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総激突。真噛、燦牙

※視点が変わります


 階段を蹴上がり、次の階層に到達。立ち塞がる兵士達を撃破しながら、俺は外観からでも見えていた塔を目指す。

 だが、次から次へと行く手から鳥人が出てきた。

 

 やはり数が多い。そう簡単に白鷺(ハクロ)さんの元へは行かせてくれないか。

 隊列を組み、矛を向けて威嚇する連中をすぐに崩しに掛かろうとした時だった。


「退け、この人間は俺が引導を渡す」

 雑兵を掻き分けて、進み出る一人の鳥人。

 記憶に新しい、俺に圧倒的な敗北の味を思い知らせた相手だ。


「数時間前にあれほど痛めつけたばかりで性懲りもなく挑むとはな。そこは、評価しよう」

 斑鳩(イカルガ)。神槍の称号を与えられた『破軍』の将が立ちはだかる。


 一騎打ちを望む彼の手には、前回とは異なりきちんと矛先の付いた槍があった。

 手心はもう加える気は無いという意思表示が窺える。


「さて、此処まで乗り込んできたということは、あの御方をそちらが助ける立場だとでも思い込んでいるのだろうな」

「助ける為じゃない」

「何?」

 もう、何も知らずにあの人を庇った時とは違う。


「俺は、救う為にきた。そっちとはその違いがある」

 ぎしぃ、という得物を手で締め付ける音がこちらにまで届いた。


「思い上がりもそこまでくると滑稽を通り越して反吐が出る。現実を知らぬ妄言を聞くのは堪えるものだな」

 構えに入った斑鳩(イカルガ)から、無数の針が飛び出すように殺意が迸るのを感じた。

 こちらも集中。奴の挙動は見てから動くのでは遅い。



踏突(ふみづ)き」

 助走抜きでの高速接近。目では捉えられず、まるで瞬間移動でもしたように一瞬で間合いに入り込んでいた。

 この技だ。この一撃に俺は反応出来ずに勝敗を分けられた。


「……!」

「——でも」

 だから、動き出すより先に身を翻して回避に専念した。相手の行動を事前に読んで対応することで、紙一重に避ける。

 矛先の角度、力の溜める気配、移動の為の準備態勢などの視覚情報からこの瞬足の一突きがどんな風に迫るのかが分かった。一度受けたからこそ、学んだ。


 矛の柄を捉え両者は押し合った。そのまま間近で睨み合う。

「実現出来れば、それは妄言じゃないだろ」

「……ぬかせ雛鳥が」


 この数秒の交錯は、ほんの会敵の合図に過ぎなかった。


真噛(マカミ)視点


 殴打の音が響き渡り、羽毛が舞い散った。

 二人が上がった階段前で、乱戦に終止符が打たれつつある。


「ぐげぇ!」

「つ、強ぇぇ……」


 気絶あるいは悶絶する兵達の山を尻目に、わたしは両手をはたく。

「あらかた、片付いた」


 しばらくは倒しても倒しても敵が増えていたけど、とりあえず攻撃されるより早く殴れば終わるので何とかなった。

 足止めの役割は真っ当出来ている。でも、これからのことは考えていなかった。


 うーん、と腕を組んで考える。

 あるじ達が戻ってくるのを待つべきか、それともこのまま加勢に行った方が良いのか。

 そんな感じでその場で立ち往生していると、わたしの獣の耳がピクリと反応する。


「ごわーすっ!」

 訂正。普通に聞こえる音量の大きな声が頭上からこちらにやってくる。


 身軽に後ろへ飛び退くと、さっきまでいた場所から何かが降ってきた。

 そして、衝撃で床が割れる。凄く重いのか、宮殿内が微かに揺れる。


 それから巻き上がった土煙が収まった頃、むくりと大きな影が立ち上がる。

 身長はわたしより一回りも二回りも高く、恰幅の非常に良い人の姿をした男性。

 こころなしか此処の兵士達に似た服装で、特徴的なのはその茶色の髪型。もみあげが輪っかのようになっていて、左右に一本ずつ剃り込みが入っている。

 首筋や鎖骨には黄色い羽に覆われており、精霊獣の名残だと見受けられた。



「お犬さん、襲撃者では?」

「違う。犬じゃない狼」

「おお、それは失礼しやした。では」

 ドスドスと巨漢が踵を返して出口に向かって行く。


「でも、その一人、わたし」

 すると、慌てて戻り四股踏みを始めながら自己紹介を始めた。

「お、おいは百舌(モズ)と申しますでごんす」

真噛(マカミ)

「押忍、よろしくでごわ」

「よろしく」


 何故か律儀に挨拶するのでわたしもぺこりとお辞儀する。

「それでは早速」

「勝負?」

「仕方ないのでごわ。此処の守衛を任されやしたので」

「何でさっきまでいなかったの」

「……場所を間違えたのでごんす。これ以上、宮殿を壊されては困りやすのでお覚悟」

「わたし、何処も壊してない」

「ほんとうでごわ?」

「うん。皆、気絶させただけ」

「それは僥倖、気遣いありがたい」


 一際強い踏みつけでヒビが広がった。ぱわーたいぷ、だ。

 中腰になった巨漢のモズが、太い腕を前にすり足で突進してきた。

「さぁ行くでごわ。ごわごわごわ!」


 突っ張りを幾度も繰り出しながら迫るのを、わたしは横に逸れて逃れる。そんなに早くはない。

「ごわごわごわごわごわ! 止まらんでごわす!」

 直進したまま、彼は壁にまで衝突して大きな穴を開けた。のびていた鳥人兵が声を絞って叫ぶ。


「モズぅうう! 宮殿を壊すなぁー!」

「も、申し訳ないでごわ!」

 謝りながら振り返る彼との距離を測りながら、わたしはずっと気になっていたことを問い掛ける。


「その髪なんていうの」

「おおよく聞いてくださいやした。これは角髪(みずら)という髪型でごわす。『破軍』の中でも高貴な人型精霊獣の間で昔流行った髪型でごわ。マイブームというやつで毎朝セットしているのでごわすよ。ちなみに角髪(みずら)には上げ角髪(みずら)と下げ角髪(みずら)の二種類に別れていてこれは上げ……」

「ふーん。分かったもういいや」

「え? あ、ちょ——」


 己の髪の輪っかに目をやって説明を始めるモズ。話の途中で敵であったことを思い出し、隙だらけな内に攻撃を仕掛ける。

 数秒でその大きな身体に十数回にも及ぶ殴打の雨を叩き込む。肉を打つ音が連鎖した。

 あれ? でも手ごたえが悪い。


 筋肉と柔らかい脂肪に包まれたモズは全く堪えない。

 ラカクを思い出す、あの耐久性。

「どすこーい!」

 怯まずに飛んで来た重たい張り手が迫り、咄嗟に両腕で身体を守った。


 同じく素手で建造物を容易く破壊できる一打に、わたしは遥か後方に吹き飛ばされた。

 受け身をとって地面に降りたけど、全身にその衝撃が広がる。


「女子の力とは思えぬ力。敬服するでごわ」

「そっちこそ、凄く頑丈。結構、効いた」

 まだ大丈夫。わたしはすぐに闘い方を切り替えた。


 音速で宮殿内を四方八方に飛び回り、モズを攪乱する。

「お、お、お、おいの目では捉えられないでごんす」

「はっ!」


 後頭部を殴りつけ、すぐに離脱。

 振り返っている間に、横脇を通り過ぎ様に蹴ってまた離れた。

 ひっとあんどあうぇい。蝶のように舞い、なんとかのように刺す。


 攻撃が一方的になると、モズは自分の大柄な体を丸め始めた。

「なるほど、我慢比べなら負けないでやす!」

「こっちだって、負けない!」


 仕留めきるか、その前に体力が尽きるか。根競べが長く続く。

 モズはひたすら、わたしの殴打を受け続けた。隙だらけだったけど、かといって畳みかけるわけにはいかない。


 いつさっきみたいに反撃してくるか分からない以上、常に動き続けないといけないからだ。

 消耗の差は当然大きい。

 時間にして五分ぐらいになった頃、その攻防に変化が起こる。


 モズの全身が白煙が上がるのではないかと思う程に打撃で赤くなり、わたしの速度も落ちつつあると体感して一度足を止めた。

「まだ、まだまだおいは行けるでごわ」

「ハァ……わたしも…………まだ……ハァ、行ける」

「息を切らして強がっても分かるでごわすよ! 今度はこっちの番でごわ」

 

 ついに両腕を開いて躍りかかるモズに休みを求める身体を鼓舞して、その魔の手から逃れた。

 床に膝をつきながら、相手を見据える。


「そろそろ限界でありやしょう。素直に降参を勧めるでごわす」

「モズ、こっちの番って言った」

「どうかしやしたか?」

「そっちの番、回ってこない。何故なら」


 攻撃の手を止めたのは、疲労からではない。

 決定打に欠けるので、奥の手を使うしかないと覚悟をしたからだ。

 まだ不安定だからあんまりやりたくないけど、仕方ない。


「これで、決める」

 両手も床に当て、爪先立ちになって言う。


「何をやっても無駄! おいの身体はそうヤワではないでごわ……す?」

 モズの強気な言葉が途切れたのは、わたしの変化に目を奪われたからだろう。

 周囲が発光した。いや、わたしを中心に光が瞬いた。


 耳がおかしくなりそうな程の、火花が連鎖して散る音が広がる。

 同時にわたしの身体から、青みがかった紫電が放出された。


 あるじとの契約してしばらく、わたしはこの発電する能力に目覚めた。

 身体能力をこれまで以上に高めることが出来、力と速度が桁違いに飛躍する。

 でも、まだ完全に制御出来ない。出していられる時間も短い。


 だから奥の手だ。雷電を纏い、突進の為に身をたわめる。


「モズ、ぱわーたいぷで良かった。空、飛んで逃げられない」

「ど、どうにかかするでごわ!」

 向こうが選んだのは真っ向勝負。ならばこのまま仕掛けられる。


 でも、念には念。身体に流れる電流を手についた床へと流し、一直線にモズの両足にまで伸ばす。

「ごわわわわわ!」

 感電して呻く彼の身体はこれで動けない。


 更に、青き紫電は私の顔を集中的に覆った。獣の顎を、象った。

 そして飛び出す。


 雷速。彼との距離は音よりも早く詰めた。わたしの眼前で作り出された大きな雷の牙が、モズに食らいつく。


雷真噛(らいしんごう)燦牙(さんが)!」

 感電によって丸焼きにされたモズの大きな絶叫が、宮殿内に響き渡る。

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