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純白を蝕む黒い荊

今日も作者別作品「おっさん船医」更新しています。興味がある方は是非ご覧ください。

あと皆様のおかげでブクマ8000突破しました!

本当にありがとうございます! 今後ともよろしくお願い致します。

 太陽国ソレイユから北東にいった所に、ソドォムと呼ばれる国がある。ソドォムは数多くの魔石を発掘出来る鉱山を有しており、鉱山から発掘された高濃度の魔石は太陽国ソレイユにとっても貴重な魔石供給源となっていた。

 更には魔石の加工技術も卓越しており、様々な高品質な武器も造ることが出来た。

 その技術は、太陽国ソレイユの最高技術にこそ劣るが、兵士などに配給される武器の一般品質については他の追随を許さないほどだった。


 そして、そんな国を魔王軍が放っておく訳がなかった。







 ソドォムの王都は小さいながらも白色の伝統ある建物が至る所に並ぶ。その様は太陽国ソレイユとは違った意味で見るものを感嘆させる程に清廉(せいれん)で美しい。

 実際他国からは"白の(みやこ)"とも呼ばれ、数多(あまた)の絵の題材にもなったりもした。


 そんな汚れを知らない白い王都。

 そこにまるで根のように(いびつ)な黒い荊が張り巡らされていた。


「痛いぃぃ」

「あぁぁぁ! やめてぇぇぇ!!」

「ひゅー……ひゅー……」

「ママー! 痛いよぉ!!」

「お願い、息子は。息子だけは……」

「ふむ、ふむ。やはり人の血は良い栄養となる。儂の荊棘も血を吸うて喜んでおるわ」


 張り巡らせた荊の中心部。

 全身黒い枯れ木のような身体をし、更には黒い荊を何重にも自身に巻きつけた気味の悪い魔族が、老若男女区別なく人々に巻き付けた黒い荊を少しずつ動かし、棘で傷つけていく。その度に人を絶叫をあげる。


「安心せよ。主らの命は儂の可愛い荊の栄養の一部となる。その事に深く感謝したまえ。家畜である人間どもにはそれくらいしか役に立たないのでな」


 ギチギチと荊を締めながら、(したたり)り落ちる血を黒い荊は歓喜するように蠢く。当然また荊は人々を締め付ける。またもあがる絶叫、悲鳴、うめき声。

 その中で唯一、一人だけ愉悦を感じている魔族。


「故に、貴様らの血も我が荊の(かて)となれ」

「いぎぃぃぃぃ!!」

「あぁぁぁぁぁ!!」

「誰がぁぁぁ! だずげでぇぇぇ!」


 絶叫。その悲鳴にふるりと魔族は愉快げに体を震わして更にギチギチギコギコと荊を動かしていった。当然棘により新たに傷つけられた人の体から血が流れる。

 彼が人々が嬲っていると背後から血濡れになった魔族の一人が姿を現した。魔族は一度(いた)ぶるのを中断する。


「おや? どうしましたか?」

「に、にんげ……」

「人間? しかし、この王都の兵士らは皆屈服させた筈。まだ抵抗するものがいたと? ふむ、ふむ。それとも他からの援軍……? この辺りの都市は既にトルデォン様によって焼け野原と化しているはずであるが……陸路? 別の国による援軍? いや、それにしては対応が早い……おい、もっと詳しく話しなさい」

「……」

「ちっ、使えないものだ。だが何者かが我らの邪魔をしているのは間違いないか」


 思考に(ふけ)る魔族。

 すると突然別の一角の荊が燃え上がった。


「何!? 一体何処から!? ん?」

 空を見上げると一匹の飛竜が飛んでいた。

「飛竜……? なぜこんな所に。我らは飛竜など連れてはいなかったはず。ならばあれは人間の『竜騎士』か? 」


 視線が空に向けられた瞬間、屋根から飛び出したオーウェンが斬りかかる。


「【大巌砕き】」


 屋根の上からの落下速度と渾身の力を入れての縦切りが魔族を襲おうとする。

 【大巌砕き】は言葉通り、巨大な岩をも砕く事の出来る一撃だ。

 しかしその攻撃は黒い荊の束に防がれる。


「ちっ、見た目より頑丈だな」

「何者? 何奴? あの飛竜といい、お主何処から来た?」

「答えるかよ! 【連斬撃】」

「【黒荊の防壁(ブライァー・ウォール)】」


 ワサワサと荊が動き、オーウェンの大剣による素早い一撃を防ぐ。ユウが使った聖剣アリアンロッドよりも、大剣でありながら速かったにも関わらず魔族は対応してみせた。複雑に絡み合った荊はとんでもない強度を誇る。半ばまで斬る事は出来たものの、魔族に届かなかった事にオーウェンは舌打ちする。


 次いで魔族の背後、家の一角から飛び出すのはユウ。


(間に合わなかった……!)


 彼の視線の先には、黒荊に絡め取られた人々を目に止めギリッと歯を噛み締める。


 当初馬車でソドォムを目指したユウ達は王都に近付くにつれ黒い荊が王都中を覆っているのが見えた。

 その事で既に魔族による襲撃を受けている事に気づいたのだ。


 (はや)るクリスティナを(なだ)めユウは作戦を考えた。

 戦闘らしい音が全く聞こえないことから既に王都は陥落したと見て良い。

 人質を前面に押し出されたら、此方の動きが阻害されてしまう。そこで作戦ではオーウェンが囮となり彼は先に人質を解放しようとした。途中会った魔物と魔族はオーウェンに気を取られた後すぐにメイが水魔法で口を覆い、更にはクリスティナの【遮断結界】で音をも封じることでユウがすぐさま斬ることで暗殺者の如く確実に数を削いでいった。その際に人質を解放し、最後にここに訪れたのだ。

 しかし予想よりも人質の状態は悪かった。直ぐには命に別状はないが失血が多く全員が力無く呻いている。


 わかってはいたが、それを見てユウは悔やむ。もっと早く行動すべきだったと。


「考えるのは後だ。先ずは人質を解放しないと……! 【真空波斬(しんくうはざん)】」


 聖剣が輝き、真空の刃が放たれた。刃は人を傷つけることなく荊だけをズタズタに引き裂き、人質を解放する。


「【我がマナを糧にして、優しく受け止めなさい、水粘液(アクア・ジェル)】!」


 落とされた市民は同じく物陰に隠れていたメイの放つ、粘り気のある水で受け止められた。


「メイちゃん、人質をお願い!」

「うん、わかってる!」

「クリスティナさん、【結界】で防御を張ってメイちゃんと一緒に市民達を安全なところへ!」

「はい!」


 そのまま水によって回収された市民をメイとクリスティナに任せ、ユウは魔族の前に立ちふさがる。隣では同じくオーウェンが剣を構える。

 それを見た魔族が不快げに声を発した。


「何奴? 我が可愛い荊を傷つけるなど恥を知れ」

「君こそ罪の無い人々を傷付けるだなんて恥を知れ!」

「ぬかしよる。我が荊を傷つけた代償は貴様らの血で償ってもらうとしよう」


 わさわさと黒い荊が蠢きだす。オドロの堪え難い屈辱に黒い荊が共鳴しているように見えた。


「【地棘荊(エピヌ・スピーナ)】」


 地の中からユウとオーウェンを囲むように黒い荊が現れた。どうやらそのまま囲み殺すらしい。


「【聖空斬(せいくうざん)】」


 聖剣が光り輝き、回転して薙ぎ払う。

 オーウェンの一撃すら防いだ黒い荊はいとも簡単に一掃された。

 魔族はざわり、と身体を震わす。


「その剣。まさか聖剣アリアンロッド! ならば貴様が『真の勇者』か!」

「だからどうした!?」

「いや、いや、いや。勇者の血とは、良い養分となりそうだ。魔王軍『迅雷』の配下が一人『荊棘(けいきょく)』のオドロ。貴様の血を根こそぎ吸い尽くしてやる」


 うねうねと周囲の荊が蠢き始める。

 白い建物を傷つけ、破壊しながらオドロの周囲に集まっていく。


「【鉄塊(アイアン・)(ラディーチェ)】」


 一際大きな荊の(かたまり)がユウの頭上から押しつぶさんと降りかかってくる。


「うらぁぁぁ! させるかよ【竜断衝斬】」


 横合いからオーウェンがかつて竜を縦に押し潰した一撃の技で、巨大な荊の塊を弾き飛ばした。

 その隙にユウはオドロに接近する。


「ふんっ、【穿て、射貫け、貫け、(ブラック・)穿(スピア・)(スピーナ)】」

「【見切り】」


 周囲の黒い荊が蠢き、ユウを貫こうとする。

 ユウは襲いくる黒い荊に対して【見切り】を使う。

 黒い荊の動きを読み、避け、躱し、オドロへと接近する。


「甘い。【黒棘の庭園(ブライァー・ガーデン)】」


 オドロの前に地面から(おびただ)しい数の黒い棘が出現する。そのどれもが触れただけで切り刻む程の鋭利な棘を有している。そのまま飛び込めば絡め取られるのは必死だ。


「聖剣よ、どうか僕に力をーー【聖輝剣波斬シャイニング・ウェーブ】」


 聖剣より放たれた聖なる波動。

 【真空波斬】は空気を切り裂く一撃。『剣士』が習得できる上級技能(スキル)でもある。

 【聖輝剣シャイニング】は魔族にとって天敵の聖気が、聖剣に纏われ、魔族・魔物の持つ魔穢(オーラ)を浄化し、瘴気を払い、消滅させる勇者固有の技能(スキル)だ。そしてこの技能(スキル)、フォイルは使うことができなかった勇者の伝承の中にある技能(スキル)であった。

 振るわれた剣は白い軌跡(きせき)(えが)き、それが波動となり、黒い棘ごとオドロを寸断した。


「まさか全て斬られるとは……聖剣の切れ味をなめ……て……いましたか…………」


 ドサリと倒れたオドロが黒ずみ、(ちり)となり風に消えていく。

 オドロが倒れたのに伴い、王都中に張り巡らされていた黒い荊がパラパラと消滅していく。


「旦那! やったな!」

「うん。オーウェンもお疲れ様。これでこの国を襲った魔王軍は全てか……?」

「わからねぇ、だが一番強かったのはアイツで間違いねぇだろう。言葉遣いも流暢(りゅうちょう)だったしな」


 魔族の中でも言葉が達者なものほど階級と強さが高い。先程のオドロは、見た目は兎も角人間と言って良いほど言葉遣いが流暢(りゅうちょう)であった。

 そして、離れていたメイとクリスティナが市民を避難させたい後戻って来た。


「ユウさん! ご無事ですか?」

「ユウくん、オーウェンさん。こっちの怪我人は大丈夫よ。そっちは怪我してない?」

「うん、服は少し裂かれたけど怪我はしていないよ」

「はっはっは。嬢ちゃん俺の心配はしてくれねぇのか?」

「貴方は谷に転がり落ちても、崖から落ちても死ななかったくらい図太い人です。唾でもつけとけば治ります」

「手厳しいな。ったくよぉ。この心の傷は綺麗なおっぱいの大きい姉ちゃん達に慰めてもらおうかね」

「そーゆー所が図太いって言ってるんです」


 じとりと見るクリスティナの視線を、オーウェンは豪快に笑う。


「メイちゃん、怪我人は無事らしいけど本当?」

「ひとまずはすぐに命の危機に瀕している人はいないかな。相手がじわじわと(なぶ)るようにしていたから。それが良かったとは思えないけど、そのおかげで助かったの。今生き残った兵隊の人達を呼んだから、直ぐに治療施設へ連れて行ってもらえるはずよ」


 メイの言葉の通り、あの後数少ない生き残った兵士に負傷者達を任せて、その場から離脱してもらった。

 オドロがいたこの場にいるのは危険だから離れてもらったのだ。

 ユウはそれを聞いて安堵した表情で頷く。


「ファウパーン、そっちはどう?」

『ユウ兄、空から見た感じもうこの王都を襲ってる奴はいなさそうだよ』


 ユウは耳元のイヤリングに話しかけるとファウパーンからの返事が聞こえてきた。

 魔法具"二対の耳飾り(ピア・イヤリング)"。

 二対で効果を発動する、所謂通信機のようなものだ。



 ユウ達は王都が襲われているのを見た後、馬車からキュアノスによって運ばれ、オドロが気づくよりも早く上空から王都内に侵入し魔族と魔物を倒すことが出来たのだ。その後、遥か上空からこれまた獣人の血を引くファウパーンはその並外れた視力で魔族のいる位置を常に伝え、誘導してきた。


「そうか……ならこの王都はもう大丈夫だね。直ぐに別の都市にも向かおう。此処だけとは限らない」

「それには反対しないけどよ。流石にキュアノスを酷使し過ぎだろ。それにちったぁこの国の救出部隊の再編とかしなければその後の救助活動も覚束ねぇぞ」

「けど待っていたらそれだけ犠牲者の数が増えます! 無辜の民が傷つくのは女神オリンピアにとってどれだけ嘆かわしいことか……」

「そりゃ犠牲は少ないに越したこたぁねぇよ。けどよ、少しは軍のことも考えておけって。俺らが市民を解放してもその後守る奴がいないと別の街を救いに行った時に市民を守れねぇぞ」

「それは……そうだけど」

「でもユウくん、オーウェンさんの言うことも一理あるわ。焦らないで先ずは王都の人々を助けてから」







「やるじゃねぇか。まさか『荊棘』を倒すとはな」







 一斉に皆が身構える。


遠くから(・・・・)力を感じてつい来ちまったよ。あいつからは戦わずに退けって言われたが……こんな上物、逃す方がおかしいじゃねぇか」


 声の元をたどる。

 女神を(はい)する教会の頂上、女神を(つかさど)る像を不敵(ふてき)不遜(ふそん)傲慢(ごうまん)に足蹴に破壊しながら立つ一人の長い尾の白銀の魔族。魔族の周りには不自然な静電気が発生し、弾ける。


「会うのは初めてだな? オレ様は八戦将が一人トルデォン・ロイド。だがそんなのはどうでもいい。さぁ、()ろうじゃねぇか『真の勇者』さんとやらよぉ!」


 ゴロゴロと曇天が鳴る。

 バチバチと雷鳴が轟く。

 ピカッと空が光った。


 魔王軍八戦将が今、目の前に現れた。


マーキュリー「真の勇者とは戦わないでくださいね」

トルデォン「やだ」


ちなみにスウェイの時はオドロ並みに強い魔族は存在しませんでした。魔族は強くなればその闘争心と残虐性が増すのでスウェイは連れて行きませんでした。

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