絶技
ちょっと仕事の都合で遅れました。申し訳ありません
ちちちっと小鳥の囀りが聞こえる。夜が明けてきたから生物達も目を覚まし始めたのだ。
森の中では街の喧騒はなく、野生動物の活動音以外は静寂そのものだ。
まるで自分一人世間から弾き出されたような感覚。だけど、この感覚を俺は嫌いではなかった。
「はぁ!! 」
今日も今日とて修行する。これは勇者の時からずっと続けて来た日課だ。
俺はまだ自身の体がどこまでいけるのかわかっていない。
そう思うと一度限界まで身体を酷使してみたい気になるが、その後の反動や疲れを考えるに街で武器や防具など着実な基盤を築いて、魔獣に襲われる危険性が無いところで行わなければいけない。
少なくとも、今の魔獣の領域で行うべきではない。だから俺は旅に支障の出ない範囲で聖剣を所持していた頃の動きを思い出そうと訓練していた。
暫くしてこれ以上は支障が出ると止めた頃。
見計らったようにアイリスちゃんがタオルを渡してくれた。
「精が出てますねアヤメさん。はいどうぞ」
「アイリスちゃん。ありがとう」
「やっぱり前よりは身体が動くんですよね?」
「うん。やっぱり格段に良くなっていると思う。こうして鍛錬するだけだけどね。オニュクスとの戦いも、ディアスの兵士との戦いも良い経験になったよ」
どっちも相手が能力と技能を使ってきた。そんな相手との戦いは俺自身の戦い方に変化を生んだ。
「そういえば途中何かを思い出すように目を閉じたり、構えたりしてましたけどその時の戦いを思い出していたんですか?」
「うん、そうだよ。それ以外にもあるけどね」
「それは?」
「あぁ、見といてくれるかな? ーー"緋華"!」
俺は剣を水平に構え、突く。
同じ突きでも先程までとは違い、鋭利に空気を切り裂く一撃。
アイリスちゃんもその違いがわかったのか碧い瞳を見開いていた。
「…アヤメさん、技能を扱えるようになったんですか!?」
「いや、俺は技能は使えないよ」
「えっ、でも今…」
「あぁ、それは技だよ。アイリスちゃん」
「技?」
元々俺は聖剣を扱えなくなるにつれて自らの技術でそれを補うようになっていた。
色んな型、太刀筋、動き、そして技能。
それらの集大成が先程の技だ。
そう、俺は技能を模倣した技を生み出そうとしていたのだ。
「さっきのは【突貫】を真似したんだ。だが欠点もある」
「それは…もしかして本当の技能の威力にはほど遠いという訳ですか?」
「察しが良いね。その通りだよ。【突貫】は薄い鉄板すら貫ける技能で、その威力も普通に突くよりも強化されている。だけど俺の"緋華"は俺自身の力と剣の強度…つまり、俺自身に依存している。俺が疲労すれば当然威力は落ちるだろう」
「でも充分だと思います。アヤメさんの身体能力と技術があれば、それはもう立派な技能ですよ!」
「いや、そんな事はないさ。本職の人達からすれば俺の剣術は邪道も良いところさ」
すっと、脳裏によぎったのはベシュトレーベンの一撃。
山を崩した、咆王崩壊拳・鏖塵。
…俺はあれに対抗できるのだろうか?
どれだけ考えても、答えは否だった。
その他でも聖剣を所持していた頃と比べたら威力も劣る。
その程度のものなのだ。俺の技は。
「けど、少しだけ自分のこれからの方向性について歩む事が出来るようになったよ」
「アヤメさんが自分に自信が持てるようになったのは嬉しいことです。けど、なんか技ってだけじゃ味気ないですね…。! そうです! 絶技って名前にしましょう!」
「絶技?」
「技能がないアヤメさんだからこそできる、剣の巧みと身体能力が合わさった力、それが絶技です!」
絶技か。
技能に対して俺だけが持つ技。
勿論、剣には剣術というものがあるけれどそれらも殆どが技能によって構成されている。
なら、俺のそれとは似て異なるものなのだろう。
「絶技か。良いね。次からはそう名乗るよ」
「はい! でも鍛錬に関しては少し自重してもらいたいですけど。ここだけ除草されたみたいになってますよ」
「…ごめん」
俺の周りの草や木は剣戟によって刈られていた。
ゴメンと頭を下げたら、別にこの程度なら問題ないのですとアイリスちゃんが何やら唱えると直ぐに元に戻っていった。
…次からはもうちょい抑えよう。
「それで次の街は後どれくらいなんでしょう?」
「う〜ん、フィオーレの町で聞いた限りだと馬車で4日だから徒歩だと10日くらいかな。今は6日歩いているし、早くて2日かな?」
俺たちは次の街を目指して歩いていた。
当たり前だけど街と街の距離というのはかなり遠く俺たちはこうして歩くのは6日も経っていた。
そのせいか少しばかり食料が心配になって来た。途中魔獣を狩れれば良いんだが、食べられる魔獣とは限らない。
「こうしてみるとやっぱり遠いですね。馬でも借りるべきでしたでしょうか?」
「運悪く馬車の便がなかったからね。それにロメオくん達の事もあったから借りていく暇がなかった」
「そうでした」
「アイリスちゃんは歩くの嫌いかい?」
「いえ嫌いではないのです。元々里以外はほぼ自然のままの環境の森で生きてきましたから。魔獣を倒すことも、木登りも得意です。木登りに至っては200メートルある木を登ったことがあります」
「200っ!? 凄いなそれは。太陽国ソレイユのユーリウス城より高いじゃないか…」
「でもわたしはいつもびりっけつでした。他の同年代と比べたらわたしは身体が貧弱な方です」
「人と比べたら充分だと思うけどなぁ」
「アヤメさんにも負けています。ですので、守ってくれますよね?」
「それは勿論」
「えへへ〜、やっぱりアヤメさんは素敵です!」
こんな風に会話するのもいつもの事だ。
それでも周囲を警戒することは怠らない。だが仮に俺が周囲を警戒しなくても大丈夫だろう。
何故なら俺たちの先を歩くのはジャママだ。ジャママはやはり魔獣なのかそういった気配に対して鋭敏だ。前に夜に俺が気がつかなかった小さな蛇にも気付いた。
それほどジャママの能力は優れている。これも、魔獣が持つ力の一つだろう。
すると先頭を歩いてジャママがピクンと歩きを止めた。
「あれ? どうしたんですかジャママ?」
<ガウッ! ガウッガウッ! >
「わっ、本当にどうしたんですかジャママ!」
突然ジャママが吠え出したかと思うと走り出し、森に消えていく。
「ジャママ!」
「何だかのっぴきならない事が起きてそうだ。追おう!」
「は、はい!」
俺とアイリスちゃんはジャママを追って森の中に入った。
山の中の道はかなり悪い。
歩きでも泥や木の根に足を取られたり、鋭い葉っぱで皮膚が切れたりすることがあるのに走るとなるとその危険性は増す。
しかし、走るのは俺とアイリスちゃんだ。俺は長年の戦闘経験からこの程度なら慣れているし、アイリスちゃんも森が庭のエルフ。どちらも転ぶことはない。
注意すべきはジャママを見失う危険があることか。
だが幸いジャママはある程度進んだ先、崖の手前で止まっていた。
「ジャママ、勝手に行っちゃ駄目ですよ!」
「一体どうしたんだジャママ。急に駆け出すなんて」
<カァウ。ガゥゥ!>
ジャママはアイリスちゃんに抱えられるも此方に振り向かず吠える。
一体なんだろうか?
俺が覗くと崖の下、そこで一団が多数の狼魔獣に襲われていた。
<ウォォンッ!>
「ちぃっ! いってぇなクソが!!」
襲い来るハイエナが男性の足を噛み付く。幸い足鎧があるから防がれるが、隙間に歯の一部が突き刺さる。
男性は、噛み付くハイエナにハンマーを振り落とし圧殺する。
「バディッシュ! どうしよう、さっき使っちゃったからあたしもうそんなに魔力の余裕がないよ!」
「僕も矢がもうそんなにないっ」
「分かっている! くそ。禿鷹どもが!」
「禿鷹じゃなくてハイエナだよっ! でもどっちにしても狙われているのに変わりないけどもっ」
「だ、大丈夫なんですかこれは!?」
「下がってなシンティラさんよ! アンタじゃ戦えねぇ!」
巨大なハンマーを装備した男、バディッシュが後ろの三人に注意を促す。
「ミリュス! お前は俺を越えようとする奴に魔法を使え! ランカ! お前はミリュスと同じく越えようとする奴だけに矢を射て!」
「バディッシュはどうするんですか!?」
「俺まで後ろに下がったら全員ハイエナに囲まれるだろうが!」
バディッシュはハンマーを握り直す。
「おらぁ!! 来るなら来やがれ! ただしタダでは食われてやらねぇ! お前らも道連れにしてやらぁぁ!!」
<ウォォォォッ!>
猛然と、ハイエナ達がバディッシュに飛び掛かろうとした時。
上空から短剣が三匹のハイエナの脳天を貫いた。
絶技:非常に優れた技のこと。絶妙な演技や技術。
webblio辞書より参照




