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詐欺師カンパニージャ、墓地で蛾の女と出会う

この作品は、戯曲形式で書かれていて、しかも途中途中に詩を挟み、ミュージカル(30曲の曲つき)になっています。その為、小説として読むと、読みにくい箇所があるかもしれません。その辺はどうかご了承下さい。

■■■第三幕■■■


挿絵(By みてみん)


<場面変わって、ジローナ県の郊外。

森と沼に囲まれたボティーガス墓地。

人は何年も訪れず、

無人の荒れ果てた墓場と化している>


<老いぼれたミヤマ鴉が

ティエントを歌う>




**老いぼれたミヤマ鴉**

捨てられた骨よ、捨てられた栄光よ、

あい、見事な旦那様よ

どんなに富にすがりつこうと、

どんなに善行を積もうと、

死んだお前は、糞ったれなジプシー女の骸の隣に横たえられ、

同じ土をかぶせられ、朽ちていくのだ


**骨や屍達**

(応唱)

美しき娘よ、古き良き日々よ、

あい、懐かしき過去よ

どんなに美しい青春も、

どんなに誇り高き決闘も、

死んだ今は土をかぶり、忘れ去られ、

振り返る者もいないのだ



(男の骸がティエントを踊る)



**老いぼれたミヤマ鴉**

捨てられた骨よ、捨てられた栄光よ、

あい、哀れな仕立て屋よ

どんなに欲深だろうと、

どんなに愚鈍だろうと、

死んだお前の苔むした骨も、美しき娘の屍も、

同じ土をかぶせられ、朽ちていくのだ


**骨や屍達**

(応唱)

若き恥よ、幼い過ちよ、

あい、偉大な時の流れよ

どんなに赦されぬ傷も、

どんなに恥知らずな欲望も、

死んだ今はウジ共に喰われ、風にさらわれ、

涙流す者もいないのだ


**全員**

(結唱)

やれ嬉しや、やれ虚しや、

あい、一連の人生劇よ

そんな虫の喰らう終焉にも、

穴の開いた空虚にも、

ましてや、哀れな泥だらけの罪にも

賛美と赦しの歌は流れるのだ





■「アメベオ形式によるティエント」より

(未録音)■





<年老いた魔女(馬の骨)が一人、森の奥より登場。

骨達に話しかける>





**馬の骨**

遥か昔に死んだくせに、

まだ静寂というものを知らんのか。

沈黙の価値がわからんのか?

糞ったれな骸共め!!

ええい、老いた体には風の音は響くのだ。

忌々しい。


ああ、才気も、叡智も、

全ては若い体を持っていた時代にこそ価値があったのだ。

今の私はただの老いぼれか?

輝かんばかりに美しく、気高い花は、

摘まれる事を恐れるが、

それは若いうちの驕りというもんだろう。

最もこの世で恐ろしい事は、

誰にも知られずに美しさを失い、朽ちていく事だ。

讃えられるべき才を讃えられずに、

人知れずに消えていく事ほど、残酷な事はあるまい。

だが考えてみれば、それは誰にでも訪れる終焉ではないのか?

国中で讃えられた英雄や、乙女達の結末はどうだ?

彼らは賛美の言葉に驕り、偽り、飾り、

己の最高の青春時代が永遠に続くと錯覚するが、

その何十年後、朽ちたあばら屋の隅に敷かれた小汚いベットで、

息を引き取る事になるのだ。

時とはそういうものだ。

だから、多くの女が神の祝福を捨て、魔女になるのではないか?

永遠の若さを追い求める為に。

なぜって、女は、自分に注がれる愛情が

永遠ではない事に逸早く気づく生き物だからね。


だが、どういうわけだ?これは?

この神に見捨てられたボティーガス墓場に

人間の若い男が二人、入って来るではないか。

道に迷ったか?

墓泥棒か?


これは、私にもまだチャンスはあるという事か。

若い男の生き血を吸えば、

かっての若さと美しさを取り戻す事もできるのではないか!!

おお、もちろんそうだ!!

それが、長生きした女が、

埋葬虫に教わる墓場の知恵というものじゃないか。


ならばさっそく準備にかかるとしようね。

不手際は許されないよ。

つまらん邪魔が入らないうちに、

事を終わらせたいのならね。




<馬の骨が退場する>


<入れ替わりにカンパニージャとイエスが登場する>





**イエス・キリスト**

ちょいとばかり、ここで待っていてくれないか。

いろんな物を調達してこなくてはならないんでね。

なぁに、ほんのちょっとの間だ。

日が暮れる前には戻って来る。


**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

ちょっと待って下さいよ。

馬車で山を越え、町を過ぎ、森の中を抜け、

長い道のりを来たと思ったら、

ここは一体、どこなのですか?

この森の奥の荒れ果てた墓場は?

人が手入れしている気配もない。

全く、なんて薄気味悪い場所だ。


**イエス・キリスト**

この世のほとんどの場所は、人々の生きる活気で賑わい、

文明の知恵で栄え、神の恵みにより男も女も潤っちゃいるがね、

どんなに箱庭を整えてみた所で、

澱みのような場所は必ずできるものなのだよ。


どんなに美しい花園にだって、日陰があるように。

ムカデやゴミムシが這い回る哀れな場所があるのだ。


だが、それはそれで、

そういった場所を必要とする者もいて、

それならそれでいいものなのだ。

ここは100年前には村があり、賑わっていたが、

今では誰も訪れる事のない見捨てられた土地だ。


だが、何者もいないというわけじゃない。

私がいない間、何者かが声をかけてきても、

君には相手にしない事を薦めるね。

そういった連中は、下心無く他者と会話をする方法を

忘れてしまった者達なのだ。

まぁ、君と似たようなものだが。


**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

なんてこった!?

こんな無人の荒野で一人、

ただ人を待たねばならないとは!?

おまけに日陰に潜む得体の知れない

魔物に怯えなくてはならないなんて!!


**イエス・キリスト**

辛いだろうがね、

手順というものがある。

これからの為に、いろいろな物を準備しなくてはならんのだ。

そういった事も含めて、仕事のうちなのだよ。

では、すぐ戻るように心がけるから、

大人しく待っていてくれたまえ。





<イエスが退場し、

カンパニージャが一人、取り残される>





**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

一人になってしまった。

こんな墓場で・・・


(カンパニージャ、客席に向かって。)

俺が怖がってるって?

馬鹿な!! 冗談じゃない!!

俺は泣く子も騙す詐欺師カンパニージャ様だ!!

詐欺師っていうのは、誰も信じちゃいないし、恐れやしないものさ。

魔物だって騙してやるぞ!!


そう、魔物だって、人間だって、騙す手順は同じだろう。

こちらが下出に出て、弱者のフリをすれば、

相手は簡単に騙される。

誰もが狼には、警戒と嫉妬を持って接するが、

小兎には、憐憫と自惚れた態度を見せる。

その憐れみや自惚れが、こっちにとっちゃ隙なんだ!!

そんな隙を相手が見せたらしめたもの。

俺は絶対に見逃さない。

肝心なのは決して他人に心を開いちゃ駄目って事。

それから自分にもね。


そして、善人になれば幸せになれるんじゃないか?とか、

聖書の言葉とか、そんな事も考えちゃ駄目だ。

だって、そうだろ?

そんな事を考えてたら、

前に進めなくなっちまうじゃないか!?

そうなったら、たちまちおしまいさ。

信仰の真理はわからないけれど、

俺の腹は、確実に一日経ちゃ、飢えるってわかってるんだから。

この世は立ち止まった奴から、あっという間に喰われちまう。


俺はカシケのような裕福な連中じゃない。

肥えて身動きができない連中じゃないぞ。


生まれた時から誰だって平等じゃないんだ!!

だから、何をしたってかまうこたぁない!!

何も考えずにひたすら進んでいくんだ。

そう・・・自分の本心だって知る必要ない!!


へへ・・・俺がもし、いつか捕まって

審問官の前に連れてこられたら、こう言ってやるね!!

俺は神も恐れない!! 善も信じちゃいないし、

誠意なんてくそくらえだ!! ってね。

そしたら審問官の奴、こう言うだろう。

(カンパニージャ、声を変えて。)

おまえには心は無いのか?優しさは?

すかさず俺はこう言う。

そんなもん捨てちまったよ。ってさ。




<カンパニージャの頭の中の風景。

場面は裁判所。

審問官達が現れ、カンパニージャを尋問する>





**審問官**

思いやりは?


**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

ぜひとも、俺にいただきたいね。


**審問官**

両親の顔は?


**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

カボチャとレンコン。




<カンパニージャと、空想の審問官達が歌いだす>




**審問官**

お祈りは?


**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

自分に向けて


**審問官**

聖書の文句は?


**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

同情を誘う時に


だって聖水とストラ、十字架とパンが無くても

融通と知恵とお金があれば生きていける

スカート短く見せれば神様だってホットな気分になれる


**審問官**

好きな娘には?


**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

情熱的なアプローチで


**審問官**

憎い相手には?


**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

遺産目当てで


だって神様、愛なんてなくても

ちょっぴり台所の知恵があれば料理はできる

世の中を知っていれば料理なんてできる


ほらごらん この世は

ちょっといじれば自由自在

エコエコアザラク エロヒムエッサイム

教会だって 親友だって

生娘だって ユダ公だって

妖術にちょっと色気を足して誑かせ!!


さぁ、この世はイカサマ師達の派手な舞台

花火を上げなくちゃ始まらない

貞操なんて後から付け足せばいい

容量よく楽園に向かうんだ



**審問官**

呪われてる!!


**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

イカサマして


**審問官**

人を裏切って


**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

夢を見て


ああ なんて悪って自由

ああ なんて派手な魅力

例えそれが本当は永遠に続かない

若気のいたりなんだとしても


同胞達が死んでいく

仲間が捕まっていく

ごめんね、もう涙すら忘れた

立ち止まる時間なんてないの

黒魔術の効果はひとときだから


ほらごらん この世は

ちょっといじれば自由自在

不条理だけが友達さ

いつか痛い目見るとみんな言う

そんな事本当はわかってる

その覚悟ができてる奴らの呪文だから


さぁ、この世はイカサマ師達の派手な舞台

タネも仕掛けもなくちゃ始まらない

貞操なんて後から付け足せばいい

這いつくばって楽園に向かうんだ



ほらごらん この世は

神と悪党のイカサマなチェス

不条理こそを愛してる

全てがむなしいとしても、何も残らないとしても

それでも私達は進んでいく


あとで泣くのもいいかもしれない、

つぐなうのもいい

祝福をむしろ与えよう

軽やかに楽園に行く者にも

這いつくばって楽園に向かう者にも





■「神と墓場の虫のチェス」より

(ユーチューブで「墓の魚 神と墓場の虫のチェス」

と検索すると聴けます)■





**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

ああ!!

だが、それでもこうやって一人でいる事は苦手だ。

いろいろな事を考えちまう。

魔物よりも狼よりも恐いのは、

自分と正直に向き合う事。

そんな惨めな俺を見たくないのだ!!

飄々と、それでいて愚かに、

余計な知恵を身につけずに生きていけるのが、

俺のいい所じゃないか!?


そもそも森羅万象、この世界に生み出された者は、

あんまり考え過ぎると、生きる事ができなくなっちまうようにできているんじゃないか?

ミドリヒキガエルが、

なぜ自分はミドリヒキガエルなのかを考えだしたら、

しまいにゃ、蠅も捕れなくなっちまう。

そうなったら、ただもう骨と皮になるのを待つだけだ。


**罪の蛾**

そりゃ、旦那、

生きて死ぬだけの事なら、雑作もない事で、

カエルなどにもできる事でしょうが、

人間というのは、そうもいかないのです。


**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

だ、誰だ!!?

そこにいるのは?

狼か?魔物か!?


**罪の蛾**

おかしな事を言いますねぇ。

この辺の狼ならば喋りはしないでしょう。

また、魔物はこんなに可愛らしい姿をしてませんや。


**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

なんと、子供?

いや、若い女がいる。

見た所、ジプシー女のようだが。


ならば、おまえは誰だ!!?

そんなにはっきりと墓石に影を落としている所を見ると、

まさか死霊ではあるまい?


**罪の蛾**

人間ですよ。

名のる程の長ったらしい名前は持ってないけどさ、

ポリリャって名前がありますからね。

仲間からは罪悪の蛾なんて呼ばれてるけれど。

墓場に住む哀れな乞食ですよ。

私の事はそんなに気にしなくていいと思いますけどね。


**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

気にするなと言われても、

いるものは気になるじゃないか!?


**罪の蛾**

目の前にあるものを気にしない方法なんて、

いくつもあるでしょう。

旦那が、己の事を見たくないって叫んでいるのと、

似たり寄ったりの方法でさ。


**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

さ、叫んでなどいるものか!?


**罪の蛾**

じゃあ、歌っていたと言うべきかしら。

今、流行のカンタオールというやつね。


**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

叫んでもいないし、歌ってもいない!

ただ、・・・そうだ、哲学を語っていただけだ。


**罪の蛾**

なるほど。

哲学とはまた高尚な話ですね。

しかし問題は、この墓地には誰もいないという事です。

墓の下にいる連中は死んでますしねぇ。


**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

誰もいない?

それが何だと言うのだ!?




<カンパニージャ、

大げさに嘯いてみせる>




いいか?

一人前の男と言うのは、

空に哲学を聞かせたくなる時があるものだ。

それは、気狂いの所行のようでそうではない!!

立派な紳士というものは、矢鱈滅多な事で、

信仰や己の生き様に迷いを抱いたりはしないものだが、

それでも人生には時として、耳元で不実を囁かれる時がある!!

それは誰というわけではなく、ましてや悪霊や死神などでもなく、

いわゆるそれが、虚栄という奴なのだ!!

虚栄は人生の矛盾であり、詐欺師でもある。

そいつは、どんな勇敢な騎士の心をも虚しくさせてしまうのだ!!

そうした時、空に向かって哲学を叫ぶのは・・・


おい!! 聞いているのか!?


**罪の蛾**

聞いていますとも。

でもね、旦那。

哲学っちゅうのは、生きている者が

墓に入るまでに退屈した時に嗜むものです。

勘違いされやすいのは、

それが何の道標にもならない物なのに、

まるで正しい道を示してくれる

教科書みたいなもんだと思われている事ですね。


だって、結局の所、人生というのは、

退屈しようが、しまいが、

道に迷おうが、信仰に迷おうが、

辿り着く場所は同じなんだから。


**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

何処だと言うんだ!?


**罪の蛾**

墓の中ですよ。


**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

なるほど。


**罪の蛾**

まぁ、時々、水に浮く奴もおりますが、

それは、そいつの墓がたまたま水気が多かったというだけの話です。


男というのは、全く、

歌う事にも、哲学を語る事にも大義名分をつけたがる。


旦那。

叫んでようと、歌ってようと、

どっちでもいいじゃないですか。

ここは墓地なんだから、生きる者達の世界でできない事でも、

ここでは全て許されるわけです。

だから、私は忠告をしてあげようかと思っているのです。


**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

忠告だと!?


**罪の蛾**

この森の先に、馬の骨っていう魔女が住んでましてね。

そいつは、この墓場に来た若い男を捕らえちゃ、殺してるんで。

だから、気をつけた方が良いと思いますね。


**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

ま、魔女だと!?

なんと、そんな連中は、とっくの昔に教会の威光によって

根絶やしにされたと思っていたが、

まだそんな古い時代の遺物が存在しているというのか!?


**罪の蛾**

時代、時代って、社会主義者みたいにさ、

若い連中は何でもかんでも

その二文字の魔法で片付けようとしますけどね。

いくら馬車が車に変わった所で、

それに乗り込む人間は同じなんだから、

そしたら、やっぱり喜びとか、恨みとか、

そういったものは、ティベリウスの時代から変わらないわけですよ。

毒を飲みゃ、死ぬって人間の側には、

必ず毒を盛る女がいるって事も、

そういう意味で変わらないわけです。


**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

だが、なぜ、若い男を生け贄に捧げるんだ?


**罪の蛾**

なぜって、

そりゃ、若返る為でしょうねぇ。

若い私には全く理解できない事だけど、

年をとると、全く無駄な事にばかり

時間をかけるようになるものなんです。


**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

なんだと!? 若返る!?

それで実際に若返るのか?


**罪の蛾**

それが、若返らないのです。

ただ、若返った気になるのです。

しばらくはね。


**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

そ、それでは、狂っているではないか!?


**罪の蛾**

まぁねぇ、魔女なんて、

何処かが狂っているものなんで。


**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

むむぅ、では、

この墓場から急いで逃げ出した方がいいと言うんだな?


**罪の蛾**

それがねぇ、もう手遅れみたいなのですよ。

ほら、見て。

あそこの骸が動き出してるじゃないですか。

あれは、あの魔女独特の妖術の一種なのです。





<朽ちた屍が墓穴から起き上がり、

よろよろとゆっくり近づいて来る>





**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

う、うわっ、本当だ!!

なんて事だ!!

こんな神に祝福されてない事が起こっていいのか?


**罪の蛾**

このボティーガス墓地では、

神に祝福されてない事が起こるものなのですよ、旦那。

ここでは屍達は、蠅や犬にたかられたり、

風にさらされたりする以外にも、

踊ったり、時には喉に肉がついていれば、

ティエントを歌ったりする。

中にはガリシア語を喋るやつもいる位です。


さっきも言いやしたが、

生きてる者の世界では許されない事でも、

墓場では許されるのでね。

自然の摂理というか、生きる者の摂理みたいなものが、

ここでは死んでいるから。


**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

どうすればいいのだ!?

このまま、こんな所で

魔女に取って喰われてしまうというのか!?


ああ!! おぞましい朽ちた手が、

もう、そこまで来ているではないか!?

た、助けてくれ!!


**罪の蛾**

それがねぇ、

助けられないわけではないのです。


**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

は?

今、何と言った?


**罪の蛾**

助けられないわけではないのです。

と言ったの。


**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

助けられないわけではないのなら、

助けてくれたっていいじゃないか!!


**罪の蛾**

まぁねぇ、

だけど、この世の中、

助けられるものを助けるとは限らないでしょう。


そもそも、アレは、

ただ叩けば崩れてしまうというものではなくてね、

崩すには似たようなトリックが必要なのです。


**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

一体、何が望みなのだ!!

こんな切羽詰まった時に、

回りくどい言い方はしないでくれ。

善行をすれば、神の恩恵が得られると思うが、

そのつもりはないのか!?


**罪の蛾**

おお、嫌だ!!

そいつの名前を出すのも、この墓地では禁止にして下さい!!

そいつの力が及ぶのは、他の土地でだけで、

ここでは何の役にも立ちゃしないのですから。

どこまでも神の威光が轟くと思ったら、大間違いで、

世の中が、腐ったものと、新鮮なものでできているように、

奇跡の恩恵を受けるものもあれば、

堕落して虫共に喰われるものだってあるのです。


**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

馬鹿を言うな!!

主は全能じゃないか!!


**罪の蛾**

じゃあ、その全能な奴に

助けてもらえばいいじゃないですか。


**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

わかった。わかったよ。

どうすればいい?


**罪の蛾**

私と約束をしてほしいのです。

ジプシーのバイラオーラとギタリスタがするような取り決めですよ。

約束したら、絶対に守らなきゃ駄目というやつ。


**カンパニージャ・デ・ウトレーラ**

ああ、するよ!!

約束でも何でもするさ!!

なんたって、命には変えられない!!


だが、早くしてくれるとちょっぴり助かるんだが!!





■■続く■■

冒頭で墓地の屍達が歌っているティエントとは、

スペインのフラメンコの一形式の事です。


また、アメベオとは、古い詩の形式で、

最初に一連の問いかけの詩があり、

次にそれに応答する詩を連ねるという

対話形式の詩作品の事です。


今回、初登場の「罪の蛾」は、

(スペイン語でポリリャ・デ・クルパ)

黒実のオリジナルキャラクターとして、

他の作品にもよく登場する魔女です(絵や音楽でも)。


作中、「罪の蛾」が自分との約束を

「ジプシーのバイラオーラと

ギタリスタがするような取り決めですよ」

と言っていますが、

フラメンコの世界での、

踊り(バイラオーラ)とギタリスタ(ギター奏者)の約束事の事を言っています。

基本、フラメンコのギター奏者は、

踊り手や、歌い手のリズムがずれたとしても、

それに合わせて演奏しないといけないという伝統があり、

つまりこの約束事は、どちらか一方が従事する理不尽なものである事が

暗示されているわけですね。

それは次回に明らかになります。


「中にはガリシア語を喋るやつもいる位です。」

これも魔女の台詞ですが、

ガリシア語とは何かというと、要はスペイン語の一つです。

たくさんの地方言語があるスペインでは、

それぞれが自分達の言語、文化に対して誇りを持っていて、

中央のカスティーリャ語に対して、

ライバル心のようなものを持っています。

この「罪の蛾」の台詞は、

そうした背景での皮肉となっています。


こうした言葉の隠された意味などを探していく事も

楽しめる作品にしたいと思っております。

続編もまた読んでいただけましたら嬉しいです。

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