日常:始まり:1
「フェリス=クィンスター。魔術特科所属。雄国グレイグランドの国境を守護する名門クィンスター家、通称『炎の一族』の三女 。かなり高い魔力の持ち主です。名家出身ということで目をつけられることも多いですが、それ以上に好戦的で、強気性が荒く、昨今の新入生が絡む問題の中心になっています。」
「ライザー=レイズデット。魔道科所属。数多くの企業を抱える財閥、レイズデッド家の次男。魔力自体は低いですが、頭がキレ、冷静沈着。学業自体は真面目に取組でいるようですが、その家柄から素行の悪い連中に因縁をつけられる事も少なくはなく、自ら問題行動を起こすことはありませんが、挑発的な言動から、トラブルを誘発している節があり問題のある人間と認識しています。」
「ソウ=シラナミ 。一般科所属。まあ、彼は…そうですね、一般的な出自である事は間違いないようです。能力は平均を上回る物はありませんが、何故か問題の中心にいる事が多い事と要注意人物と関わりが多いことから、警戒する人物と認識しています。」
「以上の3名が粒ぞろいの新入生の中でも特に目立ち、我々が警戒するに価する人物です。今のところどこかの勢力に属しているという事はありませんが、このまま彼女等を放置すれば、均衡を保っている各勢力のバランスを崩す恐れがあり、学園の秩序を脅かす存在になる事は間違いありません」
締め切られた室内に声が静かに響く。
生徒会室と呼ばれるこの場所には、男性2人女性2人の4人の生徒がいた。
「会長、聞いていますか?」
問われた少女はニコニコとこの場を楽しむように微笑んでいる。
先の報告を上げた眼鏡の男は辟易としながら、近くにあった椅子に座る。
「リア、意見を」
今まで黙っていた少女に声を掛ける。
「危険因子は早めに摘むのが得策かと」
淡々とそれだけを答える。
「わぁ、リアちゃん過激ぃ!」
笑顔を崩さず、場違いに手を叩く様子は何故か嬉しそうである。
それぞれが個性を放つこの4人の中、中心にいる少女は中でも強く存在感を放っている。場にそぐわない笑顔がこの空間を支配しているようであった。
「ガキどもなんか放っておけば良いだろう」
唯一、言葉を出さなかった最期の人物が口を開く。
座っていながらも分かる大柄な身体、落ち着いた低い声から彼の力強さを感じさせられた。
「問題は他にもあるだろう」
この場に対し不機嫌さを隠そうともせず腕を組み、目を閉じその声は低く響く。
「必要であれば俺が黙らせるが?」
自信に満ちている。
ここは、静かであるが激しい。冷戦の場。
「会議など無意味」
言葉は続く。
「黙らせるには、力だろう?」
そう断言し、開く目は力強い。
わずかに空いた窓から差し込む夕陽は、それぞれに影を落とす。各輪郭をはっきりさせるように、陰陽を見せるように。
「そう単純であれば良いのですがね」
含みのある言葉。
二人は対照であった。
一方は剛直で武人のよう、一方は理知的で知識人のよう。誰が見ても相容れぬ存在だった。
そこを、収めるのは一人だけだった。
「面白くなりそうだね」
壊す言葉。その目は虹色に輝いていた。
レインボーロード。
その瞳はそう呼ばれる。
名だたる人物を輩出してきた、この学園の生徒会、それにおいて歴代最強と言われる少女。その言葉だけで強者のみの、この場を支配する。
これから始まるこの事件、この狭い室内から静かに動きだす。