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揉め事

著者の別作品「おっさん船医ですが処刑されました。しかし生きていて美少女美女海賊団の船医やっています。ただ、触診をセクハラというのはやめて下さい。お願いします」も更新致しました。

興味のある方はぜひお読みください↓

https://ncode.syosetu.com/n7090eo


 何やら揉めている声が聞こえて、俺はそちらの方に歩みを進める。フィアも、俺の後ろをついて来ている。

 やがて声の主は、丸テーブルに座る複数の冒険者と会話している小さな子であった。近付くと、話の内容が聞こえて来る。


「話が違うッ……案内役(サポーター)として、魔石を集めるのも肩代わりする代わりに1割という話だったはずっ」

「そうだったかぁ? 悪いが覚えてないな。そっちの勘違いじゃないか?」

「そもそも、お前のような疫病神を連れて行ってあげただけありがたく思いな。なぁ?」


 嘲るような笑い声。どうやら約束したはずの報酬がもらえないのが原因らしい。


 冒険者達は数人。いずれも酒を飲んでいるせいか、顔は赤い。

 対して俺は言い合ってる人物の方に視線を向ける。


「……何?」


 短い乱雑に切られた白い髪に所々黒が入り混じった髪色。

 更にはこれでもかと言わんばかりに詰め込まれたリュックを背負っている。


 ここまでなら普通だが、俺が声をあげたのはその先にある。目を引いたのは、頭の両サイドから生えている角だ。角は角だが、フィアのような額から生えた禍々しさを感じてしまうものでなく、若干曲がった感じの角だ。


 普通の人ならば角を持たない。

 魔族である鬼を除き、角を持つ可能性がある種族。


 つまりは獣人(・・)であるという可能性だ。事実、目の前の子どもには衣服の裾から尾らしきものが見え隠れしていた。


 "獣ノ庭園(プライド)"と呼ばれる獣人の国以外でまさか、此処で獣人を見るとはなと思いつつ、余程頭に来たのだろう。明らかに纏う雰囲気が剣呑になっている。


 このままだとまずいな。


 俺は、思わず拳を振りかざそうとしたこの子の手を止めた。


「ここで手を出したらキミの負けだよ」

「誰だよ、あんたっ」


 止められたことに、驚くもすぐさま俺のことを睨みあげる。


 俺は敵ではないと、伝えるために獣人の子に微笑むと、目の前の酒を飲む冒険者達に語りかける。


「他所様の会話に口を出すのは、あまり褒められたことではないのは百も承知だ。だが、不当な理由によって搾取というのなら俺は見過ごせないな。先の話だと、どうやら貴方達はこの子と約束したことを反故したように伺えるが、どうだろうか?」

「おいおい、あんたやめときな。獣人の肩を持つ気か? 特に地下迷宮(ダンジョン)に潜るんならな! さっき言っただろう? こいつが勘違いしているだけさ」

「……そう言ってるが、きみはどう思う?」

「そんな訳ない! おれは確かに約束した!」


 語気を荒げ、怒りの表情を浮かべる。俺は、少し顎に手を当て考える。


「なら、それを立証できる物はあるかい?」

「あっ……、そ、それは……」


 俺の言葉に初めて気付いたのか、表情が歪む。

 対して冒険者達はあざける表情を浮かべた。


「見ろ。こいつの勘違いなんだよ。おれ達は、なぁーんにも悪くねぇ。わかっただろ?」

「確かに物証がない以上、言った言わないの水掛け論になるな。……でも良いのかい?」

「あぁ?」

「此処は君たちが根城とする冒険者ギルドで、周囲にはその関係者がいる。君たちの対応がそのまま自らの評価につながると言うことを理解しておいた方が良い」


 此処は冒険者ギルドであり、つまりは目の前の彼らが所属する場でもある。つまりは、揉めたということ事態が評価に繋がる可能性がある。


 無論、強者ならばそれを許されるだけの我を通すことも出来るだろう。だが、俺の言葉に動揺しているのを見るに、彼らはそこまで強く無いし、そして己を通すほどに図太くも無い。


「ちっ……!」


 そして、その反応で後ろめたいことがあるということ。つまりはこっちの獣人の子の言い分が正しいのだとわかった。


「酔っているというのなら、もっと慎重になるべきだ。子ども相手にみっともないよ。いっときの感情で、己の全てを台無しにする気か?」

「ぐっ、言わせておけば……!」

「──らははは! こりゃおもしれぇ! 先を越されちまったぜ! おうおう、お前らぁ、話聞いて、その反応。どうやら道理はそっちのにいちゃんの方にあるようだな。下手に誤魔化そうとしても傷を広げるだけだぞ」


 俺と冒険者の会話に割って入るデイフット。対して、冒険者達は、デイフットの姿を見て驚いた表情を浮かべた。


「なっ、《残光の軌跡(アルペングリューエン)》の『残照』デイフット・マーティン!? ばかなっ、《5欠星》の冒険者がそっちの肩を持つのか!?」


 俺も、デイフットのランクを聞いて驚いた。

 冒険者はランクによって、まるで星の形をした枠が埋まっていくと聞いた。つまり、《光星(アストライヤー)》一歩手前の冒険者だということだ。強いと思っていたが、そこまでとは。


「おうよ。冒険者ギルドの創設の理由を忘れたか? 『弱き者、仲間を守る為の剣たれ。かの勇者ノア・ゲオルギウスの軌跡に続け』だ。こいつはぁ、確かに獣人(・・)だが、そんなのは関係ねぇな。約束を破る。お前らのやってるこたぁ、かの勇者へ続く為に歩んだ者たちへ泥を塗る行為だぜ」

「っ、今時そんな文言を覚えている奴だなんて少数派だろうに……!」


 言い負かされた冒険者は悔しげに口を歪める。

 たいして俺は、興味深げな内容に目を細める。


「へぇ。ノア・ゲオルギウス……か」


 意外と思ったのはデイフットが勇者の名を出したことだ。


 ノア・ゲオルギウス。先代『勇者』であり、冒険者ギルドが創設される発端となった人物。


 バディッシュでも、冒険者になったとは言ったが『勇者』については語らなかった。バディッシュが特別な訳ではなく、恐らくは今の冒険者となっている人達は魔王軍と戦うのよりも未知の踏破や魔獣対峙を生業としている。


 となれば、このデイフットという男は、かなり『勇者』を尊敬(リスペクト)しているということか?


 偽とは言え、『勇者』の名を冠していた者として、少し気恥ずかしいな。


 やがて分が悪いと思ったのか、冒険者は机に広げていた金を袋に詰め、牛系獣人の子どもの側に投げつけた。


「ほら。くれてやる。さっさと消えなッ」

「ッ……!」


 子どもは、金の入った袋をひろいあげ、 ちらり、と俺達の方を見るとそのまま走って去っていった。


「む、あの子お礼も言わずに去っていったよ! アニィが助けてあげたのに」

「元々居心地が悪かったんだろう。仕方ないさ。それよりも、まさか手助けしてもらえるとは思わなかったよ。ありがとう」

「へっ、気が向いただけさ」


 フィアが怒るも、俺は宥める。別にお礼が欲しかった訳じゃないからね。俺は途中で加勢をしてくれたデイフットにお礼を言う。

 だが、目の前の冒険者は不愉快げにこちらを睨む。


「おめぇ、子ども相手にみっともないと言いながら子ども連れてダンジョンに行くたぁ、随分と余裕じゃねぇか。さっきの獣人のことと言い、随分とお優しいこったなぁ。余程、この灯都の常識(・・)について知らないらしい」

「……なに? アニィをバカをしてるなら──」


 フィアの纏う雰囲気が変わる。


 さっき以上にまずいと思った俺が止める前に、ダァンッと音が鳴る。


 見れば、デイフットが机の上に足を乗っけていた。余程の衝撃だったのか、乗せられた部分が凹み、割れている。


「やめときなぁ! 終わった話をぐちぐちと言うのは! だいたいよぉ、所詮は子どもの言ったことだろうが。それに噛み付くのは己を弱者と認めるようなモンだ。テメェら、かっこ良くねぇぜ?」


 デイフットは威圧するように睨む。その覇気とも呼ぶべきか、側にいた俺にもピリピリと肌に感じるほどだった。


 騒いでいた冒険者は、デイフットの威圧を感じ取ったのか閉口する。


 それを見て、ようやくデイフットは覇気をおさめた。


「わかればいいんだ。らははは。それよりもおめぇ、面白いな。やっぱオレのパーティになれよ」

「答えは同じだよ。俺にはもう仲間がいる。キミの提案には頷けないな」

「らはははッ! 断られちった!! 2度目だぜ!」


 何が面白いのか、自らの膝を叩きながら快活に笑う。


 俺はその様子を見て、愛想笑いをしながらちらりと周囲の様子を探る。


 さっきのデイフットの立てた音で、結構周囲の視線が集まってしまっている。


 ダンジョンについて得るべき情報を得た。

 これ以上此処に居ても、先程の喧嘩の流れからか目立っている。フィアのことを考えても離れたほうが良いだろう。


「騒がせてすまなかった。それじゃあ、俺たちは失礼する」


 最後に俺は周囲の見ていた冒険者達に頭を下げて、俺は冒険者ギルドを後にした。






「アニィ……」


 しょんぼりと、いつもの気の強そうな表情を潜め落ち込んだ様子で俺の名前を呼ぶフィア。


「さっきはごめん。あたしの所為でアニィに迷惑をかけちゃった」

「それを言ったら俺もさ。人を助ける為に騒ぎを起こした。だからこの件はお互い様さ、だからこれ以上謝るのは無しだ。な?」


 俺がわざとらしく笑うと、フィアはぷっと笑い出した。


 それを見て、気が晴れたのだろう。


「アニィ、あの人強いよ」

「あぁ。俺にも分かった。《5欠星》と言ったか。最高峰の一歩手前の位、それに相応しい強さを兼ね揃えているようだ」


 漂う気配は気安い感じだったが、身に纏う気配は一級の戦士のそれだ。


 酒を飲んではいたが、目は鋭く俺の一挙一動を逃さないように観察し、いつでも抜刀出来るように片腕をフリーにしていた。更には冒険者を威圧したあの暴力的なまでの覇気。間違いなく、彼は強者だ。


「もう一人の方も、何も言ってはこなかったが《5欠星》に相応しい強さを兼ね備えているに違いない。人となりとかは全然わからなかったけどね」

「……んー」

「どうしたんだい?」

「いや、何でもない」


 口では何でも無いと言っているが、やはり何か引っかかっているのだろう。俺が優しく尋ねると、フィアはおずおずと話し始めた。


「あのね。男の方は培った気配を感じたからアニィと同意見なんだけどもね。でもね、全身鎧の人は何というか、気配が小さい(・・・・・・)よ」

「小さい……?」


 かなり強そうに見えたが、フィアから見ればそれほど強そうに見えなかったと言うことだろうか。"感知"の精度は俺よりもフィアの方が高い。俺に感じ取れなかった事も、フィアなら感じ取れたのだろう。


 興味深い話ではあったが、もう冒険者ギルドから離れてしまったので確かめるすべがない。


 このまま空気を重くしてもダメだと、俺はわざとらしく明るく話しかけた。


「さて! まだエドアルドの待ち合わせには時間がある。宿で待つアイリスやキキョウ、ジャママに何か見舞いを買って行こうか」

「わかった! じゃあさ、お肉買っていこう! 食べたらもりもり元気になれるよ!」

「それ、喜ぶのジャママだけじゃないかな。体調が悪いから二人を置いて来たんだし……」


 腕を引っ張られ、そんな会話をしながら俺とフィアは人混みの中へと紛れていったのだった。









 アヤメとフィアが去った後。

 冒険者達は先の話も忘れ、それぞれの戦利品や食事について話し始めた。良くも悪くも、己のことしか眼中にない。彼らは先の出来事を酒のつまみか、報酬について語り合っていく。


 そんな中、デイフットもまた、己の席へと戻っていく。


「やれやれ、行きやがったか」

「何してるの」


 今まで無言であった鎧の人物が声を出した。


 鎧のせいかくぐもった声だが、デイフットはその言葉の意味を理解する。


「らははは、なんだよヌイ(・・)。嫉妬か? いいじゃねぇか。奴をオレのパーティに誘ったって」

「違う。不快な事を言うな。次言ったらげんこつ」

「そ、それは勘弁してもらいてェな」


 頭をさすり、嫌そうな顔をするデイフット。その言葉から、叩かれたことは一度や二度ではないのだろう。


 鎧の人物──ヌイは不満げにデイフットを見据える。


「デイ坊、らしくない。態々、他の冒険者達(・・・・・・)を守るだなんて(・・・・・・・)

「何だやっぱりバレてたか。そうさ、オレは驚いたさ。あの餓鬼見た時、肌が粟だったぜ。ありゃ、やばいぞ」


 デイフットが腕の裾をまくる。そこにはきっぱりもわかる程の鳥肌がたっていた。


 そう、彼は親切心から喧嘩をなだめた訳でなかった。


 初めにイフィゲニアを見た時、デイフットは思わず抜刀しない自分を褒めてやりたいくらいであった。


体躯からして、ただの子ども。


 だが、その身から漂う雰囲気は死戦を潜り抜けた者のそれであった。更にはそれ以上にデイフットは相容れない(・・・・・)ような気配も感じた。


「らはは、ありゃ餓鬼なんて生易しいもんじゃねぇ。とんでもねぇバケモノさ。そいつの信頼を勝ち取ってんだ。なら、其奴もそれ相応の怪物と見るのが妥当だろぉ?」

「怪物とか、人に対して失礼」

「らはは、人か。ヌイ、本当にそう思うか? お前ならわかるだろ?」

「……」


 デイフットの言葉に、ヌイが沈黙する。

 マジで鎧の置物みたいだなと思いながら、それを肯定と受け取ったデイフットが真剣な表情で話す。


「オレはオレの勘を信じる。だから確かめるのさ、其奴が賢人かはたまた悪人かをな。まぁ、奴は此処に来てダンジョンの情報を聞いていた。なら案外ダンジョンの中でかち合うかもな」


 それだけ言ってデイフットは酒を飲み切り、その場を後にしようとする。


「あ、デイフットさん。先程壊した机と食器代、後ほど請求致しますのでお願い致しますね」

「らはぁッ!!?」

「……ばか」


 途中、職員から請求された際に情けない声をあげた。

 その様子にヌイは心底呆れたため息を吐いた。


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