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EP3 再誕への道

なんとか間に合った


空に太陽が昇ってから数時間。

季節的に太陽が顔を出す時間が早い事を加味しても、一般的な社会人ならとうに起きて会社に出社している時間に男は新居で目を覚ました。


「…今日から働こうかな」


ベッドの中で瞼をこすり、今日の予定を考える。


この生活を始めてから今日で10日目。

昨日まではリビングでゲーム、動画配信サービスで好きなアニメの一気見と、ダラダラした生活をしていた男。

社会人にとって9連休と言うのは滅多に無い大型連休であり、人を堕落させる魔の休暇でもある。


事実、男は昔懐かしい学生時代を思い出し働く気を無くしていた。


「働きたく無いけど、住宅ローンあるしなぁ」


男として働かず、このまま引きこもり生活を続けたい。

しかし、ローンという現実的な問題と、かつて隣人だった引きこもりニートの末路を考えると、どうしても引きこもりニートという選択肢は選びづらい。


「仕方ない、今日から真面目に働くか」


取りあえず男は今日から働くことを決め、ベッドから起き出す。

そのまま寝室からリビングへ移動、買い置きの食パンをトースターにセットする。


その足で冷蔵庫から牛乳を取り出し、マグカップへ注ぐ。そしてマグカップを電子レンジへ。


男の定番朝食メニュー、トーストとホットミルクが完成するまでの間、もう一度手に入れた転生特典、自身が背負ったローンについて思い返す。

・・・ついでに隣人の末路と、元の世界に戻る条件についても。




▼△▼△▼△



・・・10日前。


「ふむ、確かに君の訴えは事実のようです」


隣人の背中に思いの丈をぶつけた後、男は当然のように取り押さえられた。

ついでに男の蛮行に反撃しようとした隣人も、暴れるからと男と同様に取り押さえられた。


男は女神に、隣人は侍に取り押さえられている。

男は無意識に隣人に対して優越感を覚えてしまうが、それは男たして仕方ない事なのだ。


男は背中に感じるやわらかい感触に怒りを鎮め、この場で一番偉いであろう中堅公務員の事情を切々と訴えた。

しかし、中堅公務員に自身の現状を伝えると、確認します、とだけ告げて俯いてしまう。


本当に自分の訴えを聞き入れてくれたのか、男は不安に思った。


「心配無用でござる。現世で言うビデオ判定システムで、お主の訴えが誠か確認している所でござる」

「あ、それ知ってます。閻魔大王の浄玻璃鏡(じょうはりのかがみ)ですよね」

「昔はそう言ったみたいだけど、今は現代風にバージョンアップされたの。それに昔は一個しか無いから閻魔様しか使えなかったけど、今は申請すれば私達みたいなヒラでも使えるようになったの」

「…女神様、ヒラなんですね」


思ったよりも現代的なあの世(?) に感心すれば良いのか、目の前の親しみを覚える女神がヒラである事を悲しめば良いのか。

男は自身の死後こんな事を悩むなんて「事実は小説より奇なり」とは本当だな、と現実逃避を決め込む事にした。


現実では無く、あの世なのだが。


「現実で言えば国家公務員なんだけどね、役職無いヒラだけど。今ビデオ判定してる人は課長補佐クラスで、このまま問題が起きなければ300年後には室長クラスだし、さらに400~500年すれば課長クラスにはなると思う」

「上手くすれば4000歳で課長クラスも夢では無いでござる」

「本人に能力がある上に、コネも凄いですからね。三代前から官僚のエリート一族で、お父さんは事務次官クラスで私たちの大ボス、お母さんは閻魔大王の娘さんで別の省庁で局長クラス」

「叔父上は軍で将軍をしているのでござるが、最近栄誉ある勲章を叙勲されているでござる」


侍と女神は中堅公務員を持ち上げるが、持ち上げれば持ち上げるほど男は不安になる。

そこまでのエリートなら、絶対に失点を認めないのでは無いか、下手をすれば自分は消されて彼の失点は無かったことにされるのではないかと。


「安心するでござる。我々の担当は契約者の魂があの世に来てから。お主等との契約を担当するのは別の部署でござる」

「しかも、その部署の管理職は長年のライバルだからね。徹底的に失点を見つけて出世コースから叩き落す材料にすると思うから、貴方の不安は杞憂だと思う」


事実、中堅公務員は既に検証を終え、どうすれば自分の得点が最大になり、ライバルの失点が最大になるかを検討していた。


検証の結果、男の訴えが正しい事が確認出来た。

この事実を上に報告するだけでライバルへのダメージとなるが、それだけでは自分の得点がゼロだ。


上への報告も速やかに上げるし、外部団体、特に人権に煩い団体、にリークするつもりもない。下手に報告を遅らせれば隠ぺいを疑われるし、この件で非難の対象になるのは自分では無いので隠ぺいする必要は無い。


事務方のトップである父には多少のダメージはあるだろうが、ネットでの勧誘を推し進めたのは父の上司である大臣と、父の地位を脅かす局長だ。


肉を切らせて骨を切る、と言った結果に落ち着くだろう。

それに父に遠慮せずに自身の職責を果たしたというプラスの印象も得られるかもしれない。


「それで、訴えが認められたら私は生き返るんでしょうか?」

「それは無理でござる。現世では、既に医師による死亡確認が済んでから一時間は経っておる。これらを問題無い状態に戻すには奇跡を起こす必要があるでござるが、奇跡を起こすのに必要な魔力が足り無いでござる」


訴えが認められたとしても、生き返る事が出来なければ意味が無い。

男は転生などに興味は無く、ただ新居であるマンションでの生活を満喫したいのだ。


中古マンション築20年で都心から離れているとは言え、清水の舞台から飛び降りる気持ちで購入したマイホームだ。

何が悲しくて現代的で快適な生活を捨てて、中世ファンタジーで俺tueeeなどゴミだ。

仕事から帰ってきて、リビングに設置したソファで飲むビールの方が良いに決まっている。


「魔力は奇跡を起こすために必要な力なんだけど、ただでさえ魔力不足で苦労しているのに、そんな奇跡起こしたら破産しちゃうよ」

「あの世が破産すれば連鎖的に現世も崩壊するでござる。お主が仮に生き返っても、恐らくは一ヶ月と生きてはおるまい」


世界が滅ぶと言われると、男としては無理に生き返りたいとは言いづらい。

男は、自分のビールの為に世界滅ぶけど良いよね、とは言えない性格なのだ。


「もし世界に影響が無いように貴方を生き返らせるなら、最低でもこれくらいかかります」

「ちょっとゼロが多すぎて読めないです」


中堅公務員が電卓を叩き、男に数字を見せてくる。

そこには男が日常生活で見た事の無い数の0が並んでいた。

桁を区切るカンマの数を数えても、四つもあった。


「一兆円ですね」

「一兆円ですか」


一兆円。

ニュースでしか聞いた事の無い数字がそこにはあった。


「私、現世のお金しか持って無いんですが。ローンとかでも大丈夫ですか?」

「額が額なので現金一括払いのみですね。それにローン払いで現世に戻っても返済の当てがないでしょう」

「こちらのお金稼げないですもんね」


男は正社員なので収入は安定している。

が、稼いでいるのは日本円で現世でのみ通用する通貨を稼いでいた。

こちらの通貨に両替出来なければローンの返済など出来はしない。


「補償とかで何とかなりません?」

「確認の不手際があったとは言え、主犯はあくまでも貴方の隣人ですから」

「一兆の慰謝料なんてムリですよね」

「可能性はゼロでは無いですが、やはりローンは無理なので隣人さんに稼いでもらう必要があります」


真面目に働いてきた男にも一兆円を稼ぐなど想像も出来ない事だった。

それを引き籠りニートの隣人に稼げるなど、男は全く思えなかった。


「・・・生き返るなんて贅沢言わないんで、せめて自宅でゴロゴロしたい」

「ふむ」


男の苦悩を見透かす中堅公務員。

中堅公務員としては被害者である男に対する補償の必要性を認めているが、ただ補償するだけでは芸が無いと考えていた。


補償するのであれば、こちらにとって投資となる内容が良い。

元手の大部分は主犯である隣人に払わせるし、こちらは気持ち程度出して手を動かした事実で落としどころとしよう。


中堅公務員は費用と効果、男の満足度を比較し、恐らくは皆がハッピーになる案を思いつく。

・・・ここで言う皆は中堅公務員と男の事で、隣人と中堅公務員のライバルは対象に入っていない。


「なるほど、貴方はご購入されたマンションでこれからも生活したいのですね」

「そうですけど、無理ですよね」

「不可能では無いですよ。例えばマンション型ダンジョンとして異世界に建ててしまえば良いのです」


マンション型ダンジョンという言葉は初めてだったが、男にとっては福音に聞こえた。


「でも、ライフラインとか無いと」

「大丈夫です。月々の利用料は頂きますが、電気、ガス、水道を整備致します」

「でも、高いんじゃないですか?」

「電気代、ガス代、水道代、下水道代合わせて月々定額15,000円で如何でしょう。幾らお使いになっても15,000円、夏や冬にエアコンを好きなだけご利用頂けます」


先月の水道光熱費は13,000円だったので少し高いが、それはエアコンをあまり使用しない月だったからだ。

夏になりエアコンをフルに使用すれば、計15,000円を超える可能性は十分ある。

異世界でライフラインを使えるメリットを考慮すれば、十二分に納得できる料金設定だと男は判断した。


「ちなみにネット回線とかは無理ですよね?」

「異世界の事をネットにアップしない事を条件に、スマホ代とセットで光回線を15,000円で如何でしょう?」

「お願いします」


大手キャリアのスマホを使用する男にとって、15,000円は問題無い料金だ。

下手にゴネて取引中止になる方が困る。現代に生きるオタクにとって、ネット環境は生命線だ。


「でも、転生した先の収入は大丈夫ですかね? もしかしなくても無職ですよね?」

「ダンジョンには魔力を収集する機能がありまして、収集された魔力は私共が買い取りますので収入の面ではご不安は少ないかと」


ソーラー発電や家賃収入みたいな物かと男は納得し、心の中で中堅公務員の案に乗ることを決めた。

まだまだ確認したい事はあるが、ライフライン付きのマンションがあれば大抵の事は我慢出来る自信が男にはあった。


「月の収入はどれくらいですかね?」

「ダンジョンの規模に依存するので自由に設定できますよ、ご希望などありますか?」

「月30、いや25万あれば」


男が30という数字を言った瞬間、中堅公務員の顔が曇る。瞬時にそれを感じ取った男は直ぐに条件を下方修正する。


勿論、それは中堅公務員の演技だ。

収入とダンジョン規模は比例するので、男が望む収入を得るダンジョンを建築するには初期費用がかかりすぎる。

大半を隣人とライバルの負債とするつもりだが、回収出来ない負債を背負わせる気も無かった。


回収出来なければ、中堅公務員の失点になるからだ。


「月25万ですか、それなりの規模のダンジョンになりますので元手が。いえ、被害者である貴方のご希望に添えるよう勉強させて頂くのですが、主犯である彼からの賠償金ではカバーしきれない額なので」

「でも、あいつの両親は金持ちって噂ですよ」


申し訳なさそうな中堅公務員に、男は無意識に味方として意見を出してしまう。

男にとって自身の望みを叶えてくれる中堅公務員は味方で、中堅公務員にとってはチョロイ客だった。


「残念ながら現世での金銭は使用出来ないので、彼には借金を背負って頂き貴方への賠償に充てます」

「…あいつ信用なさそうですし、そんなに貸せないでしょ」

「通常の転生者の方にはモンスターを討伐して頂き、得た魔核を買い取らせて頂きます。所謂、俺tueeeをして頂ければ、それが転生者の収入となるのです。まあ、性格に難がありそうなので大金はお貸しできないのですが」


中小企業の安月給で住宅ローンを申し込んだ経験から、きっと隣人は高額の借金は出来ないだろうと内心見下していた。

これも男の怒りをコントロールしようとする中堅公務員の手なのだが、男は当然気が付かない。


「あの方には二名分の転生料金も支払って貰いますし、私共にも責任があるので費用は出すのですが」

「あの、どれくらい足りないでしょう?」

「1,500万程足りません」

「・・・利子とか、返済期限とかあります?」

「利子は無利子で、期限も死ぬ前までに返済してくだされば結構です」


男の中では、既に足りない分を負担するのが既定路線となりつつあった。

月の収入が25万、年収なら300万。マイホーム購入時に勉強した限度額を考えると、物件にもよるが最高でも2,000万までの借金ならギリギリ許容範囲だろ。


無利子だし、中堅公務員の言葉を信じればモンスターを討伐して魔核を手に入れる副業もある。

どちらにしろ、ダンジョンの主として自衛手段は必要だし、その能力で副業するのは一石二鳥で効率も良い。

借金の限度額を2,000万として、マンション型ダンジョンの不足分1,500万、残りの500万で自己強化の転生特典を手に入れよう。


これが男の、所謂とらぬ狸の皮算用なのだが、男はまったく気が付かない。


「足りない分、私が負担しましょうか?」

「それは、被害者である貴方に申し訳ないですよ。それに、返済前に死んでしまうと地獄で働いてもらう事になってしまいます」

「きっと、凄いブラックな環境ですよね、地獄ですし」

「ええ、地獄ですので」


思わぬリスクに男は戸惑うが、マンションは諦めたくない。

しかし、このリスクを取らない場合の選択肢は、転生しないか、現代世界の利器を捨てて中世ファンタジー世界に生きる、この二つしか無い。

そして男には現代世界の利器を捨てる事は出来ない。


「あの、転生しない場合は天国に行けますかね?」

「可能ですが、半年程度で魂が分解して新たな魂として転生します」

「・・・今の記憶は無くしますよね?」

「ええ、そこは通常の処理です。記憶を持ったまま転生する事は、太陽が西から昇るくらいあり得ません」


万策尽きた、リスクを許容するしかない。

隣人に生き返る為の費用一兆円を稼がせる手段もあるが、そんな事は隣人には出来ないだろうと男は確信している。

そもそも、一兆円なんて稼げるのはビル○イツなど、一部の選ばれた人間だけだ。


「ちなみに、隣人が一兆円稼ぐまでココで待つことは出来ます?」

「出来ますが、オススメしません。待合室などの設備は刑務所レベルですし、物価も高いので生活保護費以下の生活費で数千年過ごして頂く事になりかねません」

「士官先もお主の能力では無いであろう」

「最低限、天使と同程度の能力は必要だもんね」

「一応生活費を増やす事も出来ますが、隣人さんの支払いになるので生き返るのが遅くなるデメリットがあります」


待つことは可能だが、何の娯楽も無く待つのは男には出来ない。

ならば自分で稼いだ方が良い。

少なくともライフラインが整い、ネット環境もある家があるのだ。


「そうだ、マンションといっても大半は空き室です。入居される方もいらっしゃらないでしょうし、スーパーやコンビニなどに改装しましょうか。そちらの方がより快適に過ごせるでしょう」

「・・・飲食店とかも大丈夫ですか?」

「ええ、幸いそれなりの規模のマンションですからスペースには余裕があります」


ダメ押し、圧倒的ダメ押し。

多少のリスクがあろうとも、男には中堅公務員の提案に乗る以外の選択肢は消え去った。

中堅公務員の提案のみが男の希望を叶える唯一の方法だと、男は中堅公務員に感謝の念を抱くのだった。


もっとも、感謝の念を抱かれた中堅公務員は脳裏で別の事を考えていた。


ダンジョンで収集した魔力の半分はこちら側の取り分、無条件で25万の利益を確保。

水道光熱費も光回線のコストも合わせて数百円ですから、こちらは月あたり約3万の利益を見込める。

スーパーも飲食店も現世の数百分の一のコストのため、現世の相場で販売すれば利益率99%。


こちらは十分な利益、あちらは現代的で健康的な生活、完全なWin-Winな関係だった。

さらに素晴らしいのは、初期投資も主犯からの賠償で賄うので中堅公務員の懐が痛まない事だ。

金は出さないかわりに手は動かすが、予測される利益に比べれば大した手間でも無い。


中堅公務員は分類的には神様なのだが、考えている事は悪魔的で一端の商人だった。


「と言うわけで、貴方もそれで良いですね?」


中堅公務員は男との交渉は完了したと、有無を言わせぬ雰囲気で取り押さえられたままの隣人に目を向けた。


見た目上は侍に取り押さえられているだけであったが、魔法的な力なのか、隣人は今まで声の一つも上げていなかった。

しかし、中堅公務員が目を向けた事で魔法的な拘束が解けたのか、隣人は激昂した。


「俺は悪くねぇ! 俺は悪くねぇぇ!」

「アホか! そのセリフを言って良いのは赤髪長髪イケメンだけだ!」


隣人は狙った訳ではないのだが、そのセリフはオタクである男の琴線に触れ、思わずツッコミを入れてしまう。

普段の彼ならスルーするのだが、ひしひしと感じる非日常が彼の心のブレーキを鈍らせていたのかもしれない。


「・・・反省なし、意見を聞く必要は無いでしょう」

「ちょっと待てよ!」


中堅公務員が冷徹な判断を下すと、隣人の姿が消えてしまう。

隣人が消えていく光景を見て男は、それは別のイケメンのセリフだ、と心の中でツッコミを入れるのだった。



「それでは、細部を詰めていきましょうか」

「宜しくお願いします」


中堅公務員も男も、直ぐに隣人の事を忘れてマンション型ダンジョン、転生特典の細部を詰めていく。


「あの、部屋を広くしたり、ルーフバルコニーとか付けたりしたいんですけど」

「問題無いですよ。ついでに露店風呂も設置しましょう」

「病気になった時用に、病院と歯医者とかも欲しいですね」

「スペース的に大病院は難しいですが、基本的な機器や薬品、手術が出来る環境を用意しましょう」


こうしてマンションに設置する店、施設の検討を行い。


「防犯関係はどうなるんでしょう?」

「ダンジョンなので不壊属性が付きますが、攻略者の為に侵入可能な手段を残す必要があります」

「オートロックの鍵を外に隠すとか?」

「庭を広くとってゴーレム戦士を2体配置、ゴーレム戦士を倒した場合に鍵入りの宝箱がドロップするようにしましょうか」

「初期状態なら十分ですね。後はこんな防衛装置はどうでしょう?」

「面白い発想ですね。低コストで導入可能です」

「いやいや、オタクの発想ですよ」


ダンジョンの防衛について検討を行い。


「私共の賠償として、こちらの特別職を進呈しましょう」

「特別職がダンジョンマスター、貴族(男爵)、聖人のみっつですか」

「特別職は同時に装備出来るから、数が多い方が有利よ」

「中には装備者に悪い影響を与える特別職もある故、努々油断なされぬように」

「ダンジョンを運営するのにダンジョンマスターは必須ですし、不老になりますからね」


検討内容は男自身の能力や容姿、肉体年齢の設定に移行していく。


「特別職【聖人】は神職系の職業に限り、別の職業に就いた状態でもう一つの職業に就ける特典があります」

「仕様上特別職以外の職業は一つしか装備出来ないので、特別職【聖人】だけで三つの職業を装備出来るレアな職業なんです」

「例としては、剣士(ソードマン)司祭(プリースト)、特別職【聖人】が同時に出来るチート仕様でござる」


こうして、無事に転生特典の内容も決まり、最後に男は中堅公務員にお願いをする。


「新しい名前ですか?」

「転生では無く転移ですが、一回り若返る事ですし新しい名前を名乗ろうかと」

「なら、レグニルスなんてどうです?」


中堅公務員の横にいる女神からの提案。

彼女にも親切にしてもらった恩があるので、男は否とは言えない。


「由来とかってあるんですか?」


提案を否とは言いづらいが、名前は一生物なので変な由来の名前は避けたかった。


「私達、神の言葉で【聖なる焔の光】って意味です」

「スイマセン、それはアウトです」


その名前で転移してしまうと、『生まれた意味を知るRPG』が始まってしまう可能性も否定出来ない。


「冗談です。本当は【聖なる炎】という意味です」

「厨二の匂いがしますが、これくらいは許容範囲なのかな? 某国大統領のドナルドも語源は【世界の支配者】らしいし」

「では、私からはミドルネームと家名を。レイル・レナグレイルスなど如何でしょう?」

「レグニルス・レイル・レナグレイルスですか。レが多い名前ですね」

「レナグレイルスは【いと高き恩寵】という意味があります。これからはレナグレイルス家の当主として頑張ってください」


こうして男は新たな名を手に入れ、新たな世界に旅立っていく。


「色々お世話になりました、また会えますかね?」

「転移先で亡くなれば会えますが、それは相当先の話にしたいですね」


送り出した転生者・転移者が稼いだ魔力量が成績となる身分としては、会うのが先になればなるほど喜ばしかった。

ここまで手を貸したのだ、男、レグニルスには十二分に良い成績を残して欲しいのが中堅公務員の素直な気持ちだった。


「そうですね。それでは、いってきます」


レグニルスは家を出る気軽さで会議室を後にし、そのまま第二の人生の舞台に旅立っていった。


「・・・しかし、自分の名前をミドルネームにするなんて、よっぽど彼の事が気に入っていたんですね、レイル課長補佐」

「全くでござる」

「…彼のバックにいるのが誰なのか、分かりやすい方が私の評価につながると判断しただけです」

「またまた、ツンデレなんだから」

「・・・それ以上言うなら、減俸にしますよ」



とりあえずこれで転生までいけた。

一区切りついたので、次回は土日のどちらかに投稿します。

日刊連載は無理だった( ̄。 ̄;)

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