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金子花梨の心配

 紗理奈から電話があった。

「ねこちゃん、頼みがあるんだけど」


 カネオと別れようとしてもめていたのはお弁当の時間に聞いて知っていたが、なんとそのカネオに夜の公園に呼び出されたという。

 一度だけ、紗理奈と一緒にいる時に紹介してもらったことがあるが、下からエスカレーターで有名私大に入って、お金もあって、でも、そのことを鼻にかけている、いかにもプライドが高そうな、面倒くさそうな奴だった。


「H公園に夜十時? なにそれ、危ないよ、紗理奈、絶対行っちゃだめだよ」

 私は一所懸命、紗理奈に行かないように説得した。

 カネオは紗理奈に高かったプライドをぽっきりと折られ、逆上して半ばストーカーと化している。何してくるかわからない。危ないに決まっている。


「危ないのは、わかってるよ。でも…」

 紗理奈は、「自分のケツは自分で拭く、ここでけじめをつけて、過去の自分と一線を引く」という。きちんと本郷裕也さんと向き合い、嘘偽りのない自分の気持を伝えるためだ。

 

 紗理奈には公園の入り口まで一緒に来てくれるように頼まれた。

 公園でもう一回行かない方が良いと説得したが彼女は聞く耳を持たなかった。


「ここから先は私一人で行く。ねこちゃんは絶対に着いてこないで、私と離れて、安全な場所にいて。もし自分が三十分経っても戻ってこなかったら、その時は警察に連絡して」

 公園の入り口でそう言い残すと、彼女は独りで勉が指定した公園の中の林に向かった。

 

 彼女が公園に消えるとすぐさま、私は本郷先生に電話をした。

「先生、大変だよ。紗理奈がやられちゃうよ」


「え、どういうこと」

 狼狽する私に、先生の声色が変わった。 


「紗理奈は、先生のことを本気で好きになって、だからつき合っている人と別れようとして、それで、その元カレに逆上されて、夜中の公園に呼び出されちゃったんだよ。元カレ、かなり危ない奴なんだよ」


 電話の向こうで、先生が家を飛び出す気配がした。

「どこだ、すぐ行く」

「H公園の正面入り口だよ」

 

 先生はタクシーを飛ばして、二十分ほどでH公園に来てくれた。

「紗理奈はどこだ!?」 

「もう、公園の中に入っちゃったよ」

 

 私が、紗理奈が呼び出されたバーベキュー場のある林の場所を説明すると、先生は一目散に走りだした。

 私も後に続いたが、先生の足が速くて、私はすぐに置いていかれてしまった。

「お願い、先生、紗理奈を助けてあげて」

 私は先生の背中に向かって叫んだ。


 夜の公園は人影がほとんどなかった。

 私は、勉が指定した林の中の広場にカネオと紗理奈がいるのを見つけた。

 カネオは一人ではない、仲間を連れてきている。

 そこへ先生が駆け付けて、あ、乱闘が始まってしまった。


 もう一刻の猶予もない。私は110番に電話を掛けた。


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