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「おっさん船医」、本日も更新しています。

是非ともご覧ください!

 クリスティナの同意を得たメイは魔法杖(ワンド)を構えた。


「【天から降り注ぐ恵み、それを一点に集約させ全ての流れ、濁流(だくりゅう)貫流(かんりゅう)奔流(ほんりゅう)還流(かんりゅう)を持ってして全てを流せ】」


 一言一句魔力を込めて唱えながらメイは心の中でトルデォンの言葉に(いきどお)っていた。



 フィーくんは死んだ。

 ユウくんに聖剣を渡して、崖から落ちた。遺体すら残らなかった。

 私は知らなかった。

 彼が背負ってきた使命を。

 それ以上にフィーくんが辛い思いをしていたことも、フィーくんがユウくんと私をどれだけ想っていてくれていたのかも。

 全部知らなかった。


 なんで言ってくれなかったのと悲しみがある。

 気付けなかった自分に腹が立つ。

 何よりも彼を嘘つきと言った自分に怒りを感じる。


 後悔したことだって数えきれない。

 泣いたのだって数えきれない。


 彼は私にとってかけがいのない幼馴染だった。

 謝ることももう出来ないし、もう一度フィーくんと話すことも出来ない。あの声を、もう聞くことが……できない。


 そのフィーくんをトルデォンは馬鹿にした。偽物だと。愚かだと。

 だからこそ、許せない。

 彼の覚悟を馬鹿にしたアイツを。彼を偽物といったアイツを! 絶対に!!

 私は許さない!!!



 メイは詠唱し、体内のマナを消費して魔法の行使の一歩手前までして止める。そして()()()()()()()()()()()()、注意を(うなが)す。


「ユウくん! オーウェンさん! 下がって!」


 二人は少し驚いたような顔をするが、にやりと笑うメイに何かあると感じ、その場から離れる。


「(相手は八戦将。生半可な魔法じゃ通じないし、【雷脚】を使われたら避けられちゃう。だったら……!)貴方なんかに(・・・・・・)受け止められるかな!? 【水激竜の白滝ナーガ・ストリーム・フォール】」


 トルデォン頭上に巨大な水の塊が出現する。

 メイが放てる最上級の水魔法。滝のような質量の竜の形をした水が空より降り、トルデォンに襲いかかる。


「舐めてくれるな女ぁ! 【大雷撃砲グラース・クーゲルブリッツ】」


 最初に放った時よりも大きな雷球が上空に放たれた。

 余りの威力にいとも容易く水は弾け、バチャバチャと周囲に撒き散らされた。


「はっ、随分と自信があったようだがやはり水鉄砲。所詮……」


 トルデォンは始末しようと動く時に違和感に気付いた。僅かばかりの脚にひっつく水。

 そして気付く。あれだけの水の量が自分の周りにしかないこと。更には頭上にいつのまにか移動した『神官』に封じられた自らの雷があることを。

 トルデォンは顔色を変えた。


「テメェッまさかっ!?」

「貴方の雷、返します!」


【二重詠唱】という『大魔法使い』でも使える者があまりいない技能(スキル)をメイは持っていたのだ。それは予め詠唱を唱え、魔法を発動寸前で止め、別の詠唱をした後同時に行使する。


 メイはワザとトルデォンを挑発し、【水激竜の白滝】を迎え撃つように仕向けた。打ち消されるのも承知で、その後の周囲に撒き散らされた飛沫(しぶき)に生じ詠唱しておいた【水粘液(アクア・ジェル)】を発動させ、トルデォンの足を封じた。

 

 無論そんなものはトルデォンにとって数秒あれば振り払えるもの。だがその数秒が命運を分ける。


 クリスティナが封じ込めた【畝り迸る蛇雷鞭(ブリューナク)】を、メイが撒いた水へと落とす。水を伝って、トルデォンに襲いかかる雷流。


「アギギギギギィィィィガァァァァ!!」


 トルデォンの口から呂律(ろれつ)の回らない言葉が噴き出す。それは傷の血液から内部の特別な発電回路にも電気が周り、壊れる(ショート)。都市を焼いた雷の力がそのまま自分へと跳ね返る。

 とんでもない熱量に、トルデォンの白銀の身体が黒く焦げていく。肉の焼ける嫌な臭いも漂ってくる。


「な……めやがっでぇぇぇ!!!」


 しかしトルデォンは八戦将。そのタフさも他の魔族を凌駕する。【雷脚(らいきゃく)】を使ったトルデォンが、メイとクリスティナを殺す為に接近する。あまりの速度に二人は反応出来ない。

 あと少しというところで二人の目の前に立ち塞がる影現れた。聖剣を構えたユウだ。


「二人には手を出させない!」

「真の勇者ァッ! だがだが聖剣に選ばれだ人間如ぎがぁっ!」


 苛立ち、自らに跳ね返るのも承知で【雷撃剣(らいげきけん)】で襲いかかる。ユウは押されるも聖剣で受け止める。バチバチと両者の間で火花が散る。

 魔を浄化する聖の力と全てを汚染する魔の力がぶつかり合う。

 常人には見えない速度で剣戟(けんげき)が繰り広げられる。傍目には時折弾ける火花が二人が剣を交わしていると判断出来るくらいだ。

 通常、人間であればトルデォンの速さについて行くことが出来ない。グラディウスのように、剣を(かわ)されるのがオチだ。


 だがユウには【加速(アクセル)】がある。

 これにより両者の差が縮まり、拮抗(きっこう)していた。


 大きく二人は剣をぶつけ、そのまま互いに押し付け合う。

 トルデォンは更に雷の出力を上げようとする。目は血走り、身体中から静電気が発生する。

 必ず、何がなんでも殺すと。

 そう、苛立ちのあまりトルデォンはユウしか(・・・・)見ていなかった。


「やっと隙を見せたな! 【大裂斬(だいれんざん)】」


 背後からオーウェンの強力無比な大剣が振りかざされた。

 それにより両脚が膝下から切断される。彼のスピードが死んだ。トルデォンが体勢を崩す。当然それを見逃すユウじゃない。


「ぐ、ぐぞ……オレがごんなどごろで……!」

「終わりだ! 【聖光顕現(せいこうけんげん)】」


 トルデォンももはや焦げ焦げになりながらも【雷撃剣(らいげきけん)】で受け止めようとする。

 【聖光顕現(せいこうけんげん)】は勇者のみが扱える魔を滅する奥義。その力に呼応するかの如く聖剣は白く輝き始める。

 周囲を(おお)()くすほどの光が満ち、そして




 ーー(トルデォン)一閃(いっせん)した。





「このオレが……ば……か…………な……」


 それだけを残しトルデォンは倒れた。


「やった……のか? 」

「あー! もう無理だぁ! 俺ぁ、もう動けねぇぞ」


 ドサリと大の字になってオーウェンが寝っ転がる。ユウも聖剣を支えに膝をついた。警戒するがトルデォンはピクリとも動かない。

 聖剣の一撃を受けて、完全に死んでいた。


 そこにメイの肩を借りたクリスティナがやってくる。


「ユウさん! やりましたね! 流石は『真の勇者』ですね!」

「いや、ギリギリの戦いだった……。みんなの助けがなければ負けていたよ」


 本当にギリギリだった。

 もし仮に後少しでもトルデォンが冷静で、その速さで各個撃破されたら負けたのは此方(こちら)だっただろう。それほどの強さだったのだ。


「ユウ兄!」

「ファウパーン! 大丈夫だった?」

「あぁ! あの雷の鳥に追いつかれそうになった時はオイラもう駄目だと思ったけど突然かっ消えたんだ。だからわかったんだ、ユウ兄が倒したって!」

<キュルキュル>


 空から戻って来たファウパーンがキラキラとした目をユウには向ける。


「ファウパーン、無事でよかったです。……けど、それはそれとしてさっきの行いは神官として断じて! 断じて許すわけにはいきません。後で女神様に懺悔してもらうから。キューちゃん! 貴方もですよ!」

「えぇー!?」

<キュオォ!?>

「あっはっはっは! 可哀想になファウ坊。嬢ちゃんは頭が固いからな」

「オーウェンさん、貴方も追加します」

「ちょっ!!? やめろ、俺ぁ何も悪いことしてねぇぞ!」

「ははっ。あはは……。…………」


 皆が笑いあう中ユウは黙り込む。


『結局の所奴は偽物(・・)に過ぎなかったんだからな!』

「フォイルくん……」


 トルデォンの語った内容にユウは一瞬怒りで我を忘れた。それこそ、勇者に似つかわしくない憎しみ(・・・)に駆られそうになるほどに。


 自らの聖剣を握る手が震え出す。トルデォンを切った時に聖剣に付いた血。それがフォイルの姿と重なって見えた。

 三人が話す中、ユウだけが深い心に影を差そうとする。


「ていっ」

「あいたっ」

「なーにぼっーとしているのかな?」

「メ、メイちゃん」

 デコピンしたメイがユウの顔を覗き込むように屈みながら見ていた。

「折角勝ったのにその主役がそんな陰気臭い顔をしちゃ、皆んな心配しちゃうでしょ?」

「え?」


 ユウは顔を上げる。


「俺たちは助かったのか……?」

「あの雷が止んだんだ、そうだろう」

「なら王都は解放されたんだ」

「勇者だ。勇者様たちが助けてくれたんだ」

「なら魔王軍はもう退けられたのか?」


 見れば聖剣の輝きを見た市民たちが戦闘が終わったのかと集まり出していた。誰もが倒れたトルデォンとユウを見比べている。


「話なら、後で私が聞いてあげる(・・・・・・・・・・)。だから今は皆を安心させてあげて」

「……うん」


 メイに励まされ、ユウは疲労困憊(ひろうこんぱい)の体に鞭を打ち民の前に立った。そして聖剣を掲げ、叫ぶ。街中に響かんと、大きな声で。


「魔王軍八戦将の一人『迅雷』はこのユウ・プロターニストが討ち取った!!」

「「「おぉぉおぉぉぉぉおぉぉぉぉぉ!!!!」」」


 殆どの建物が廃墟(はいきょ)と化した王都。負傷者は山程死者も勿論いる。それでも、生き残った人々のいつまでも勇者を(たた)える声が響き渡っていた。













 同時刻、ゴラァム。


「いやだぁぁぁ!!」

「助けてぇぇ!!」

「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」

「痛い痛い熱い熱いぃぃぃぃ!」

「誰かお父さんを、お母さんを助けてっ!」

「熱い……熱過ぎる……」

「ゴホッゴホッ、煙がっ、何処に逃げたら良い!?」

「向こうで爆発が起きたぞ! あがっ」

「地面がドロドロに溶けてっ、あ、あぁぁ巻き込まれたっ! アチィィィ! 置いてかないでくれぇっ!」

「兵士はどうした!?」

「騎士達は!?」

「勇者っ、勇者は来ないのか!?」


「豚業業業!! 燃えよ、もっともっと燃えよ。人達よ! その身を炎の(かて)として、(いさぎよ)灰燼(かいじん)()すと良い。豚業業業業!!」



 人々を焼き尽くす炎の中心で最も燃える魔族……八戦将『獄炎』のブラチョーラ・玄・バルカン。

 彼と彼に率いられし魔王軍は圧倒的炎という暴力(わざわい)を持ってしてその全てを焼き尽くす。

 歴史ある街並みも、新しい建物も、未来ある若者も、老い先短い老人も、全て。

 人々は願う。誰か救い手がーー勇者が現れてほしいと。だがそこに勇者は現れることはない。

 彼らの願いは悲鳴となり、悲鳴は炎の中に消えていく。



 この日、ゴラァムは陥落した。周囲の国が救助に来た時には王都に残ったのは炭と化した人らしきものと焼け焦げた廃墟だけ。他の街でも同様であり、更には細かな村々に至っても全ての人間が姿を消した。ゴラァムは事実上亡国となる。



 生存者……なし。

 『氷霧』戦、死人なし。街の被害のみ。

 『迅雷』戦、死人はいるも生存者多数。ただし王都はほぼ壊滅。王都以外の街も壊滅。村、町には被害なし。

 『獄炎』戦、生存者なし。国が滅亡。


 勇者も救世主もいなかった国はこんな感じというのを描きたかった。

 トルデォンも強いんですが舐めプした結果最大の攻撃である雷を全力で放てなくなるなど迂闊が過ぎました。獲物を嬲り、侮る悪癖はマーキュリーに指摘されていたのですが全く彼は反省していませんでした。だからこそ、倒せたのかもしれませんが。

 さりげなく魔王軍『氷霧』と『迅雷』を失うという大損害。

 マーキュリーの胃が痛くなりますね。


 もし仮に今回の八戦将の戦う相手を変えれば普通にフォイル、ユウが死んでいました。

 この中の力関係はブラチョーラ>トルデォン=スウェイ

 トルデォンのように侮らず、スウェイのように甘くない彼はこの中では頭一つ抜けています。ベシュトレーベンには劣りますが。

 因みにユウが今の状況で『獄炎』と戦っても勝てません。スウェイには確定で勝てます。その場合スウェイは死にますが。

 フォイルはスウェイ以外の二人と戦ったらその時点でこの物語は終わりました。幾らトルデォンが舐めプしても彼の速度に追いつけません。グラディウスと同じく敗れます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 真の勇者くんは何というか咎を背負わされてしまった感ありますし、こういう気持ちになるのも理解できます。が、なんというか、まぁ胡散臭い女ですねこのメイって人。
2021/11/07 17:35 タナカナタ
[良い点] 敵からフォイルが偽勇者扱いされて怒るのは、親しみを持っているなら当然。 自分が主人公から説明されるまで同じ扱いをしていて、周りの誤解を解こうとしていないのも人間味がでていて、ユウとメイの性…
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