表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

蛇巫女

作者: 鈴埜
掲載日:2025/01/01

蛇年なので、異世界落っこち蛇短編です!

『よく見、聞くことだ。この世界は偽りに満ちている。それもすべて、私を封じた偽りの神のせいだ。年々私の力が衰え、世界の均衡が崩れてきている。昔は豊かだった土地は干上がり、暑さと寒さが極端になっている。そなたが最後の頼みの綱だ。神殿の奥深くに封じられている私の身体を目覚めさせるのだ。そなたが生の力をほんのひと注ぎさえすれば、私は、抑えつけている偽りの神をはねのけることができる。そうすれば世界はまた大地に力を取り戻すことができるだろう――』

 弥生は柱の陰に隠れながら、見つからないように先へ急ぐ。

 夢の中で何度も繰り返された神とのやりとりを、思い出しながら。


 己の足音に肝を冷やしながらも、弥生は松明で照らされた廊下を進んだ。触れるとじんわり冷気を伝える石壁に彼女の影が揺れる。

『今だ』

 頭の中で響く声に導かれ、通路から身を躍らせた。自分の身長分の高低差を、難なくクリアできたのは、重力の違いだ。初めてこちらにきたときの奇妙な感覚が消えると、身の軽さに驚いた。

『そのまま真っ直ぐ進めば私がいる。さあ、早く』

 神が、急かす。

『我が乙女よ』

 頭の中に心地よく染み渡る低めの声に、弥生は何度も頷いた。


 神だと名乗るそれは、弥生のことを乙女と呼んだ。

 乙女、助けよ、我が乙女よ、と。


 季節は冬。彼氏のいない憂鬱なクリスマス、大晦日を終えて、新年明けましておめでとうございます。今年は巳年。年女。お願いします。今年こそ素敵な彼氏ができますようにと、近所の神社に柏手を打っていたときだ。


 その声は唐突に弥生の中に降ってきた。

 新年早々どこの阿呆だと辺りを見回すが、それなりに人手のある境内で、誰もその異常に反応していない。

 すると、さらに声が聞こえる。


『――乙女』


 やだなにこれ気持ち悪いと移動するが、それでも声はついてきた。周囲を見回すが、賽銭を投げる列から離れれば、あとはおみくじ御守り甘酒の列ぐらいしかない。少し離れれば弥生は一人だった。それに、声は左右からではなく、もちろん前や後ろ、ましてや上や下から聞こえるわけではないことに気付いた。

 それは、内から、自分の中から響いてくるのだ。


 何度も繰り返される『乙女』の呼びかけに、弥生は耳を傾ける。

 声のトーンが彼女のドストライクだったというのもあるし、乙女なんて産まれてこのかた呼ばれたことがないので少し気を良くしているというのもある。

 そして、弥生は神に応えた。


 真冬の日本から、よくわからないが気温二十度を軽く超える草原の中に突然呼び出されパニックに陥った。当然だろう。いくら神様がピンチで弥生が唯一その神を救うことができる異世界の住人だと説明されても、右から左へ聞き流し、その背中に飛び膝蹴りを喰らわせても許されるレベルだ。

 到着した頃は太陽が――そう、ここにも太陽と同じようなものが一つ、空にあった――登って来る途中だった。

 しかし、気付けばその太陽が今まさに沈もうとしており、自分が住んでいた日本と同じようなシステムならば、正気を取り戻すのに半日かかったということだ。

 その間も神様は根気よく、素敵な声で彼女に語りかけ続けた。苛立ちを見せることなく、穏やかな口調で泣きじゃくる弥生に謝罪し、懇願し続けたのだ。


 後から話を聞いたところによると、弥生の感覚にして数千年以上も封じられていたというから、まあ半日程度は神にとっちゃなんてことはない時間だったのかもしれない。

 ようやく現実? を受け入れて、神の話を聞き、そして今、弥生はご神体というやつに体面していた。


 声に導かれて滑り込むように入った部屋は、大きさは1LDKの弥生の部屋と良い勝負。中央にある石の台以外は何もない。四方を囲む石壁もつるりとしていて、松明の光でてらてら光っているだけだ。

 しかし、予想外のものが、その石の台の上に横たわっていた。

 弥生は、ご神体というからには、鏡とか、剣とか、そういったものだと思っていた。

 けれど、ご神体。その字が表す通りの、身体がそこにはあったのだ。


『私の器だ。乙女よ。恐れることはない』

 神が囁く。

『さあ、時間がない。もっと近くへ』

 言われるがままに、弥生は神の身体を真上からのぞき込んだ。真っ白い布を巻き付けて、顔と指先以外のほとんどが隠れている。肌は悔しいことに弥生よりずっと白い。当然だろう。こんな光の届かない部屋に、何千年以上も閉じ込められているのだ。長い睫毛が頬に陰を落としている。髪の色は白に近い灰色をしていた。背は弥生よりずっと高い。百九十はありそうだ。彫りの深い顔立ちは、彫刻のようだった。


『さあ、乙女よ。我が身体を呪縛から解き放っておくれ』

「うん、任せて」

 だが、どうすればいい。

 気合いを入れてはみるものの、次に何をしたら良いかわからずに握りしめたこぶしが空中で空しく振り回される。

 神は神で、弥生がどうしたらいいかわかっていないことを理解できていなかったのだろう。お互い初の異世界交流で、相手がどこまで了解しているかを把握できていない。


 しばしの沈黙のあと、神はもう一歩前へ進み出るよう言った。

『乙女の生の気を私の器に注げば、死の気に充ち満ちている我が身体も生き返り、再生を果たすだろう』

「生の気?」

『そうだ。そなたは私の乙女。そなたが私に口づけを――』


 はあああああああああああああああああああああ!?


 幸い声にならない叫びというやつで、弥生の脳内に鳴り響いた絶叫は神以外に伝わることはなかった。現実にそれだけの声を出していたら、即神殿を見張る者たちが押し寄せてきていたことだろう。


『乙女よ、何が――』

 珍しく狼狽えた神の言葉だったが、それ以上に弥生の脳内は何十人もの弥生の罵声や怒声や嬌声といった阿鼻叫喚の地獄絵図で、事態の収拾には少なからず時間が必要だった。

 簡単に、口づけとか言い出した神に対して、いったい乙女の、そう! 乙女の唇をなんだと思っているのだ。散々おとめおとめ呼んでおいてそのざまか。彼氏いない歴=年齢の弥生を掴まえてだ、今まで肝心のそこの部分を隠し通してきたという、その行為に疑心が芽生えても仕方あるまい。


 そう、乙女の初キッスを、捧げろとっ!!!!!!!


『乙女よ……』

 どう反応していいかわからないのか、戸惑う神に、

 ああ、光栄なことなのだろう。よくわからない現実から480度くらいかけ離れた世界に連れてこられて、お前は選ばれたのだとか言われて、神が身体を奪われ閉じ込められてるとかで世界が滅びに向かっているって、その実態を色々と見せられて、だから助けてくれ乙女よ救世主よって、そりゃ気分もよくなるってものですよ。だいたい、日本人は弱いのよ。選ばれた系にさ。いや、全世界が弱いんじゃない? なんだかんだで選民思想ばりばりでしょう。あなたは選ばれた。あなたはその他大勢とはちがう。そんな甘い言葉におだてられてみたら、ここに来て『実は』よ。あるじゃない。詐欺の手口にあるじゃない! 貴方は抽選で当たりました。こんな素敵な特典を受ける権利があります。そのために、まずこの講習を受けていただく必要があります。この講習には○○万円かかりますが、でも大丈夫、それさえやっていただければ特典で元がとれますから。みたいな。そんな詐欺まがいの手口ををををををを!!!


『お、乙女よ。そ、そなたにとって口づけが重要なのはよく、よくわかった。この世界では挨拶の一つとして用いられているが、確かにそなたの世界ではかなり深い意味をなすことだと、いうのはよく、わかった。だが――』

「いくわよ!」

『……そうか。すまぬ、乙女よ』

「こちらこそ、ごちそう様です!」

『……』


 こんな好みの声もったイケメンの唇にどうどうと触れあえるというなら。しかも、むしろ、懇願されてる。頼み込まれて、平安風に言えば口吸いできるっつうならこちらに非はなし! 世界のためにと言われて仕方なく、仕方なくそっと触れ合っただけよと被害者面できる始末。いざ行かん! 初キッス!!!


 変ににやけてないかしらと心配になりながらも、こんなことならグロスでも塗ってくるんだった。自然体を装ってぺろりと唇を舐め石台の上に横たわる身体へ徐々に近づいていく。

 初キッスはレモン味とかイチゴ味とかそんな話を少女漫画ではよく聞くが、いやに冷たく固いそれに、本当に触れただけで、ベロチューはさすがにいかんだろと一瞬思ったところでふっと身体が浮いた。


 先にも述べた通り、たぶん重力の関係で身軽なのと、もともと反射神経は悪くなかったので、壁に激突する寸前にくるりと身体をひねって足で壁を蹴り、着地する。

 何が起こったのだと、頭の中で神に尋ねるが、その答えを得るより先に今まで死体のように動かなかった身体が上半身を起こし、どう考えても怒りに染まったその表情に息を飲む。それとも、感情の表現方法が、弥生の知っているものとまったく違っているのだろうか?


「あのっ」

 囁き声のつもりが、石壁に響き続きを口に出すのが憚られた。というか、遮られた。

「なんということをしでかしてくれたのだ!」

 その瞬間の弥生の顔は、全国間抜け面コンテストがあったら間違いなく入選。間違えれば一位を獲得出来てしまった代物だった。それくらい予想外で――心外だ。


「なんて愚かなことを」

 吐き捨てるその言葉は間違いなく自分へ向けられており、属性ドMであれば歓喜の涙を流していただろう美声なのだ。


 そうしている間にも、神は石台から降り立ち、わななく口元を固く握ったこぶしで押さえている。そうでもしなければ罵声が止めどなくこぼれ落ちてしまうからとでもいったところであろうか。


 とにかく、まあ、かっこいいな。

 人は想像の斜め上をさらに真横に飛ばれると、本来考えねばならぬラインから目を逸らしたがる傾向にある。

 弥生の状態が今まさにそれであった。


 やっぱり身長百九十はあるな、とあらためて目測したり、石畳に裸足は冷たそうだ。爪は伸びていないんだな。そしてきれいな爪だ。こぶしの隙間から見える手の爪もきれいだし、誰が整えているんだろう? というか、この世界は神様にも人と同じような物質的な身体があるんだなぁ。見えないから色々と詐欺も横行するけれど、この世界ならそういったものは一切ないってことか、と。本当に色々一瞬で考えていく。


 だが、神の一言が弥生を現実に引き戻した。

「私の身体を穢すなんて、本当に、なんということを――」


 ……何…………だと…………!?


 つかつかと歩み寄り、にこりと笑って仰ぎ見る。弥生の身長はは百六十七。女性ではわりあい高い方だ。それでも百九十オーバー相手ではこうするしかない。


「今何とおっしゃいました?」


 突然距離を詰めた彼女に少し身構えながらも、険しい表情を崩さず繰り返した。

「お前は自分のしたことを理解しているのか!? 神聖なるこの身体に愚かにも触れるなど、即、天の怒りに触れても仕方のない行為なのだぞ」

「はぁ? 自分がやれっつったんでしょ? 乙女の唇奪っておいて穢れるとか、あんたこそ天罰がくだるわっ!」

 奪ったのはこちらだがそこはあえてスルーだ。

 こちらに非はない。やって あ げ た のに、なんたる言い草。そう気炎を吐く弥生に、神は少しだけ眉をひそめた後、盛大にため息をついた。嫌味ったらしいため息だ。


「蛇めが……」

「はい?」

 もう一度ため息。


 本当に神なのか? 神様というのはこんなに性格の悪そうなものなのか? せっかくのイケメンがこれじゃあ台無しだ。クールで口が悪くてでもたまに優しさを見せる系は弥生の好みじゃない。周囲にはクールでも常にこちらには優しいのがいい。だから、さきほどからのやりとりで、この神様とは絶対に性格が合わないと確信していた。だいたい、状況がわからない相手に対して、なにやら一人で理解して呆れた目で見ているのが気にくわない。


「何よ?」

「……お前は」

「お前お前って失礼ね。神様のくせに。私には弥生という名があります」

「ヤヨイ、か。やはりそうか。……つまり、ヤヨイ、そなたは騙されたのだ」

 何に、と聞き返そうとするが、状況を考えればアレしかない。


「蛇に、だ」


 しかし、そこで蛇となるのがよくわからない。

 神は弥生を哀れんだ瞳で見ると、やがては瞑目する。

「なんと言われていたのかは知らぬが、ヤヨイはこの世界の者ではないのだろう?」

「……そうです」


 先ほどまでの汚物を見る目から可哀想なものを見る目に変わったことで、なんだか状況が不利になっている気配がひしひしと感じられる。自然と態度も改まる。

「アレは口が上手いからな。また都合の良いように聞かされてそそのかされたのだろう。アレはそういった性分だ。知恵が過ぎ、狡猾になり他を貶める」


「待ってよ、私が騙されてた? でも、本来は豊かな土地なのに、神の身体が封じられているから次第に世界が飢えと渇きにさらされてきて、人の心もすさんでと……」

 違うのだと、額に手を当て首を振る。イケメンは――神に対してイケメンは不謹慎過ぎるかもしれないが、弥生の語彙ではこれが一番完結に表せるのだ――何をしてもカッコイイ。

「違う。世界が荒廃してきたのは、蛇の力をこの身体では抑えきれなくなってきているということ。あとふた巡りするころには再び新しい清浄なる身体で封じの儀式を行うはずだったのだ」

 そうして神は、そう、本当の神は弥生に説明してくれた。


 蛇は何度も今回のように封印を解こうとしたという。この世界の住人は騙されるはずがない。他の世界の者を呼び寄せて清らかなご神体を穢すことで封印を解こうと画策した。だが、まず普通なら呼びかけには応えない。ほとんどが空耳だろうとスルーしてしまうのでこの世界に呼び込めない。そして、呼び込むことに成功したところで、本人が帰りたいと強く思えば本来この世界の理外の者を、蛇に止める手立てはないのだと。

 目の前のこの神が本物だとしたら、弥生はとんでもないことをしたらしい。


 が、その話を聞いた途端、強く思った。

「帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい――」

「無駄だ。ヤヨイは私に触れてしまった。もうこの世界の理の一部だ」

「神様でしょ!? 元に戻してよ。私おうちに帰りたいし!!」

「残念だが、今は人とさほど変わりない。ヤヨイが私の神性を奪ってしまったからな」

 まるで、私の大切なものを奪ったのは貴方よ、責任取ってよね。と言わんばかりの言い回しに、眩暈がしてきた。


「だいたいなんで私が連れて来られたのよ! あんたがしっかり蛇の手綱つかんでないのが悪いんでしょう!? 私は完全に被害者じゃない!!」

「元々蛇はヤヨイの世界で呪われ、こちらの世界に逃げてきたのだ。そちらの世界との結びつきが強い。反省をしたと目をかけてやっていたら、こちらでも羽目を外しすぎた。そのおかげで世界が滅びる危機となり、仕方なく我が身体で封じていたのだ。それが解き放たれ、世界は滅びに向かう。何としても蛇を捕まえ、もう一度封じなければならない」

 難しい顔でそう語る神の言葉を、弥生は聞き逃しはしなかった。

「蛇が、私の世界で呪われた?」

 それは、あれか、某宗教ですか? うちは家に仏壇があってクリスマスを祝い正月には神社に行く無宗教というか無節操派なんですが。

 だがそれよりも、

「で、目をかけたですって?」


 つまり、目の前にいるイケメンな神様が、蛇を助けて余計なことをしたおかげで弥生がこの世界に連れて来られ、大迷惑を被っていると。

 お巡りさんこいつです。

「あんたが悪いのかっ!」

「そのように言われるのは不本意である」

 違うとは言い切れないのだろう。そんな台詞にもういっちょ怒鳴りつけてやろうかと思ったところへ、人の声がした。まだ遠くだが、それはだんだんと大きくなっている。


「ヤヨイが叫んだから衛兵に気付かれてしまったな。このままでは世界を陥れた罪人として処刑されるだろうなあ」

 言い方が嫌な感じだ。明らかに弥生が尋ねるのを待っている。思い通りになるのは悔しい。だが、衛兵の足音が間近に迫っているのも事実。捕まったらあまり嬉しくない状況に陥るのも事実!

「何か方法はないの!?」

「ないことはない」

「もったいぶらないで教えなさいよ!!」

「神を脅すとはなんたる罰当たり! 恐ろしい乙女だ」


 乙女。


 その単語に苛つく。

 神は弥生のそんな心内を知ってか知らずか、乙女と繰り返す。


「早急に蛇めを掴まえなくてはならない。我が身体から解き放たれた今、奴は他の身体を纏っているだろう。だがあくまで間に合わせの身体だ。実はな、ヤヨイ。そなたの身体がやつにとって一番扱いやすい身体でもあるのだ。間違いなく、そなたの元へ戻ってくる」


 ヤヨイは蛇乙女だ。


「蛇めを捕らえなくてはならない。あれが私の神性を奪っていった。蛇に私の力を振るうことはできないが、捕らえ、奪い返さなくては世界が滅びる。そして今度こそ強固な封印をほどこさねばならない。それにはヤヨイ、そなたの協力が不可欠なのだ」

「そんなこと言われたって!」

「選択の余地はない。ここで衛兵に捕まるか、私と一緒に来るかだ」

 差し出された大きな手をまじまじと見つめる。


 声がした。


『望みを叶えた。だろう?』


 神と偽る蛇の声が聞こえた。


 ――今年は巳年。年女。お願いします。今年こそ素敵な彼氏ができますように――


 祈った。確かに祈ったのだ。

 弥生より色白の、大きな手。その先にあるのは性格に難アリのイケメン。こんな、展開は望んでいなかった。だが、選択の余地はないのだ。

「皮はいで丸焼きにしてやる」

「蛇と言っても本当に蛇の姿をしているわけではないから、それは難しかろう」

 にやりと笑った神様は、弥生と一緒に姿を消した。弥生を元の世界に戻すことはできずとも、そんな力はあるらしい。


 真っ暗な草原に立ち、遠くに先ほどまでいた神殿を眺める。空には満天の星。見知った星座は見つからないが、そんなところは弥生のいた世界と変わらないのだろうか。


「先ほど蛇が触れて来ていたな」

「……わかるの?」

「気配を感じられるだけだ。あちらの方にいた」

 真っ直ぐ指さす先には光がちらちらと揺らめいている。だが、かなり遠そうだ。


「行こう、ヤヨイ。滅びは加速している」

 彼女に選択肢はない。

 今度は本当の、でも力を失った神様に協力して、弥生を罠にはめた蛇を捕まえなければ元の世界に帰れない。


「乙女よ」

「その呼び方はやめて。なんかムカツク」

 はめられた相手に散々呼ばれていい気になった自分にムカツク。


「そうだ、あなたのことはなんて呼べばいい? カミサマ、じゃまずいでしょう?」

 先に少し歩き出してから振り返った。神様は少しだけ首を傾げたあと笑う。意地の悪い顔に見えた。嫌な予感。


「アダム、とでもしよう。この世界でも一般的な名前だ」

「やっぱりあの蛇なのかあああああああ!!!!!」


 宗教ごった煮過ぎる!

 弥生はクリスチャンじゃない。洗礼も受けていない。単なる蛇年、蛇女なのに、なぜ!!

 どれだけ叫んだところで状況が変わるわけでもないが、最初の街に着くまでの間、イケメン神様、アダムに向かって延々文句を垂れ流した。それを嫌がることなく聞き続けたのは、さすが神様というべきか。普段から人々の自分勝手な祈りを聞いてきただけのことはある。

 

 こうして、異世界の住人と神様という異色コンビの旅は始まった。



新年あけましておめでとうございます。

全国の蛇女さんたちへ愛を込めて。


短編だよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ