最終話
本編の第十七話と閑話その12同じ内容です
最終話
葵と一緒に予約した店に向かっているのを、柊さんに見つかってしまった。
「あれ~二人とも、あたしを置いてどこ行ってるの?」
「どこって、そんなの決まってますわよ。ご飯ですわ!!」
「そういうことだよ、ひ……」
ちょっと待って、今柊さんと呼んだら葵に焼肉屋の話そうとしていた件で気づかれてしまう。
あのことはちゃんと私自身の口で言いたい。
「私と葵はご飯を食べに行くだけだから気にしないでミコト」
……そもそも柊さんにとって私の感情が戻ってきているのは、柊さんの計画に好都合なのではないか。
「ふーん、そういうことなんだ。面白いことになってるじゃん」
「何が面白いのですかミコト?」
葵それ以上はやめた方がいい、その言葉が喉元に詰まって出てこなかった。
柊さんは私を見て満足した笑顔をしていた。
私はその意味を理解して柊さんを全力で殴った。
「もう美月危ないよ、身体無くなっちゃったじゃん」
「ミコトが口を開くとろくなことがない」
「心外だなぁ、そんなに元相方のことを信用出来ないの」
「っだから口を開くな!」
「何よそれ、美月……何かの冗談ですわよね?」
「うん、そうだよ冗談だから安心して葵」
上手く嘘がつけているか分からない。
感情を取り戻してきたのに、なんで葵に嘘をつかないといけない。
「事実なのですわね、美月の顔を見れば分かりますわ。まっ、まあ美月が魔物なのでしたらあり得る話ですわよね」
「へー、そこまで話してるんだ。それなら葵、これは知ってるの?」
まさか……ダメ、それ以上は。
「葵は復讐相手に会えないって嘆いてたけど、実はもう会ってるんだよ」
柊さんのこの言葉を聞いた葵の表情は今まで見たことのないもので……私は伝えるのが恐ろしくなった。
「そいつは今どこにいますの、今すぐ教えなさい!!」
柊さんは、私を指差し「そこ」とだけ答えた。
私を見た瞬間の葵は柊さんのことを信じてなかった。
「美月がそんなことするわけありませんわよ。ついていい嘘といけない嘘の区別もつきませんの?」
私は、葵の信用に応えられない。
葵のお母さんを殺した事実は絶対に消えない。
「あたしは嘘なんてついてないよ。最初に伝えたでしょ『契約すればお母さんを殺した相手に復讐出来る』って、だから美月を連れてきたんだよ」
「アンタそれ以上美月のことを貶める言葉をほざいてみなさい、私が殺すわよ」
「貶めるなんて酷いなぁ、あたしは事実を伝えてるだけなのに……そうだよね美月」
「嘘だということぐらい、私にも分かっています。こういう時は否定なさい」
「わっ、私は……」
こんな形で伝えるつもりじゃなかったのにどうして。
「殺した。私が……私が、葵のお母さんを殺した!!」
「本当……ですの?」
「そうだよ美月は"嬉々とした表情"で葵のお母さんを殺したんだから!!」
……葵と一緒に過ごせるのもこれで最後かな。
「分かりました。私は美月の言葉を信じます。そしてミコト、アンタが嘘を言っていることも分かりました」
「あたしが嘘だって? 何を根拠に」
焦っている柊さんを横に葵は私を庇い始めた。
「アンタは美月ことをな~にも分かってませんのね。美月が感情を取り戻し始めたのは最近ですわよ母上を殺したのが事実だとして、嬉々と殺せる状態ではないことぐらい想像できますわよ」
葵の表情を見て私は理解した。
葵は復讐したい気持ちを押し殺しながら私を庇っている。
私はこんな時に蛍の言葉を思い出していた。
『人間らしく死にたい』
葵と接しているうちに感情を取り戻して罪悪感で押し潰されそうになった。
分かっている。感情を取り戻したばかりなのにそんな状態になるわけがないと私自身が理解している……はずだったのに。
葵は私が魔物と知っても『些細なこと』と言ってくれた。
だったら、私の願いは……これしかない。
"葵の願いを叶えて人間らしく死ぬこと"
「葵、それ以上庇わなくていい。私が葵のお母さんを殺したのは事実だから。それと葵の一番したいことを聞かせてほしい」
葵は涙を流し言葉を詰まらせながら『復讐』と答えた。
その後も何か言っていたけど、それが聞ければ私には充分だ。
「今から叶えさせてあげる」
「美月、何をする気……そんなの今じゃなくても……それに復讐の方法は色々と」
「葵ははなから復讐相手を殺すつもりだった。そうでしょ? だったら躊躇う必要はないよ」
「美月が相手なら、殺す以外にも方法はありますのよ!!」
見かねた柊さんが、懐かしい魔法を葵と私に使った。
「惨め惨めに曝け出せ混沌たる欲を、惑い惑いて崩壊せよ、"幸福への想い(ヴァニテアビサル)"」
柊さんのこの魔法は対象が人間だと、割合の強い欲望を曝け出しその欲望のままに動かし自己を壊す魔法だ。
魔物相手だと生きていた時の夢が叶った風景を見ながら成仏出来る。
柊さんの魔法は魔物にとっての安楽死だ。
幸せな状態で逝けるのだから……でもそれは私の望みじゃない。
「柊さん、私にも葵と同じ効果にして」
「……どうして美月は、いつも誰かのために動くの? 私は美月の夢が叶ってほしいの!!」
柊さんの魔法を受けた葵は殺意を曝け出し私に向かってきている。
「柊さん、いつもありがとう」
「……こんな時にお礼なんてやめてよ」
柊さんは魔法の効果を葵と同じにしてくれた。
今の私の欲望それは一つしかない。
グサリ
葵は私に魔法を使いながら身体を切り刻んだ。
「私は葵とずっと一緒にいたい。たとえ生まれ変わっても」
……これで葵の願いを叶えて人間らしく死ねる。
満足だ。
これが走馬灯ってやつなのかな
────
「ねえいぬサブロウ今日はおめでたいことがあるんだよ、聞いてくれる? それはね……」
帰宅後サプライズ準備を終了しウッキウキでぬいぐるみに今日の出来事を報告していたら、本人が帰ってきちゃった。
「……ただいま~って、何してんの美月?」
「何ってそんなの簡単だよ!」
私は隠し持っていたクラッカーを取り出した
パァン!!
「柊さん、誕生日おめでとう!」
サプライズで柊さんの誕生日兼入学祝いを私は数日前から計画してたの!
「柊さんにバレないかヒヤヒヤだったんだよ、もう」
私が冷や汗で濡れているのを見た柊さんは自然にタオルを渡してくれた。
「柊さん、いつもありがと」
「早速食べてもいい?」
「うん、いいよ! ふんふんふんふんふ~ん」
私が準備した料理を柊さんはいつも美味しそうに食べてくれる。
あの笑顔を見てるだけで私は力が漲ってくる。
「ねえ美月、どこまで夢に近づけたの?」
夢にいて聞かれた私は自信満々にこう答えたの!
「魔物になった人を三人魔葬少女に戻せるところまでは進んだんだけど、まだ契約前には戻せてない!」
私の希望を使う魔法でここまで出来るなんて思わなかったけど、これならみんなを元に戻せる。
そして私の夢は魔葬少女のみんなを契約前に戻せるようにして、みんなで笑い合いながらご飯を食べること!
アツミには絶対に目をつけられると思うけど、柊さんと一緒に絶対に叶えてみせるんだから!
だけど今ぐらいは目の前の幸せに浸ってもいいよね~。
「楽しそうだね美月」
「分かっちゃう? いや~、柊さんの食べる姿見てたら癒されるなぁって考えてたんだよね~」
柊さんは照れ臭そうに私の肩を叩いてきた。
「もう、恥ずかしいこと言わんでよぉぉぉ!!」
「痛い、痛いからちょっと待って柊さん!」
私が柊さんとの時間を堪能していると、依頼の電話がかかってきた。
「また行くの?」
「うん、助けてを待ってる人がいるってことだもん。私に出来ることはしたいじゃん」
柊さんは、袖を引っ張って心配そうな眼差しを向ける。
「安心して帰ってくるから。こんな大切な日に死んだりなんてしないよ」
「でも私たちにそんな保証ないでしょ……」
それを言われたら何も反論出来ない。
「安心して、私が柊さんを置いて逝ったりしないよ。約束したでしょ、逝く時は一緒って」
「……美月が約束破ったことないもんね、分かった。だけど、危なくなったら帰ってきてね」
「当たり前でしょ、そもそもこんな可愛い恋人を一人になんて出来ないって」
私は軽口をぶっ叩き家を出た。
だけど、これが間違いだった。
依頼内容は魔物の討伐だったはずなのに、現地に到着して、私の目の前に広がっていたのは一人の魔葬少女が数百人の人を殺している光景だった。
「何これ」
魔葬少女は私を見るなり怒りを露わにした。
「貴様が咎様の邪魔をする魔葬少女か!! 咎様に代わり私が粛清してやる」
何を言っているの、この人は。
「話を聞いて、邪魔も何も私は何もしてない!!」
「貴様が咎様の指揮下の魔物を魔葬少女に戻した影響で咎様のご機嫌がいいのだ!!」
「機嫌がいいのに邪魔ってどういうことなの!?」
「貴様が魔物を戻したせいで、肉体と精神がぐちゃぐちゃの狂ったものが生まれてるんだ。どう考えても邪魔しかないだろうが!」
それからこの人が話していることはとても受け入れられない内容だった。
この魔葬少女システムが咎という人物により作られたこと、魔物化の原因も感情を使う魔法も何もかもが人により作られたと、それ以上に……私たち魔葬少女が道具として利用されている事実の方が耐えられなかった。
「それって私たちが道具ってことなの」
この人は私の発言より、私の表情に反応を示した。
「良い表情をするではないか! 解答はイエスだ! 貴様たち魔葬少女は咎様の道具であり、絶望を見るための存在だ。希望など抱いたところで全ては無駄なのだよ」
私は内心でこの事実を否定しようとしても身体が否定しきれず反応してしまった。
「貴様……震えているではないか。そう怖がる必要はない。魔葬少女になったのだから必然であろう」
「私はみんなの希望になる、そのために魔物になったみんなを人に、人間に戻すの! 戻れる前例を作って、安心出来るように……するって約束したのに……こんなの、どうしようもないじゃない」
私がどれだけ希望を持つ発言をしようとしても……何も思い浮かばない。
こんなこと今まで初めて。
柊さんを守らないと。
「おお!! そろそろ変化の時か!!」
「変化?」
私の身体は溶け始めた。
怯えはしたけど、柊さんに帰ると約束した。
ならば私は柊さんの希望に応える!!
「こんなことで私は堕ちる訳にはいかないの!! 柊さんに帰るって約束したの!!」
正直危なかった、身体が溶け始めた時は本当に終わりかと錯覚してしまった。
私の決意は虚しく、魔葬少女は増えた。
「どうしたの、そんなに強張って……睡眠が足りないんじゃないの?」
「睡眠なら柊さ……んと……」
意識を失い次に目を覚ますと、目の前には殺されかけた柊さんがいた。
「やめて、それだけはやめて!! それ以外ならしてもいいから、私を殺しても魔物にしてもいいから、柊さんだけは殺さないで!!」
焦りすぎた私の発言を聞いた魔葬少女の笑顔には狂気しか宿っておらず、私の心は完璧にへし折る結果を生んでしまった。
「ひ……いらぎ……さん?」
突然私の身体は溶け始めた。
「何これ、何なの!? もう嫌だ、何で柊さんが……私が、私が依頼に向かったから……契約前の人間に戻ろうって約束すら守れず……何が希望だ」
「はははははは!! 契約前の人間に戻る~!? 魔葬少女になった時点でただの道具、消耗品なのが分からなかったの? ねえ大切な人が目の前で殺される己の無力さとかさ教えてよ……守れなかった気持ちをさ教えてちょうだい!! あはははははは」
この時、魔葬少女は人間として扱われることはないんだと確信してしまい、せめて柊さんだけでも人間扱いをと感じだが殺された後に何を考えているんだ私は。
こんな最期に考えることが、人間らしく扱われたいだなんて……結局柊さんとの約束が…………守れな……た。
「ご……め…………ん」
────
こんな時だからかな、昔のことを思い出してしまった。
でもこの出来事がなければ葵と出会えなかった。
ある意味感謝しないとね
柊さんの魔法の効果が切れた葵は私の様子を見て膝から崩れ落ちて泣いている。
膝から崩れ落ちるって文字通りだよ。
葵は身体を崩しながら私に近づこうともがいている。
「美月、ごめんなさい。私がしたんだよね…………私も美月と同じ想いだよ」
「ですわを忘れてるよ」
「いいの、遅くなってごめんなさい。ほんとはね、私"ですわ"なんて言わないんだ」
私と葵は最期の会話を楽しんだ。
葵にとって復讐心が一番強かったみたいだけど……葵の私と友達になりたい気持ちが強いのは分かってる。
未練を叶えてくれてありがとう、葵……貴女に出会えて良かったと心の底から思うよ。
読んでいただきありがとうございます!!
本編の葵と美月の物語がここで終わっています。
せっかくならまとめたいなと思ったのがきっかけです




