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対峙

 アヤメが魔物相手に善戦している頃、他の戦いの場も激戦の一途を辿っていた。兵士が魔物を抑えつつ市民を逃し、そこへ冒険者も加わり魔族に対しての攻勢が繰り広げられている。

 初めこそ魔王軍の数が不明だったが次第に情報が共有され、魔物と魔族の数が少ないことがわかった。無論、魔族はもとより魔物も脅威であるのは分かっている。魔物一体倒すのに戦闘職十人の負傷者が出ているくらいだ。

 だが商業都市リッコは、冒険者が充実しているのだ。《2星》クラスが連携して対処し、魔物を倒す。その中にはバディッシュ達の姿もあった。



 冒険者によって魔物は抑えられている。

 ならばと、この都市の兵士達は事の元凶を討ち取るべく動き出した。




 スウェイは上空から周囲を見渡しつつ、魔族と魔物を監視(・・)する。思ったよりも苦戦している。余り意識していなかったが、冒険者の存在が思いの外厄介だったらしい。

 だが、冒険者相手には魔族をあてることで対処する。魔族は能力からして人間の遥か上だ。多少連携された所で、いとも簡単にはねのけることが出来るだろう。


 スウェイ自身は散発的に、氷の魔法を扱い教会や塔を破壊する。これには都市の制圧以外にも、お前らは自身には敵わないという威圧の意味も含まれていた。


 するとふと自らの周りに集まってくる兵士達を見つけた。


「ふぅん、そうくるんだ。やるべき事は他にもあるでしょうに」


 フワリと浮遊する氷の薔薇から態々降り立ったスウェイは、その冷たい瞳で自らを囲む兵士達を見渡した。


「囲め! 囲め! たとえ幹部と言えど敵は一人! ならば勝機はある!」

「槍を前へ! 魔族であろうと生きているのならば心臓を穿てば倒せないはずがない!」

「あらあら、良いの? 魔物は放って置いて」

「抜かせ! お前を倒せば終わりだ! 【突槍】」


 一人、腕に覚えにある兵士がスウェイに向かって槍を突き立てた。ドスッと鈍い音が鳴る。

 にやりと、兵士は笑みを浮かべる。だが次の瞬間違和感にきづく。

 スウェイには傷ひとつない。

 槍も途中で何かに阻まれたように止まっている。


 それは氷の壁であった。いつ唱えたのか、兵士とスウェイの間には氷の壁が出現していたのだ。

 一旦槍を引こうとして、気付く。腕の感覚がない。


「お、俺の腕がぁぁ!」

 槍ごと腕が凍りついていた。その様子に兵士達に動揺が広がる。全く魔法を唱えた動きが見えなかったのだ。


「下がれ! 接近戦を仕掛けるな! 我々魔法使いが相手をする! 【我がマナを糧にし、その大いなる力を以て相手を燃やせ、炎球(ファイヤーボール)】」

「【炎の矢(ファイヤーアロー)】」

「【熱風(フレイム)】」


 魔法使いが放った炎球や熱風が、スウェイを包み込んだ。集中された炎の熱が、兵士に伝わる。


「やったか!?」


 あんなのを食らって生きているはずがない。

 その様子に手応えを感じ、周りから歓声が上がる。


 しかし炎と土埃が消えた瞬間その歓声は鳴りを潜めた。『魔法使い』の放った炎魔法、その悉くが氷に阻まれ、表面すら溶けていない。


「なっ! 炎を受けても溶けないだなんて!」

「つまらない、【突き穿つ氷の槍ピアス・アイス・スピア】」

「ぎゃあぁ!!」


 氷の壁から発生した巨大な氷の槍が魔法使いの体を貫いた。死んではいないようだが、身体の一部……特に喉が凍りつきこれではもう戦えない。

 兵士達は尚も自らの武器を構えるが余りの力の差にガチガチと歯を鳴らす。


「無駄よ、無駄無駄。貴方達では此方に敵わない。諦めてこの都市を放棄なさい。今ならまだ命は取らないであげる」

「ふざけっ…ぐぁぁぁあ!!」

「うがっ」


 歯向かおうとした兵士が氷による攻撃を受ける。

 ゆらりとスウェイの背後に数十の氷槍が形成される。そしてそれらが彼女を囲む兵士一人一人の肩や足(・・・)を貫く。


「うぉぉぉ!!」

「邪魔、【氷塊(アイスブロック)】」

「ぐっはぁぁっ!」


 屋根から飛びかかり、斬ろうとした兵士に氷の塊をぶつける。彼の剣が砕け地面に転がった。


 今この場にいる兵士は商業都市の精鋭だ。

 冒険者の戦闘能力に表すと《2星》や《3星》クラスはある手練れもいた。

 その誰もがスウェイには敵わない。


 パキパキと氷が広がる。

 ジワジワと、侵蝕するように大地が凍っていく。


「氷は全てを凍らせる。身体も、魂も、大地も、全て。此方は八戦将にして『氷霧』の名を持つもの。分かったのならば身の程をわき弁えてひれ伏し、こうべを垂れ、命を惜しみなさい」

「ひ、ひぃぃ!」

「くそっ、もうダメだぁっ!」

「逃げろ! 逃げろぉ!!」

「都市は放棄する! 撤退だ! 撤退しろぉ!!」

「あ、ぐ。置いてかないでくれぇ!」


 最初の気概は何処へ、兵士らは誰一人残らずその場から逃げ出した。残ったのは折られた槍や剣の残骸のみ。

 この都市を守るはずの兵士達は屈し、その役割を放棄した。


「ふん…守るだなんて大層な事言ってもこれが人の本性よ」


 何処と無く吐き捨てるようにそう呟くスウェイ。そのまま他の兵士がいるであろう所へ向かおうとすると一人の女の子が泣きながら路地裏から現れた。


「お母さ〜ん! ひぐっ、どこぉ〜!」


 その子はアヤメとぶつかった女の子だった。


 彼女は迷子だった。

 スウェイから逃げ出す人々に押し流され母親から離されてしまったのだ。


「おかあさ〜ん! えぐ、おか、おかあさ〜ん」

「無駄よ、貴方のお母様は来ないわ」

「ひっ、だ、だれ?」

「さぁ、誰だって良いじゃない」


 少女は突然現れたスウェイに怯える。

 スウェイは先ほどの言葉、そしてこの様子から女の子が親と逸れたのだと推測(・・)する。


「可哀想に、貴方は見捨てられたの」

「ひっく…、みすてられた…?」

「そう。人は所詮自分の命が大事。貴方の母親も貴方のことを見捨て逃げ出した。だから迎えは来ない。貴方はずっと一人よ」

「そんな……うそ、うそぉ……うぐ、ひっく。うわぁぁあぁぁぁん!! おか、おかあさっ、おかあさ〜ん!!」


 耐えきれなくなったのか少女はわんわんと泣き出した。


「あぁ、本当に哀れで可哀想な子。…。…………」







ーーおかあさ〜ん! どこにいるの〜!? ごめん、ごめんなさいっ、ひっく◾︎◾︎◾︎◾︎を一人にしないで〜! 





 何処か何かを思い出すような遠い目をするスウェイ。



 その隙を突くように、ヒュンと何かがスウェイの前に投げられ、爆発し煙が生じた。


「何ッ!」


 突然の煙にスウェイは驚く。敵かと思い、追撃を防ぐ為に自身の周りに氷の壁を作る。

 しかし、思ったはずの攻撃は来ず。

 気付けば側にいたはずの女の子もおらず。

 何処へ、と視線を巡らせると離れた所で女の子を抱えた赤い髪のやたらと丈夫そうなフード付きの外套を着た、仮面の男が居た。





「大丈夫かい?」

「ふぇっ、あ、あの時のお兄ちゃん」


 泣いていた女の子はアヤメ()の顔を見て驚く。

 その姿を見て目は腫れているけど、怪我がないことに安堵した。


 ある程度の魔物を倒した俺は、逃げ出す兵士達を見てまた魔物が現れたのかと思い、現場に急行した。


 そこに居たのは女の子の側にいたスウェイだった。

 スウェイが何か手を出そうと(・・・・・・・・)していた(・・・・)と思った俺は、すぐさま女の子をスウェイから離れさする為、煙玉をまいた。


 女の子は俺の姿を見て安堵しているようだった。


 その一方でスウェイは不快げな雰囲気を醸す。


「何者? 邪魔をするなんて不粋よ。極めて不愉快だわ」

「そっちこそ、幼気な子供を泣かせるだなんて酷いことをするじゃないか」

「事実を言ったまでよ」

「この状況を生み出した本人が言うだなんてタチが悪いね」

「皮肉のつもり?」

「真実だろ?」

「ふ〜ん、中々口が回るのね? でも貴方もどうせ変わらないわ【突き穿つ氷の槍ピアス・アイス・スピア】」


 『兵士』の【突槍】とは比べ物にならないスピードで氷の槍が射出される。

 だが見切れない程じゃない。

 これなら『疾風』のオニュクスの方が早いくらいだ。

 俺は女の子を抱えてその全てを躱す。


「躱された? 技能(スキル)?」

「お、お兄ちゃんっ」

「下がって、何処かに隠れているんだ。……スウェイ! 狙いは俺だろう!? なら俺の相手をしろ!!」

「言われずとも。ならばこれでどう、【蠢く氷河(グレイシャー)】」


 パキパキの波のような氷が地面を伝って鋭利な棘となって迫り来る。


 俺は剣を構え、その波に向かって走り出した。


 自らの足に氷が到達しようとした瞬間、跳躍し、途中の家の壁を走ることで接近しスウェイに対して剣を振りかぶる。


「"緋華(ひばな)"!」

「近づけさせるとお思いで? 【氷壁(アイスウォール)】」


 割って入るように地面から氷の壁に俺の攻撃は阻まれる。跳躍と一点に集中した"緋華"で、氷に切れ込みは入るが貫通には至らない。

 予想はしていたがやはりそんな甘くない……か。


 氷が剣を侵食するより前に氷壁を蹴ってその場から離れる。


「ふ〜ん、判断は悪くないかな。あの兵士みたいにずっと此方の氷に触れようとはしなかったもの。だけど、まだまだ甘いわ。自ら逃げ場の無いところに行くなんて。終わりよ、【突き穿つ氷の槍ピアス・アイス・スピア】」


 先程と同じ、しかしより数を増した氷の槍。


 俺は空中。回避する場所はない。


 ーーだがそれがどうした?

 回避できないのなら


「迎撃するだけだッ!! "沙水雨(さみだれ)"!」


 剣を構え、迫り来る氷の槍に向かって俺は剣を振った。




 幾ら絶技を磨こうとも、その技術は技能(スキル)には及ばない。

 しかし、アヤメはその技で既に数多の魔族と魔物を倒した。それは彼自身の経験と身体能力によるものだ。


 『大魔法使い』クラスのスウェイと、剣士のアヤメ。普通なら両者の力関係には深い溝がある。


アヤメが勝るものーーそれは観察眼と身体能力。アヤメは己に向かって穿たれた氷の槍の脆い部分、その全てを見切り、見極め、剣を振って精緻に、精密に全てを迎撃する。

 沙水雨さみだれとは、その為の"絶技"である。


 元々は、聖剣を扱えていた頃、技能(スキル)に頼らずとも戦えるようになる為に訓練してきた動きを元にしている。

 その動きは、降り注ぐ雨全てを剣によって一滴一滴弾く為に来る日も来る日も雨が降った日は剣を振ってきた。


 それは聖剣が重くなった日にも続けてきたほどだ。





 迫り来る氷の槍を、斬り、砕き、逸らし、割る。


 技能(スキル)がなくなろうと剣を振り続けた。来る日も来る日も振って来た。

 その日々は決して無駄ではなかった。無駄じゃ、なかった……!


 俺の絶技によって氷の槍は全て砕け散った。




「…全部砕かれた?」


 驚いたと言わんばかりのスウェイ。しかしそれよりも俺はあることに気付いた。


「しまった!?」


 アヤメの技術は卓越しても、装備もそれに追いついていなかった。ファッブロの剣は頑丈さに重きを置いたのでその分斬れ味が良くない。

 だからか、氷を迎撃した時割る(・・)になり、その破片は大きかったのだ。


 大きく砕け散った氷の破片が当たり、飛び散った家の瓦礫が女の子に向かって降りかかる。まずい! 間に合え!

 俺は壁を思い切り蹴って加速し、女の子を抱える。


「きゃあっ」

「くっ!」


 女の子を抱えてその場から離れる事には成功する。

 だが同時に砕けた破片の一つが当たり仮面が外れてしまった。


「…? …! 貴方、もしかして」


 スウェイは何度か瞬きのような動作をした後、何か気付いたように身体を震わせた。


「あはっ、あははははっ! あー、そう。そういうことなの。まさか生きているとは思わなかったわ。成る程成る程、此方の氷を撃ち砕く技量も納得いくわ。この街を落とすことよりも貴方の方に興味が湧いたわ。ねぇ、偽物さん(・・・・)? 」


 やはりスウェイは俺に気付いた。まいったな。これが他の幹部なら良かったがアイツはベシュトレーベンとトルデォンと同じで俺の面を知っている。俺はあくまで落ち着いたように振る舞おうとする。


 すると突然足元から揺れた。


 地面を砕いて現れた蛇に手がついた魔族が女の子を捕まえた。


『スウェイ様! 捕マエマシタ、コンナヤツ俺ガ頭カラ食ベテヤリマス』

「ひぃっ!」

「なっ、その子を離」

「【瞬間凍結(フローズン)】」


 俺が剣を振るうよりも早く、スウェイの手から放たれた超低温の魔法が、女の子を握る手を除いて魔族の体が全て凍らせる。


「貴方達は兵士の相手をしてれば良いの。此方(こなた)の邪魔をするな」


 凍った魔族が割れ、女の子が落下するのを俺は慌ててキャッチした。


 スウェイは一瞥するも動かない。

 仲間割れか? いや、どちらかと言えばスウェイが一方的にしたように見えたが。一先ず俺は改めて女の子を庇うように立つ。

 それでも尚、スウェイは動かない。


「ねぇ、偽物さん。どうして貴方は生きているの? てっきり死んだと思っていたのだけれど」

「素直に答えると思うかい?」

「いいえ、思ってないわ。だから、そうこれが終わったら尋問してあげる。身体中を氷漬けにして……ね」

「それは遠慮したいかな」


 スウェイは完全にこちらに狙いを定めた。

 その事に関しては嬉しいが、同時に感じる重圧に背筋が冷たくなる。さっきから放たれる氷の冷気も合わさって身体の芯から凍りそうだ。

 だがそれよりも心配なことがあった。


「ひっ」

「大丈夫だよ」


 後ろの女の子が心配だ。

 さっき魔物に襲われたからか、一人で逃げ出すことに対して恐怖に駆られている。この子を庇って戦うのは……厳しい。だけど見捨てることも出来ない。


 どうするかと対峙する俺たちに、誰かを呼ぶ声が聞こえた。


「ラーミア! 何処にいるのラーミア!!」

「あっ! おかあさん!」


 現れたのは、この娘の母親だった。

 魔物が蔓延る中、娘を探しに来たのだ。

 女の子は俺から離れて母親の元に抱きつく。


「おかあさん! ひっぐ、えぐ、うわぁぁぁん、こわ、こわかったよぉ〜!!」

「ラーミア! ごめんね…! 一人にしちゃってごめんねっ!!」


 お互いに泣きながら抱きしめあう親子。

 そこにあったのは深い愛情。


「どうやら当てが外れたみたいだね。君が思うほど親子の絆は脆くないよ……ん?」


 何故だかスウェイの様子がおかしい。ブツブツと親子の方を見ては何かを呟いている。




「迎えに来た…? なんで、死ぬかもしれないのに。おかしい、おかしい、おかしい。親子の絆なんて脆いもの、あってはいけないもの。なのに、なんで、なんで、なんで」


ーー汚らわしい


「なんで…」


ーー出来損ないめ


「なんで……此方(こなた)だけ……」

「? 」


ーー捨ててしまいましょう


 パキパキとスウェイの周りに氷が形成される。初めの一撃で凍らせて置いた氷も集まり、次第に最初に乗っていたよりも巨大な華がスウェイの足元に形成される。更には底冷えするほどの寒さが辺りを包み込む。


「あぁ、あぁ。うるさいうるさいうるさい。妬ましい嫉ましい。どいつもこいつも此方に見せつけて(・・・・・)。うるさい不快不愉快。全て、総て、凡てを破壊してあげる」


 ヒュュュウと不気味な風切り音と冷気がスウェイの元に集まりだす。


 上空からはスウェイの乗っていた氷の華が。

 家からは凍らせていた氷の塊が。

 大地からは凍結していた氷が。


 それら全てを包む、スウェイの足元の巨大な氷の華。


 異様な空気。異様な気配。


 否応無しに俺は警戒する。

 これはやばいとーー



 そしてスウェイは一言


「【動く氷巨像(ヨトゥム)】」


 氷の華を中心に巨大な氷の巨人が出現した。

◾️が微妙なので、何か別の◾️があれば教えてください

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 最初に助けられたタイミングで逃げてないのも、蛇に襲われた女の子の名前がラーミア(蛇女神)なのも、明らか戦闘が行われてる場所に娘がいると確信して迎えにくる母親も違和感です
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