最終話 いけっちがんばれ!
[最終話]いけっちがんばれ!
ー翌日・荻野目探偵事務所ー
{ 昨日、東京都庁に爆弾が仕掛けられるという事件がありました。仕掛けたのは、テログループRed-Foxのリーダー、沖野英語朗(43歳)、とその部下、森林弟子太(37歳)
御蔵版屋(39歳)の3人で、西新宿警察署員の活躍により爆発は未然に防ぎました。
3人の内の森林弟子太を逮捕、2人は逃走、首都高速道路においてパトカー2台を含む計15台の大惨事を引き起こして、御蔵版屋を逮捕、主犯格のリーダー沖野英語朗は依然逃走中で、警察の懸命な捜索が行われています。
この大惨事により、首都高速銀座線は現在も上下線とも通行止めとなっています。
なお、この大惨事にも関わらず、死傷者は居ませんでした。
以上、フェイフェイがお送りしました。}
「何これ!うちの探偵事務所の名前、1つも出て来ないじゃない!」
レミはプンプンしながら、テレビのスイッチを切った。
「まったくだな!ホヘトの野郎、自分の手柄にしやがったな!」
ボッサンはソファーにそっくり返って、タバコの煙を隣のユオに吹きかけた。
「ゴホッゴホッ!も~!
だけど、ローさんは何処に行ったんだろ?」
ユオはタバコの煙を手で仰ぎながら言った。
「まだ新宿にいるんじゃないス… か!」
と言いながらアオイの投げたダーツは、3本目も真ん中に刺さった!
「そのドアのすぐ後ろにおったりしてな。」
オッパイが立ってコーヒーを飲みながら、冗談混じりに言った。
その時、ドアがゆっくりと開いた!
それを見てオッパイが、コーヒーを吹き出した!
「お、おい!まさか!」
オッパイが動揺していると、入って来たのは、いけっちだった。
「脅かすなよ、いけっち~!」
オッパイは服に掛かったコーヒーをティッシュで拭きながら言った。
「あ、すいません。脅かしちゃいました?」
ボッサンは、いけっちの前まで歩いてきて、頭を下げて言った。
「いけっち、こんな結果になってしまって本当に申し訳ない!」
「そんな!頭を上げてください!別にボッサンのせいじゃないですから。」
いけっちは必死になって言った。そして言葉を続けた。
「兄は死んじゃったけど、犯人が捕まったのがせめてもの救いです。犯人が捕まったのも、ボッサンたちのおかげです。今日伺ったのは、兄の鉄也の調査費用を払いに来ました。」
いけっちがポケットからお金を出そうとする手を、ボッサンは押さえて首を振った。
「前にも言ったじゃねぇか。鉄也を探し出したら貰うって。
俺たちは鉄也を探し出す事が出来なかった。
だから調査費用を貰う訳にはいかね~んだ。」
ボッサンは、いけっちの背中をそっとたたいた。
いけっちは、しばらく考えてから言った。
「分かりました。みなさんが兄の為に頑張ってくれた事は、一生忘れません。ありがとうございました。」
そう言うといけっちは、深々と頭を下げて部屋を出て行った。
ー1ヶ月後・荻野目探偵事務所ー
事務所の中は、紙テープやボンボンで学芸会張りの飾り付けがされ、テーブルにはオードブルや飲み物が並んでいた。
ボッサンは缶ビールをひとくち飲んで言った。
「しっかしこの飾り付け誰やったん?幼稚園のお誕生会かい?」
「ボッサン、し~!レミ!レミ!」
オッパイが口に人差し指を立てて言ったが遅かった!
ボッサンが恐る恐る振り返ると、レミが鬼の形相で仁王立ちしていた!
「悪かったわね!幼稚園のお誕生会で!じゃあボッサンはビールおしまい!」
レミはボッサンの缶ビールを取り上げた!
「あ~!ちょっと待って~!あれ?良く見ると?この飾り付け、これはこれでいいなぁ。」
「もう遅い!」
レミはボッサンから取り上げたビールを、一気に飲み干した!
「え~!ちょっと待ってよ~!」
「ボッサン、自業自得です。」
オッパイがコーラを飲みながら言った。
「おっぱ~い!そんなもん飲んで~!おこちゃまだねぇ。」
そう言うとボッサンは、レミの目を盗んで冷蔵庫から缶ビールを出した。
「だけど、今日は何のパーティーなの?まさかホントにお誕生会?」
ユオがボッサンに聞いた。
「まさか。今日はある奴の励ます会だ!そろそろ来るはずだから、みんなクラッカーを装備しとけ!」
そう言って、ボッサンはユオのあたまに三角帽子を被せた。
それから2~3分して、ドアを開けて入って来たのはいけっちだった。
「こんにちは。ボッサンに呼ばれて来たんですけど… お邪魔だったかな?」
「いっせ~のせ!」
” パパパ~ン ”
ボッサンの合図とともにクラッカーは鳴らされて、いけっちは紙テープだらけになった。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!何ですか?これは?」
いけっちは紙テープと格闘しながらボッサンに聞いた。
「これか?これは、いけっちを励ます会だ!お前はまだ高校生だと言うのに、兄貴と悲しい別れをして相当ショックだったと思う。友達とか会ってるか?」
ボッサンは喋りながら、いけっちをソファーに座らせた。
いけっちは、うつ向き加減に言った。
「友達とは会ってないです。なんだか遊ぶ気になれなくて…… 」
「じゃあ、家から外に出てない?」
ユオが正面のソファーに座りながら聞いた。
「はい。」
「ゲームはやらんのか?」
オッパイがソファーの背もたれに腰掛けながら聞いた。
「オンラインゲームやってましたけど、今はやってないです。」
いけっちはうつ向いたまま答えた。
「ゲームのフレとか心配してんじゃね?」
アオイが焼き鳥を食べながら聞いた。
「そうなんですけど…… 」
「ちょっとは顔出してみれば?」
レミがいけっちにコーラを渡しながら言った。
「1度行かなくなると、なかなか行きづらくて。」
コーラを受け取りながら、いけっちは愛想笑いをして答えた。
ボッサンは、ユオに被せた三角帽子をいけっちに被せながら喋り始めた。
「いけっち。お前は今、悲しみで塞ぎ混んでいる。そんな姿を、天国の鉄也は悲しんでるんじゃないか?
もっと人生を楽しんで欲しいと思ってるんじゃないか?
オンラインのフレだってそうだ。前みたいに、一緒に遊びたいって思ってるはずだ!
いけっちの悲しんでる姿は、みんなも悲しいんだよ!
スカイプだけでもいいから、勇気を振り絞って行ってみな。
きっと何かが変わるはずだ!
自分の為、フレの為、そして鉄也の為に一歩を踏み出すんだ!」
いつの間にか、いけっちの周りにみんな集まっていた。
ボッサンは、いけっちの肩を抱きながら、
「よ~し!それじゃあ乾杯しよう!みんな飲み物持ったか~?
いけっち~、お前と最初に会ったのは、たしか~…… 」
「ボッサン、ボッサン。乾杯前にボッサンの思い出話、要らないです。」
オッパイがたまらずつっこんだ。
「なんだよオッパイ~!わかったよ!それじゃあ、これからのいけっちの人生に幸あれって事で~!
乾杯~!」
「乾杯~!」
いけっちは、自分の為に祝杯を上げてくれている、みんなの気持ちが嬉しかった。
みんなの笑顔が温かかった。
そう思うと、みんなの笑顔が涙でにじんで来た。
「あれれ?いけっち?泣いてんの?可愛いやっちゃの~!誰かとは大違いだな。なあユオ?」
「な~んで僕に振るかな~。僕だって泣くときゃ泣くよ?」
そこへ、1階の喫茶店『AZiTO』のマスターが、自慢のアップルパイを持ってやって来た。
「アップルパイ差し入れで持ってきたよ~。」
「お~!スギちゃんありがと~!スギちゃんが焼くアップルパイ旨いんだ!甘さの配分が絶妙なんだよね!」
スギちゃんがいけっちの前に、アップルパイを差し出した。
「よかったら食べてみて。」
「いただきます。」
いけっちはアップルパイをひとくち食べた。
すると、
「美味しい!こんな美味しいアップルパイ食べたの初めて!」
いけっちは、アップルパイをほお張りながら笑顔になった!
ボッサンはいけっちに言った。
「いけっち。これから先、辛い事、悲しい事、悔しい事、困った事があったらいつでもここに来い!
すぐに笑顔にしてやるぜ!
なぜなら~?
せ~の!
『俺たちは天使だぜ~!』
イェ~イ!」
「おい、ボス!ヒック!
お~れたちってことは~、ヒック!
レミは~入ってないじゃん、ヒック!」
「レミ、飲み過ぎだぞ!」
「うるへ~!ヒック!」
ー西新宿警察署捜査1課ー
北川警部補ことホヘトは、やっとギブスが取れて傷もほぼ完治した。
喜多村刑事ことオヴェは、ホヘトとの約束で新しいパソコンを買って貰って上機嫌であった。
「ホヘトさんありがとうございます。これ欲しかったんですよ~!」
「まあ、この位でオベが喜んでくれるなら安いもんよ!」
別にホヘトが買った訳ではなく、上司に申請しておいたのが、やっと通っただけである。
「ホヘトさん。」
「なんだ?」
「オベじゃなくてオヴェです。」
「オベ、ゴゥラ!イテテテッ」
オヴェをヘッドロックしたが、肩の傷がまだ痛むホヘトであった。
ーAM2:00新宿歌舞伎町ー
繁華街から一歩奥に入った薄暗い袋小路。
1人の男が、チンピラ3人に因縁をつけられていた。
「テメェ!どう落とし前つけてくれるんだよ!あぁ?」
3人の中のリーダーらしき、ガタイのいいゴリラの様な奴が吠える!
その男は、肩から掛けてる大きなバッグを降ろして、
ファスナーを開けながら言った。
「落とし前?これで勘弁してもらえるかな~、ンフッ♪」
その男の手には、AK-47が握られていた……
ーENDー




