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悪夢

短編において名前だけであった八戦将、それがついに登場します(『爆風』?知らない人ですね)

「勇者様! 何故父と母を救ってくれなかったのですか!?」


「勇者様、どうして私の家を焼いたのですか!?」


「勇者様、助けてくれるのではなかったのですか!」


「勇者様、俺の故郷を何故見捨てたんですか!?」


「勇者様」

「勇者様」

「ユウシャサマ」

「勇者っ」

「ゆーしゃさま」


「勇者様」「なんで」「嘘だったのか」「助けてくれるって言ったのに」「どうして」「なんで」「勇者なのに」「見捨てないで」「やめて」「娘を連れて行かないでくれ」「息子を助けて下さい」「いやだ」「許して」「助けて」「助けて」「助けて」「助けて」「助けて」「勇者なのに」「勇者だろ」「勇者なら」「勇者であるならば」「勇者だったら」




『嘘つき』







「っ…! 」


 飛び起きた俺はガタガタ揺れる車内に、此処が馬車であることを思い出す。冷や汗が止まらず、動悸も荒い。

 俺は落ちつくように手の平で顔を覆った。


 …夢、か。


「どうしたんですの?」

「あぁ、いや。馬車の振動で起きてしまっただけさ」

「確かにこの場所の質は悪いですわね。貴族たるわたくしが乗る物ではありませんわ」

「はんっ、お貴族様が言うことは違うな」

「黙りなさい野蛮人」

「んだとごらぁ!?」


 二人は喧嘩を始める。

 これもまた何時ものことだった。

 ユウとメイちゃんが居た頃はなかったけどお互いにお互いの事が気に入らなかったみたいだ。二人がいなくなったことでその不満が互いに向けられるようになったのだ。


「…野蛮人は放っておくとしてフォイル様、そろそろ調子を戻してもらわないと困りますわ。最近では少しばかり弛んでいるのではなくて。前の戦闘でも少しばかり他の方々から苦言を頂きましてよ」

「それは…すまない。最近少し疲れていてね」

「まぁ、確かに魔物の襲撃が多いのは確かですわ。わたくし達もかなり駆り出されていますし。あぁ、嫌ですわ。またお肌の手入れに時間がかけれないのですもの」

「クソが、調子こきやがって。戦う力もない奴らが、数と態度だけはデカい」

「そのことに関しては不敬として2〜3人見せしめとして首を刎ねさせておいたのですから良いでしょう。平民は平民らしく我々貴族の為だけに存在しとけば良いのですわ。本当でしたらワタクシこの依頼を受けることに不服なんですけど…」

「仕方ないさ。立ち向かった騎士団も誰も勝てなかったんだから」


 俺たちが向かう先は魔獣に襲われているという村だ。

 普通なら魔物ではなく魔獣相手に、勇者は駆り出されないのだけど、その魔獣とやらが余りに強くまたいくつもの村が滅ぼされているので、訪れた国が直々に頼んで来たのだ。

 俺は頭の痛みを抑えながらも村が無事だといいなと思っていた。





 だが俺たちの予想は外れた。

 そこに居たのは魔獣ではなく、三人の魔族だった。


 一人は黄色の髪をした、バチバチと体の至る所から放電する、長い獣の尾をもつ白銀の男。

 一人は身体中をゆったりとした黒い黒衣で身に包み、男か女かも分からない体躯をした青白い氷の花に乗る者。

 一人は、見るだけで分かるほど鍛え抜かれた巨躯にコートを羽織い、天を貫かんばかりに聳える角。


「『迅雷』のトルデォン・ロイドだ」

「『氷霧』のスウェイ・カ・センコ」

「…『豪傑』のベシュトレーベン。我ら、八戦将」


 ーー魔王様の命により、貴様たちを抹殺する。






「ヌゥン!」

「ぐぅっ…!」


 ベシュトレーベンと名乗った八戦将が放つ剛腕の一撃を避けきれず、俺は聖剣の側面で受け止める。それでも耐え切れず何度も地面に転がる。

 なんて重い一撃だ…! 自ら攻撃に合わせて飛ばなきゃ腕をへし折られていた。


脆弱(ぜいじゃく)軟弱(なんじゃく)貧弱(ひんじゃく)。此度の勇者がまさかここまで弱いとは。見るが良い。貴様らの仲間も、もはや死に体だ。勝ち目などなし」


 ベシュトレーベンと名乗った鬼を彷彿とさせる魔族は地面に這いつくばる俺とは対照的にしっかりと大地に立ちながら言った。

 ちらりと二人の様子を見る。

 グラディウスは『迅雷』と呼ばれたトルデォンの手から放つ【雷撃剣】に片方の腕を斬られていた。

 メアリーは得意の炎魔法を、氷に全て防がれている。有利なはずの火が負けているのだ。酷く喚く声がこっちにも聞こえる。

 どちらも自分に有利な土俵なはずなのに、負けている。余りにもレベルが違い過ぎる。


「それになんだ貴様のその腑抜けた剣筋は、本当に『勇者(・・)』なのか? …こんな奴に『爆風』は負けたというのか。つまらん、つまらんぞ。脆弱な」


 失望したとばかりにベシュトレーベンは溜息を吐く。

 そうだろう。奴から見れば俺の動きは殆ど止まって見えるだろうよ。

 けどよ、こっちもいっぱいいっぱいなんだよ…! 身体は思い通りに動かないし、スキルは使えないし、聖剣は重い。おまけに悪夢を見続けるせいかまともに体力も回復しない。

 文句の一つでも言ってやりたいがそんなことを言っても負け犬の遠吠えにしかならないだろう。


「もはや興醒めだ。これ以上闘う価値もない。消えろ愚物」


 ベシュトレーベンがもはや興味を失せたと肥大化した拳を振り上げる。先程よりも重く、早い一撃。

 さっきのダメージのせいで躱しても間に合わない。



 死ぬ。



「いや、まだだ!!」


 ーー負けられない。俺はまだ死ねない!

 勝てなくても良い。怪我をしても良い。それでも一撃だけあの時のように動いてくれ…!


 俺は走り、相手に向かって聖剣が振るわれる。正真正銘命を振り絞った剣戟、ベシュトレーベンの拳より早いその一撃は、見事に奴の頬を切りつけた。


「ぬ…これは血か?」


 ベシュトレーベンは自らの頰から流れる青い血を触れる。そこには驚嘆があった。

 だが代償に俺は今までの比ではないほど体に負荷がかかる。


「はぁ…! はぁ…! ぐはっ、ごほっごほっ!」

「もはや聖剣を振るうことすらままならぬか。これは最後の命を燃やした一撃か。ならば見事。傷をつけられたのは久々だ」

「ははっ…褒めてもらえて嬉しいよ」

「我は先程貴様を脆弱と侮った。訂正しよう。貴様は強き者だ。強い意志を持つ者(・・・・・・・・)よ。故に敬意を表し全力で貴様を殺す」


 ベシュトレーベンからとてつもない覇気が放たれる。背筋に冷たい汗が流れて本能が警鐘を鳴らす。

 あれで本気でなかったとか、本当に化け物だな…!


「我が一撃、受け止めて見せろ! 咆王崩壊拳(ほうおうほうかいけん)鏖塵(おうじん)


 今までの比ではない、強力な一撃。風を吹き飛ばし、地を破壊する拳。

 当たれば確実に死ぬ。

 俺はそれに向かって駆け出した。ベシュトレーベンから見ればひどく遅い動きだろう。


 奴は俺が攻撃を受け止めると思っているだろう。だけど残念だったね。

 駆け向かった俺だが、突然体を伏せてそれを全力で避ける! 


 俺の元いた位置にベシュトレーベンの拳が放たれる。

 山を穿ち、地を裂き、厚い雲を割った。

 余りの衝撃にビリビリと腹の底にまで轟く感覚がする。後少しでも遅かったら俺は身体すら残らず吹き飛んでいた。


「ははっ…あっぶねー」

「貴様…我を愚弄するか!」

「する訳ないじゃないか。俺にとってもアンタは強い。出来れば万全な状態で戦いたかった。でも悪いね、俺はアンタには倒される訳にはいかないんだ…! 俺を倒すのはアンタじゃないんだ」


 そうだ。俺を倒すのはベシュトレーベンじゃない。ユウだ。


「ベシュトレーベン、アンタは強い。だからこそその強さを利用させてもらう!」

「何の…むっ!?」


 ズズズと大きな音が鳴る。それは次第に音が大きくなっていく。ベシュトレーベンは驚いたように目を見開いた。

 ベシュトレーベンの目には津波のような土が雪崩れ込んでいるのが見えた。


 これが俺の狙い。土砂崩れを起こすこと。

 この辺りの地盤は酷く脆い。だから俺はあえて強力な攻撃を放つように挑発し続けた。ベシュトレーベンにはそれだけの力があったからだ。結果奴は自らの最強の一撃を放ち、山は崩れ、大地は崩壊する。


「グラディウス! メアリー! 退くぞ!」


 俺は煙玉をその場で撒いた。瞬く間に白い煙が辺りを包む込んだ後、すぐさまその場から逃げ出す。


 俺たちが居た位置には大質量の土砂崩れが襲いかかったーー






「あぁ、不粋。不粋ね。まさか『勇者』とでもあろうお方が逃げ出すなんて。期待外れ」


 暫くし、土砂崩れが収まった頃。

 三人は『氷霧』のスウェイが形成した氷によって土砂崩れから身を守っていた。

 ガラガラと盾になった氷が崩れる。

 スウェイとトルディオが砂埃を払う中、ベシュトレーベンは一人佇み、先程の言葉を考えていた。


『俺を倒すのはアンタじゃないんだ』


(あの言葉…)

「はっ、あんな負傷した身で逃げ出しても遠くにはいけねぇだろう。今すぐ追いかけて」

「もういい」

「はぁっ?」

「興が削がれた」


 それだけ言ってベシュトレーベンはその場から立ち去る。


「ばっ、魔王様からの命令に逆らうのかよ!?」

「なら此方も帰ろうかしら。何も得るものがないもの。彼らからは何も妬ましくない(・・・・・・・・)

「ばっ、ちょっ、くそがぁ! 待ちやがれ!!」


 トルデォンは去っていく二人に舌打ちしながら追いかけて行った。






 追ってこない。その事に俺は安堵した。流石にもう奴らと戦えるだけの気力も体力もない。まさにギリギリだった。

 それにしてもまさか魔王が八戦将を三人も差し向けてくるなんて思いもしなかった。どうやら思った以上に向こうにとっては自分達が目障りらしい。偽物相手に随分と躍起になってることだ。


「…腕が………俺の……腕が………」

「ありえないありえないありえないありえない。こんな無様な結果、ワタクシに相応しくない。相応しくない。相応しくない…」


 二人は先程から似たような事をブツブツと何度も繰り返している。完全に心が折れたのだろう。

 もう勇者パーティとして動くのも無理かもしれない。


「そうよそう、何故あんな所に魔王軍の幹部がいるのよ。あの平民の兵士がっ、キチンと偵察しなさいよっ。帰ったら必ず処罰してやりますわ」

「くそ、クソクソクソクソクソ!!! 何故俺がこんな目に会わなければならない! 俺は国一番の『剣士』だぞ!?」

「そうよグラディウス! 何ですのあの様は! 国一番の剣士だなんて貴方には過ぎた称号でしたわね! 精々二流が良いところですわ!」

「何だと!? 貴様とてあの魔法使い相手に手も足も出ていなかっただろうが! 例のアバズレ女の方がまだマシだった!」

「私をあんな平民と同じにしないでくださいまし! 穢らわしい! やはり、貴方も所詮剣の腕で成り上がっただけの平民ですわね!」

「なんだと貴様!」


 二人は責任を押し付けあっている。彼らは認めない、認めたくないのだろう。高いプライドが敗北という事実を認められないのだ。

 俺は二人の喧嘩する声を聞きながら、痛む体を抑えて歩いていった。




 数日かけて歩いて街に帰ると騎士達が武装(・・)した状態で出迎えてくれた。

 先頭には、この街の騎士団の騎士団長がいた。


「おかえりなさいませ、勇者様。村はどうでしたか?」

「あぁ、すまない。村は既に壊滅していた。更には魔王軍の八戦将がいてそれに不覚をとった。直ぐに報告してくれ」

「八戦将が? それはなんと。すぐに上層部に報告しなければ」

「あぁ。奴らが何を企んでいるかは分からないがろくなことではないだろうから」

「えぇ、勿論です」

「それよりも貴方達、さっさとワタクシたちを中に入れなさい! それと偵察に出した輩を出しなさい。そいつらのせいでワタクシたちは負けたのよ!」

「…」


 騎士団長はメアリーの言葉に耳を貸す様子がない。おかしい。町を出る前はそんなこと無かったはずだ。

 待て…何か妙だ。


「それで勇者様、貴方は我々に言うことはありませんか?」

「あぁ、八戦将を倒せなくてすまない」

「いえいえ、そのようなことではございません」

「? 質問の意味がわからないのだが…」

「わからないですか、ならばこう言いましょうか。ーーよくも騙してくれたな偽物の勇者!」


 一斉に騎士達が得物を向ける。


「な、何のつもりだ貴様ら!」

「勇者パーティであるワタクシ達にこのような暴挙、有るまじき無礼よ!」


 グラディウスとソーサーが困惑する。周囲の騎士たちは憎しみのこもった目で見ていた。

 その中で俺は一人安堵していた。彼の言った偽物(・・)という言葉に。それはつまり


「教会より【神託】が降りた。『真の勇者』が現れたと。その名はユウ・プロターゴニスト! 貴様が追い出した男の名だ! そして、フォイル・オースティン! 貴様が偽物だということもな!」


 ーーやっとこの時が来た(死ねる)

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