アンバランスの調和
早速石松にニッパーや材料のジルバードラート(銀針金)、
ビーズ玉などなどの仕入先を教えてもらい、製作に入った。
あの縁日が逸品渦巻き指輪の作り方を教えてくれた。
売れ筋のうろこ、ジャラジャラや指輪を部屋で黙々と作り
続ける。なかなか時間がなくて多くはできない。
久しぶりに東京館へ手紙を出してみた。
「どうも針金をやることになりそうだ」と。返事は来ない。
ケッテ作りはとても単調であきてくる。ひとつテーマを決
めて石松や縁日とは違うオリジナルを作ろうと決心した。
テーマは”アンバランスの調和”。大小の円形を主体とした
バランス作品が少しづつ増えていった。ひとつのケッテで
単価50円くらいでほとんどが手間賃。これが10マルク
約千円で売れればなんと粗利益95%の化け物だ。かならず
売れるはずだ。完成品が1ヶ2ヶと出来上がってきた。
そろそろこれを持ってユースに行ってみようか、自信作だ。
しかしデザインを盗まれるかも?とか思いつつユースに着くと
石松と縁日がこつこつと隠れて作品を作っている。
近づいていくと石松が気付いて、
「どうや?」
「まあまあです」
「いつデビューするんや?」
「次の次の土曜日くらいです」
「がんばりや・・・・・」
縁日は目もくれず黙々と作り続けている。石松もまた作業を始
めた。オサムはそーっと新作を袋から出しながら、
「こんなん作ってみたんですけど・・・・・」
二人は手を止めて覗き込む。石松が、
「なんやこれ?」
オサムは自信を持って答えた。
「アンバランスの調和というんですワ」
ところが二人は大声で、
「こんなん売れるかいな!」
縁日はさっさと作業し始める。オサムは納得いかない。
「売れませんかね?」
石松は確信を持って答える。
「売れへん売れへん。とにかく売れ筋を大量に作っと
かんと、ほんまに、すぐ売り切れてもうてどもならんで」
「そうですね。ようわかりました」
オサムは意をそがれてしょんぼりと新作を袋にしまった。
その日はアルジェリアの学生の団体が泊まっていて、
一週間ほどいるという。半分が女子学生で30人ほど。
ちょうど観光から帰ってきたところで作業に興味津々だが
もう昨日も散々とり巻いていたそうだ。石松も縁日も全く
相手にしないで作りまくっているから今日は近づいてこない。
中に母親が日本人というハーフ、黒髪でスタイルがよくて、
その娘がとにかく積極的にモーションをかけてくる。
「あんたに気があるんやであの娘、みえみえや」
石松が笑う。大阪弁につられてつい、
「わしフィアンセおるしええワ」
「ディスコくらいさそってやり」
「・・・・・そやな」
ちょうどそこにユース泊まりの日本人旅行者が3人やって
きたのでアルジェ娘を含めて10人ほどで今晩ディスコへ
行くことになった。オサムは仕事が終わって後から合流だ。