そういう事でしたか。他国から来たのであれば知らずとも仕方ありませんわね」
「全ては私の不徳の致すところ。処罰を受けるにしても、私だけにして頂きたい。彼らは私の意を汲んでくれたに過ぎません」
エドワードが進み出る。
彼は一人で責任を取ろうとしていた。だが彼だけに責任を負わずなんて出来ない。俺がそう言うよりも先にコアスタリドット伯爵様が微笑む。
「いえ、それには及びませんわ。明確な悪意あって入った訳じゃありませんし、密猟者側に協力したのも側から見れば許可状を持っている彼らの方が正しく見えるのも仕方のないことです。全ては奪われたわたくしの不甲斐なさのせいです。申し訳ありません」
歳の割にしっかしとした言葉と態度で、コアストリドット伯爵様は頭を下げる。それに伴うように護衛の二人も頭を下げた。
「顔をあげてください。コアストリドット伯爵様。見抜けなかった此方にも非がありますから」
「リンネで結構です。偉いのはお父様であり、わたくしではありません。そこのランドルフ同様敬称など必要ありません。貴方方はわたくしの許可状を取り戻してくれた、所謂恩人でもあるのですから」
「いえ、貴族に対してそのような事恐れ多いです」
「……アヤメ殿、相手の好意は受け取るべきかと。時には受け取らぬ事が不敬になることがあります」
「そちらの方の言う通りです。不敬とは言いませんが、貴方方は先の密漁者を捕らえた功労者。その方々に感謝を述べるのは当たり前ですわ」
そこまで言われたら俺としても好意を受け取らざるを得ない。
ピエールさんもだが、最近会う地位の高い人はフランクな人が多いな。勇者だった時とは大違いだ。
俺はコアストリドット伯爵様を、リンネさんと呼ぶ事にした。俺より年下だが地位は上なのだ。やはり呼び捨てという訳にはいかない。口調はある程度砕けて良いらしいが、敬意を忘れてはならない。
俺はかねてからの疑問を尋ねる。
「彼らは一体何者なのだろうか?」
「何もと言われましても、彼らこそが密猟者であります」
「密漁者か。さっき騙されたと申していたけれど、一体何があったんでしょう?」
俺の質問にリンネはバツの悪そうな、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
「……恥を晒す事になりますが、元々わたくし達は此処の調査に赴く為に冒険者ギルドの方に依頼して護衛の方を募りましたの。見ての通り、彼らがその護衛の筈でした……が、彼らは隙をついてわたくしから許可状を奪うとそのまま失踪しましたの」
「許可状は公国からの許可が降りねばその場所に行くことが出来ない。だからこそ、それを手に入れたらあらゆる禁止区域に調査の名目として行くことが可能なのです」
リンネさんの言葉をメイドのヒノハさんが引き継ぐ。
「まぁ、その後奪われた事を通達すればその箇所に向かう前に捕らえる事も出来なくはないですが、その手紙が届くまで期間が空きますから難しいでしょう。その間に禁止区域で"シコウノトリ"のような貴重な魔獣を密漁されるのは必然ですわ」
「だからこそ、追いかけたんだぜ。無論、追えたのは俺とパイセンのお陰だ」
<バゥン>
ランドルフとリンネさんの魔犬が誇らしげに吼える。
「しかし、何故彼らは冒険者の地位を捨ててまで密猟者になんてなったのでしょう?」
「元々この国は多種多様の魔獣が存在します。冒険者の数もまた各国で最多。前まではこの大湿原も冒険者の狩場として栄えていた所でしたわ。ですが、そのせいか沢山の魔獣が狩られ、更には一部の部位だけを剥ぎ取り残りは放置といったことを行い、腐敗した大地になろうとしていました。このままではあの光景が無くなってしまうと考えたわたくしのお父様が一時的に保護区として上と掛け合って設定したのです」
「それは素晴らしいことです! 人間とて自然の一部、お互いに尊重し共存するのがあるべき形ですから!」
「えぇ。『自然の調停者』として名高いエルフにそのようなことを言ってもらえてわたくしも光栄……で…………」
マジマジとアイリスちゃんを見た後リンネさんが思い切り後ずさった。
「エルフ!!? なんでこんな所に!!?」
「お嬢様、気付くのが遅いかと」
「本当だよなぁ。まったくお嬢様はおっちょこちょいだよなぁ」
「ランドルフ! 貴方口が過ぎますわよ! あ、あの、わたくしエルフに会うのは初めてでして、その、あの貴方達に褒められるような程立派なことでは、これは、あの、貴族として生まれたからには当然の役目なので、その」
「大丈夫なのです。わたしは確かにエルフですが、まだまだ若者です。だから貴方が思うほど立派じゃないのです。だから、そんなに固くならなくて良いですよ」
微笑みかけるアイリスちゃん。その笑みに固まっていたリンネさんの緊張もほぐれ笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。嬉しいですわ。わたくしの事はリンネとお呼びください」
「ならわたしの事はアイリスで結構ですよ。よろしくなのです」
その後も会話する二人だが段々と仲よさげになっていった。
アイリスちゃんには近い歳の女性はいなかった。だからこそ、俺は仲良くなるアイリスちゃんを見て親みたいなほっこりした気持ちになっていった。
やがて話がひと段落ついた際にエドワードがついに気になっていたことを聞く。
「それでですが、私達はどういう処遇になるのでしょうか? 知らぬとは言え犯罪に手を貸してしまった事になりますが」
「確かにそうだ。リンネさん、この場合俺達はどうなるのだろうか?」
知らずに犯罪に加担してしまった。
最悪の事態、"シコウノトリ"が死んでしまうことは免れたがそれでも何かしら罰則はあるだろう。
しかしリンネさんは俺たちの言葉に首を振った。
「そうですわね……。確かに通常であれば無罪放免とはいきませんが最悪は免れましたから。それにどちらかと言えば貴方方に助けて貰った側面もあります。ですので、何の訴えをわたくし達はしませんわ」
「本当か? よかった……」
「……というより、そちらを裁くとなるとこっちも許可状奪われたことを話さなくてはならなくなるので、実に保身に走った内容であるとヒノハは判断します。正に悪徳貴族の典型ですね、お嬢様」
「ちょっとぉ!? 余計な事は言わなくて良いんですわよ!?」
なるほどそう言う理由か。
たしかに護衛に奪われたとなれば貴族にとっては醜聞かもしれない。
貴族だろうが態度の変わらないキキョウが慌てるリンネさんに対して言葉を話す。
「別に何もそこまで慌てる必要はないじゃない。隠せる事なら隠したいと思うのが人の心情よ」
「だからこそですわ。ただですら貴族の中には貴族の役割を放棄して贅に耽る者がいますのに、これ以上何かあったらまた民に何が言われますわ。ただでさえ、今は問題があるのに」
キキョウの言葉にリンネさんは頭を抱えてため息を吐く。貴族の御息女なだけあって大変なんだな……。
「どの道冒険者ギルドには抗議の連絡を入れておきます。これで煩かった態度もある程度抑制してやれますわ」
「そう言えばリンネさん達は調査と言っていたけど、何故態々リンネさんが直々に?」
「それはわたくしが"調査官"でもあるからです。ここ、ラルフォール公国は数多くの魔獣が存在します。中には未発見のものや固有の種がいますわ。そしてそれを調査し、流通などを調整するのが我々"調査員"の役割です。わたくしのお父様もまた"調査官"であり、組織のお偉い様でもありますわ」
「自ら調査に赴いたという訳ですか」
やはり貴族の中でもリンネさんは貴族の役目を全うしようとしている。
まだ俺よりも若いのに大したものだ。素直に尊敬する。
「ところで……その狼は」
≪ガゥ?≫
そわそわとした様子でリンネはジャママを見る。
「ジャママの事ですか? 確かあの村の人は"金白狼"って言ってましたかな」
「"金白狼"! その名を聞いて確信しましたわ! 彼は正確には"月虹狼"と呼ばれる超希少な魔獣ですわ!伝承や神話では、女神からの使いとして側に使え、支え続けると言われる逸話がある魔獣ではありませんか! こんな所で出会えるなんて!」
感動するリンネさん。
俺たちはというと、リンネさんの言葉に驚いていた。
「君、そんな由緒ある血統の種だったんだな」
≪ガゥン?≫
どうだ? みたいな顔で振り返るジャママ。
アイリスちゃんもジャママを褒められて機嫌が良くなる。
「えっへん! わたしのジャママはすごいのです!」
「確かに素晴らしいですわ! やはりエルフであるならば、そのような魔獣を手懐けるのも容易なのですわね。……ですが、ワタクシのリンクルには敵いませんね。面構えからして違いますもの」
「……はい?」
気温が下がった気がした。
ヒノハさんとランドルフは、あーぁみたいな顔になる。
「あら、当たり前です。ワタクシのリンクルは由緒正しい血統書付きの魔犬です。それにこの品種、ブルドックは古くから王族の愛玩動物として可愛がられ、重宝され、数多の絵画を描かれているほどですから。"月虹狼"もまた逸話こそありますが、モチーフや知名度ではこちらの方が上ですわ」
「わたしのジャママだって毛並みには自信がありますよ!!」
「いえいえ、見た所その"月虹狼"はまだ子ども……いえ、それにしては既に貴方と同じくらいには大きいですが、主人を守るにはまだ力不足かと。リンクルはこの国で開催された魔獣大会で優勝するほどの実力ですわ! 幼い頃からわたくしを常に守ってくれました」
「ぬぐ、ジャ、ジャママだって何度もわたしを助けてくれました! 飛竜にだって立ち向かったんです!」
「ひ、ひりゅっ!? そ、そんな訳ないですわ! 幾ら"月虹狼"でもその大きさじゃ無理ですわ!」
「ふふーん、それだけわたしのジャママが優秀なんです! そちらの、相棒と違って!」
「なんですって!?」
「なんですか!?」
ぐぬぬとぐににと、額を突っつき合わせてその後も二人はどれだけ自分の相棒が優秀か自慢する。
「二人して張り合っちゃってるなぁ」
「ちみっ娘同士の争い。ふっ、見ていて滑稽ね」
「お嬢様、はしたないですよ」
「いやぁ、こうしてみるとどちらもお子ちゃまだなぁ。突き詰めれば自分の好きなものが一番って自慢してるだけだから。見てる分には面白いな、あっはっはっ!」
俺たちはそれぞれに仲間に話かける。しかしお互いに互いのパートナーが一番と譲らない。
一方主人達の会話に感化されてか、此方でも争いが始まろうとしていた。
<ガルル……!>
<……バゥンッ>
<ガゥンッ!?>
「向こうも張り合おうとしてるけどジャママ全く相手にされていないな」
リンクルに唸るジャママを一蹴する。
体躯こそ、今のジャママとほぼ同じだがあの魔犬……強いな。
今も顔こそそっぽ向きながら耳は此方を伺っている。場所もリンネをすぐさま庇える位置にいる。どうやら相当高い知能を持っているのは間違いない。
「……アヤメ殿、少しお話が」
そんな時、人目を忍んで背後からエドワードが話しかけて来た。
筆者の他作品、「おっさん船医ですが処刑されました。しかし生きていて美少女美女海賊団の船医やっています。ただ、触診をセクハラというのはやめて下さい。お願いします」と「こちら冒険者ギルド、特殊調査官! 貴方に魔獣の情報をお届けします!」も最新話投稿しています。下記から飛べますので是非ともお読み下さい!
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