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冒険者、お断り

「あれが商業都市リッコだ」

「へぇ、あれが」


 遠目に見るだけでもかなり大きな街であることがわかった。何故なら視界一杯に広がる壁に門の前に並ぶ数多くの馬車…商人達の数が非常に多い。

 つまりそれだけの商人が此処を訪れるだけの価値があるというのを語っているようなものだ。


 実際、商業都市リッコの周りは山が多く魔獣も多く生息している。唯一此処が平らな地域で、そこに商業都市リッコが建設されて以降、太陽国ソレイユを始めとする魔界に近い国々と後方の国々を結ぶ重要な中間地点として栄え、今や殆どの商人がここを通って移動している。

 その数は一日で1000人に及ぶとも言われている。魔獣被害や魔物からの襲撃があるこの世界で、たかだか一都市にこれ程の商人が訪れることが、どれほど重要視されているかわかるだろう。


 俺は彼らの後ろに並ぼうとする。


「おいおい、並ぶのはそっちじゃないぞ?」

「ん? みんなこっちに並んでないかい?」

「そっちは商人専用だ。商人が中に入るのに馬車の中の検査とかあるからな。一般人までそっちに並んじまったら街に入る前に日が暮れちまう」


 なるほど、道理だ。

 俺はバディッシュ達の後ろについて行きながら、門を潜るのを待った。




 




 商業都市リッコに到着した俺たちは検問を抜けて街に入った。

 実は少しばかりジャママで揉めた。『魔獣使い(テイマー)』の契約魔獣ならともかく、子どもとは言え街に魔獣を入れるのは難儀を示した。


 けども、バディッシュの言葉と少しばかり金を渡す事で通ることが出来た。


 ただ鎖の紐を首輪につける事にはなった。因みに自腹だ。

 …本当に犬みたくなってきたな。ジャママも不満そう…いや。これは俺が手綱を握ってるのに不満と見た。流石にアイリスちゃんが握ると振り払われるのでは?と、門番に言われたのだ。


「自分は早速、親方にこれを渡そうと思います! 報酬自体はギルドに予め渡してあるので受け取ってください! もし何かあれば"ダルティス工房"に来てください! それでは!」


 都市に入るやそれだけ行ってシンティラくんはさっさと人混みの中に消えていった。大事そうに飛竜の内臓が入った瓶を抱えて。


「忙しないね、本当」

「だろ? だから誰かが手縄を握っときゃならねぇ。それよりも冒険者ギルドはこっちだ」


 バディッシュの案内に従い俺たちも後ろについていく。

 道中多くの人が荷馬車に引かれた飛竜(荷馬車は街に入る際に借りた。今までバディッシュが飛竜の載せた台を引いていた)に、そして荷馬車を率いる俺たちを見る。

 つまり非常に目立っているということだ。


 しまったな。俺もシンティラさんみたいに途中に理由をつけて離れとけば良かった。だけど今からいなくなるのは余りにも不自然だ。

 アイリスちゃんも街ではエルフは少し目立つと思ったのか、フードを被っている。俺もフードを被ってるけどやっぱり目立つようだ。

 だけど、ここで挙動不審になるのはおかしいかと、俺は胸を張ることにした。


「アヤメさんアヤメさん! 見てください、町で見たよりも大きな建物が沢山あります!」

「そうだね。やはり町と街では建てられる建物の規模も何もかも違う。見てみなよ。彼処に噴水があるよ。フィオーレの町のよりも大きい」

「本当ですね! 中央にある石像も立派です」

「はははっ、嬢ちゃんからすればやっぱり人の街ってのは珍しいか?」

「そうですね。わたし達は森に文明を築いてはいますけど、やっぱり人のそれとは別方向なんです。例えば、里にある家は全て木の上にありますし、それぞれを繋げる(つた)で出来た橋もあります。更には"蛍キノコ”と呼ばれる淡い青光を発行するキノコが夜であろうとわたしたちの里を照らしてくれています」

「へぇー、今すっごい貴重な話を聞けたかも。エルフって、そんな風に住んでいるんだぁ」

「基本的に絵本の中での存在ですからね。僕たちも、正直アイリスさんを見るまで存在自体には半信半疑でした。殆ど人の領域に出てくることがありませんから」

「むっ、それはわたし達が引きこもりだと言いたいんですか?」

「えっ!? そ、そんなつもりでは」

「ははは! 一本取られたなランカ!」

「バ、バディッシュさん!?」


 皆で笑いあう。

 その間も、色々な建物を見てはしゃぐアイリスちゃんや美味しそうな匂いに釣られそうになってるジャママを抑えながらも、目的地に向かって歩き続ける。


「よし、着いたぞ」

「へぇ、ここが」


 着いたのは、周囲の住居よりも高い建物。看板には剣と盾が重なり合っていた。


「ここがこの街の冒険者ギルドだ。中々に立派だろ?」

「中には酒場や売り場も併設されているんですよ。冒険者ギルドに属すれば他の店より、ほんの少しだけ割安にして貰えるので僕らも良く使っています」

「成る程。冒険者に合わせた施設も充実しているんだね」

「おうよ。あ、そうだミリュス。ちっと隣の倉庫に話つけて飛竜の方をそっちに運んで置いてくれ。流石に中には持っていけないからな」

「分かったわ。それじゃ、アヤメくんもアイリスちゃんもジャママちゃんも、また後で」


 ここでミリュスちゃんが一旦離れる。

 隣の冒険者ギルドが建てた魔獣や様々な商品を格納する倉庫へ荷馬車を引いて離れる。


「それじゃ、早速中に入ろうぜ」


 バディッシュの案内で、俺たちは冒険者ギルドに入った。





 入った途端、俺が感じたのは独特の雰囲気。市場や騎士団の練習場とも違う、少しピリつきながらも喧騒があった。


 俺は一階を見渡す。一階はギルドに依頼をしたり、冒険者が依頼を受ける受付があった。その隣に木のボードがあり、依頼書が貼り出されている。そこには複数の、バディッシュのような格好をした人達がいた。


 成る程、手練れが多いな。

 装備もだけど、それ以上に実戦慣れした気配が漂っている。

 街の兵士達よりも強そうだ。


 二階の酒場で酒を飲んでいる冒険者も、一見無防備に見えても武器を手放したりしていない。


<カゥ…カゥゥ…>

「ジャママ、ちょっとだけ我慢してくださいね」


 酒場の酒の匂いでジャママが鼻先を抑えていた。

 鼻の良いジャママにはキツイらしい。だけど今は我慢してもらうしかない。アイリスちゃんも、ちょっとした雰囲気に()されたのか、すすっと俺の後ろにぴったり着く。


 そんな様子を知ってか知らずか、バディッシュはずんずん受付に進んでいき、女性の受付に話しかける。


「おーう、今帰ったぜ」

「バディッシュさんたちじゃないですか。お帰りなさい。? "ダルティス工房"のシンティラさんの姿が見えませんが、彼のお目付けだったはずじゃ?」

「まぁ、そのつもりだったんだけどな。シンティラさんは先に帰った。それでよ、実は飛竜の素材が一頭分手に入ってな。依頼料もだが、素材の買取をしてもらいてぇ」

「飛竜!? まさか…討伐出来たんですか?」


 話された内容に驚いた受付嬢が思わず声を出しかけるも、其処は鍛えられた仕事人、すぐに落ち着きを取り戻して声を顰める。


「おうよ、まぁ《三星》の俺らにかかれば飛竜なんぞ、ささっと倒せるぜ」

「バディッシュ、嘘の報告はギルドからの信頼を下げますし、ペナルティもありますよ」

「わかってるっての、ランカ。今のは冗談だ。倒したのは本当だけど、そこの二人の力を借りてな」

「二人…? 」

「こんにちは。俺はアヤメ。そして」

「アイリスです。あとバディッシュさん、ジャママの事も忘れないでください。ジャママが居たからこそ貴方達に気付いたし、飛竜も追跡できたんですよ」

<ガゥ!>

「おぉ、こりゃすまないな」


 アイリスちゃんに抱き抱えられたジャママが一吠えする。

 受付嬢はそんなジャママよりもアイリスちゃんを見て目を見開いていた。


「すごい…美人…」


 フードを被っているがそれでも正面から見るとアイリスちゃんの顔は整っている。


「素敵! 成る程私の醸し出すおとなのびぼー(・・・・・・)に当てられたのですね。ふふん、もてる女は罪なのです」


 どや顔で誇るアイリスちゃん。確かに魅力的かもしれないけど、それが大人の魅力と言って良いのかどうか。どちらかというと完璧な人形に近い感じだ。

 受付嬢も苦笑いしていた。奥の職員達も似たり寄ったりの反応だ。ただ中には顔を赤くして息を荒げる者もいた。

 …あれはちょっと注意しといた方が良いかもしれない。


「あの、ボーとしている所悪いけど、俺たちは冒険者ギルドについてよく知らないんだ。詳しく聞いても良いかな?」

「あっ、はい。申し訳ありません!」


 受付嬢は頭を下げる。


「先ず初めに冒険者ギルドについてどれほどご存知でしょうか?」

「悪いけど殆ど知らないんだ。バディッシュに聞いた内容ぐらいだけど、市民からの依頼を受けて魔獣を討伐するとか」

「大体はその通りです。市民から貴族、果ては国まで様々な依頼が此処冒険者ギルドには集まります。薬草の採取、馬車の護衛、魔獣の討伐から捕獲、調査などその仕事は様々です。そしてこれが冒険者ギルドの特徴なのですが、様々な国に冒険者ギルドは存在しているんです!」

「国を跨いで存在しているのか? それはすごいね」

「はい! ずっと昔にあった魔獣による被害を防ぐ為に200年前の勇者様達によって設立された機関なんです。以来人々にとって無くてはならない機関なんです!」


 200年前。勇者。


 あぁ、思い出した! 寧ろ何で忘れていたんだ!

 金白狼の時もだけど、魔獣などを専門に相手をする機関それが冒険者ギルドだ!

 先代(・・)勇者ノア・ゲオルギオスが、各地を回る中で魔物の被害だけでなく、魔獣の被害に嘆いている民を見て、積極的に魔獣を討伐し、それに感化された勇士達が国に頼るのではなく、自分達で対処するようになったんだ。そこに利を見た商人や国からの支えもあり、段々と規模が大きくなるにつれ、組織を作るようになりこうして生まれたのが冒険者ギルドだった。


 『勇者の物語(ブレイブストーリー)』にも、勇者によって救われた人々がその後別々の場面で活躍するってのは良くあった。

 それ程に、先代の影響は大きい。

 その一方で何故か当時の多くの国とかの歴史については殆ど記されていない。

 魔王軍の被害が余りにも大きかったかららしい。途絶えた技術も数多くあるとか。


「また、ギルドではランクと呼ばれる階級で、受けられる依頼を分けています。最初の《無星》から始まり、一つずつランクが上がっていきます。その際にこうして星の一角を埋めていくんです。一番上の一星、通称《光星(アストライアー)》と呼ばれるものが最高ランクです。といっても最高ランクの方はそれほど多くないんですけどね」

「依頼もランクで分けられているっていうけど、上のランクの人は下のランクの依頼を受けられないのかな?」

「いえ、そういう訳ではございません。中には特殊な技能(スキル)で薬草の採取に特化した方などもおりますので、基本的に受けては良い様になってます。ただ、実力がある方にはこちらからランクに相応しい依頼を斡旋したりします」

「基本的には、ってことは高ランクの人が低ランクの依頼を受ける人は少ないのかい?」

「えぇ、はい。先程の例は殆どおりません。そもそもあまり高ランクの人が下のランクの仕事を取り続けると低ランクの人が仕事出来なくなってしまうのです。それに何だかんだで高ランクの依頼の方が報酬も多いのです」


 成る程、低ランクの冒険者を守るために必要な措置だ。


「参考までに1チームあたり何人程いるのかな?」

「えっと…確かチームとしては構成員が最小で三人、最高で二十名程のチームがあります。とはいえ、余りにチームの人数が多すぎると一人当たりの配当するお金がどうしても少なくなるので。でも、個人で《光星(アストライアー)》を獲得している方もいます」


 へぇ、面白いな。

 個人で最高ランクとなるとどれほど強いのだろうか。少なくとも今の俺よりも強いのは確実だ。

 だが、グラディウスとメアリー程才能があるかどうかは分からないな…。それ程強いとなると国の方が囲ってそうだ。


 ふと疑問に思った。


「そういえばバディッシュ達はどのくらいなんだ?」

「俺か? 俺たちは《三星》だな。所謂中堅みたいな実力だ。一応この街じゃ上の方だぜ」

「すごいね、君達ギルドからの信頼も厚い実力者じゃないか」

「貴方に言われたくないですね」

「全くだ」

「背後から飛竜の尻尾を切断した男が何を言うんですか」


 あれくらいならユウも出来るだろう。飛竜も何だかんだで討伐できる者もいる。だから別に俺が特別優れている訳じゃない。

 《光星(アストライアー)》の人も倒せるはずだ。そして多分、アイリスちゃん以外のエルフにも倒せる奴はいるだろう。

 …こう考えると飛竜を倒せる人が結構いるな。


「あの、ここまではよろしいですか?」

「あぁ、ゴメン。大体冒険者ギルドの意義はわかったよ。それで、もし良ければ規定を書いた書類とかあるかな? 」

「ありますよ。少々お待ちください…ありました、どうぞ!」

「ありがとう」


 受け取った資料は使い込まれたのかしっかりとしていた。

 感謝の言葉を言って中を見る。


「む、むぐぐ…見えないのです」

「あぁ、ごめんよ」


 アイリスちゃんにも見えるように屈んで一緒に見る。

 いくつかの規則に目を止めながら、俺はパラパラと内容を読む。


1.冒険者は冒険者ギルドに属する代わりに、依頼を受ける義務を負う。

2.冒険者の進級はギルドが規定した試験を突破、或いはランク以上の魔獣を討伐した際、審議によって決定する。尚、偽装した場合今後永久に冒険者ギルドから追放する。

3.冒険者ギルドに属する場合、職業(ジョブ)、年齢、出身地を明らかにする。これは詐欺を防ぐ為の措置である。

4.冒険者自身が依頼を発行する事も可能である。

5.冒険者は街および国内での武器の抜刀を禁ずる。ただしやむを得ない事情がある場合はその限りではない。

6.冒険者は……


 結構細かく規定がされていた。

 俺は内容を理解するためにキチンと読む。こういったことは適当に読むとひどい目にあう。

 その内の一文に目が止まった。

 …なるほど。


「冒険者は依頼をこなす事でお金を得られ、市民は冒険者によって物事を解決してもらう。国は魔王軍との戦いだけに集中できる。正に夢のような機関だ」

「はい! それでどうでしょうか。飛竜を倒せる方となれば期待の新人です! なので、冒険者ギルドに登録を!?」

「えぇーー」


 俺は笑顔で言った。


「謹んでお断りします」


 書いてる身で何ですけど、冒険者ギルド程実態が不明瞭なものはありませんよね。

 稚拙では先代勇者ノア・ゲオルギオスによって発足された組織となっています。当初こそ崇高な願いによって発足された組織ですが、今の冒険者ギルドは色んな国の下部組織に当たり、それぞれ各国のギルドが相互協力しています。冒険者は国同士の争いに直接駆り出されはしませんが、魔族との戦いには駆り出されます。言っては何ですがほぼ傭兵に近いです。

 因みに太陽国ソレイユを作った勇者と冒険者ギルドを作った勇者は別々になります。太陽国ソレイユには軍の対応がしっかりしているので民への魔獣被害も少ない為、冒険者ギルドが無いのでアヤメも知りませんでした。

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