日常:始まり5(中編)
(なんの、騒ぎた?)
作業場の一画で、油で汚れたツナギをまとい、自らが作成した道具の改良に勤しんでいたライザー=レイステッドは外の喧騒に気が付いた。
最近はその中心にいる事が多かったため、何やら新鮮な気持ちになる。
この、技術科の連中は粗暴ではあるが、意外にも秩序で保たれている。
技術科の中にあるいくつかの派閥、柄の悪い人間のグループが大きく分け3つとそれ以外。不良グループと真面目に勉学に勤しもうとする連中。
大半は見た目も中身も真面目な人間である。
残りの半分が不真面目かというと、意外にもそうでは無い。言動こそ荒いが、一般生徒には手を出さないし、悪行を働くわけでもない。精々服装を乱したり、言動が荒いくらい。3つのグループが程よく均衡し、バランスを守っている。
そんな中現れた自分という異物が、意外にも平和だったこの技術棟に波乱を巻き起こしているのは理解している。
しかし最近はある程度、ちょっかいをかけてこなくなったので、暫く目立たないようにするかと、思っていた矢先の事だった。
普段、この時間技術棟は静かなはずである。
外が、騒がしければすぐに気がつく。
ライザーは、集中が切れたことに僅かな苛つきを覚えながら、様子を見に窓の前に立つ。
「なにやってんだ」
そこには、一人の少女を取り囲む5、6人のガラの悪い男達、普通に考えればどちらが悪者か一目瞭然だが、その少女の着ている制服を見れば話が変わってくる。
ライザーの目には、街入り込んできた人々に害をなす大型の魔獣を何とか取り囲む、狩人達に見えた。
「あいつ、確か」
その少女には見覚えがあった。
傍観を決め込むつもりだったが、その少女に興味が湧いたため、自分もこの騒ぎに加わることにした。
助けてやる義理はないが、このままにしておいても結果は明らかだったからだ。
急ぐわけでもなく、ライザーはその場に向かった。
腰に下げたホルスターの中身を確認しながら、歩いていく。荒事になるのは間違いない。
そうしながら、その場にたどり着く。
そこには今にも獣に飛びかからんとする、男たちがいた。
「やめとけ」
その一言が周りを支配したのを確認すると、ライザーは男達の前に出てきて、フェリスの前に立つ。
「お出ましね」
獣が邪悪に笑う。
「なんの騒ぎだ?」
目の前にいるフェリスではなく、後ろの男達に問う。
男達は気まずそうに目を背けると、そのうちの一人がボソリと答える。
「お前を探しに来たらしい」
「なるほどね」
改めてフェリスに向き直る。
この状況を理解する。
どうやら自分はまた、当事者だったらしい。
しかし、自分なんて、サッサと差し出せば良かったのに、意地で痛い目を見ようとは呆れた連中だ。
「まあ、嫌いじゃないがな」
ライザーは思わず声を出す。
「お前達の頭はどうした?」
入学当初に揉めたこの連中のリーダー格の男はそれなりに強かった。
ライザーの質問の意図に気が付いた男達は苦虫を噛み潰したような顔になる。
「補習中だ」
その言葉にライザーは笑う。
「馬鹿だな」
ライザーは補習など一度も受けたことがなかった。
「うるせぇ!」
男達の一人が怒鳴る。
「ちょっと、無視しないでよ!」
そんな中、目の前から女の声がした。獣とは思えない高い声だった。
別に忘れていた訳では無い。火照っていた場を冷ますためあえて話を逸らした。その間この獣から意識はそらさない。
「あぁ、忘れてたわ」
「私、あんたに用があってきたのよね」
フェリスはライザーの挑発を気に留めず、話を強行する。
会話でイニシアティブを取れない相手だということを理解し、ライザーは警戒度を密かに上げた。
「俺は、特科のお嬢様に用事なんて無いけどな、なぁ、クィンスター家のご令嬢様」
その言葉に動揺したのは周りの方だった。
出てきた名前にざわつく。
「お前、有名人だな」
空気と化していた、ソウが呟く。
「すごいでしょ!」
胸を張るフェリス。
「絶対いい意味じゃないけどな」
なんだこいつらは?
ライザーは、何故かフェリスより、この一般科の制服を着た男が気になった。
フェリスの目的は想像がつく、リベンジャーか、チャレンジャーのどちらかであるのは間違いない。
しかし、この一般科の男、名家のお嬢様従者には見えず、友人や仲間かというと、違和感を覚える。
とりあえず、この男の事はさて置き、直近の問題に目を向ける事にする。
「お前、なんて呼ばれてるか知ってる?」
ライザーは挑発の姿勢を崩さない。
その意図を理解してか、フェリスは不敵に笑う。
「『狂犬のお姫様』ってな、誰から構わず、喧嘩を売るってんで、有名だぜ」
「お姫様じゃないわよ!」
「あ、狂犬は良いんだ」
ライザーの挑発もフェリスには効き目がない。
フェリスはポリポリと首をかく。けして品の良いとは言えない仕草だ。
「まあ、いいや。とりあえずアンタ強いんでしょ?」
「さぁな?」
ライザーははぐらかす。
「雑魚とは言え、特科の生徒2人に無傷で勝つなんて中々じゃない」
「めっちゃ、上からだな」
ソウは、呟く。
「あんた、さっきからうるさいんだけど!」
とうとう怒られてしまった。
ソウは両手のひらを肩まで上げ、口を出さないことをアクションで示した。
曲がりなりにも上級生2人を雑魚扱いとは、どういう教育されたらそうなるんだろうか?
「別に魔力が強いわけじゃない」
先程のフェリスの問いに対する答えだった。
嘘偽りの無い本音である。
「関係ないわね、あんたが強いかどうか、それだけ」
そう言い切るフェリスの言葉に、ライザーは彼女に対する印象を僅かに変える。
想像しているチカラ馬鹿とは少し違うようだ。
「私はね、強くなりにこの学園に来たの、強くなるには強いやつと戦うのが一番だと思わない?最近相手がいなくて退屈してたんだよね」
ライザーはフェリスに対し狂っているが、信念はある、そんな人間だと思った。わかる、きっと今自分も
今同じ目をしている。
「俺も、あんたみたいな奴を倒すため、この学園に入ったんだ」
交わる視線、不敵に笑う2人、自分の実力に自信がある表情、見ずとも相手の実力は理解できた。
「戦う理由が無いと思ってたが、気が変わった」
ライザーは腰元のホルスターに手をやる。
そして素早くナイフのようなものを取り出し、フェリスに向ける。
フェリスは何も言わない。
「お前を倒せば暫く平和に暮らせそうだ」
ナイフがバチバチと電力を帯びる、視覚化された電気は、触れれば気絶以上は間違いない。
「少しは楽しませてね」
フェリスは身を半身にし、肩幅に足を広げ、両手をだらんとぶら下げる。
次には彼女の周りをつむじ風のようなものが纏われる。
「人の縄張りで勝手されるのは俺も好きじゃないんでね」
その言葉を最後に二人は黙った。
互いにジリジリと間を見極め、最初の一手を探る。
やっぱりこうなったか、ソウは思った。
「なんでケンカっ早い奴が多いかねぇ」
ソウの、声は空に消えた。




