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灯都の冒険者ギルド

著者の別作品「おっさん船医ですが処刑されました。しかし生きていて美少女美女海賊団の船医やっています。ただ、触診をセクハラというのはやめて下さい。お願いします」も更新致しました。

興味のある方はぜひお読みください↓

https://ncode.syosetu.com/n7090eo/


 冒険者ギルド。


 かつての勇者ノア・ゲオルギウスを支援、憧れた人々によって作られたという組織。先代勇者ノアは魔王軍と戦う傍ら、魔獣被害などに苦しむ人々にも手を伸ばしたという。


 俺がその存在を強く認識したのはかつて"商業都市リッコ"で出会った冒険者達がきっかけだった。


 バディッシュ、ランカ、ミリュス。

 当時『氷霧』として都市を攻めて来たキキョウとの戦いを終えた俺は、仮面が外れた所為もあり、しっかりと別れの挨拶をする事もなく、彼らと別れてしまった。


「彼らは、元気にしているだろうか」

「どうしたの? アニィ?」


 しまった、思わず口に出してしまっていた。


「ぼーとしてたら、危ないよ。でも、大丈夫! このイフィゲニアさまが護ってあげる! あたしは、強いから!」

「ははは、頼もしい限りだね」

「当然! あたしは! 強い! から!」


 鼻息荒く強さを強調してくるフィアを、微笑ましい気持ちで見守りながら、俺はあの球体の地図で見た冒険者ギルドのある方向へ進む。


 やがて目的の場所が見えてきた。


「前に別の冒険者ギルドに訪れた事はあるが、そことは規模も人数も段違いだな」


 周囲の建物と比べても一線を画する存在感を保つ巨大な建築物。あれがどうやら"白亜の灯都スティーニオ"における冒険者ギルドらしい。


 冒険者が集まる場所だからか、周囲も武具屋や消耗品を売っている店が多くある。

 そして、冒険者達も惜しげもなくそれらを買い漁る。熱気があり、まるで此処だけ祭りが開かれているみたいだ。


 だが、一般人らしき人はいない。俺みたいに場馴れした人ならともかく、一般人がこの場に居るのは難しいだろう。


「フィア、逸れてはダメだよ」

「大丈夫、アニィの気配は覚えているから」


 フィアからは、力強い返答をもらう。


 "感知"を使えば大凡その人特有の気配というものがわかる。過去、"進化しせし獣(キマイラ)"との決戦で俺はフィアの気配を感じ取り、救い出した。


 だからこそ、フィアは大丈夫だと語るのだろうが……気配か。


「因みに、俺ってどんな気配なんだ?」

「アニィの気配? うーん、何というかなぁ。お日様に照らされてるみたいに暖かい気配……かなぁ? だから、近くにいて心地いいよ」

「お、おぉ、何だか照れくさいね」

「でも、なんかね。時折アネェの気配(・・・・・・)も混じってる」

「アイリスの? それってどういう……?」

「わかんない。でも、あたしはきらいじゃないよ! だってアニィもアネェも好きだから!」


 答えにはなってない気がするけども、まぁフィアが嬉しそうだから良いか。


 にしても、アイリスの気配が俺のと混じっているとはどういうことだ? 可能性としてはアイリスは俺と長く居るからだと思うが……気配って混じるものなのだろうか?


 そんなことを考えつつ、周囲の買い物をする冒険者を横目に、人混みをかき分け、俺は冒険者ギルドの扉を開ける。


 瞬間、中にいる冒険者達の一斉に視線がこちらに向けられる……なんてことはない。


 当たり前だ。


 俺以外の多くの人が出入りしているのだから、いちいち目を向ける人なんているはずがない。

 俺はゆっくりと、冒険者ギルドの中を観察する。


 冒険者が数多くおり、誰も彼もが各々の武器を背負い、手慣れた様子で会話していた。

 併設された酒場には机の上に今日の成果なのか、金貨や"不純なき魔石(サンポ)"を置いている。やはり、彼らの目的は"不純なき魔石(サンポ)"で間違いないようだ。


 ちらりと依頼書が貼られている掲示板を見るが、地図の作成やパーティ募集ばかりで"商業都市リッコ"の時のように、周辺地域の魔獣退治の依頼書がほぼない。


 どうやら完全に"不純なき魔石(サンポ)"の獲得に特化させているらしい。


「アニィ、これ見て」

「なんだい? ……これは」


 ここに来る前に"黒瑪瑙蛇ブラックタイガースネーク"に襲われていた村の依頼書があった。村の名前が同じだから間違いない。だけど、それは今だに受理された形跡がない。


 俺はその紙を取って、受付に向かう。フィアも俺の後ろをついてくる。


「すまない、良いだろうか」


 男性の受付は、俺の声に反応してこちらに姿勢を向ける。


「いらっしゃいませ。"不純なき魔石(サンポ)"の買い取りですか?」

「あぁ、いや。俺達は冒険者という訳ではないんだ。勘違いさせたのならば、申し訳ない」

「なら、冒険者になるおつもりでしょうか? 貴方はともかくそちらの……弟妹(ていまい)の方ですか? 失礼ですが、幼い弟妹(ていまい)さんがいるのであればならない方がよろしいかと」


 俺とフィアの姿を見た職員は、俺とフィアを兄妹だと思ったらしい。


 確かに今フードを深く被っているフィアは一見すると着込んでいるだけの子どもだ。だからこそ、純粋に俺達のことを慮ってならない方が良いと言っている。


「此処に来る道中で、この村に立ち寄ってね。依頼書の内容の魔獣だが、既に討伐している。恐らくは近日中に知らせも来るだろうけども、早めに知らせておいた方が良いと思ってね」

「え? これは"黒瑪瑙蛇ブラックタイガースネーク"の依頼書ですね。冒険者でも《4つ星》クラスの実力者が必要な相手です。失礼ですが、何か証拠となるものはお持ちですか?」

「証拠か……。困ったな、村の復興費になればと素材になりそうな物は置いて行ってしまったし」

「あ、アニィ! 鱗ならあるよ! 戦いの時拾ったの持ってる!」


 ゴソゴソとポケットを漁り、フィアは黒い鱗を差し出した。

 それを受け取った職員は、一度席を離れ、何やら図鑑と書類らしきものを確認した後再び戻ってくる。


「確認が取れました。確かにこれは"黒瑪瑙蛇ブラックタイガースネーク"の鱗に間違いございません。ここまで巨大な魔蛇が複数体存在するとは考えにくいので、恐らくは事実だとは思いますが一応後日村の方にも確認はとらせていただきます」

「あぁ、それは全然構わない。俺も、依頼が出てるのを偶々見つけただけだから」

「それにしてもあなた方の話が真実でしたら、腕が立つのは間違いございませんね。先程は失礼な物言い、申し訳ございません」

「いや、こちらこそ勘違いをうませてしまったみたいですまない。何かあったのかな?」

「えぇ、特に最近は例のことがありましたので……。職を得るために、冒険者になろうとする方が多いのですよ」


 何やら疲れた様子で呟く職員。


 なんだろうか、さっきのやめておいた方が良いの発言といい何か理由があるのか? 


「ここより南の地域にある"アケディア山脈"に沿った火山が噴火致しましてね。大凡数百年ぶりの噴火らしく、噴き出た塵によって、職を失った難民が今この灯都に集まっているのです。そして、手っ取り早くお金を稼ぐ為に実力がないのに冒険者になろうとする者が多く……困っていましてね」

「なるほど、そんな事情があったのか」


 火山の噴火。どうやら思ったよりも大事な事態が起きていたらしい。気にはなるし、それによって故郷から離れざるを得なくなった人々のことを思うと胸が痛む。


 だが、残念だから自然が相手なら俺が力になれることはない。


 当初の目的である、"地下迷宮(ダンジョン)"について俺は職員に尋ねると彼は詳しく答えてくれた。


「"地下迷宮(ダンジョン)"に入るには入り口は一つしかございません。此処より東の方に向かえば自ずと見えてきます。尚、入る際と出る際に荷物はチェックさせて頂きますのでご了承下さい」

「なるほど、"不純なき魔石(サンポ)"を誤魔化さないようにする為にだね?」

「その通りです。あと、入り口周辺ではパーティになろうとする方々が多数おられるかと。とはいえ……なろうとするのは先程言った通り噴火により難民となった方が探索者(シーカー)としてのお零れを授かろうとしている者が多いのが今の現状です」


 なるほど。ならもしかしたら力量を見誤り"地下迷宮(ダンジョン)"に潜ってしまう人も出てしまうかもしれない。全ては無理だが、目に見える範囲で危うい人がいれば助けようと心に決める。


 それはそれとして、もう一つ聞かなければ。


「"地下迷宮(ダンジョン)"の内部については?」

「あぁ、そちらについてはですね。今現在把握されている"地下迷宮(ダンジョン)"の階層は4階層となっております。その階層も3階層まででしたら後援者(サポーター)と呼称される方々が書き記した地図を冒険者ギルドでも販売しておりますので、そちらをご覧になった方がわかりやすいかと」


 ん? 今聞いたことない言葉が出てきたな。


後援者(サポーター)? 探索者(シーカー)とは違うのか?」

後援者(サポーター)は厳密には冒険者なのですが、探索者(シーカー)は冒険者ではございません。まぁ、所謂この灯都特有の存在と思っていただけたら幸いです。彼らは"地下迷宮(ダンジョン)"に向かう冒険者を文字通りサポートするのが目的の存在で基本的1パーティに一人はいますね」


 そして、後援者(サポーター)の仕事は"不純なき魔石(サンポ)"の回収やあらゆる雑貨を運ぶこと、そして地図を書き記すことだと言う。


「とはいえ、"地下迷宮(ダンジョン)"の内部も時折変化(・・)致しますのでタイミングによっては地図は役に立たない可能性もございますのでご注意を」

「内部が変化する? それは、出てくる魔獣が変わるということか?」

「いえ、()()()()()()()()()()()()()()


 階層そのものが?

 環境が変化するには長い月日が必要なはずだ。それが、短期間で起こっているだと? ちょっと、いやかなり奇妙な現象なのに男性の受付はまったく気にしていない。


 それが此処の常識なのだろう。


 俺がもう少し詳しい情報を尋ねようとするよりも先にフィアが口を開いた。


「ねぇねぇ。じゃあ、今此処にいる人達はこの灯都でも強い人達ってこと?」

「ん? えぇ、そうですよ。この場にいる冒険者でしたら"地下迷宮(ダンジョン)"の3層までは何の問題も無くいけます。このような真昼間から"地下迷宮(ダンジョン)"に繰り出す訳でなく、留まるってことはそれだけの腕を持つ凄腕の人というわけです」

「ふーん」


 男性の受付の言葉に、フィアは辺りを見渡し、冒険者達の様子を伺う。


 あ、なんだか嫌な予感がする。フィアは良い子だが、物事を遠慮せず率直に言葉に出してしまう。そのせいでトラブルになりかけた事も一度や二度ではない。今回もそんな気がした。


「でも、全然大したことないね。これならあたしの方が強いよ」


 フィアは一切声を隠す事なくそう言ってのけた。


 瞬間、冒険者ギルド全体が静まり返る……ってことはないけども、それでも俺達付近の冒険者達は今の言葉を聞いたのだろう。


 その言葉を聞いて鼻で笑う者や、戯言だと切り捨てる者がいた。

 当然それを感じ取れないフィアじゃない。剣呑な気配が漂い始める。

 

「何、バカにするなら。あんた達を倒して証明してもーー」

「らはははは! 面白いことを言うじゃないか!」


 不穏な気配を漂わせ始めたフィアを静止させようとした際に、その雰囲気を吹き飛ばすように一際笑い声を飛ばしたのは、一人の男だった。


 俺は声のした方を見る。

 そこにいたのは丸テーブルに座る一人の男性。酒や料理を食べていたのだろう、机の上には食べかけの料理が並べられていた。


「……強いな」


 身に纏う雰囲気は、百戦錬磨の風格を纏っていた。

 まず、間違いなく目の前の男は歴戦を潜り抜けた強者だ。俺は彼の装備を観察する。目を引くのは立て掛けてあった巨大な剣だ。刃の中心部分が何やら凹んでいて、奇妙な形をしている。


 その他の装備からして目の前の男性は『戦士』だろう。『剣士』の可能性も考えたが、手甲に凹凸(おうとつ)の傷がある事から、普段からその手の技能(スキル)も有しているのは確実だ。


 純粋な剣技のみで戦う『剣士』に対して、『戦士』は己の肉体で扱うものその全てが武器だ。だからこそ、『武闘家』と『剣士』両方の技能(スキル)が使える。無論、その技能(スキル)の数そのものはそれぞれの職業(ジョブ)に大きく劣るが。


 そんな風に俺が分析していると、男はこちらをじとりと見る。


「この場にはいる奴等は、昼間から酒を飲む呑んだくれ供だ。つまりは、それを許される程に儲けることの出来た強者という訳だ。威勢は認めるぜ、自信を持つのも結構だ。だが、けなすのはぁ、頂けないな。おめぇ、きちんと、手綱(たずな)を握っておけよ」

「あぁ、申し訳ない。そちらの人達も不快にさせたのなら、申し訳なかった」


 俺が頭を下げた事に、フィアが慌て俺の裾を引く。


「アニィ! どうして頭を下げるの! おかしいよ。だって、こいつらあたしやアニィよりも全然弱っ」

「フィア」


 強めの口調で俺が名を呼ぶと、僅かに身を固める。


「己に自信を持つ事も良いし、俺を買ってくれるのは嬉しいよ。でもね、だからと言って他人を蔑ろにしてはいけない。それは失礼だ」

「うっ……」


 俺の言葉にフィアがたじろぐ。


 彼女もようやく自身が失礼な事を言ったとわかったのだろう。


「……ごめんなさい」


 ぺこりと、頭を下げた。


 それを見た男性が鼻を鳴らし、機嫌よく笑う。


「へっ、おう。分かれば良いのさ。なんだ、素直じゃねぇか。それにしても、お前見所があるじゃないか。どうだ、オレの仲間になる気はないか? クソ生意気だが、そっちの子どもも連れて良いぞ」

「なっ、貴方ほどの方がですか!?」


 何が気に入ったのか、俺のことを勧誘してきた。

 男性の職員や周囲の冒険者が驚いた表情を浮かべていた。もしかしなくても目の前の彼は有名人らしい。だが、答えは最初から決まっている。


「有り難い申し出だけど遠慮しておくよ。俺には既に仲間がいるからね」

「なるほどな。それならば、しかないな。この『風痕(ふうこん)』のデイフィット様の誘いを無下にした事、後悔するなよ」

「……」


 最後に自らの名をデイフットと語った男は、そのまま酒をあおる。


 ふと俺はそんな彼の隣に座っていたもう一人を見る。


 俺とデイフットが喋っている間も身動ぎ一つせず、此方を観察するように聳えるエドアルドよりも大きな鎧に身を包んだ人物。胴体部分はやたらとずんぐりとしているのに対して、手足はシュッと洗練されていた。


 全く顔も見えないが、包まれている鎧の大きさからしてかなりの偉丈夫だろう。


「……ん?」

「……」

「……んー?」


 フィアが鎧と目を合わせ……目が合ってるのか? 鎧のせいでわからない。フィアは何やら首を傾げている。


 何か不思議がっている様子だ。どうしたのだろうか。


「ーーふざけるな!」

「ん?」

「あん?」


 フィアの様子を眺めていると、少し幼くも険しい声色で怒鳴る声が聞こえた。


 見れば、俺たちがいた所とは別のテーブルで、一人の背の低い子が冒険者達に詰め寄っていた。明らかに不穏な気配。


「あの童、獣人か。つーことは、例のアレか。ちっ、嫌な光景を見ちまったぜ。しょうがねぇな……あん? おい、どこにいく?」

「あ、待ってアニィ!」


 デイフットが呆れたようにため息を吐き、立ち上がるより早く俺は先ほどの声の主の所へ向かっていった。


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