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New world  作者: 巻Salmon
同じ景色
2/15

日常︰人々1

『ドーーーン』

轟音とともに熱いものが頬をかすめる。

頬を触るとヒリヒリと痛みが走る。

ほのかに香る香ばしい匂い。

「…焦げてる」

横髪が少し焦げていた。


「はっはっはっは!!オラ!オラ!オラ!」


狂人の声がした。


この惨状を棒立ちで眺める。


どうしてこうなった?


ふとよぎる疑問を諦めという感情で無理やり流した。


ここは、戦場

行われているのは、戦闘ではない。虐殺だ。


「…何やってんだあのバカ」

心から出た言葉だった。


あちこちで立つ火柱、爆発、人々の阿鼻叫喚の叫び声、死屍累々、狂人の笑い声、

そうだ、ここは戦場ではない…地獄だ。


「ねぇ!早く止めて!」

悲痛な少女のこえに我に返る。

左手を掴まれ激しく振られる。

それにより自分が置かれた不幸な状況を思い出す。


「なんで俺がこんな目に…」


そこには唯一求めた平和すら無い。


ただため息が出るばかりだった。


気後れする心を奮い立たせ、出来るだけ心を無にし、景色の中そのものかのように、この惨劇の中心へと向け歩きだす。

カシャカシャと鳴る機械音と同時に放たれる光が煩わしい。

気にするな、

徹底的に感情を消す。


やがてその中心にたどり着く。

立ち止まり、それを見る。

標的は目の前に、

もはや躊躇いは無かった。


『スパーーン!!』


思い切り後頭部を叩く。


「っいたっ!」

その声とともに惨劇が止まった。


振り向くと、先程の少女が安堵の表情をしていた。

それに力なく親指を立てる。


「って、何すんじゃあアァァ!」

向き直ると、

この地獄を作り出した悪魔が吠えていた。

唸るその様は、悪魔というより狂犬だった。

その狂犬をまじまじと見る。


光を良く反射する金色の長い髪、動きやすいようにか、後ろで一つにまとめている。目鼻立ちはそれぞれがバランス良く主張し、学園指定の制服の上からでも分かるスタイルの良さ、万人が羨む見た目をしている。狂犬にはふさわしくない見た目だった。


「とりあえず、説明しろ」

無機質に言い放ち、親指で辺りをさす。

狂犬が辺りを見回す。

その後、やっちまったという表情。

「私は悪くないから」

気まずそうに、そっぽを向く。

実に腹立たしいものだった。


「喧嘩を売ってきたのはあっちだから」

少女それ以降、口をつむぐ。

ふてくされたような態度は、先ほどまでの狂気じみた暴れまわり方をしていた人物と同一とは思えないものだった。


沈黙が流れる。


相変わらずカシャカシャとシャッターの音とフラッシュが鬱陶しい。


「やっちゃったねぇ、フェリス、ちゃん」

沈黙を打ち破る声は、この場にそぐわない穏やかな声だった。

あらあら、とマイペースにこの惨状を確認し、この場を楽しむようにニコニコと微笑んでいた。


「げ」


狂犬が気不味そうに声を上げる。

「見てたんなら、止めてくださいよ」

新たに現れた声に向け感情を隠さず伝える。

「えー、面白そうだったから」

悪びれもせず、そんなことを言う。

「おい、コラ」

反射的に、言葉が出る。

なんで、この状況が面白いのか、さっぱり理解できない。

この学園にまともな、人間は居ないのだろうか?

この惨状も、この学園では日常なのだ。

「あらあら、まあまあ」

マイペースにキョロキョロと見回す姿は蠱惑的である。

相変わらずそっぽを向き不貞腐れる狂犬。

かすかに聞こえるうめき声と、焦げた臭い。


この状況を終わらせる手は今の自分には思いつかなかった。


「会長、面白がらないでください」


沈黙を破る声。

低い声く響くその声は一瞬で場を支配した。

その声の人物を見る。

見覚えのある人物だった。

長身で細身、氷の様に反射する眼鏡がその姿の理知的さを強調するようであった。


状況は変わった。


ここはもう戦場ではなくなっていた。

手際よく、負傷者を助ける人々、淡い光が負傷者を包む、それは美しく優しい光景だった。


「これは、目に余る行為です」

眼鏡を反射させ、先ほどまで狂犬だった少女にまっすぐ目を向ける。

「あなたが、名門の息女でも、これは許されざることです」

問い詰めるような言葉が少女を刺す。

「どう、責任を取るをつもりで」

言葉は氷柱のように鋭い。

「ッチ」

少女は舌を打つ。

「喧嘩を売ってきたのはあっちよ」

不機嫌さを隠さずにその人物に向け大きな瞳を射抜くように見つめ返す。

長身で明らかに体格差がある人物に対し、怯むことなく睨みつけていた。


氷と炎。

真逆に相対する二人の人物、まさに一触即発の様子だった。


再び緊張感が辺りを支配する。

ひりつく空気。

冷たく、そして熱い。


「そういえば、あんたって、強いの?」

再び狂犬が姿を現す。

相対する人物は、何事もなかったように無言のまま、冷たい目で見返している。

「いつも、会長にくっついてるけど、あんたが戦っているの見たこと無いんだけど」

挑発的に狂犬が笑う。

その言葉に反応は無く、ただ眼鏡が光を反射するだけだった。


短い沈黙。


「試して見ますか?」


少しの間を置いて放たれた言葉はその場を凍りつかせる。

まるで、飽和状態のガスが小さな刺激で爆発を持つように、静かではあるが危険をはらんだその空気が辺りを敷き詰めていた。

スタートの合図を待つ様に、2人の視線は好戦的なまま交差する。


周りの人々が固唾をのむその瞬間…


『カシャ』


その音が鳴る。


それを合図に相対していた二人が右手と左手を振りかぶる。

一方は冷たく、一方は熱く、その手のひらに力を溜め……


「この狂犬がぁぁぁぁぁ!」

『ガハッ!』


飛び膝蹴りであった。


その瞬間、少女は崩れ落ちる。


緊張が解けた空気は緩和する。


一方、

その一撃の前、それに相対していた人物の目の前には、穏やかに微笑む少女。

何も言わず、眼鏡の男に口元に人差し指を、立てている。


「…会長」

反省、呆れ、その間の表情だった。

「失礼しました」

その人差し指の前に頭を下げる。



直前の話になる。

開戦の火蓋が切って落とされる、その時、二人は目を刹那に合わせていた。

合図をした訳では無い。互いを頼った訳では無い。

次の瞬間二人は行動に移していた。

一人は戦おうとする二人の間に立ち、一人は後部から不意討ちをし、


結果それは止まった。


炎は倒れ、氷は冷静さを取り戻した。



「いっけんらくちゃーく!」

最後まで穏やかな表情を崩さぬまま、会長と呼ばれた少女は叫ぶ。

「あとは、任せて平気だね」

ニコニコと笑ったままスカートを翻しゆっくりとこの場を去る。

「行くよ副会長」

「はい」

眼鏡をわずかに上げ、簡潔かつ手際よく周りに指示を出すと、先に歩く少女に足早に追いつき、後ろにつく。

「反省文かな?………」

からかうような少女の声が遠ざかっていく。

「…やめてください……………」

その声を最後に声は聞こえなくなっていった。


「って、なにすんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

飛び起きる狂犬。

「こっちのセリフじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

相対する。

いがみ合う二人は、先ほどまでの緊張感は無い。

日常そのものの風景であった。



[フェリス=クィンスター]

この世界で名をなす名門の一族の末女。

可憐な見た目とは相反する燃えたぎる戦いの狂い人。

彼女のその圧倒的な力から人はこう呼んだ…


炎の女王と。


『カシャ』


いがみ合う二人の前、また機械音が鳴る。


〚やめろぉぉぉぉぉぉ!〛

2人の声が重なる。



「良い記事になるぜ!」


どう、嗅ぎつけたのか、カメラを構え、片目だけを覗かせ、屈託の無い笑みで親指を立てる新たな少女。

その顔は無邪気という言葉が相応しい。


「喜べ大衆!今日も娯楽を届けるぜぇい!!」


切り続けられるシャッター音。

機敏にこの場を動き回り、その全てをファインダーに収めていく。


〚やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおぉぉ!〛

再び、二人の声が重なる。


二人がその少女を羽交い締めにするまで、その行為は続いた。



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