第3話 チキンレース!
[第3話]チキンレース!
ー土曜日の夜中の晴海埠頭ー
「ボッサン、そこを右ッスよ。」
ボッサンは、愛車バリオスZR250にアオイを乗せて晴海埠頭にやって来た。
左右に同じ形の倉庫が立ち並ぶ広い道を進んでいく。モリワキの音が反響して心地良い。
「次を左ッス。」
突き当たりを左に曲がると、急に視界が開けた。
奥にバイクの集団がいる。その先は海のようだ。
「ボッサン、あれッスね。」
アオイが言った。
ボッサンは、集団の前まで行くとバイクを止めた。
エンジンを切ってヘルメットを取ると、
ガラの悪そうな奴らがゾロゾロとやって来た。
「ボッサン、ヤバくないスか?」
「任せとけ。ビビんじゃねぇぞ!」
アオイを肘でつつくボッサン。
あっという間に、30人位の特攻服を着た奴らに取り囲まれた。
その中の白い特攻服を着た奴が、ヨタりながら高い声で言った。
「何だテメェら!」
「お前ら『ミッドナイトサンダー』だよな。」
ボッサンが聞いた。
「だったらどうだってんだよ!ナメてんのかテメェ!」
白い特攻服の奴がボッサンに殴りかかった!その拳を、ボッサンは素手で受け止めた!
「なに!」
その受け止めた拳を押し戻して言った。
「別にナメちゃいないさ。」
ボッサンは、落ち着いて答えた。
「誰だテメェ!」
白い特攻服の奴が聞いてきた。
ボッサンとアオイは、バイクから降りた。
黒のレザースーツに身を包んだボッサンは、白い特攻服を着た奴より頭1つデカかった。
「人に名前を聞く時は、まず自分から名乗るもんだろうがぁ!あぁ?」
ボッサンのデカい声と身長で、圧倒されてしまった白い特攻服の奴はビビりながら
「お、おれのなまえは、ケーマンだ。お前はだ、だれだ?」
と言って、へっぴり腰でファイティングポーズをとる。
それを見て、吹き出しそうになるアオイ。
「俺の名前は荻野目勇次。探偵だ。池谷鉄也って奴を探してる。ケーマン。お前知らね~か?」
「し、しらないっす。」
「じゃあ、後ろのラッキョみたいな顔の奴。お前知らね~か?」
ひょろっとしたラッキョ顔のメガネは、
「俺も知らないッスね。」
「3日前にここへ来たはずなんだがな。誰か知らね~か?」
すると、後ろの方から男が出て来てボッサンに聞いた。
「お前、鉄也の何なんだ!」
「鉄也の弟に、兄貴を探してくれって頼まれたんよ。お前がリーダーか?」
「ああ、俺がリーダーの番場だ。みんなは『バンバン』って呼んでる。
鉄也の居場所は教えらんねぇな。だけどな、俺と勝負して勝ったら教えてやってもいいぜ。そんな度胸があればだけどな。」
「ボッサン、やめた方がいいッスよ。」
アオイが後ろでつぶやいた。しかしボッサンは、
「よ~し!その勝負乗った!で、何をやる?」
「チキンレースだ。負けてから後悔すんなよ。へへへ。」
バンバンが不敵な笑みを見せる。回りの仲間もニヤニヤ笑っている。
ケーマンがボッサンに寄ってきて、ヘラヘラしながら言った。
「うちの総長はな、チキンレースで負け知らずだ。相手を何人も海に落として来たんだよ。辞めるんなら今の内たぜ~。ヒヒヒ。」
「男に二言はねぇよ。早くやろうぜ!」
と言うとボッサンは、愛車バリオスに股がった。
それを見て、バンバンも自分のバイクに股がってエンジンをかける。
「おっさん、付いて来な。」
バンバンが走り出す。
「お前もおっさんだろうが!」
っと言って、ボッサンは後を追った。
バンバンとボッサンは、所定の場所で並んで止まった。
バンバンが隣のボッサンに言う。
「いいか、ここから海まで約300m。海に向かって全開で行って、どっちがギリギリで止まれるかの勝負だ。
止まれなけりゃ海にドボンだ。チンタラ走ってたら、それこそチキン野郎だからな!」
「お前なんかぶっちぎって、10cm手前で止まってやるぜ!」
「海に落ちて溺れちまいな!」
「俺の愛馬『バリオス』はな、不死身なんだよ!」
【※バリオス:ギリシャ神話に登場する不老不死の神馬の名前】
「後で吠え面かくなよ!」
アクセルをあおるバンバンとボッサン!
「準備はいいか!行くぜ!3…2…1…GO!」
2台のバイクは、勢い良く飛び出した!