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カウンセリング。事件とからさわぎは紙一重

 依頼日までには期間があり、その間はこれまでのように学校生活を謳歌する。


 たとえば、校内ではこんな騒動が起きた。

 ライブを控えた前日、


「カウンセリングですか?」

「ああ。有志でやらせてもらっているよ。中々評判が良いんだこれが」


 並び歩く銀髪ショートのベル先輩が言う。暇ならこれから始めるお悩み相談に付き合ってくれという申し出を俺は承諾した。今回の相談相手は、俺の立ち位置が意見の参考になる為同席して欲しいそうだ。

 こういう話は都合が良い。ライアンの時のように何か臭う手掛かりを掴めるかもしれないからだ。


「でも学校の悩みなら生徒の一人一人に教員が付きますよね? 先輩がわざわざやらなくても」

「それはね、教師には話せなくても生徒同士だと目線が同じで打ち明けやすい悩みだってあるのさ。それに、前々からボクはそういう相談をよく持ち掛けられていてね、役に立てるなら聞くだけでも……と受けて行く内にそういう立ち位置になってしまったのさ」

「ベル君アドバイザーなんだね」

「そんな大それた程ではないよ鈴狐リンコ君。殆どがただ話を聞くだけのガス抜きさ」


 使用許可を貰った空き教室を開き、三人分の机椅子を用意する。

 やがて、一人の女生徒が入室してきた。

「お、お待たせしました」

「やあティナ君。さぁ遠慮なく席に座りたまえ」


 暗めの長い緑髪が何というか、物静かで地味という言葉の似あう女の子である。

 俺も少し顔合わせの記憶がある。ティナ・バイエルン、同じ学年だった筈。

「……本日は、あの、私ごときにお時間を頂きまして本当にありがとうございます。ベル先輩とアルフくんのお手を煩わせてしまって」

「そう自虐的にならずに、早速始めようか」

「俺も、お役に立てるかは分からないけど話を聞くよ」


 席に着いてもティナは居心地が悪そうにもじもじしていた。

「よ、よろしくお願いいたします。困らせてしまったらごめんなさい」

「大丈夫だ。気兼ねなくどうぞ」

「……では、相談なんですが」


 居住まいを正す。学生にだって色んな悩みがある。けして蔑ろにして良いものではない。

「私、別れ話を切り出したいんです」

「おや、彼と付き合うのが嫌なのかい?」

 人間関係の悩みか。思春期には良くある問題事。



「悪い人ではないけれど、その……いつも私の身体にセクハラしてきたり、他の女性にもアプローチを掛けたりで」

「それはまたとんでもない男だな」

「……でも、怖くて……別れようって話したらどんなことをしてくるのか分からないから……言うに言えなくて……」


 その場にいた俺達は同じ感想を抱いただろう。

 重い。すげぇ重い案件だ、と。そこで引っ掛かりを覚える。同席した俺の何処に参考になる要素があるのだろうか。



「暴力を振るようなら警察へ相談に……」

「先輩それ本末転倒でしょう。それが出来ないからこうしてるんですから」

「ロクでもない男だねぇ! けしからん! そいつ呼び出してアルくんこの前みたいに懲らしめて──」

「俺仕置人として呼ばれたみたいじゃん鈴狐リンコ! いやだよ必要以上の荒事は!?」

「あの……あまり暴力沙汰にはしたくないというか……」

 そりゃそうだ。事を荒立てたくてこんな場を設けたわけではない。


「それと、彼は暴力なんて振りません。ただ、説明しきれないくらい……」

「一体どんな相手なんだ?」

「あ、呼びますか?」

 良いのか!? 彼に内緒での相談だとばかりに思っていたから目を見張る。


「ま、まぁ本人の了承がとれるようなら話は早いが」

 こんなケースは初めてだからか、ベル先輩も困惑するばかり。

 ティナは右手を机の前に出した。


「み、巳縄ミナワ、出て来て」

 彼女はそこで精霊獣を呼び出した。


 え? ()って、人間のことじゃなかったの?

 閃光と共に歓声が沸いた。


「ハぁぁああああああああああニィぃいいいいいいいいいい!」

 現れた途端彼女に飛びついたのは、白一色の小さな蛇だった。契約主のティナ自身が悲鳴をあげて立ち上がって振り払う。


「お、お願い! いきなりくっつかないで!」

「そんなつれないこと言わないでよぉマイハニー! 俺っちのパートナーなんだろう? ……あん? 何だよ、野郎共も同じ部屋にいるのかよこれじゃあイチャつけねぇだろうがくそがっ」


 机の上でとぐろを巻いた蛇はこちらに気付くなり罵声と唾を飛ばしてくる。この精霊獣、下位クラスでも人の言葉を話す珍しいタイプか。

 別れ話というのはどうやらこの精霊獣と契約破棄をすることのようだ。


「ま、まぁ黙っていれば見た目は綺麗じゃないか」

「えーと、それが君の?」

「……はい。この前の召喚の時に契約を結んだ精霊獣です。……ほ、ほら。貴方も自己紹介をっ」

「ハニーが言うなら仕方ねーなぁ。俺っちは巳縄ミナワってんだ。好きなものはハニーと可愛い子ちゃん。嫌いなものはテメーら汗くせ―男って生物。特技は……おっ?」


 何かを嗅ぎ付けたのか、チロチロと舌を伸ばして白蛇はベル先輩の方を向く。

「な、なんだい?」

「おっほぉぉおおおお!? 何だよ男に扮してるだけでかなりの可愛い子ちゃんじゃないの! おっ近付きになりたいなぁあああああ!」


 蛇は、先輩の性別に気付くと問答無用で飛び掛かった。襲い掛かる。

「うわ! な、何を──ひゃいあああああ!?」

「うひょひょー! 早速始めるぜぇえええええ!」


 巳縄ミナワは先輩の服の袖から中に侵入した。さしもの彼女も声を挙げる。

「な、中でニュルニュルして! あ、ちょっ」

 先輩の制服の内側がもぞもぞと蠢いている。たちまち羞恥に染まるベル先輩。


「先輩ぃ?! 大丈夫ですか!?」

「見てないで助け──ひぇえええ、もぞもぞするのやめてくれぇえええ」

 そんなこと言われてもどうすればいいのか。普段のクールな雰囲気は崩れ去り、情けなく呻いている。


「こ、こらやめなさい巳縄ミナワ!」

「下は81! 中は54! 良いねぇ、キュッと締まってて! ……おおいなんかしてちゃ分からんだろうが!」

「そ……それ以上は……!」


 セクハラの限りを尽くされそうとしている中、俺の肩から小狐が机に降りる。そして悶えているベル先輩の服の襟に手を突っ込み、中からずるずると犯人を引きずり出した。見事な手際である。


「ほいベルくん」

「あ、あれェ?」


 間抜けな声を出す白蛇。いつの間にか外に出ていることに戸惑っていた。

「……お手柄だ、鈴狐リンコ君」

 息を整えながらも未だに紅潮するベル先輩は痴漢をした蛇を睨む。

 捕まった巳縄ミナワは、この空気に誤魔化そうと愛想笑い。


「へ、へへへ。これが俺っちの特技、自分の身体を使ってスリーサイズを──あ痛ででででででででででで! ジョークジョーク! お願い捻じらないでェええええ!」

 雑巾絞りのようにベル先輩に制裁を受けていた。どんな精霊獣なのかは自己紹介以上に行動ですぐに分かった。


「で、でも悪い奴じゃなさそうだよ。ちょっとスキンシップが過ぎるだけでさ」

「おおう、オメー野郎の癖に見どころある奴だなぁ! そうだよそうなんだよ、俺っちはただ女の子と仲良くなりてーだけの人畜無害なスネークさんなんです! だからちょっと過度なスキンシップは許してー!」

 助け舟を出してあげるなり必死で身をよじらせた巳縄ミナワは食いつく。何か認められても嬉しくない。


「……確かに、事情は良く分かった。こんな色情魔といるのも大変だ」

 身なりを整えながらベル先輩は仕切り直してその契約主のティナに言う。


「しかし悩みの相談にしては大袈裟ではないかい? 毛嫌いする程の悪漢には見えないんだが」

「でしょでしょー? 話良く分かんねーけど俺っち良い子だもーん。おねーさんこの後一緒にデートしない?」

「君は黙っていろ」

「……へい」大人しく蛇は頭を垂れた。


 控えめに言ってユニークでコミカルな言語を解する精霊獣。致命的な問題と判断するのはこれだけじゃ足りない。契約までしたのに別れるなんてお世辞にも良いとは言えない。




「だって……私、蛇苦手なんだもん」

「ああ」俺は溜息と声が出た。

「それは」ベル先輩が遠い目になった。

「どうしようもないね」鈴狐リンコも諦観の言葉を口にした。

「酷いよハニー!」巳縄ミナワだけは悲しく抗議する。


 理由は決定的で根本的な問題。これは、どうしたものだろうか。

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