決闘
激しくなる戦況。
次第に増える負傷者に、アイリスも手伝って治療を施していた。
重傷な人のみに、『聖女』の力も利用しつつ癒す。それ以外は自前の医療技術だ。
無理はしない。ここでまた倒れたら迷惑がかかる。だから危なそうな人だけに限定して『聖女』の力で癒し、それ以外の人は自前の治療薬で直していった。
「ふぅ、これで大丈夫ですよ」
「あぁ、ありがとうお嬢ちゃん」
「お気になさらずに。今は安静にしてください。……新しい水が必要ですね。行きましょう、ジャママ」
<ガゥッ!>
布を洗う桶の水が汚れたので変えようと立ち上がる。
「アイリス殿」
「あれ、パラシータさん、どうしましたか?」
その時パラシータが話しかけてきた。
「はっ、実はお話が。実は貴方を呼ぶようにあの方より頼まれたのです」
「あの方? もしかしてアヤメさんですか!?」
「えぇ、アヤメ殿が呼んでいました。どうやら城内に無実の罪で捕らえられた人がいて衰弱が激しいので是非とも来て欲しいと。貴方の力が必要であると」
パラシータの言葉にアイリスは喜色の色を顔に浮かべる。
一方でジャママは唸り声をあげ始めるもアイリスは気付かない。
「本当ですか! わかりました、すぐに行きます! あっ、でも今は城内に行くにはあの城門を……それに、こっちにも怪我人が」
「俺が護衛しましょう。それに他にも治療が得意な者がおります。とにかく、アヤメ殿が使った秘密の抜け道を案内します。こちらへ」
この時点で大きな矛盾があった。
突入したアヤメがいつパラシータにコンタクトを取ったのか。彼はエドワードと戦っていて、その暇がない。それが不明なのだ。
だけど、自らの無力さを痛感していたアイリスは人一倍アヤメの役に立ちたいという思いがあってその事を見落とした。
ジャママも警戒しているとどうしようもない。
こうしてアイリスは本陣から離れる。
戦場にいるキキョウは、死者が出ないように掛り切りで気付かない。
裏で二人が姿を消した事に気付く者は誰一人いなかった。
『騎士』という職業を持つ者は、絶え間ない訓練と鍛錬に身を費やし、その果てにそれに相応しい実力を持つ事が出来る。
その力は正に一騎当千。同じ『兵士』の職業を持つ者でも『騎士』に勝つにはその十倍以上の人数が必要とされている。
更に上の職業ーーこれは『騎士』の中でも更に才能と技術を持つものが得ることが出来るのだがーー『竜騎士』に至っては一人討ち取るのに500人の兵士と10人の魔法使いが必要だとされている。それほどまでに差は広い。
現に城門ではキキョウの援護があって尚、反乱軍は優勢なれど今だにユサール遊撃騎士団を突破出来ないでいた。
それは余りにも騎士団と反乱軍の練度がかけ離れていたからだ。貴族の兵もいるも、相手はこの国最強の騎士団。精兵である。
マトモにうちあっては勝ち目がない。苦戦は必至だった。
そしてもう一つ。
アヤメの方も苦戦を免れずにいた。
風切り音が鳴る。見なくてもわかる。俺の頭のすぐそばをエドワードの槍が掠めたのだ。
やはりと言っていいかジャコモとは比べ物にならない強さに俺は苦戦を強いられた。
「【盾撃】」
「くっ」
「【突撃槍】」
【盾撃】で俺の剣を弾き、体勢を崩した所に俺を貫かんとエドワードの持つ槍が光る。
俺は無理に体勢を直そうとすれば食らうと直感し、寧ろ足の力を抜いて一気にその場にしゃがんだ。瞬間俺のいた位置に穿たれる槍。柱に半分くらい埋没していた。
その隙にすぐさまその場を離れる。
「大理石で出来た柱を貫くとかマジか…」
ガコッと綺麗に円状にくり抜かれた柱から槍を引き抜く。槍は一切曲がらず鋭利な光を放っていた。
「残念です。貴方の心臓を一突きするつもりでしたが」
「おいおい冗談にしてはタチが悪いよ」
僅かに冷や汗を垂らしながら俺はどうエドワードを攻略するか思考する。
やはりエドワードは強い。魔法使いのような派手な威力の魔法こそないが培われた経験と装備がもたらす堅牢さは非常に厄介だ。魔王軍の魔族や魔物とはまた別種の積み重ねられてきた強さだ。
その堅牢を破るには並大抵の戦法では無理だ。技能もない俺では槍を防ぐのも精一杯だ。
……このまま城門から援軍を待つという手もあるがそれでは犠牲が出るし何より俺が先行した意味を失う。
(なら、奴の槍の鋭さを利用する)
エドワードが槍を構えて迫る。
俺は左手で右手首を掴み、剣を水平に構える。
「"桃孤棘矢"」
大角カジキすらうちあげた俺の絶技によって槍を打ち上げる。これが俺の狙いだった。
だがエドワードは対応して見せた。
槍が飛ばされそうになるや否や、自ら態と俺の受け流しを跳躍して自らも飛ばされる事で槍から手を離さなかった。
俺は驚くも着地で体勢を崩したのを見逃さなかった。
「"緋華"」
俺は勝負を決めようと一息で剣を突き出す。
エドワードは盾を構えた。防御のつもりか。だが、そのまま突いて態勢を崩させて決めるーー
「なっ!?」
硬質な音が鳴ったと思ったら、いつのまにか俺は剣ごとそのままエドワードの背後にいた。
弾かれた?いや違う!流された!!
エドワードは盾を斜めにして受けるのではなく、逸らす。それはさながら俺の"桃孤棘矢"のように。
俺は勢いのまま、そのまま盾で背後に流されたんだ。その隙をエドワードは見逃さない。
槍が突き出る。
俺を貫こうと。
俺は咄嗟に鞘を思い切り、かちあげた。
槍は俺に当たる前に、鞘によって上方向に軌道を変えられ、外す。
俺はそのまま回転して、エドワードの頭に回し蹴りを叩き込んだ。
頭の鎧が外れ、よろけるエドワード。だがその目は死んでいない。
「【盾撃】」
「ぐはっ!」
だが次の瞬間、思い切り盾をぶつけていた。
モロに受けた俺は吹き飛ばされるも、転がりながら衝撃を和らげ態勢を立て直す。
転げ回った俺とは対照的に悠然とエドワードは槍を構えている。
「意趣返しする気でしたが、やはり貴方はお強い。だが、それまでです。幾ら足掻こうとも私の盾を突破出来るとは思わないことですね」
「言ってくれるね……!」
エドワードは頭から、俺は口から血を流す。
骨は折れていない。だが痛みを訴えている。酷い鈍痛だ。
(それにしても、何て手堅さと堅牢さだ。元々キキョウの魔法すら防ぐ程の防御を持つとは思っていたが、これは些か異常だろ)
長い間戦っているが、エドワードは傷らしい傷を負っていない。それもこれも彼の堅牢な武術と盾を使っての技能が強いからだ。
俺の戦法は通用はしている。数多くの絶技も試した。だが有効打は未だに与えられていない。そもそもの話、俺は彼の防御系統の技能を突破出来るほどの威力の絶技を繰り出せずにいた。
規格外までの堅さが彼自身を守っていた。
「……このままじゃジリ貧なのは確かか。ならこっちも奥の手を使うとするかな」
すらりと俺はジャモコから拝借したもう一つの腰に携えた剣を抜いた。ピエールさんに話して譲って貰ったジャコモの剣だ。
エドワードの秀麗な眉がピクリと動く。
「何のつもりです?」
「俺の攻撃はどんなに強くてもアンタの盾に塞がれてしまう。なら手数を増やそうとでも思ってね」
戯けるように言うと不愉快そうにエドワードの眉が寄った。
「剣を二本持てば手数も威力も二倍と? 何やら装備が変わっているとは思っていましたが……あまり舐めないで頂きたい。手数は増えても片手であればその剣自体の威力は落ちるというもの。そんなので私の盾を貫く事はできません」
再度エドワードが盾を前面に此方に突撃してくる。
「それはどうだろうな!?」
それを躱し、側面に向けてそれぞれ別方向の関節に向けて剣を振るう。
「くっ」
初めてエドワードから苦悶の声が上がった。片方は槍で防がれたけど膝を狙った方は鎧に弾かれたが初めてまともに当たった。
その後も俺は変幻自在に二つの剣を振るう。俺は戦いまでの日、キキョウに頼み彼女に相手をして貰っていた。だからそれなりに二刀流には慣れていた。元々聖剣が黒くなって来た頃、使い捨てたがあらゆる武器を利用した事がある経験も大きかった。
いける。このまま奴に隙を与えない。如何に堅牢な鎧とて同じ箇所を多数攻撃すれば壊れる。
俺は柄を強く握り、鼓舞するように叫んだ。
「いくぞ! 俺は君を越えていく!」
「我が誓いにかけて、私は貴方を此処で降します」
長くなったので二分割します。




