↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
186/186

エピローグ。これから始まる物語の前触れ


「……そろそろ白状して貰おう。アレは一体どういうことなんだ」

 玄関先の外で男性と少年が向かい合っていた。互いに黒い髪だが、子供の方は瞳が赤い。

 叱責を受けながらも大の大人に毅然として見上げ、しかし何も言い返さずにいる。



「黙っていたら分からないぞ。どうしてあんなことをしたんだ」

「……」

「父さんな、そんなことの為に護身術を教えたわけじゃない。喧嘩にしたって手加減しなさいと口酸っぱく教えた筈だ。それを揮っていいのは誰かの為に使う時だと」



 ことの始まりは、数時間前に遡る。



 突然呼び出しを受けて『北斗』から早退した彼は、学校に赴き担任の先生と面談を行った。

 お宅のお子さんがクラスメイトに暴力を振るったと。聞いた当初は血相を変えたものの、児童に大した怪我はなく、親御さんに平身低頭で謝ったことで丸く収まった。

 当初は向こうもカンカンであったのだが、名刺を出すなりメラメラと燃え上がっていたその怒りは消火剤をぶっかけたように鎮まった。やむなく使った禁じ手である。

 そうして元凶の息子を連れて帰宅するなり、開口一番に問い質して今に至る。



「よりにもよって、誕生日の今日に何で争うんだ。母さんだってお前がこんなことをやったと聞いたら悲しむぞ。来月にはライブで出張に数日家を空けるのに、余計な心労を掛けないようにしようとこの前話しただろう? 約束を破る男に育てた覚えはないぞ」

「……」

「いい加減にしないと……ああ、ダメだ。これじゃ親父がやってたことと同じだ」

 言い掛けて頭を掻き、彼は説教をとりやめる。

 それからしゃがんで同じ目線に合わせるようにして向き合った。



「悪かったよ、ルカ」

 謝ったことに戸惑った様子で、少年は父を見る。

「お前がそういうことをする奴じゃないと信じている。何か事情があるんだろ? そうやって抱え込んでいるならそれを理解したい」

 動揺と躊躇の色が垣間見えた。目深に被ったほっかむりを取り去るなら、北風と太陽を見習わなくてはならない。



「誰にも言わないから、父さんにだけ教えてくれないか」

 だから一方的に諭すのではなく、彼なりの葛藤を求める。

 やがて、渋々ながらルカと呼ばれた少年は話し出した。



「アイツら、俺を笑ったんだ」

「何て?」

「今日のことを話したらお前なんかに精霊獣を呼べるわけがない、って。どうせ呼べてもヘッポコ精霊獣だろ、って」

 どうやら、これから十歳を迎えた彼に精霊獣の召喚する儀礼を行うにあたって浮かれていたのだろう。周囲にも話した結果、揉めてしまったのだと推測。

 この子はずっと憧れていた。自分でそういう友達が作りたいと。その願望を、嗤われた。

 それで怒って手を出したのか、と言ってしまったらこの話は終わってしまう。だから、全部聞き終わってから判断する。



「それから、どうしたんだ」

「それから……」

「話してごらん。庇わなくても平気だから」

「ッ……そいつらより先に応援してくれた生徒も、いたんだ。いつもは大人しい子なのに、皆が馬鹿にしている中でかばってくれた。そしたら……」

「その子も、からかいの的にされたと」


 微かに頷く。詳しい実情は分からない。けれども、きっとその生徒の尊厳を傷つけるような心ない言葉が飛び交っていたのかもしれない。

 だからルカは本気で怒った。自分だけならば飽き足らず、味方になってくれた人にまで飛び火するまでに至ったと。



「でも、手を出した俺が悪いんだ。だから、反省する」

「そっか……。そうだな。もっと上手くやれたかもしれないな」

「ごめんなさい、父さんだって仕事で忙しいのに」

「いいよ。やり過ぎたこと、分かっているならこれ以上はとやかく言わない」

 少年の頭に手を置いた。



「精霊獣の召喚も良いけれど、その友達を大切にしなさい。お前が辛く苦しい時に助けてくれたんだ。これから先、きっと素晴らしい友人になってくれるから」

「……うん」

「さ、そろそろ時間だ。気分をリセットした方がいい」



 そう言って父親は彼を促し、広い庭に移動した。

「どうであった!? その小童(こわっぱ)というのは! 家族であるルカに喧嘩を売ったということは儂らにも喧嘩を売ったも当然! 徹底抗戦も辞さぬぞい!」

「賛成! そいつ等、許すまじ!」

「やめないか。せっかく喧嘩両成敗で話を終わらせたんだから蒸し返すな、全く」

 息巻く兎童女と狼少女は、痛み分けと聞くなりブー垂れていた。

 待っていたのは彼女達だけではない。



「ただいま。遅くなってすまない」

「おかえりなさい。どうだった」



 肩まで行き届いた美しい銀髪の女性が出迎える。傍らで小さなイルカの精霊獣がキュイキュイと鳴いて宙を泳いでいた。

「ひとまず安心。ルカの方ともちゃんと話はしたよ。だからもう大丈夫だ」

「どんなことを?」

「男同士の約束、かな」

「ふぅん。男同士、ねぇ」



 続いて小さな女の子が小走りで父親に抱きつく。

「パパ、お兄ちゃん、おかえり!」

 黒髪に海のような碧い瞳を持ち、あどけない顔をほころばせた。



「アンナ、良い子にしてたか?」

「うん。今日は真噛(マカミ)姉ちゃんと夜兎ばぁばが遊んでくれた」

「アンはまっこと良い子じゃぞぉ? 誕生会の為に家の飾り付けを手伝ってくれてのう!」

 なんて孫のように可愛がる夜兎(ヨト)。かつての狂気的な一面など知らぬ者には想像出来ないほど、甘ったるい声を出してにやけている。



「御用意は出来ていますよ。さぁ、どうぞ」

 白鷺(ハクロ)が言って差し出したのは特殊な鉱石。召喚の触媒に用いる精霊石だ。

「いよいよ、ルカが召喚する日が来たねぇ。果たしてどんな子を呼び出すんだろう」

 鈴狐(リンコ)から期待の声が掛かり、ルカは生唾を呑む。

 いざとなって緊張する少年に父は語り掛けた。



「別にどんな精霊獣でも良いじゃないか。格位とか、希少性とか、コレクションとは違うんだから。そういうことを考えるなら召喚はナシだ」

「父さん……」

「大切なのは絆だ。これから培っていくことに意味がある。それだけは忘れるな」

 かつて、そうして精霊獣達を不幸にしてきた人間がいる。彼には、そうなって欲しくない。



「ねぇねぇルカ、私からも一言」

「鈴狐?」

「貴方のお父さん──アルくんはこうして私達複数の精霊獣と契約はしているけれど、君まで同じようである必要はないんだよ」

 単なる憧れではなく、少年が心の片隅で英雄の息子として気負っていることを狐巫女は見抜いていた。



「どんな精霊獣が友達になるのか、楽しみにするくらいでいいのさ」

「分かった」

 ほんの少し肩の荷が下りた様子で、ルカは力を抜く。



「にしてもアルフや、召喚台ならぬしの実家にあるのではなかったかえ? 今更、面子なぞ引き摺らず素直に頼めば良いものを」

「せっかくルカの晴れ舞台なのに、立役者がいるなら夜兎に任せようと思ったんだ」

「物は言いようじゃのう。ま、悪い気はせんので喜んで引き受けようぞ。ルカ、儂の前に」


 言われて少年は石を手に進み出る。兎童女は唸るようにして念じ始めた。

 夜兎が行っているのは、妖術による召喚台の代替。

 そうして人間界と精霊界を繋ぎ、彼の呼び出しに応じた獣が引き寄せられる。


 召喚は成功した。眩い光と共に、その影が契約者となる少年の前に降り立った。

 緊張の一瞬。人と獣の新たな出会いが訪れる。


「呼び出したのは、アンタ?」

 気丈な少女の声が、ルカに返答を求めた。

 その姿に目を奪われ、少年は黙してしまった。驚いていた。



「ふぅん、随分とお子様ね。とにかく素質を見せて貰おうかしら、それによっては百年ぐらいこっちに居てやってもいいわ。ダメならこのまま帰るけど。まぁ、呼び出せただけでも光栄に思いなさい、アタシは……リンコ姉様?」

 あたかも用意していたかのように口上を述べていたもう一人の小さな狐巫女が、途中でギャラリーに気付き目を瞬かせる。


 あろうことか、ルカが呼び出した精霊獣は鈴狐の妹である葛葉(クズハ)であった。

 さしもの彼女が現れることを予想していなかった一同は仰天する。




「まさかこの子、アルフ……アンタの息子ぉ!?」

 声を裏返した彼女の言葉が、これから始まる物語の前触れを告げた。





 英雄覇道の狐巫女 完



大変お疲れ様でした!

次回作に着手してみようかと思います!

それでは皆さん、またお会い出来る日まで!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かった❗一気読みしちゃいました [気になる点] 結局精霊たちとは結婚したのかな? [一言] 鈴狐かわいすぎる
[一言] 楽しかったです 次回作も期待しています。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。