暗い夜に朝日は登る
ESN大賞の方も1次選考突破していました!ありがとうございます!!
それと、こちら冒険者ギルドの方も更新しました。興味があれば是非ともお読み下さい!
縦に長い塔の螺旋状の階段を国王の体に寄生するシュテルングと無理矢理引っ張られるアイリスが上がっていた。
「は、はなすです! 触らないで、えっち、へんたい!」
「いやいや、それは困ります。貴方様には我々と共に魔王城に来てもらいます。良いですよ、魔王城は。魔と瘴気で満ちて、ジメジメしていて心地良い。きっと気に入ります」
「それで喜ぶとかカビか何かですかわたしは!?」
ギャーギャー言いながら抵抗するも、大人の男性に宿ったシュテルングの力は強い。戦闘能力という訳でなくそれは単純に大人と子どもの力の差だ。アイリスでは到底振りほどけない。一度、【木霊との交信】を扱おうとしたが植物の種が入った袋を塔の外に捨てられてしまっていた。
そのまま遂に階段を登りきり屋上についてしまう。
<ギャオォォ!!>
「り、竜」
そこにいたのは飛竜だった。
過去にアヤメが倒したものより大きく、また凶暴そうだ。見るだけで身震いする。実際この飛竜は魔界に適応した種類であり、その実力は人間界の飛竜を上回る。
余りの剣幕に身体が強張る。
そのアイリスをグイッと痛いくらいの力で引っ張る。
「さぁ、行きましょう」
「いや、いやぁっ!!」
<ガルゥッ!>
ジャママが背後からシュテルングの足に噛みつき、邪魔をする。
<グルゥッ、グルゥゥゥッ……!>
アイリスと一緒に捕らえられたジャママだが途中で乱雑にシュテルングに捨てられた。だがジャママはずっと歩くシュテルングに追いすがり、足止めをし続けていた。
今アヤメはいない。ならアイリスを守れるのは自分だけだ。
そんな想いがあるからこそジャママはアイリスを助けるため全身全霊で足止めをする。何度蹴飛ばされ、階段を転がり落ちようとも、何度も、何度も。既に小さな体はボロボロだが、それでも諦めなかった。
「ジャ、ジャママ!」
「おや? まだ死んでいなかったのですか?」
<ガルゥゥッ!!>
「ふむ。本体は我々なのでこんな借り物の肉体を噛んだ所で別に痛くもなんともないのですが、不愉快です」
<キャインッ>
シュテルングが蹴り飛ばし、ジャママが壁にぶつかる。そのままジュルルと黒い粘液が息も絶え絶えなジャママの首根っこを掴んだ。
<カ、カゥゥ……ガゥゥッ!>
「あぁ、全く。五月蝿い犬です。おい、食べてしまいなさい」
「ジャママー!」
ぽいっとシュテルングが飛竜に向かって投げられる。
飛竜は大口を開けてジャママを飲み込もうとした。
<ギャギィッ!?>
次の瞬間、アイリス達が通って来た道から投げ飛ばされた剣が飛竜の口内を突き刺さし、貫通した。
飛竜が倒れ伏す。
振り返るとそこに居たのはアヤメだった。
「間に合ったか……!」
「アヤメさん!」
歓喜な表情でアイリスが振り向いた。
アヤメはちらりとジャママを見る。
「良く頑張った。後は俺に任せろ」
<……カァウ>
その言葉を聞いてジャママは気絶した。
アヤメは怒りを目に宿しシュテルングを真っ直ぐに目で捉える。
「むぅ、あの犬の邪魔と貴方が暴れるから追いつかれてしまったではありませんか」
「追いついたよ。それに君の逃走手段も潰した。さぁ、アイリスちゃんを返してもらう」
「忘れてませんかぁ? 我々はこの粘液こそ本体。別に彼女の体に乗り移っても構わないのですよ?」
「ひっ」
グイッとシュテルングは国王の体から黒い粘液を出しながらアイリスを引き寄せる。
顔のすぐそばで黒い粘液が蠢く様はおどろおどろしい。アヤメはもう一つの剣を投げつけることも考えるがもしアイリスを盾にされたらと二の足を踏む。
「分かったのなら武器を捨てなさい。先にあの狼を助けたのは失策でましたな。やれやれ。無駄な努力ご苦労様。貴方も、あの男と同じ愚か者ですな。何も守れやしない」
「アヤメさんを馬鹿にしないで!」
「何を言うんですか? 貴方こそ本当に大馬鹿者ですよ。甘い言葉に誘われて、力も無く、ただただ彼を危機に陥れている。あのスウェイと違い、何の役にも立てていない。ただ足手まといなだけ」
「それはっ……」
それはアイリスが薄々感じていたことだった。
キキョウはその力でアヤメを助けている。それに対してアイリスが出来るのは傷を治すことだけ。
それはつまり、二人が戦うところを見ている事しかできないということだ。
【木霊との交信】を使おうとも、二人には及ばない。
アイリスは守られるだけ。
(そんなの嫌です! わたしはっ、二人と一緒に戦いたい!)
足手纏いはいやなのだ。守られるだけで、何もできない。そんなことがしたくてついてきたんじゃない。
アイリスは必死に状況を打開する方法を考える。
【木霊との交信】、だめ途中で邪魔される。
ならば、精霊魔法。無理、精霊に意思を伝える暇がない。そもそもアイリスはまだ精霊意思を伝えるのがまだ得意でない。
(このままじゃ……、これは?)
どうしたらと思うアイリスが目に留まったのは、アヤメに貰ったペンダント。確かこのペンダントはーー
(アヤメさんから貰ったペンダント、これなら!)
アイリスは強い目でアヤメを見つめ返した。その様子にアヤメは何をする気か悟る。
「やい! このどろどろ陰険粘液! 貴方なんて怖くないのです!」
「なんですと?」
「こっちを見ましたね!? 光よ!」
言葉に反応したシュテルングに向けて叫ぶ。
首飾りに込められていた魔法が発動し、強烈な光が辺りを包み込んだ。
「な、なんだ!?」
不用心に本体を身体の外に出していたシュテルングは突然の光に手を翳し、更には本体の液体を引っ込めた。
その隙にアヤメはは疾走し、アイリスを掴む手を斬り飛ばす。
「が、にぃ!?」
「落ちろ。外道」
胴体を蹴り飛ばし、国王に寄生するシュテルングごと塔から落とす。
そのままアイリスを抱えたまま反動そのままの勢いで尻餅をつく。
ーーめっちゃ痛い! だけどしっかりとアイリスちゃんはここにいる!
「アイリスちゃん、大丈夫か!?」
「ア、アヤメさん!? あの、その、あわわわわっ。アヤメさんのたくましい胸板が側に。あわ、あわわ、きゅぅぅ……」
「良かった大丈夫そうだね」
しっかり抱き抱えるとより一層アイリスは赤くなる。
アヤメの体温と匂いを堪能していたアイリスだが、鉄の臭いがしてアヤメが怪我していることに気付く。
「アヤメさん! 怪我をしてるじゃないですか!」
「あぁ。だけどこれくらいなら大丈夫だよ。それよりもジャママを癒してあげてくれ」
「そうだ、ジャママ!」
アイリスはすぐさま立ち上がり、ジャママの側に寄る。
「お願い、治って……!」
淡い光が手のひらから発現し、至る所を負傷していたジャママの体が治っていく。
<……カゥ?>
「ジャママァッ! よかったぁ!」
<ガゥガゥッ!>
元気になったジャママを抱き抱え、涙を流すアイリスの頬をペロペロとジャママは舐める。
その時、側にアヤメがいることに気付いた。彼は優しげな瞳で此方を見ている。
「無茶をする。けど、君のおかげで間に合った。お手柄だよ」
<……ガゥ>
ジャママはプイッとそっぽを向く。しかしその尻尾は機嫌良さげに軽く揺れていた。
弛緩した空気。
だからこそ、アヤメも油断した。
『オノレェェ!! 手ニ入ラヌノナラバ命ダケデモッ!』
死んだはずの飛竜が喋り、突如として動き出し、口から火炎ブレスを吐き出す。見れば飛竜の目からはあの黒い粘液が垂れていた。
明らかに死んでいたのに動くことも、喋った事もアヤメは驚いた。
ーーまさか人以外にも移れるのか!?
事実シュテルングは落ちる最中塔に本体を同じく顔を外に項垂れていた火竜に移した。もはや捕獲は不可能と断じ『『聖女』』の抹殺を図ったのだ。
回避は間に合わない。
ならばアイリスだけでも庇おうとその身で壁をつくる。アヤメさんっと腕に抱くアイリスの声が聞こえる。アヤメは来るであろう痛みに歯を食いしばった。
業火がアヤメ達を包み込む。
「あれ……?」
予想していたはずの痛みが来ない。
その事に何故と思って目を開けると、アヤメ達の前に立ち塞がる背中が見えた。
「君はっ!」
「ぬぅぅぅ……!」
エドワードがそこにいた。
ベルト部分がなくなり、腕の力だけで飛竜のブレスを防いでいる。ジリジリと後退するエドワードだが、突如として彼の体が光る。
『バカメッ! コノママ焼キ尽クシテクレル!!」
「ーー【我は主を守りし最上の盾】!!」
『上位騎士』が扱える上位技能。
あらゆる魔法攻撃から身を守れる通称アキレウスの盾。
それはエドワードがアメリアを護ると誓ったあの日、新たに習得した技能だった。
アイリスの首飾りの光以上の光が盾より発せられる。それでも飛竜のブレスは消えない。
しかし、次にエドワードの胸元が青く輝いた。それは全身へと伝導し、強力な青い光によって飛竜の火炎は霧散した。
『ナンダト!?』
「【投擲槍】」
投げた槍が夜空を切り裂く一閃となり、シュテルングの宿る飛竜の頭を貫いた。
『ソンナ……『聖女』モ殺セズ、裏切リ者ノ情報モ……コノヨウナ失態………申シ訳……アリ、マセン。マーキュリー……サマ……』
誰にも聞こえないか細い声でシュテルングは誰かに謝罪する。
グラリと体勢を崩し、 飛竜に寄生したままのシュテルングはそのまま落ちていった。
ズゥンと落ちたシュテルングの揺れがここまで伝わる。塔の下ではべちゃりと潰れたシュテルングの中身があった。
「エドワード……来てくれたのか」
「勘違いしないで下さい。私はただ、奴にケリをつけただけです」
すまし顔で語るエドワードは、こっちのことなんて気にもしてないという風にそっぽを向いている。だが、それなら自身達を庇う必要はないはずだ。
「ありがとう。助かったよ」
「……私こそ礼を言います。貴方の言葉で何をすべきかがわかりました。そのおかげで私はアメリア様の……国王様の仇を取ることが出来ました」
「そうか……。しかし、まさか竜の一撃も防ぐなんてね」
竜の火炎ブレスは鉄ですら簡単に溶解させる。だから俺も飛竜を狩る時に最大の攻撃であるブレスを撃たせないようにしたのに、それを受け止めた所か、打ち消すだなんてとてもじゃないが普通じゃない。
「確かにちょっと異常ですね。技能にしても、装備にしても飛竜のブレスを防げるものだとは思えませんし……もしかして」
エドワードの周りをうろちょろ観察していたアイリスちゃんだが突然鎧の下に無造作に手を突っ込み漁り始めた。
(ちょっとアイリスちゃん!? 君はいつからそんな大胆な子に……いや、元からか。すっぽんぽんで廊下に出てくるし)
アイリスは【木霊との交信】をエドワードにかけたりもする。
「【植物よ、わたしの願いを聞いて、叶えて、不埒な輩に裁きの効能を、苦悩の花弁】……弾かれましたか。やっぱり。エドワードさん、貴方には『呪術師』の魔法がかかっています」
「『呪術師』?」
「それは呪いって事かいアイリスちゃん?」
いいえとアイリスは首を振る。
「『呪術師』って言うのは、呪いをかけるだけが生業ではありません。古来は悪霊などといった類や戦争に行く夫を案じたりするためにかけるものがあるんです。祈祷師に似ていますが、異なるもの。それが『呪術師』にはあります」
アイリスちゃんは息を整え、真っ直ぐにエドワードを見る。
「それは呪い。人を守るための呪術です。エドワードさん。何か、強い想いが込められたものを持っていませんか? 」
エドワードはハッとし胸元にある護符を取り出す。そして一つのことを思い出した。
それはアメリアが死の間際にエドワードに護符を渡した時の会話。
『エド……お父様と国を守ってあげて』
死にゆくアメリアがベッドの上で彼に託した内容。だが、会話はそれだけじゃなかったのだ。
『でも、それよりも何よりも貴方自身を守って。これはその為のまじない。私が貴方に出来る唯一のお護り。お願い貴方は生きて。それがわたしの望みだから……』
「あぁ……あぁぁぁぁ………っ! 私は……わたしは……なぜ、こんな大切なことを……アメリア様……!」
アメリアの本当の願い。
それは自分自身を守ること。なのに自分はそんなことに気付かず戦い続けた。
何と愚かなのだろうか。彼女の願いすら、自分は気付いていなかった。
エドワードは哀しみと彼女の本当の想いを思い出して膝をついた。
「よく気付いたね、アイリスちゃん」
「理由はぼっちの氷を防いだって話を聞いた時から考えていました。いくら『騎士』の称号を持つといっても相手はあの八戦将だったぼっちですよ。ちょっと頭が弱そうだからと言ってもその力は正に最高峰、それをほぼ無傷で防ぐだなんておかしいですし、何か外部の力が働いてるんじゃないかって。それで思い出したんです。母様からそういった魔法に対して強く対抗出来る術があるって。確信したのはあの火竜のブレスを防いだ時ですけど」
「成る程ね。しかし、火炎ブレスも防ぐだなんてどれだけ強い想いを込めたんだろうか」
「知らないんですか? 女性が男性に送る想いなんて一つだけじゃないですか」
「それは?」
「愛ですよ」
「……なるほど、それはどんな攻撃も通じない訳だ」
エドワードは無表情だった顔を歪め、護符を握りしめ泣いた。
朝日が昇る。暗く悲しみに満ちていたヴァルドニアに新たな光が差し込み始めた。




