日常:人々3
まるで完成された絵画のような風景であった。
夕暮れという一時の時間。
特別な何かがそこにはあった。
静かに繰り返す波の音、オレンジの空にわずかな雲、三日月型の狭い砂浜に吹く風は少し冷たかった。
この絵画の中心にあるのは黒く大きな岩、そこには一人の少女が座っている。
少女の姿は幻想的で、この絵画の主役のようであった。
そこに近づく、一つの影、少女と歳を近くする少年の姿だった。
「いつも、ここにいるな」
少女の少し後ろの部分に腰をかける。
「なんか、特別っぽいよね、この場所」
少女はいたずらっぽく笑う。
その笑顔も幻想的であった。
儚げではあるが、存在感は確かにある、不思議な感覚だった。
「友達いないのか?」
「多くは無いかもね」
少年の無粋な問いにも、少女は気を悪くすることも無く答える。
日が落ちるまでのわずかな時間、ここに来るのが日課になっていた。
キッカケは些細な事だったと思う。
だけど、その言葉は強く印象に残っていた。
『この世界は好き?』
少女の背中を見ながら、その言葉がフラッシュバックする。
「一人が好きなのか?」
少年の問に少女は小首を傾け少し考えるような仕草をする。
「そう見えるかなぁ?」
そう答えたあと、会話が途切れる。
そこに気まずさは無い。
きっとこの場所この時間はこの少女にとって特別なものなのだろう。
それを自分という存在が邪魔してはいないか、ふとそんなことを思ったが、それを上手く口にする事は出来なかった。
思えば相手の感情を考え気遣う事なんてかつてあっただろうか?
思い出すことができないということは、多分ないのだろう。
わずかに出た杞憂も、ハッキリとではないが思い過ごしだったのだろうと思った。
「…なんか焦げ臭いね」
ふと少女が口を開く。
その言葉に思い出し、焦げた横髪を触る。
「あのやろう」
先程の一件を思い出し、感情が沸々と湧き出る。
その言葉に少女は笑う。
「また、巻き込まれたの?」
少女が問う。
「俺はいつも巻き込まれてばっかりだ」
そこで、また会話が途切れる。
マイペースな会話が心地よかった。
平和を求めていたはずのこの学園でも、平和に過ごせるのは此処にいるときだけだった。
少ない会話だが、過ぎる時間は早かった。
落ち始めた陽は照らす光を徐々に減らしていく。
風も増々冷たさを増していった。
「そろそろ帰ろっか」
ゆっくりと少女は立ち上がる。
「送っていく」
合わせて立ち上がる。
「ありがとう」
沈む陽に合わせて、二人はこの場所を後にする。
きっとまた明日も同じようにここで過ごすだろう。
同じ日が訪れる事に感謝の気持を感じ、歩いてく。
その少年の名は『ソウ=シラナミ』
彼に目標はない。
ただ求めたのは平穏だった。
しかしながらそんな些細なことですら彼に与えらえることは無かった。
世界は彼に味方しない、だがそれを不幸とは思わない。
この騒がしい日常もまた、受け入れるべきものだと理解している。
それに関し自分がどう思うのか、答えはまだなかった。