日常:生活2
放課後、ソウ=シラナミは教室の自分の席に座り、これからの行動をぼんやりと考えながら外を眺めていた。
そんな中、なんとなく騒がしさを感じたソウはその方向に目を向ける。
廊下に出る扉、そこにはクラスメイトと話す見覚えのある一人の少女、少し高く見える身長、長くストレートの髪からは清楚さを感じられる。
しかし特出すべきは違った。
服の上からでも分かる異常に発達した部分は何度見ても慣れることは無い。
何やらあたふたと喋っている。
合わせて揺れるそれを目で追っていると、少女はソウの視線に気が付いたのか、話していたクラスメイトに律儀にお辞儀すると、こちらに小さく手を振る。
小動物だ。
そんなことを思っていると、少女は気まずそうに教室に入りソウの席まで近づいてくる。
なんだ、自分に用事があったのなら、自分が教室の外まで行くべきだった。
少女の姿を見ていると、そういう些細な後悔が生まれてくる。
「どうしたんですか先輩」
ソウは立ち上がると、教室の外へ出ようと促す。
少女は、大した事無いから、とこの場で話し始める。
ソウが座り直すのを待って、少女は話し始める。
「…アヤちゃん知らない?」
その言葉を聞き、カメラを構え活発に動き回る、エセジャーナリストの少女の姿を思い浮かべる。
「…なんで、俺に聞くんですか?」
ため息とともに出た疑問に少女は申し訳無さそうに答える。
「うん、どこ探してもいないから、もしかしたらここかと思って…」
教室内で上級生と話している事でで不躾な視線を集めている。きっとあまりよろしくないことを話しているであろう、ヒソヒソとした会話あまり気持ちの良い空気では無い。しかし慣れたものだとソウは気にする事は無く話をつづける。
「さぁ、アレは神出鬼没ですからねぇ…きっと、この学園で一番騒がしいとこにいるんじゃないっすか?」
適当に答えているつもりはないが、そうとしか言えなかった。
走り回っている様子を頭に思い浮かべると、否が応でも表情筋が強張る。
そんな、ソウの感情を感じてか目の前の少女は苦笑する。
きっと、方々を探した結果、行き着いたのがここだったのであろう、何の理由で探していたのかは知らないが、同じ人間に振り回される者として同情を覚えずにはいられない。
さて、どうしたものか?
この薄幸の美少女のためにどう人肌脱ごうかと考えていると…
「今週号じゃぁぁぁぁぁ!!」
高速で通り過ぎるバカでかい声。
騒音の塊だった。
「はぁ」
「はぁ」
2人は同時にため息をついた。
「いたな」
「いましたね」
ぼんやりと騒音が通り過ぎていった方向を見る。
教室の廊下の行った先に、騒音が聞こえる。
「捕まえる?」
「捕まえましょう!」
少女の決意を持った瞳にソウは頷くしかなかった。
やれやれ、と呟くと、ゆっくり立ち上がる。
その瞬間廊下へと走り出す。
少女はソウのいきなりの行動に一瞬驚くが、直ぐに気を取り直しソウの後を追った。
廊下に出たソウは騒音が行った。であろう方向を睨見つける。するとだいぶ先ではあるが、僅かに騒音の主の姿が見える。
「まてやぁぁぁぁ!」
その姿に向け走り出す。
彼女の普段の素早さを考えると、進行速度が遅いと違和感を覚える、が、その違和感はすぐに消えた。
廊下に、いくつか掲示されている張り紙の様なもの、ランダムなようで、規則的な間隔で貼られているのが腹立たしい。
通り過ぎる生徒は廊下に貼られた物と同じ物を手にし、この状況が慣れているように、大した動揺もなく、それを眺めている。
騒音元との距離が最初の半分ほどになった頃、またしても違和感。振り向くとだいぶ遅れて追いかけてくる姿にソウは驚愕した。
豪快に揺れる胸部に周囲は様々な反応を表す。驚くもの、凝視するもの、悲しみにくれるもの。もはや、それにこそが騒ぎの元凶ではないかとすら思われる。
改めて前を向き走る。
このペースならすぐに追いつくであろう。
そう思い、また一瞬振り向き追いかけて来る姿を確認する。
しかし、遅い、本当にあれで走っているのだろうか?
胸部が運動のための力やバランスを崩しているのではないだろうか?というか、あんなに揺れて痛くないのであろうか?
疑問は尽きなかった。
思わず深く考え込んでしまう。
「ぐわ!」
意識が思考に取られていたせいか、目の前の障害物に気が付かなかった。
廊下ということもあり、そこまで早く走っていなかった為、わずかに体勢を崩すだけにとどまった。
「わりぃ」
ぶつかった障害物が、人間だったと分かると、ソウはすぐに謝る。
幸い、相手にも怪我は無いようだ。腰に手を当てて、こちらに向かい仁王立ちしている。制服から女生徒である事が分かる。
「何をしてるんだ?」
そのままの腰に手を当てたまま問われる。
その姿を確認すると、大きなため息が出た。
「こっちのセリフじゃ」
いつの間にか追いついてしまっていたようだ。
手には紙束が握られていて、先ほどまでの行動の途中である事がわかる。
さて、どうしたものかと、考えていると、遅れて来た少女が追い付いてくる。
たいた距離ではないはずなのだが、大きく息を切らしている。その胸部は相変わらず注目の的だった。
「………はぁ…はぁ…はぁ……、アヤちゃん……探し…た…よ…」
やっとここにたどり着いた少女は息が荒いまましゃべりだしていた。
なんか、色っぽいな…何故か妖艶な少女に目を奪われる。
「とりあえず落ち着いてから喋りません?」
自分の邪念を慌てて振り払うと、気を取り直しそう促す。
少女は素直に小さく頷くと徐々に呼吸を落ち着かせていき、最後に大きく深呼吸をした。
「やっと捕まえたんだから!アヤちゃん!」
両手で紙束を持っている腕と逆の腕を鷲掴みにする。
「何をするリリィ!」
急な行動に驚いた様子だがその手を振りほどく事は無い。
仲が良いな、それは素直に出た感想だった。
そんな二人の少女のやり取りをソウは一歩離れ、様子を見ていた。
「新聞部の活動だ!お前も新聞部なんだから手伝え!!リリィ!」
「入った覚え無いんだけど!?」
「私の友達なんだから、新聞部だろ!!」
「何その無茶苦茶な理論!?」
言い争っているようであるが、垣間見える仲睦まじさから、微笑ましさすら感じる。
リリィと言われている少女はその大きな胸部を揺らしながら、口を膨らまし、可愛らしく怒っている。
「もぅ!アヤちゃん!ごまかさないで!先生怒ってるよ!!」
プリプリという擬音が相応しい怒り方である。
「げ、、」
されるがままであったアヤと呼ばれている少女は、相手の言葉に嫌なこと思い出した様に顔を歪める。
「補習!先生待ってくれてるんだから!!」
断片的な情報ではあるが、ソウは置かれた状況を理解した。
「くそぅ…」
悔しそうに唸る少女。
蛇に睨まれた蛙のように一方的に睨まれる。その瞳に抵抗できずにいる。
「諦めろ」
追い打ちするように放ったソウの一言に、根負けしたように、肩を落とす。
「…わかったよ」
その一言に、安心をしたのか、ずっと放さなかった手を、ゆっくりと放す。
その瞬間、
「これが配りおわったらなぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
脱兎如く走り出す。
紙束をばら撒きなら、すぐ近くに有った窓から、飛び降り、スカート翻しながら出て行く。
「報道の自由は止められんのだぁぁぁぁぁぁぁ!」
騒音を撒き散らしながら去っていく。
先ほどと違い逃げることを優先ているためか、速さが段違いだった。呆気に取られる2人の目からあっという間に消えていく。
あれは、無理だな。そう思いながら、取り残されたもう一人の少女を見ると、ゆっくりと我に返り、大きく嘆息し、頭をおさえる。
「どうします?」
たぶんどうしようもないが一応聞いてみる。
「もう!留年しても知らないからねぇ!!!」
人目もはばからず、天を仰ぎ叫ぶ姿は、注目の的だ。
その改めて強調された胸部に注目しながら、ソウ強い同情の念を覚えるのだった。
慰めるように肩に手を置くと、少女は悲しそうに微笑む。
ここにいても仕方がないので、立ち去ろとした瞬間、自分の肩にも手が置かれるの感じる。
「…廊下、走っちゃだめだよ」
振り向くと、微笑む生徒会の姿だった。
言い逃れしようにも走っていた事は事実なので仕方がない。
「マイナス1点」
「なんじゃそりゃぁ!!」
今度はソウの声が廊下にこだましたのだった。