森の金白狼を討伐せよ
誤字報告ありがとうございます。
訂正するのは遅いですが、皆様には非常に感謝しています。
それと5/7、日刊一位取りました! これからも頑張っていきます。改めて感謝を申し上げます!
ザッザッと森林特有の落ち葉を踏みしめながら俺たちは歩く。森を歩くのは既に慣れたもので、その足取りに迷いはない。
「森から出たと思ったらまた森にとんぼ返りなんてつくづく森に縁があるらしい」
あの後ファッブロから頼まれた内容は人里に現れる魔獣の討伐。
ファッブロが語っていた「行商人があまり来ない」……それはどうやらこの森に住むとある魔獣の所為らしい。行商人が襲われ、命からがら逃げ出したものの馬と私財を失ってしまった。そんな噂が広がったせいで唯でさえ来ないのにより訪れる人が減ってしまったらしい。
それが起きるようになったのは最近で、前に国からの使者が来た後なので村の方でも新たに要請こそしているが死人が出ているという訳でないので緊急性が低いと言うことで後回しになっているらしい。
「確かに折角村に来たのにこれでは意味がありませんね。嫌なら断ればよかったのでは?」
「いいや、そんな訳にはいかない。村の人達はこの森に住む例の魔獣の所為で外からの物資がなくて困っている。これも人を救う為さ」
「借金を返す為なのでは?」
「それは言わないでくれるかな……」
痛い所をグリグリと突いてくるアイリスちゃん。この子、意外と容赦ないな。
「真面目にしろよ。遠足じゃないんだぞ」
そんな様子に苦言をする声が後ろから聞こえた。
誰であろう、そうあの詰所で俺を事情聴取したラティオくんだ。
「いや、あまり気を張り詰め過ぎてもね。それよりなんで君はついて来たの?」
「決まっている。お前の監視だ。何か村に対して害を及ぼさないかのな」
「ファッブロさんから頼まれたって言っただろう?」
「だとしてもだ! お前が怪しいのに変わりない! だから見張る。それだけだ」
肩をすくめて語るもラティオくんは警戒を解かない。
閉鎖した所では余所者に対して厳しいというが彼の場合村を守るという意識が強過ぎるのだろう。
それ自体は好ましいけど、ずっと見張られるというのも中々落ち着かないな。
「そんなに言うなら貴方が行けば良いのです。そもそも貴方の村の問題なのです。貴方も村を守る『兵士』ならそれくらい出来るのでは?」
「……そうしようと思ったけど他の兵士達に止められた。お前じゃ無理だって」
「あぁ〜」
「あぁ〜、とはなんだ!」
「まぁまぁ、落ちついて。あんまり騒ぐと他の魔獣が寄ってくるかもしれない」
アイリスちゃんの納得したような頷きに憤るラティオくんを宥める。魔獣と聞いてラティオくんの顔が強張る。
何だかんだ言っても魔獣は怖いのだろう。話を聞くに『兵士』になったのも最近らしいし。
そんな風に思いながら歩いているとふと、俺は思った。
「しかし魔獣か……」
「どうしました? 」
「いや、昔君に会った時を思い出してね。魔獣も魔物も、どちらも人を襲うのには変わりないが魔物の時とは違って直ぐに国でも人が派遣されないから、こうも対応が違うのかと思ってね」
魔獣も魔物もどちらも人を襲う。
しかし魔物は直ぐに国が動くのに対して魔獣はそうではない。確かに村や町が無くなるような強力な魔獣や魔獣の侵攻の時には動くけど、それくらいだ。
いや、確か魔獣に対しては確かお金を払えば討伐してくれる組織があったような気がする。なんと言ったかな……。
「確かにそうですね。でもそれには理由があるのです。そもそも人の一部は魔獣も魔王軍の手先だなんて言いますが全く違うのです」
「そうなのかい? あぁ、でもそこら辺は習ったな。体の構造から違うって」
「はいなのです。魔獣はそもそもが生きる獣が魔力を持って変質したもの。だからこそ、魔物と違い明確に人を襲う意図があるとは言えません。彼らも生きる為に襲うのですから、彼らからすれば悪意から襲うわけではないのです。そこが魔物とは異なるのです。勿論直接的に被害が出たらその限りではありませんけど」
「へぇ……人の生活を害するからと魔獣を倒してきた俺には耳が痛い話だよ」
「エルフは長生きですから、魔族が生まれる前の事も知っているのです。更にわたしは博識なのです。里でもよくそんな事知ってるねと近所のお兄さんに褒められました!」
「そういえば、流石の魔王軍もエルフのいる地域はなるべく避けているって聞いたね。なるほど、向こうもエルフの強さを身をもって知っている訳なんだね」
「ふっふっふー、わたしにかかれば例のはっせんしょーだがなんだか知りませんが魔王軍の幹部なんてお茶の子さいさいです」
「それはどうだろうか」
確かにエルフは多才だ。アイリスちゃんを見てるとそう思う。更にはエルフには様々な逸話がある。曰く一晩で街を生命の宿らない砂漠に変え、逆に何もない荒野を緑溢れる土地にしたとか。内容だけでも真逆だがそれだけのことをなせるのがエルフだ。
だがそれを上回る能力を持っているのが魔王軍である魔物ひいては魔族だ。
魔王軍の中で特にやばいのがあのベシュトレーベンだ。奴は山を拳一つで消し飛ばすほどの力を持っていた。もしあれが人の密集地で使われれば一体どれほどの被害が出てしまうだろうか。
他の八戦将も俺の知る限り人類に被害を与えている。
結局俺は『爆風』しか倒せず、他の八戦将については余り知らない。ベシュトレーベンと『氷霧』と『迅雷』、あとは名を知っているのは『獄炎』だけだ。八戦将の半分くらいは未だ不明なのだ。
俺にもっと力があれば、あの時三人の内一人を討ち取れただろうか。
(いや……)
やめよう、魔王軍と戦う事ばかりを考えてしまうのは『偽りの勇者』だった頃の悪い癖だ。今の俺はもう勇者ではないんだ。後のことはユウとメイちゃんに任せよう。俺は二人とは別の道で人を救う。
「さっきから話ばかりしていて真面目に探索する気あるのか?」
「あるよ、すごいある。まぁ、そんなに目くじら立てなくてもちゃんとするさ」
「どうだかな……。さっきの魔物を倒したとかのも嘘なんだろ?」
「嘘とはなんですか! アヤメさんは本当にむぐっ」
「はい、アイリスちゃん。俺の為に怒ってくれるのは嬉しいけど少し静かにしておこうか? 話が進まないからね?」
このままではまた喧嘩になりそうだと思った俺はアイリスちゃんの口を塞ぐ。
ふぅ、これで先に進めそうだ。
「おい、なんかその娘嬉しそうだぞ」
「えっ」
「むふふ〜」
その後、予定の場所に着き周囲を探索する俺たち。
やはりというべきか目的の痕跡はあった。
「アヤメさん此処にもありましたよ」
「本当だ。さっきのと同じ足跡だね」
「乾き具合からここを通ったのは最近です。それに足跡の多さから頻繁に訪れているのは間違いありません」
「そうか……」
アイリスちゃんの話を聞いて俺は決めた。
「うん、ここで良いかな」
「なんだ? やっと魔獣を探しをするのか?」
「いや、そうじゃないさ。今日はここで野宿する」
「……は?」
ラティオくんが初めて少年らしいあどけない表情をした。
「アイリスちゃん、胡椒あるかな」
「ありますよ、はいどうぞ」
「ありがとう。焼いただけじゃ味気ないからね」
俺は焚き火から焼けたウサギ肉に胡椒をかけてかぶりつく。うん、味はあっさりしているけどその分胡椒の味によって引き立てられて、とても美味しい。
潤んだ兎の瞳に若干罪悪感が宿った俺だけど、横からアイリスちゃんが短剣で首を鮮やかに掻っ切った。
曰く『森の中で何度も狩ったことがあるので何も思わない』とのこと。エルフって怖い。そしてアイリスちゃんほんとに容赦ない。
「……なぁ、こんな悠長に飯食ってていいのかよ」
「なんだい、ラティオくんもお腹が空いたか? ほら、此処とか美味しそうだよ食べてみるかい?」
「い、いらねぇよ! 僕には保存食があるからな!」
「保存食なんかよりも焼き立ての方が美味しいと思うけどなぁ」
兎肉は癖がないからこそ、サクサク食べられる。狸とかはちょっと癖が強くて俺は苦手だ。
不意に風の音に紛れてガサリと静寂の中で微かに音が聞こえた。
……来たか。
「ふんっ、魔獣を倒すとかいってこんな所で飯を食べて……結局倒す気はないのかよ」
「別にサボっている訳じゃないさ」
「何だと?」
「相手は魔獣。前に行商人が襲われた途中にあった足跡。それと同じ足跡が此処には沢山あったんだ。足跡が新しいのと古いのがあるから此処はそいつが頻繁に訪れる場所。俺たちは今、縄張りに入っている可能性が極めて高い。つまりこんな夜に焚き火を焚いて、かつ肉を焼いている俺らは格好の的という訳さ」
言うや否や暗闇の茂みから闇からの気配を消した一撃がラティオくんに向かって放たれる。俺はすぐさま動き、彼をかっ切ろうとした相手の爪を剣で防いだ。
「ま、こんな風に」
「ひぃっ!? わ、たたたた」
「下がって。アイリスちゃんも」
そう告げる俺だがラティオくんは腰が抜けたのか動きが遅い。それを見たアイリスちゃんがやれやれとため息を吐く。
「やれやれ、世話がやけるのです……【森の母よ、森の同胞よ、森の精霊よ。私たちをその手で、心で、思いで守ってください、樹木の護り】」
ザワザワと足元から木の根っこが現れ、根っこと枝が二人を包み込むように纏まっていく。
何だあれは? 魔法か? いや、今はそんなこと気にしている暇はないな。
「アヤメさん、こっちの生意気坊主はわたしが守っておくので安心してください」
「わかった。……なるほど、納得の大きさだよ。それだけあれば馬も殺せるだろうな」
<グォオォォォン……! >
炎で照らされて姿が露わになったのは黒い体毛に金と白の模様が入った狼。
大きい。7メートルはあるだろうか。
どうやら身体中に最近できた傷ある。縄張り争いにでも敗れたのだろう。
それ抜きにしても立派な体躯の魔獣は、金白狼とも言える程に美しくて強力な狼だった。
ずっと剣で抑え込んでいる今も尋常でない力で押し込んでくる。
俺は渾身の力を込めて爪を弾き飛ばし斬ろうとするも、金狼は容易くそれをかわした。今も不用意に近づこうとせず此方を睨んで伺っている。
「なるほど、不用意に近づかないという訳か。……念の為やってみるかな!」
試しに焚き火を蹴って火のついた薪を当ててみる。
予想はしていたけど全く火を怖がっていない。まぁ、これは予想出来ていたことだ。
焚き火を挟むように俺と金白狼は対峙する。
<ガルゥゥガッ!!>
「おっと」
激昂したのか焚き火を乗り越え凄まじい速さで爪を立てる金白狼。それを俺は見切り背後に跳んで躱すと、次はその鋭利な牙が並ぶ大口を開けて喰らおうとしてきた。
今だ!
「そらっ!」
<キャゥンッ!? が、ガァッガァッ!>
鼻の間近でアイリスちゃんから貰った胡椒をばら撒く。勿論俺は嗅がないように気をつける。嗅いでしまった金白狼は大きくクシャミをする。
その隙を俺は見逃さない。すぐさま剣を振るい、首を掻っ切る。
<ガァッ! グ、ググォン…………クォォ………………ン……>
金白狼は避けようとしたが足の怪我が原因で避けれなかった。
最後に何かを案じるような、か細い声をあげて金白狼は倒れた。
「あんな化け物を一瞬で……」
「アヤメさん! 胡椒をそんな勿体ない使い方しないでください! 勿体ないです!」
驚くラティオくんに、怒るアイリスちゃん。
俺はごめんとアイリスちゃんに謝る。
「奴の隙をつくにはこれしかなかったんだ。下手に手負いで逃してしまうとまた被害が出てしまう可能性があったから。一瞬で仕留める必要があった。でもこれで頼まれた事は達成できたかな……。…………」
「どうしたのですか?」
「いや……さっきの動きから、どうにもこの個体は予め傷を負っていたんだよね。額の傷も、脚の怪我も。特に足の怪我のせいで俺の剣を躱すことができなかったようだし」
「こ、こんな化け物に傷を負わせる奴がいるのかよ」
「いや、あくまでも主観だよ。ただの縄張り争いか、不注意で怪我をしたのか。それ以前の古傷が痛んだ可能性もあるし。だがそれよりも、この狼、何か別の事に気を取られていたというか……」
<カァァァウッッ!!>
別の鳴き声が聞こえ、すぐに俺は声の元に剣を向ける。だが現れたのが予想と違い困惑する。
「っ! 子ども……か?」
そう、子どもだった。
あの金白狼と大きさは比較するまでもない子どもだったのだ。目の前の子ども……子狼は俺を睨んでいたけど親の姿を見て一目散に駆け寄り悲痛な声をあげる。
あぁ、わかるとも。子狼は俺が殺した金白狼の子どもだ。俺は一歩近づく。
「君の親は俺が殺した。その事実は変わらないし、その事に対して俺は謝罪しないよ」
<ガウゥゥ……!>
「君を逃せば恨みから人を襲うかもしれない。だから、遺恨を残さないために君を殺す」
これは必要な処置だった。兎とは違い、狼は村を襲う。この子狼がこの後成長出来るとは限らないが、成長したら必ずあの村の脅威となるだろう。
だからこそ後顧の憂いを断つ必要があった。懸命に睨む子狼に、せめて苦しまないようにしようと剣を握りしめると
「アヤメさん、待ってください」
俺の袖をアイリスちゃんが掴んだ。
「アイリスちゃん?」
「確かにこの親狼は人に危害を加えました。それは人の世で生きていくならば許されないことです。でもあの子は違います。まだ大丈夫です。やり直せるのです」
「だが此処で放っておいても恨みを抱くだけじゃないかい?」
「そうならないようにわたしが育てます。それにあれは良いもふもふになるのです」
「……もふもふ?」
「はい、もっふもふです」
キラキラした目でこちらを見上げる。
いや、そんなこと言われても。
「アイリスちゃん、確かに今はこの子狼が人を傷つけないと思っても成長すれば人への恨みから傷つけない保障はないんだよ?」
「大丈夫です、ちゃんと育てますから」
「そんな犬猫じゃないんだから」
「犬ですよ。ですよね、ジャママちゃん」
「もう名前もつけちゃってるよ」
物怖じせずに近付くアイリスちゃんに子狼は唸りを上げる。俺は一応いつでも剣を抜ける態勢を整えておく。
「貴方が親を喪って悲しいのはわかります。不安なのですよね。でも、大丈夫ですよ。貴方は一人じゃないです。これからはわたしが一緒に居てあげます。貴方の親を奪ってしまった事についてはわたしは謝る事はできません。彼女もまた生きるために人に危害を加えたのですから。だけど、貴方はまだ大丈夫です。貴方がちゃんと立派な大人になれるまでわたしが面倒を見ます。親を殺した相手の言うことなんて信じられないかもしれません。けど、信じてくれませんか?」
真摯と慈愛の表情で構うアイリスちゃんにジャママと名付けられた子狼は困惑しながらもそれを受け入れていった。
……仕方ないか。
その様子を見て俺は剣を下ろす。
まぁ、仕方ないかと思う俺はやっぱり甘いのだろうか。
「ま、待てよ! そ、そんな危険な魔獣の子ども。村に入れられる訳ないだろ! 誰か死んだらどうするんだ!」
「あなたこんなちっちゃい子が人一人殺せると思っているのですか?」
「そ、それは……だがっ!」
<ガァウッ!>
「ひいっ! へぶっ、あがっ!」
「あっ」
ジャママに吠えられ後ずさったラティオくんが足元の根っこに引っかかって後頭部から頭を直撃した。
「あらら、完全に気絶しているよ」
「情けないです。さっきも腰を抜かしていましたし」
「辛辣だね……」
「事実なのです」
この後俺は気を失ったラティオくんを背負い、一度村へと戻りラティオくんとアイリスちゃんを戻した後再びあの金白狼の死体を取りに戻った。
血抜きをしても尚、金白狼は正直かなり重くてもっと体を鍛えようと決意した。




