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そして、それは真実だった

翌日二人は縁日に会った。


「石松、あほやなおまえ。あれほど言うたら

あかんというてたのに」

大阪出身、縁日で盆栽や植木を売っていた。


テキヤタイプだがとても神経質そうだ。

石松はオサムを従えて神妙にしている。


「しゃないやないか、言うてしもたんなら。

もう絶対ほかにはばらさんといてや」


歳はオサムよりも少し下のはずなのに、

やはりテキヤのはったりがある。石松が、


「こいつは大丈夫や。わしが弟子として育てる。

もう絶対、他言はせへんからよろしく頼む」


深々と石松が頭を下げた。オサムも一緒に、

「よろしくおねがいします」

と頭を下げた。縁日のこめかみの青筋が強烈だ。


「しゃあないのう・・・・・・・」

と言って彼は背を向けて立ち去った。


石松とオサムは頭を下げて最敬礼したままだったが

縁日の姿が見えなくなると万歳と手を打って喜んだ。


「今度の土曜日アルトに来てみいや」


「はい、わかりました」


そして、それは真実だった。アルトシュタット、

土曜日。店が終わると大急ぎで十字路へ向かった。

午後11時過ぎ、すごい人だ。


たくさんのヒッピーが出ている。この十字路の一角だけ

が歩道の幅が広く、十数軒は楽に出せる。一番角は常連

のドイツ人、平日も出しているあの下手なケッテ屋だ。


(この針金細工のことを皆ケッテと呼んでいた)

とにかくすごい人だ。歩道からあふれて車道の石畳を

歩いている。確かに売れ行きはすさまじい。


飛ぶようにとはこのことだ。なかでも縁日の作品群はすこ

ぶる逸品ぞろいであった。指輪、ブレス、ペンダント、

そして例のうろことジャラジャラ。


イェーデ(どれげも)10マルクと値札がうってある。

ビニール袋に入れてポンポンと手渡しているので全く

挨拶している暇はない。


と、突然、人垣に変化が起きた。石松と縁日はすばやく黒布

の四隅を掴むと一瞬にして抱え上げそのまま大きな革鞄に

放り込むとバタンとふたをして何食わぬ顔で人ごみに消えた。


ほんの10秒だ。石松が鞄を抱えてオサムの傍へやってきた。

「オッス、よう見とれやあそこの角」

と言って十字路の反対角を指差した。


もうヒッピー達の姿はない。歩道は人であふれ立ち止まって

いる人達はニヤニヤしながら、一部その方角を見つめている。

現れました!ブルーのライトを天井につけた緑と白のツートン


ポリツァイフォルクスワーゲン!のろのろと現れるといったん

停止して左折しゆっくりと車道を遠ざかる。しばらくすると

ものの数分のうちにヒッピー達は路上に整然と再オープン。


こんがらがったケッテをほどくまもなく次から次へと売れていた。

『なるほどこれじゃ10万はいくわ・・・・・』

平日でも売れるだろうが製作が間に合わないのだ。


クリスマスの頃はどうなるのかと思うと身震いがした。

『よし、俺は絶対針金をやるぞ!デュッセル1の針金師になるぞ!

あの1番角を必ず取るぞ!』    と一大決心をした。

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