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旧魔法の研究者(二)

「異世界間の移動とは、また藪から棒ですね」


 イコンは角砂糖の入った壺をテーブルに置いて言った。

 ミハイルは朝の紅茶に砂糖を入れることはない。だが角砂糖の壺のデザインがお気に入りらしく、食卓に置いておかないと機嫌が悪くなってしまうのだ。曰く、「これがなかったらいつも通りの朝食風景にならないだろう」とのこと。


 ミハイルの理屈は全くわからないが、彼の機嫌が保たれるならばそれで良いと、イコンは思っていた。そしてミハイルの突拍子もない発言には慣れているため、この淡々とした返しもいつも通りだった。


「そもそも、ここ最近、研究室にこもって何してたんですか?」

「先達の残した沢山の魔法陣をぼうっと眺めていたよ。お気に入りの辞書片手に。そうしたら閃いたんだ! 私の仮説は前に話しただろう?」


 ミハイルは目をきらきらと輝かせて答えた。もう三十歳になろうかという見た目年齢に全く似つかわしくない、幼い表情もいつもの日常である。

 それはともかく、少しは興味をそそられる内容になりそうだったので、イコンはつまらなさそうな顔を崩さぬよう相槌を打つことにした。


「我々のいるこの世界で使われている魔法は、人間ではない何かからの特別な力の供給によるもの、という話でしたっけ」


「そう! 君も理解しているとは思うが、旧魔法は旧神ジ・エルダーを始めとした、人ならざる者達の放出する魔力を源としている。だが、何百年にもわたり研究されてきた学問であるにも関わらず、旧神の居場所は全く明らかにされていない。私が取り組んでいる研究テーマの一つがそれだ」


 ミハイルは頬を紅潮させて早口でまくし立てた。イコンがミハイルの膝に膝掛けをかけようが、ミハイルの寝癖を手ぐしで直そうがおかまいなし。研究者という人種はみんなこうなのか、それともミハイルが一際おかしいのか、魔法使いの世界に不慣れなイコンには知る術がない。とりあえず黙って話に耳を傾けておくことにした。


「多くの旧魔法エルダー使い達が様々な説を唱えてきた。だがそれらの主張は共通して、我々が住むこの惑星の何処かに潜んでいるに違いないという先入観に基づいている」


「そういう考え方が妥当で理解可能という事でしょう。まさか、魔力がはるか彼方から降り注いでいるんじゃあるまいし」


「そのまさかだイコン君!」


 我が意を得たり、とばかりに突き出されたスプーンを無表情で取り上げ、イコンはテーブルの中央に置き直した。興奮している時のミハイルには、口で言うより物を取り上げた方が手っ取り早い。

 いつも同じ事の繰り返し。このミハイルという男は、本当に一人前の魔法使いなのか疑わしくなる。だが、魔法の腕と研究者としての頭の良さは、確かに一流なのだった。悲しいかな、それを日常で見ることはほとんどないのだけれど。


「私はこう言いたいんだよ。この空の遥か上、宇宙空間の何処かに彼らはいるんだって!」


 ミハイルは机を軽く叩き、天井を仰いで叫んだ。

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