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『彼』(仮題)  作者: ちくわ
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迷走の足音。

4月に高校生になった私。

4月に初めて『彼』に出会い、目で追いかける毎日。

それが4月、5月の私の日常。

6月もきっと同じ。何も変わらない。

通学の電車だけが『彼』との接点。

それ以上は望まない。これは恋じゃないから。

そう思っているから気付かない。気付けない。

少しずつ、名前も知らない『彼』に影響されている事を。

迷走の足音を……。




 ――――6月



 制服が夏服になる。



 『彼』も夏服だ。



 初めて見る『彼』の夏服姿。



 とても似合ってる。



 想像していたよりも男らしい腕。



 ちょっといいな。



 登校前だから、学校の友達より先に私が見たって事だよね。



 ちょっと得した気分。



 嬉しい。



 関東甲信が梅雨入り。



 梅雨の割には雨はあまり降らない。



 でも段々上がってくる気温と湿度。



 湿気で電車の窓が曇ってる。



 よし決めた。



 週末に髪切ろう。



 どれくらい切ろうか。



 ショートまでいっちゃう?



 いきなりはさすがに抵抗あるな。



 腰近くまで伸びた黒髪を触りながら考える。



 『彼』をチラリと覗く。



 うーん。



 長い方がいいですか?



 あ。



 『彼』みたいなタイプの芸能人の彼女を参考にするのはどうだろう。



 いいんじゃない。



 よし。



 早速調べよう。



 月曜日の朝。



 天気はどんより曇り。



 でも心と髪は軽い。



 『彼』、気づいてくれるかなあ。



 気づいて欲しいなあ。



 腰近くまであった髪を5センチほど切った。



 5センチなら『彼』がもし髪の長い子が好きでも大丈夫だよね。



 ショートにするのはいつでも出来る。



 5センチなら伸ばすのに5ヶ月かからない。



 ちょっと我慢すれば元通り。



 我ながら中々いい落としどころだと思う。



 あと、髪を扱いやすくする為に全体にシャギーも入れてもらった。



 ロングヘアは重く見えがちだからね。



 シャギー入れてる方が髪が軽く見えていいよね。



 今度美容室行くときはレイヤーカットにしようかな。



 『彼』はどんなのが好みなのかな。



 チラリと『彼』を見る。



 いつもどおり本を読んでる。



 男子はもちろん、彼女にして欲しい髪型とかあるんだよね?



 長い、短い以外にも好みあるの?



 あんまりそこまで細かい事、言わないのかな。



 けど、もしあるならやってあげたいよね。



 学校着いたら、彼氏いる子に聞いてみようかな。



 とりあえず来月か再来月に、美容室にお手入れしに行っておこう。



 6月後半。



 少し梅雨らしくなってきたけど、例年ほどは降らない。



 空梅雨なんだって。



 湿気が少ないのはいいことだ。



 ほんと髪が扱いやすくて助かる。



 『彼』をチラッと見る。



 今日、何回目かわからないチラ見。



 綺麗な髪してるなあ。



 梅雨とか気にしないんだろうな。



 羨ましい。



 サラサラの髪。



 綺麗な肌。



 髪伸ばして、メイクしたら女の子に見えるんじゃない?



 メイクしてあげようか?



 そんなに上手くないけどさ。



 もうすぐ期末試験。



 気持ちが重い。



 私の成績は中の上。



 でも、私の学校は一応進学校。



 油断すればすぐに学年順位落とすだろうな。



 今日から寝る前に気合い入れて勉強しよう。



 お小遣いは成績次第だからね。



 『彼』は勉強出来る人なのかな。



 毎朝、本読みながら通学してるから、勉強出来そうに見えるけど。



 本読んでるのは勉強に関係ないか。



 読んでるのは小説みたいだけど。



 子供向けの小説だってあるだろうし。



 『彼』もこの時期、試験だよね。



 ちゃんと勉強してるのかな。



 得意な教科はなんだろう。



 頑張ってて欲しいなあ。



 いやいや、人の心配してる場合じゃないよ。



 私のお小遣いがかかってるんだから。



 今度のお小遣いで何買おうかな。



 とりあえず、新しいワンピース買おう。



 色は赤。



 いや待って。



 赤持ってたでしょ。



 よし。



 白にしよう。



 あと可愛いサンダル欲しい。



 ヒールがいいかなあ、厚底のがいいかなあ。



 チラっと『彼』を見る。



 よし。



 あの顔はきっとヒールだ。



 電車が『彼』の降りる駅に到着した。



 もう着いちゃった。



 ホームの階段へ向かう『彼』の後姿を眺める。



 ……。



 厚底かな……?



 いやいや待って、もうちょっと考えよう。



 電車が出発して、私が降りる駅へ向けて走り出す。



梅雨の終わりが近づくのと同時に、期末試験も近づく。

でも夏休みも近づく。ちょっと心が躍る。

……。

でもちょっとだけ憂鬱にもなる。

そして、気付きはじめる。

人の中には理性と本能、天使と悪魔のような感情が潜んでいることに。

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