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三題噺もどき3

体調

作者: 狐彪

三題噺もどき―ごひゃくはちじゅうろく。

 


 玄関の開く音で目が覚めた。


 ガチャガチャと言っているから、父が帰ってきたのだろう。

 視界の中はかろうじて周りのモノが見える程度の暗さになっている。

 リビングの炬燵の中に肩まで埋めて、寝落ちしていたようだ。

「……」

 自室にいてもよかったのだけど、あまりにも寒くて炬燵に避難してきた。

 そしてそのまま、寝てしまったようだ。そんなつもりはなかったんだけどな。

 電気もつけていないから、父が入ってきたら驚くかもしれない。

 それはそれで、別に何もないからいいんだけど。

「……」

 今日は妙に体が重くて、何もする気にならなかった。

 いや、何もしないのはいつもの事なんだけど、それに拍車をかけて何もできなかった。

 体が重い原因も不調の理由も分からないままに、軽く混乱したまま、炬燵に潜っていた。

 だるいなら部屋で寝ればいいんだけど、それがなんとなく嫌でここに居た。

「――わっびっくりした」

「……おかえり」

 いつの間にかリビングにまでやってきた父に案の定驚かれ、聞こえたかどうかの小声で返事をする。

 何をしてるのと言いながら、電気をつけ、鞄や洗濯物を出して行く父。

 ほんの少し煙草の香りがした。荷物をおいて、煙草を吸ってからリビングに来たのか。それなら相当な時間ぼうっとしてたな私……。うーん。これは、やばいかもしれない。

 しかし、だるいとは言えずに、なぜか携帯をいじりだす。

「……」

 強がりのつもりでもないんだけど、こういう時に自分の状態を言うのが少々苦手だ。

 なんでも我慢できるなら我慢してきたから、その弊害かもしれないが。

 だってなぁ……頭が痛いから頭が痛いって言ったら水分不足だって言われて、気分が悪いって言ったら気のせいだって言われて、お腹が痛いって言ったら変なモノ食べただろうって言われて。不調を訴えたところで、まともに取り合ってもらえないんだから、訴えようと言う気も失せるモノだろう。

「……」

 体の不調だけじゃなくて。この話は。

 心身ともに、不調を訴えるのがどうにも不得手なのだ。そう育てたのは誰なのかもしれないけど。口に出すことが憚られてしまうもので。自分の不調なんて自分が我慢すればいいかと思ってしまう。

 どれだけ痛くても、どれだけ辛くても、自分が耐えればいいんだと思ってしまう。

「……」

 そうして、痛みも辛さも叫ぶことができなくなった生き物はどうなっていくんだろうな。その痛みを感じられなくなってしまえばいいんだろうけど、そううまくはいかなくて。痛みだけはしっかりと感じて、それでも痛いとは言えずに。抱えるだけ抱えてしまって。

「……」

 本格的につらくなってきたが、もう口に出せるようなタイミングでもない。

 だって、父も別に気にするような質ではないので、仕事着から着替えてどこかへ出かけようとしている。母が遅番の時は大抵どっかに出かける。まぁパチンコだろうけど。それかコンビニかもう一度職場に行くか。まぁ、知ったこっちゃない。

「……」

 もう割とそれどころではないくらいに体がだるい。

 炬燵に入りっぱなしなのもいけないのかなこれ。

 一端でて、部屋に戻ってもいいんだけど……。

「ちょっと出てくるね」

「ぁーい……」

 適当に返事だけはして、父が出て行くのを確認した。

 玄関の鍵が閉まる。

 熱だけでも測ってみようかと思ったが、体が思うように動きそうにない。

 こりゃ、本格的にやばいやつだ。

 頭が痛くないから油断していた。大抵の不調が頭痛から始まるから、大丈夫だろうと思っていた。

「……」

 どうしたものか……。

 母が帰ってくるまでに部屋に戻っておきたい気分でもあるんだけど。

 これは全く動けない。

「……」

 もーむりかもしれない。

 このまままたここで寝てしまうか。

 そしたら多少マシになっているかもしれない。

 分かんないけど。

「……」

 後はもう、なるようになれだ。

 母が気づくだろう。










 お題:煙草・叫ぶ・強がり


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