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魔術の分解

 私がすべきことは明らかだ。イコンの身体を見つけ出し、この世界に戻せば良い。だが私は、その(すべ)に困っていた。

 初めは、本に繋ぎ止めた魂が道しるべにならないかと思案した。しかしそれは無駄だった。イコンに考えうる限りの探索型旧魔法(エルダー)(ほどこ)したものの、反応する気配すらなかったのだ。私の旧魔法を、イコン経由で異空間に届かせることは不可能らしい。

 ならば考えを改めるしかない。即ち、最短距離で辿り着こうとするからいけないのだ。どんなに遠回りになったっていい。命が続く限り、考えうる場所をしらみ潰しに探せば……。


「いや無理だな」


 思わず口をついて出ていた。そもそも、異空間を自由に出入りできる旧魔法が存在しない。異空間なるものが存在するのか。そこから既に曖昧なのだ。まずは異空間を定義し、その存在を明らかにしなければならない。


「もう根を上げたんですか?」


 書斎机の上の(イコン)に、私は苦笑してみせる。イコンの視界を広くとれるよう、昼間はイコンを立てて置くことに決めていた。


「まさか。諦めの悪さには自信があってね」


 そう言いながら、椅子の上で大きく()()をする。今の自分には大きすぎる椅子の背が、ぎしりと小さく鳴った。


「だが、かつてない難題だということは言えるだろう。旧魔法で異空間へ飛ぶ方法がない以上、君の身体の探索は難しいのだから」

「ないなら作れば良いじゃないですか」

「君ね、簡単に言ってくれるなよ」


 くるりと椅子を一回転させて私は答える。これが意外と楽しいのだ。やり過ぎで目が回りさえしなければ、いつまででも回っていられる。ぷらぷらした足が程よくバランサーになり、頭に適度な浮遊感をもたらすのが、楽しい秘訣だろうか。何にせよ、イコンは絶対にやらないだろう。


「いくら私が旧魔法に()けていると言ってもね、万能なわけじゃあないんだ。旧魔法(しか)り、錬金術然り。何事にも限界がある」


 そう言うしかない自分が腹立たしい。「光」らしく、彼の道を指し示したいのに。旧魔法のほぼ全てを、限界を知るが故に、そんな結論しか出せない。


「ですが、先生は物体の時間を固定する魔術が使えるんですよね。それに類する魔術を探索型旧魔法と組み合わせれば、何かできるのではないですか?」

「うーん、砂糖壺の時は、対象に(あらかじ)め術式を刻んでたからできた。だから、肝心の身体がない以上……」


 無理だ、と言いかけ、口をつぐむ。

 ――そうか!


「待ってくれイコン君。少し考えてみよう」


 指先を遊ばせながら考えを巡らせる。結論を出すまで、そう時間はかからなかった。

 

「時間固定の魔術を分解しよう」

「分……解?」


 いまいち飲みこめていないという返答に、私は解説の準備を始める。イコンに見えるよう、砂糖壺が落ちる図を簡単に描き、そこにいくつかの矢印を書き加えた。


「あの魔術はね、厳密には時間停止じゃない。経過時間と移動距離を、正確に戻しているんだ。そうやって戻せば、物体は同じ場所に留まる。重力加速度とか、細かい調整に必要な計算は術式に組み込んである。大体の理解はできたかい?」

「魔術のカラクリは分かりました。で、それをどのように利用するんです?」

「そもそも、『戻す』ためには原点が必要だ。では、その原点をなくしたら、どうなる?」

「少なくとも、『戻る』ことはできませんね」

「だろ?」

「……あぁ、なるほど」


 イコンもようやく理解したようだ。


「つまり、現在地を指定する術式を、ランダム変換させるわけですね。それを移動型旧魔法(エルダー)と共に発動させれば『異空間』に行けるかもしれない。ですが、魔術を行使する我々の存在が揺らぎませんか?」

「そうだね、そのままではそうなる。普通の移動魔術は、現在地を指定することで術者の存在を確かにしているからね」

「ならば、僕らの存在を確かにする術式を別に組み込むって事ですか。魔法陣が煩雑(はんざつ)になりますよ」

「なったって構わないさ。書くのは一度きりなんだから」

「……ああ。書斎の窓とかを『異空間』との出入り口にしてしまうと」

「理解が早くて助かるよ」

「このくらい当然です」


 少し拗ねたような声に、思わず()()と笑ってしまった。


「なぜ笑ったんですか?」

「ん? あぁ、笑ってたかな? 何でもない、気にしなくていい」

「何故でしょう。どうでもいい理由のような気がするのに、無視することができません。なぜ笑ったんですか」


 ふむ。しつこく食い下がるとは珍しい。本になってからの方が人間味を帯びているようでさえある。こうなった元凶である自分としては、嬉しいような、悲しいような、複雑な気持ちになってしまう。早く、彼の身体を取り戻さないといけない。


「そうだな、強いて言うなら……」

「言うなら?」


 この気持ち、どう言ったら伝わるだろうか。

 (イコン)を真っ直ぐ見据えて、ゆっくり口を開く。


「君が君でいてくれて、良かったと思ったからだよ」


 そう言って、私は彼に微笑みかけた。

 初めましての方は初めまして。

 いつもお読みいただいている皆さん、いつもありがとうございます。毎日のようにpvがついていて、とても励みになっております。

 エルダーサイン最新話、なんとか三月中に更新できました。可能な限り更新頻度を上げていきたいのですが、いわゆる繁忙期になっているので思うようにいきません。今は仕事と趣味の両立が精一杯になっている毎日であります。

 さて、本編ではようやく移動方法への糸口が見つかりました。これからどうなっていくのか、引き続き見守っていただけましたら幸いです。

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