地獄の特訓、たった一日
夕方の5時には10人が戻ってきた。大金を扱うので
みんなの意見を取り入れてさらに信用できそうな次の
5人に決定した。早稲田の山男。名古屋のひょうきん。
大阪のもじゃもじゃ。イスラエル帰りのイスラエル。
それに俳優志望の映画俳優。この新人5人を引き連れて
ユース前のバーへ。ここで初めて自己紹介をし、オサム
は再びカリスマになった。黒ビールで乾杯。極秘
マニュアルを各人に渡す。オオツキさんが、
「今晩中に丸暗記して置くように。明朝9時より
ライン河畔にて特別訓練を開始します。以上、解散」
オサムたちは解散後マンツーマンの組み合わせを決めた。
山男にマメタン。ひょうきんにオサム。もじゃもじゃに
オオツキ。イスラエルにオガワ。映画俳優にボンボン。
もじゃもじゃ大槻組は大阪人同士で漫才のようだ。早稲田
の山男は呑み込みも早くとても安心できる。名古屋の
ひょうきんは技術屋タイプ。くせがあるのはイスラエル。
旅慣れしてて頑固なところがある。熊本の出身だ。
映画俳優は京都生まれの美少年。身のこなしも優雅で
あか抜けている。ボンボンといいコンビだ。
午後からは模擬販売と逃げる練習。何度も繰り返し
だんだんと真剣みを帯びてきた。夜は本番だ。
ユースで夕食。緊張して皆食が進まない。
「ええやんか。つかまったらつかまった時のことや」
オオツキさんが何とかなごまそうとする。マメタンが、
「イミグレだけは行ったら駄目よ。とにかく謝って勘弁して
もらうことね。商品は自分の物だから必ず返してもらうこと」
経験者の言葉は重かった。外は真っ暗だ。緊張が高まってくる。
アルトのいつもの場所に昨晩同様ずらりと5人分のスペースが並ぶ。
いつものドイツ人に今日だけと耳打ちをして一番角をオサムが取った。
販売しながら常に十字路向かいの路地奥を見つめている。
各パートナー、始めは客の側に立っていた新人達ももう内側に入って
忙しく手伝っている。乱れ飛ぶお札とケッテとビニール袋。ならべる
暇もないほどの宴たけなわ、やはり来た。ブルーのライトがちらりと見えた。
「ポリツァイ!」
と叫んでオサムはベッチンをまたいで四隅を掴みすばやく持ち上げて
カバンにしまう。皆一斉にパタパタパタとしまっていく。実に鮮やかだ。
ワーゲンがのろのろと現れて去っていく。手ごたえは十分だ。
2時間ほどで各ペア5万円の売り上げだ。新人は皆興奮していたが、
面接で選りすぐり、今日の特訓のかいがあって大いにやる気満々。
どうだ!悪くても1ヶ月で1000ドルは稼げるってことだ!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーつづく