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僕と私。  作者: なつめ
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私、かならずどこかに(2)

「まもなく大宮駅に到着します。おおりになるお客様はお忘れ物のないようにご準備ください」という車内アナウンスで私は目を覚ました。私は不安になってあたりを見回してみたけれど、口だけの車掌や、顔のない魂はもちろんいなかった。顔のある人々が、忙しそうに荷物をまとめていた。


 朝の大宮駅は昨夜の富山駅とは打って変わって人で溢れていた。とてもじゃないけれど同じ世界の風景には見えない。人々は地獄から抜け出すための最終列車に乗り込むような形相ですでに満員の電車に乗り込んでいく。五分後には次の電車があるというのに。

 とてもじゃないけれど、そんな電車に乗りたいとは思わなかったのでカフェを探して朝食をとることにした。時間はある。急いで地獄から抜け出す必要はない。ナオコはどうせ会社に言っているはずだ。携帯の充電器がないのでメールはできないし。電話はかけられない。結局は彼女が帰宅するまで待つしかない。合鍵がポストに入っていることを私は聞いているし、ポストの暗証番号も知っている。ナオコが教えてくれた。何かあればいつでも鍵は使っていいからねと言われている。でも待ったほうがよさそうな気がした。彼女を驚かせたくはない。

 ちょうど改札をでた所にスターバックスが見えた。駅の改札前の広場を見下ろす絶好の位置だったので、私はエスカレーターで上に上がることにした。ホットサンドとコーヒーを頼んで、窓際のカウンター席に座った。大きな窓が広場を見下ろすように広がっていて、下を歩く人々がよく見えた。そこから見ると、人の流れがよくわかる。いくつかある駅の出入り口から改札へと向かい、大きな流れができていた。それはよくみると川の流れのようにも見えたし、ありの大群のようにも見えた。

 私はそんなせくせくと歩く人々を上から見下ろしながらコーヒーを飲んだ。そして彼ら、彼女らがこれから送ろうとしている様々な種類の一日を想像してみた。あそこの男性は何かとんでもないミスを犯して上司に怒られるかもしれない。あの高そうな鞄を持った男性は部下に食事をごちそうするかもしれない。赤いコートの女性は旦那に内緒で会社の同僚とラブホテルに行くかもしれないし、あそこの学生は今日処女を失うかもしれない。今晩プロポーズをするために予約を取っている男もいるかもしれない。そう考えると、そこをあるいている人々の全てが、自分の過去、現在、未来のすべての可能性のプロジェクションであってもよい気がして来た。そうだったかもしれない自分。そうであるかもしれない自分。そうなるかもしれない自分。そんないろいろなバージョンの自分たちが、今眼下を早足に歩いている。それらの自分たちの中から、今ここでコーヒーを飲んでいる自分を選んだ理由はなんなのだろうか?一体何が私に今の自分をそれらの無限の可能性の中から選びとらせたのだろうか?

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