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悪行

 ユウとメイちゃんが勇者パーティを抜けて早いもので一ヶ月が経った。その間も俺たちの旅は続く。

 だがユウとメイちゃんが抜けたことでグラディウスとメアリーの行動に歯止めが掛からなくなった。

 これはそんな彼らの行動のほんの一部だ――





 とある街に訪れた際、その街の権力者達から歓待を受けた。世間的には俺たちは勇者パーティということになっている。そんな俺たちとお近付きになりたい者は多いし、魔王を倒してくれという意味でもこの歓迎会は何処でも欠かさずに催された。

 俺は正直これが苦手だ。当たり障りないように娘を紹介する権力者に断りを入れ、少し夜風に当たることにした。


 そこに珍しくメアリーがバルコニーにいた。


「メアリー、何を見ているんだい?」

「あら、勇者様。見てください、この城の下に見える平民たちを」

 視線の先にいたのは貧民街の一角。歓迎会を開かれているこの屋敷は高い所にあるので貧民街をも見通すことができる。

「あぁ、実に汚らしい。格好も、ゴミを漁る様もまるで蛆虫のようですわ」

「…彼らは魔王軍の侵略によって親を失ったりした孤児達だ。生きていくためにはあぁするしかない。寧ろ、そう言った彼らを救うことが国の、僕たち勇者としてのーー」

「勇者様、彼らを庇う必要はありませんわ。私達は高貴な身分、向こうは掃いて捨てるほどいる下賎な身分、暮らしている世界が違うんですもの」


 彼女の言葉には疑問も浮かんでいなかった。

 メアリーは飢えたことがないのだろう。彼女は生まれた時から約束された地位で、恵まれた環境で育って来た。

 だからこそ、明日をも知れない人達のことがわからない。だって自身はそんな思いをしたことがないから。


「さて、あんなものもう見る気にもなりませんわ。わたくしは会場に戻ります。フォイル様は?」

「いや、僕はもう少しここにいるよ」

「そうですか、それでは失礼いたしますわ。…ふふ、この機会にもっと多くの有権者達とお近付きにならねば」


 貴族としてより一層名を高める為に会場に向かうメアリー。

 俺はもう一度貧民街を見る。


「…同じ人なのに、どうしてこう違うのだろうか」


 暗くてボロボロの建物に住む人たち。

 彼らはいかなる思いか、この城を見上げていた。




 別の町、俺はその日グラディウスに少し聞きたいことがあり彼の部屋を訪れた。


「あぁ、グラディウス。明日の事で話が…」

「誰だ…ってあぁ、勇者様かよ。なんだ? 」

「あぁ、いや。明日の魔族のいると思われる場所へと討伐作戦について少し…」

 ふとグラディウスのベッドの布から青黒い痣のある足が見えた。

「グラディウス…その子はどうした? 」

グラディウスのベッドには女性が一人。さっき訪れた時にはいなかったはずだ。グラディウスはあぁ、と頭を掻きながら答える。


「町の酒場にいた娘だ。面が良かったんで連れてきたんだが、暴れてたんでな。2〜3発殴って言う事を聞かせた」

「なっ、無理矢理連れてきたのか!?」

「良いだろう、別に」

「良い訳がないだろう! 人としての道に反するといいたいんだ! 彼女にも家族がいる! 恋人だっているかもしれない。それを力で無理矢理なんて」

「ちっ。何だよお固いな。まぁ、良いさ。やることはやった(・・・・・・・・)んだ。後は帰ってもかまわねぇよ」


 ドンっと押し付けるように女性を突き飛ばしてくる。俺は女性が壁にぶつからないように庇った。


「勇者様よー、正義ぶるのは結構だがそんなんじゃ損だぜ。強いんなら俺みたいに振る舞う方がお得だと思うぜ? なんたって強さこそが正義だからな。ははははっ!」


 彼は嗤いながら扉を閉めた。

 俺は何か言葉を返すよりもまず、女性の怪我の方を心配した。


「大丈夫かい?」

「ひぃっ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。大人しくしていますから打たないで叩かないでください…!」


 女性は何度も謝る。俺はそれを見ていたたまれない気持ちになった。

 その後も女性の家に送るまで彼女は何度も何度も謝罪と暴力を振るわないように懇願していた。

 勇者なら魔物を倒すことで命は救える。だけど、人に傷付けられた心を俺は救う事が出来なかった。





 ばきぃと頬を殴られた。そのままの勢いで俺は雨が降る外へと飛び出される。


「あの子は、部屋から出てこない。何があったのか語ろうもしない。だけど分かる。俺は父親だからな」

「…」

「町救ってくれたのはこの町の市民として感謝している。だが、父親としてあんたたちが許せない。…だからなるべく早く出て行ってくれ」


 冷たく扉が閉められる。

 俺はヨロヨロと立ち上がり頭を下げた後、金を置いてその場から立ち去った。


 たった一人の心も救えなかった。

 その事が打たれた頰よりも痛かった。





 とある町。その町は魔王軍によって襲われている最中だった。


「きゃあぁぁぁ!」

「魔王軍だ! こんな所にまで来るなんて!」


 現れた魔物で構成された魔王軍はその町のスラムから出現した。すぐさま俺たちは現場に向かい、人を襲う魔物を斬り捨てる。


「はぁっ!」

<ゴボバァッ>


 俺は襲いくる魔物を聖剣で一閃する。

 今の俺でも倒せるほど弱いが、数が多い。これでは守りきれない。俺は声を張り上げた。


「このまま教会の方に向かうんだ! そこならば防御を固めていてそれに魔物もいない!」

「は、はいっ」

「グラディウス! メアリー! 直ぐに人を襲う魔物を倒すんだ!」

「はんっ、まぁこの程度なら問題ないな」

「やれやれですわ。わたくしの可憐で華麗な魔法で全て燃やし尽くしてあげます」

「行くぞ、勇者としての使命を果たす!!」





 ドォッと魔物が血を吹き出して倒れる。

 此処を襲っていた魔物はこれで最後だ。周りに魔物がいない事を確認して俺は息を整える。


「住民はこれで殆ど避難出来たかな…?」

「フォイル様」

「あぁ、メアリーか。そっちはどうだった?」

「えぇ、まぁこの程度の相手わたくしの相手ではございませんわ。グラディウスも別の所で暴れています。本当に野蛮人ですわね」

「そうか。ならーー」

「うわぁぁぁん!! ママァァ、たすけてぇっ!!」


 悲鳴が上がる。

 見れば子どもが魔物に側にいた。隠れていた所を別の魔物に見つかったらしい。

 俺はその子を助けようと駆け出ーー


「【燃えよ、その苛烈で鮮烈な炎を持って汚らわしい輩を燃やせ、炎の竜牙】


 突然隣から迸った炎が魔獣を燃やし尽くした。

 子どもごと(・・・・・)


「なっ、メアリー何故撃った!? 子どもがいたのが見えなかったのか!?」

「? だって汚らわしいではありませんか。所詮スラムに住む人間などゴミに過ぎません。焼き払って何の問題が?」

「ぐっ! 君はわかっているのか!? 人一人の命を奪ったんだぞ!?」

「良いではありませんか。どうせ大した職業もない子どもでしょうし」

「君はっ」

「あぁぁぁぁぁっ!! 嘘ようそぉぉっ!! ミリアッ、ミリアァァァァッ!!」


 言い争う俺らの隣を一人の女性が駆け抜ける。

 女性、いや母親がもはや焦げた死体となった子どもに火傷も恐れずに抱きしめた。そして息がないことを確認しそのまま泣き崩れる。


「あぁ、巻き込まれたんですの。まぁ、平民ですから何の問題もないでしょう」

「メアリー、君は…! はっ」

 その言葉に嘆いていた母親が近くにあったナイフを片手に立ち上がる。

「娘の仇ぃぃ!!」


 母親はそのままメアリーに向かって走ってくる。

その様子にメアリーが杖を構える。まさか燃やすつもりか!?

 俺はその前に前に出て、女性から武器を手放させ拘束する。


「あら、勇者様。私を守ってくれたんですの? さすがは勇者様ですわ、素敵!」


 メアリーは無邪気に喜ぶ。一方母親の方は憎しみに満ちた目で俺を見上げてきた。


「なんでっ、勇者様なのにぃ!! 勇者なら私の娘をっ、ミリアを返して。返してよぉ…!」

「それ…は…」


 違うんだ。俺は勇者ではない。俺は…偽物なんだ。その後も喚く母親の騒動を聞きつけたのか騎士達がこちらに訪れた。


「勇者様、何事ですか?」

「あら貴方達良いところに。この不届き者が無礼にも私に対して反旗を翻し、害そうとしましたわ。直ぐに処罰しなさい(・・・・・・・・・)

「はっ。勇者様。それをこちらに」

「待ってくれ、彼女は娘を失った事で錯乱している。だから落ち着く場所で療養を…」


 そう思った俺が見たのは騎士が女性の首を切り落とした所だった。


「ば…かなっ、何故殺した!?」

「? 何を言ってますの。良いですか、フォイル様。この世では平民が貴族に逆らうなんて許されない事ですわ」

「そうです、勇者様。たかだか一人の平民の命などその不敬を考えればとるにも足りません。我々は【騎士】なのですから有象無象の職業の奴らと比べても、天と地ほどの差があります。」

「だからって…!」


 殺すまでのことか。

 だが騎士とメアリーの目には何の罪悪感もない。寧ろ怪訝そうにこちらを見てみる。

 なんだこれは。

 なんなんだこれは!? 

 勇者、騎士とは民を守る為にあるのだろう。それがこんな。

 彼女らは親子を殺したことに何も疑問を抱いていなかった。

 

 はっとして周りを見る。

 民たちは俺たちのことを、魔物以上に恐怖と怒りの目で見ていた。







 別の国。

 戦場と化した街の中。俺は街に侵入したまた別の魔族と戦っていた。


「ふっ! 」

「ガァァァッ! オノレェ…勇者メェ…!」


 狼に似た魔族を聖剣で斬り裂く。奴は恨み言を言いながら息絶えた。


「これでこっち側にいた魔族は全て…。後はあそこか」


 視線の先にはまだ多くの魔族と魔物がいる。

 体が少しずつ思い通りに動かなくなってきた今の俺には少し荷が重そうだ。


「ん? あれは…グラディウスか? それに一緒にいるのは…っ!」


 見ればグラディウスが率いているのは槍を持っただけの平民達だった。

 馬鹿な、彼らはここから退避したはず。何故ここにいる!? 


「お、お待ち下さい! 民達は最早疲労困憊です。このままでは魔族と戦うことなど不可能です!」

「喧しい!」

「ぎゃぁぁ!」

「弱いんなら黙ってオレに従え! 弱い者は搾取されるのが道理だろうが! 続け! お前らは囮となって魔獣を引き付けろ! 行かないならば俺が殺してやる!」

「う、うぅぅ…! うわぁぁぁぁ!!!」


 沢山の平民達が魔物へ突撃する。

 当然勝てる訳がなく、沢山の命が散っていった。

 だがその代わり魔族の網に穴が空いた。


「はははははっ! やれば出来るではないか! 行くぞ、敵の強い奴を倒す。手柄は俺がもらう!」


 そのまま平民達を放置し、グラディウスは率いる騎士らと共に突撃する。平民達を歯牙にも掛けず。


 俺は民に群がり死体を食らおうとする魔物を聖剣で斬り倒した。殆どがもう息をしていない。だけど辛うじて息のある人が一人いた。


「無事か!? 今すぐ人をっ」

「あぁ…あなたは勇者様…。教えてください…我々の死に、何か意味はあったのでしょうか…」

「それは」

「我々は………何のために………エミー…アレス…」

「待て! 逝くなっ! おい! 」


 誰かの名を呟き、がくりと目の前の男の力が抜ける。何度も呼びかけるも二度と彼の目が開かれることはない。


「何が…勇者だ……()は何一つも……!」






 魔王軍の侵攻は退けた。だが、代わりにまたも瓦礫の山となった都市の上で俺は一人佇む。



 俺は見てきた。

 人の素晴らしさと光の強さを。

 俺は見てきた。

 人の愚かさと闇の濃さを。


 俺は見てきた。

 俺は見過ごしてきた(・・・・・・・)


 魔王軍は人類にとって不倶戴天の敵であるのに変わりはない。

 だけどもその()()を傷つけもしている。

 俺は『偽りの勇者』。魔王と戦うこともできず、人を救うこともできないただの偽物。


 俺は何の為に戦っている。

 俺は誰の為に戦っている。


 わからない。わからない。

 悲鳴が聞こえる。憎しみが聞こえる。悲しみが聞こえる。恨みが聞こえる。


 砕けそうなほどの心が軋み、悲鳴をあげる。いっそのこと狂ってしまえばどれほど楽だろうか。

 全ての景色がもはや灰色に見えてきた。


 いっそこのまま…



 そんな時、あのエルフ…アイリスちゃんから貰った花が胸ポケットから落ちて、聖剣の上に落ちた。


「聖剣…そうか」


 ユウとメイ。

 何よりも大切な俺の幼馴染。彼らは今、『真の勇者』としての道のりを順調に歩んでいる。伝聞も何もないが、次第に黒くなってきた聖剣がそれを証明している。

 君たちは絶対に来てくれる。君たちなら俺を…


 だったら大丈夫だ。

 俺はまだ演じれる。


 花を拾いあげる。幾つもの戦場を渡り歩いてきたが、花は返り血の一つも浴びずに綺麗に咲いたままだった。それがあの時助けたアイリスちゃんの笑顔を思い出し、少しだけ心が軽くなった。




 俺は魔王軍によって壊滅した都市を眺める。

 民は悲しみに満ちている。当たり前だ、生きていく希望がないのだから。彼らには明日への希望がない。


 彼らには希望が必要だ。

 生きる為の原動力となるものが。

 俺では彼らに希望は与えられない。

 絶望は魔王軍が与えた。

 ならば俺は彼らに怒りを植え付けよう。憎しみによって彼らに生きる力を与えるのだ。


「聞け! この街に住む民達よ!」

 民達が俺を見上げる。

「今回の魔王軍の侵攻は防ぐことが出来た。その代わり多くの民の死者が出たが彼らの犠牲は仕方がなかった! 何故ならこの世は称号が全てであり、上位の称号を持つ者に下位の称号を持つ者は踏み台として切り捨てられる運命(さだめ)だからだ!」


 彼らは家族を、友を、恋人を殺された。

 それが仕方がなかったの一言で済まされるだなんて到底受け入れられない。此処にはもう魔王軍はいない。だから、代わりに俺が憎しみの的となろう。


 彼らの空虚な瞳に炎が宿る。

 怒りと憎しみという名の炎が。


 そうだそれでいい。

 俺の名を覚えろ! 

 俺の事を忘れるな!

 そして俺を憎むんだ!

 それでこそ希望(ユウ)はより輝くのだから!


「何故なら、僕が勇者フォイル・オースティンだからだ! 魔王は僕が滅ぼそう。だから安心して君達は世界の、僕たちの為に死んでくれ!」


 グラディウスが頷く。

 メアリーが笑う。

 俺も何処までも愉快そうに演じた。


 真の勇者に倒される偽りの勇者として、俺は最期まで悪役(アングレシャス)を演じよう。




 だからユウ、その時は俺をちゃんと――殺してくれ。

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