雨と幽霊屋敷
私達は過去に付きまとわれ、未来に不安し、日々をこなす。ふと本当は何か、自分は本来何がしたくて何を求めているのか。
意味がわからなくても明日は来るし、1秒先の事も1秒後には過去になる。どんな過ちも1秒後には過去になる。悔いないように、前を向く。
「明日の天気は何⁇…雨かぁ。」
予測して未来に憂えるのも尚良し。
雨がシトシトと降っている。教室には私しかいない。私はふと窓の外に目を向け、時計も見る。
「もう6時かぁ…。帰ろう。」
読みかけの本を閉じ、教室の鍵を閉めて職員室に戻す。昇降口へと階段を駆け下りるといよいよ雨も本気を出してきた。
「傘ないじゃん…。」
独り言も虚しく雨音にかき消された。どうしようもないので小走りで雨の中帰路につく。
私の名前は 上田ユウ。県立高校に通う3年生だ。私は他のみんなと違って里子に出された、言わば孤児だった。幼い頃に両親は不慮の事故で他界し、身寄りの無い私は孤児院に預けられて現在は上田さん夫婦に引き取られて生活している。上田さん夫婦はとても優しくて私にとっては本当のお母さん、お父さんの様で、実際にとても仲の良い方だと思う。家でも実際にお母さん、お父さんと呼んでいる。
そんな私の通学路には大きな古い屋敷がある。誰も住んでなさそうだけど時折大きな音がするので近所の人は『幽霊屋敷』と呼び、決して近づかない。しかし雨が滝のように私を襲う。もともと風邪気味だった私もこれには体温を奪われていく。私は意を決してその『幽霊屋敷』の軒下で雨宿りをさせて貰おうと思い立ち、敷地内に入った。やはり人の気配は無く、あまり幽霊など信じないわたしは安心して鞄からタオルを取り出して髪を拭いた。暫くすると、じとっと目の前に人が現れた。私ははっと息を飲む。
「何かうちに用ですか…⁇」
かすれた声で目の前の男は私に問いかけた。きっとこの屋敷の家主だろう。
「えっと…。あ、雨宿りさせていただいてました……。」
急に私は悪寒が走り、身震いした。怖い。男の顔はほとんど髪で隠れているがうっすら髪の間から左目が覗いている。
「出て行ってください。」
低い声が強くなる。私は反射的に鞄を胸に抱えてその場から泣きそうになりながら走り去った。雨は徐々に止んできて、空には虹が架かった。
しかし私の頭は恐怖と寒さで押し潰れされそうになっていた。家に着くなり私は倒れ込んでしまった。どうした事が今までに無い恐怖が私を襲うのだ。私はしばらくあの通学路にある「幽霊屋敷」が怖くて車でお母さんに送迎してもらうことになった。
「だからね、ユウちゃん。あの家には近づいちゃダメって言ったじゃない。かわいそうに…。」
翌朝、学校まで送って行ってもらう時にお母さんは私の頭を撫でて心配してくれた。
「うん。ごめん。」
雨の日の通学路の嫌な思い出が一掃されて、私は快く登校できそうだ。
「今日は晴れてるし、また歩いて帰るね。」
「無理しちゃダメよ。何かあったら連絡するんだよ。」
私は笑顔で返事をして学校へと足を進めた。
今回は読んでくれてありがとうございます。
次回を楽しみにしてくれる方、ありがとうございます。批判、ありがとうございます。日々学びながら書いていきたいです。