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地下迷宮へ

著者の別作品「おっさん船医ですが処刑されました。しかし生きていて美少女美女海賊団の船医やっています。ただ、触診をセクハラというのはやめて下さい。お願いします」も更新致しました。

興味のある方はぜひお読みください↓

https://ncode.syosetu.com/n7090eo



 "白亜の灯都スティーニオ"のとある宿。


 アイリスは手持ちのブラシでジャママの毛を梳いていた。ジャママは気持ちよさそうに仰向けになってされるがままとなっていた。


 キキョウは手持ち無沙汰気に部屋中に氷で出来た小さな塊を手で弄んでいる。


 微かな毛を梳く音だけが部屋に響く。


 何度目かわからない言葉をアイリスは呟く。


「アヤメさん達、今頃何してますかねぇ」

「ちみっ娘、それ5回目よ」


 訂正。どうやらキキョウは律儀に数えていたらしい。

 キキョウからの言葉にアイリスはほんの少し唇を尖らせる。


「むぅ、ぼっちは気にならないのですか?」

「全然? まぁ、何か厄介事に巻き込まれてないのか心配はあるけど」


 キキョウの予想通り今冒険者ギルドでアヤメ達は言い争っているのだが、その事を知る由も無い。


「てか、折角アヤメ達が考慮してくれたんだから、身体を休ませなさいよ」

「そうは言われても落ちつかないんです。例えるならそう、木の葉が風に煽られて落ちそうで落ちない、そんな様子を見ているような」

「微妙に共感しにくい例え、やめてくれないかしら」


 独特の例えに、キキョウがなんとも言えない顔をする。


「……実際の所、本当に疲れが出たの?」

「え?」


 キキョウの問いにアイリスは虚をつかれた顔をする。


「何よ、その顔。別に体調崩したのがちみっ娘だけなら、そんな事もあると思うわ。だって、あんた貧相だし、弱いし」

「あっ! ばかにしましたね! 途中で、溶けかけの氷みたいになっていましたくせに!」

「なってませんー! 言い掛かりはやめなさい!」

「先にケンカ売ったのはそっちですよ!」

<クゥン……>


 困った様に二人をオロオロと見るジャママを見て、アイリスとキキョウはバツの悪そうな顔をする。


「……本題に入れないから、この事は一旦置いておきましょう」

「そうですね。後でまた話し合いましょう」

「それで話は戻すけど、この都市に入った時の違和感。それ自体は此方も感じたわ。正直、かなり居心地が悪いのよね」


 軽く肩をさするキキョウ。


「まぁ、でもそれだけよ。別に何か危害があるわけじゃない。でも、あんたが言ったらきっとアヤメはすぐこの都市から出る判断をするわ。彼は、優し過ぎるから」


 キキョウの言う通り、もしアイリスがこの都市を出たいと言えばアヤメはすぐさまこの都市から去る決断をするだろう。

 しかし、アイリスは緩やかに首を振った。


「わたし一人のわがままで、アヤメさん達にご迷惑をかけられません」

「……そ」


 その言葉に素っ気なく言葉を返す。


「なら、さっさと体調不良を治しなさい。あんたの方が大人しいとなんだか、妙にむずむずするのよ」

「むぅ、言われなくてもそうします。アヤメさんたちが帰ってきたら教えてくださいね。ジャママ、一緒に寝ましょう」

<ガウッ>


 ジャママと一緒にそのままベットに入り、眠りにつく。

 やがてすぐに、すぅすぅと寝息の音が聞こえてきた。


「……優しいのはどっちもね、ふん」

<グル>


 ポツリ呟いたキキョウの呟き。ジャママだけが聞こえていた。







 からっとした空気に、気持ちの良い日差し。それはつまり、暑いということだ。それでも、"白亜の都スティーニオ"に住む人々は元気に日々の生活を営んでいた。


 そんな天気の中、俺は問いかける。


「もう大丈夫なのか?」

「はい! ご心配をおかけしました! もう元気満々です!」

「満々……? 満タンの間違」

「キキョウ殿」


 隣では何か言い掛けたキキョウをエドアルドが制止させていた。


 冒険者ギルドでの騒ぎから一日。


 言葉通り、アイリスは元気になったようだ。よかったと、俺は顔を綻ばせる。


「でもまた体調が悪くなったらすぐに言ってくれよ? 今から向かう先は少なからず危険があるのだから」

「わかってます。アヤメさん達に心配はおかけしたくありませんから」

「うん。キキョウ、きみもだ。体調を崩したらすぐに言ってくれ。これから向かう所は特に、命の危険があるところだから」

「そうさせて貰うわ。結構この都暑いのよ……」


 辟易とした様子で呟くキキョウ。


 どうやら服の下に造り上げた氷を挟んでいるらしいが、直射日光がきついのだろう。此処は、陽の光を遮る建物もないからね。


「ダンジョンに入れば陽の光は遮られるから、多少は緩和されるはずだよ。ダンジョンへの入り口は……こっちだな」

「最初はよくわかりませんでしたが、便利ですね。これ」


 球体の魔道具を見て、現在地と俺たちが向かうダンジョン入り口の所在地を把握する。


 向かったダンジョンの入り口の広場とでも言うべき場所には数多の冒険者達がいた。その先には巨大な柱が2本立ち並び、まるで大地が裂けたように大きな穴が空いていた。


「これがダンジョンの入り口……すごい、キチンと整えられていますね」

<ガゥッ>


 アイリスが珍しく口をあけて驚いている。同意する良いにジャママも吠えた。

 此処にいる人たちが全員ダンジョンへと向かうのだ。その規模たるや、推して知るべしだ。


「げっ、あいつら昨日デイフットの野郎と話していた奴らだぜ」

「マジかよ。関わるのはやめとけ。何があったもんかわかったもんじゃねぇぞ」


 そんな中、周囲の冒険者たちが離れていく。


 彼らは口々に「デイフット」「獣人を庇った男」「仮面をつけた変なヤツ」と陰でヒソヒソと話す。後半に至っては単に俺の特徴を揶揄しているだけだけども。


 だが、困ったな、あそこにいた冒険者だけでなく、この都にいる冒険者らに先日の騒動を知られたかもしれない。


「……なんだか避けられてませんか?」

<ガウッ>

「ぎくっ」


 当然、そんな周囲の反応をアイリス達が見逃すわけもない。

 ジャママと一緒に首を傾げていたが、俺の様子に気付き、こちらを見てくる。


「アヤメさん? 何か隠していませんか?」


 じぃ、と普段はニコニコしているアイリスが何か疑うように半目で見てくる。


 先の件は、俺はアイリスに話していない。


 体調を崩したアイリスに、心配かけたくなかったから話さなかったが、裏目に出てしまった。


 どうしたものかと悩む。


 しかし、慌てて俺の前に割って入ってくるフィア。


「違うの、アネェ。昨日、問題を起こしたのはあたしなの。アニィは悪くないよっ」

「いや、フィア。騒ぎを起こしたのは俺も同じだ。すまない、アイリス。実は……」


 覚悟を決め、俺は昨日の出来事を語る。


 アイリスはその話を聞いて、怒ったり心配したりとコロコロと表情を変える。


「なるほど、そんなことが。でも、ひどい人もいたものですね! 差別だなんて。それでフィア、怪我とか怖い目には合わなかったんですね?」

「それは、うん。大丈夫だったよ」

「ならわかりました。その場にいなかったわたしがとやかく言うつもりはありません。何もなかったのなら、それでよかったんですから」


 ほっとしている様子のアイリス。

 まいったな、心配かけないようにしたんだが結局心配させてしまったな……。


「出来れば案内役を雇って一階層までだけ、どんなのか見てみたかったが、それも難しいか」

「案内役ですか?」

「あぁ、ダンジョンは不特定に階層の様子が変わるらしい。それで地図を記し、尚且つ荷物などを受け持つ人がいるらしい。俺達は、情報を得たが実際にダンジョン内部を見た訳じゃない。だから、雇えればと思っていたんだが……」


 無論、ずっと居られればフィアの正体などバレる可能性があるから雇うのは最初だけの予定だったが、それも難しそうだ。


 これに関しては運が悪いと諦めるしかないか。


「だったら、おれが案内してあげる」

「ん?」


 第三者の声。

 周囲で遠巻きで俺達を見る人達とは違う、敵意のない声色。


 俺は声のした方へ視線を向ける。そこに居たのは、巻き角を生やし、巨大なバッグを背負った一人の獣人。


「きみは」

「あっ、あの時の!」


 その姿に覚えのあった。


 冒険者ギルドで、揉めていた子だ。その子が、俺のことを見上げ名乗り始めた。


「おれは、シル・バレット。そこの兄ちゃん達に、助けてもらった」

「貴方が、アヤメさんの話に出てきた獣人の方なんですね? 初めまして! わたしはアイリスです! 大丈夫ですか? 怖い思いとか、痛い思いはしていませんか?」

「えっ、えっ。な、なに……?」

「あぁ、すまない。さっき昨日のことを話していてね。心配していたんだ。彼女、優しいから」

「そう、なんだ。でも、大丈夫。おれ、見た目より力持ちだから」


 そう語るシルの背中には身の丈以上のバックが背負われていた。あれだけの大きさなのに、一切重心が偏っていない。そうとうな力持ちだ。


「……正直、あまりおれは、強くない。けど、見た通り力だけはあるから拾った"不純なき魔石(サンボ)"や食料とかを運ぶ役を担ってた。何回かダンジョンに入ったから、ある程度ならにいちゃん達の力になれるはずだよ」


 確かに俺やフィアに恩を抱いているのは確からしい。


 だけど、どうにも必死さも見える。それ以外にも俺たちに同行したい理由(・・)があるように見えるんだが……気のせいだろうか。


「貴方達には、恩もある。だから、おれが案内する。だから。連れて行っておくれよ」


 俺は皆と顔を合わせる。

 皆、緩やかに首を縦に振る。それを見て、俺はシルへと向き直った。


「此方としても、願ったり叶ったりさ。ダンジョン内部について詳しい人がいるんなら危険度はぐっと下がる。よろしく頼むよ」

「……うん、よろしく」


 俺が差し出した手を、シルは少し驚いたように目を見開く。そしておずおずとそれでもしっかりと握りしめたのだった。


 

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