日常:始まり5
「挨拶でもする?」
そう言うと、フェリスはわざとらしく両手でスカートの裾をつまみ、恭しく頭を垂れた。
まるでどこかの姫君のように、麗しく。
その時だけは、彼女が高貴な出の人間だと思い出させる。
「俺は貴族じゃないんで」
そんなフェリスにライザーはそっけなく応じる。
貴族同士の決闘にはいくつかの礼儀があるのは知っている。
闘いにも礼節を、実に結構な人種じゃないか。
「そう?貴方の家有名じゃないの?」
ライザーの心情を知る由もない、無邪気なフェリスの言葉に感情が揺れる。
「俺、お前の事嫌いかもしれない」
無邪気なフェリスに対しライザーは言葉を漏らした。
「何でよ!」
叫ぶフェリス。
真っ直ぐに感情を出す事が少ないライザーにとって、思った事をすぐに言葉にしてしまうのは滅多にないことだった。すぐに思い当たる記憶もない。
そう、あのときでさえも
ライザーとは真逆に感情で生きるフェリスの横で、ソウは静かに頷く。
それを無言で睨む。
「フェリス=クィンスターよ、貴方の名前は?」
一応、名乗りを上げるフェリスに育ちの良さを感じつつ、名も知らずに殴り込んできたのかと、呆れる。
「ライザー=レイステッドだ」
一応の礼儀として名乗る。
「何よ、名家じゃない」
以外にも驚くフェリス。
「うちは少し特殊でね」
そう言って、黙るライザーからこの話はこれ以上する気はないという意思が見て取れた。
ソウは始まりの気配を感じ、ゆっくりと距離をとる。傍観者の位置まで離れ、二人の様子を呑気に眺めていた。
「止めなくていいのか?」
周りのガラの悪い男たちからの問にソウは笑って首を振る。
「俺が、止められると思う?」
その言葉に声かけた男は諦めたように笑う。
相対する2人の様子を遠目に見る。
「止める必要も無いだろ」
ソウの言葉に男は振り向くが、ソウは無言のままだった。
「んじゃ、はじめますか」
そう言うとフェリスは右手を天に高く上げた。
太陽光がそれと重なり、さながら掌に太陽を乗せているようだった。
緊張が辺りを支配する。
皆が想像するより早く、それは現れた。
太陽光から掌に向かい、それを着火させるように、そこに炎の球が現れる。
「…おいおい」
ライザーは思わず声を漏らす。
その火球の直径は一瞬でフェリスの身体半分以上の大きさとなる。
それはもう一つの太陽の現出だった。
見た目だけでその殺傷力が測れる。
当たれば全身黒焦げ間違いない。
「おもしれぇ」
ライザーは流れる冷や汗を気にもとめず、相手から目を離さない。いや、離せなかった。
ライザーは速やかに手に持ったものを起動させる。そして、そこから半歩、右足を下げる。
「行くよ」
フェリスは言葉に合わせ、ゆっくりと手を振りかぶる。それに合わせ火球も動く、緩慢に、だが高圧的に。
その動きはまるでボールでも投げ返すように、動きはゆうがである。しかし燃え盛る巨大な火の球はすべてを飲み込むような、存在感を放つ。
全てが相まり、この光景はなんとも言えぬ禍々しい光景であった。
相手の動きが終わるのを待たず、ライザーは駆け出す。
僅かな躊躇いを飲み込み、相手に向け一直線に走り出した。
「いい判断」
自らが格上であるのが当然のような、目線でフェリスは言った。
「言ってろ」
僅かな間の最低限の会話。
ライザーの判断に、フェリスは喜んでいた。
迫る相手に合わせ、フェリスは高く上げたままの片手を握る。
ライザーの想像していた行動とは違う動作に、その進みは僅かににぶる。
フェリスの手を握る動きに合わせ、火球が圧縮する。まるでその手に握りつぶされるように。
「挨拶代わり」
フェリスはそう言って、手を閉じきる。
刹那、火球が弾ける。
散り散りになる炎の欠片が、無数の弾丸となり四方へ飛び散る。
想定外の攻撃、その中であってもライザーの判断は早かった。
一瞬のうちに、身体をねじり無理やり体勢を変える。
後方に銀色のプレートを飛ばし、磁力で繋げた後に、後方に飛ぶ、その勢いのままその場を大きく離れ、体勢を崩しながらも迫りくる火を辛うじて避けた。
「意外に器用な事するじゃねぇか」
片膝をつき、上がった息を整えながら、フェリスを見上げる。
「そう?」
負け惜しみともとれるライザーの言葉にフェリスは首をかしげる。
「良い道具使ってるね。仕掛けは分かんないけど、長引くと辛いんじゃない?」
その言葉にライザーは舌打ちする。
こいつは、今までの馬鹿とは違う。
そう、直感する。
この手に持つ物のデメリット、身体に返る負担の軽減を度返しした結果無理やり得られた高出力。かろうじて我慢できるが、長時間耐えることは想定していない。
目の前の相手は圧倒的に力がある。
その力の差に、高揚する。
たが、しかし力が上でも相手が格上かは分からない。
初手の僅かな攻防は、フェリスに軍配が上がったが、ライザーに焦燥は皆無だった。
距離は取れない。
ライザーは判断する。
離れれば長期戦になり分が悪い。
だが近づくにも決定打がない。
目の前にいるのは少女の皮をかぶった怪物、この世界では良くある事だ。
年端もいかない子供が、大男を意図も容易く吹き飛ばす。
持つものと持たざるものの明確な差、これがこの世界だ。
ライザーは小さく息を整える。
覚悟を決める。相手の動向を鋭く観察し、一定の距離を保つ。
「動かないの?」
あからさまなフェリスの挑発、ライザーは動じない。
「ビビっちゃった?」
続けるフェリス。
無言で受けるライザー。
「そう、じゃあこっちから行こうかな」
そう言い放つフェリスの手からの炎が燃え上がる。
その大きさは先ほどまでと違い手の上に乗るようなサイズである。
まるで手に持ったグラスで戯れるように、その炎を揺らす。その明かりがフェリスの顔妖しくを照らしていた。
「いつまで避けれるかしら」
振り被ったフェリスはそのままの勢い良く、投げつける。
「ふざけやがって!」
ライザー目掛け飛んでくる炎を間一髪かわす。
通り過ぎると炎は消え去った。
「まだまだ」
続け様にその行為は繰り返される。
肝を冷やしている暇さえもない。
そこから、戦いは激しさを増す。




